ブレインナーシング
Volume 23, Issue 7, 2007
Volumes & issues:
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特集
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- 新人でもできる転倒・転落アセスメント〜抑制も含めて〜
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1.転倒・転落の予測のためのアセスメントツール
23巻7号(2007);View Description Hide Description脳神経疾患で片麻痺のある患者の病棟でのリスクは,「転倒・転落アセスメント・スコアシート」によると,活動領域の項目で「移動に介助が必要である」で3点,認識力の項目で「見当識障害・意識混濁・混乱がある」で4点の計7点以上に採点され,つねに危険度Ⅱにランクづけられてしまいます.つまり,入院患者はすべて転倒リスクが比較的高いとされます.これが経験的に,「脳神経疾患患者は転倒・転落しやすい」ということの裏付けとなるアセスメントと言え,「脳外科に入院する患者は転倒・転落をつねに考えてケアにあたらなければならない」と言えます.しかし,実際にはこれらの患者が転倒・転落する状況は,ベッドから車いすに,あるいは車いすからポータブル便器への移動時などに滑り落ちるような場合が多く,明らかに転んだというケースは非常に少ないことも体験しています.なぜ,このような状況となるのでしょうか.そこで,本稿では具体的にアセスメントツールを紹介するとともに,ケア時の注意点を紹介し,滑り落ちるような転倒が多い要因を明らかにしようと思います. -
2.転倒・転落しやすい患者の身体的特徴と予防のコツ
23巻7号(2007);View Description Hide Description当院脳神経外科は,とくに脳卒中超急性期に対する,救急隊と医師が直接電話で交信するホットラインや,全国に先駆けた24時間体制でのMRI特殊撮影による確実・迅速な診断と治療を特色としています.入院は年間約900例で,過去3年間の全脳卒中入院患者1,252症例の介助なしの社会復帰率は60.9%と,高い水準を維持しています.平均在院日数は17〜18日と短い反面,おもに特殊リハビリテーション(以下,リハビリと略)や退院調整のための亜急性期病床も4床あり,超急性期から症例によっては入院後数カ月までの幅広い業務にかかわっています.定床46床で看護体制は8時間3交代制により,準夜・深夜は各3人で固定チーム継続受け持ち制をとっています.当病棟では,早くから転倒・転落の問題に取り組んできました1,2).本稿ではこのような背景から,幾つかの新しい知見とともに,転倒・転落しやすい患者の身体的特徴と予防の“コツ”について概説します. -
3.自立度を保ちながら行う転倒・転落予防のための環境整備
23巻7号(2007);View Description Hide Description入院患者の高齢化が進んでおり,運動能力の低下,認知障害など転倒・転落のリスクの高い患者が増えています.そのなかでもとくに,脳神経疾患患者は転倒のリスクを増加させる身体症状を有するため,転倒のリスクが増加します.脳神経疾患病棟では,麻痺が原因の歩行障害やADLの低下が見られたり,認知・注意・行為などの機能の障害である高次脳機能障害によってナースコールを押さずに行動してしまうなど,転倒・転落リスクの高い患者が多くいます. -
4.シーン別転倒・転落予防介助のコツと危険ポイント
23巻7号(2007);View Description Hide Description医療事故における転倒・転落の占める割合は,2006年の財団法人日本医療機能評価機構が報告義務対象医療機関273施設を対象に行った調査によると,年間1,296件の医療事故のうち,転倒が188件(14.5%),転落は22件(1.7%)であったと報告されています1).そのようななか,各医療機関では,「転倒・転落アセスメントシート」を活用するなどして,防止に努めているものと思われますが,実際の医療現場ではここ数年間,転倒・転落事故は減少していないとの見方もあります2).とりわけ脳神経疾患の患者の多くは高齢であり,見当識障害や記憶障害をはじめとする高次脳機能障害を有することが多いです.自身の運動機能障害や動作能力の低下に対する認識の低下や,危険回避能力が低いことも影響し,危険行動が発生しやすいと言えます.本稿では,脳卒中による片麻痺を呈した患者をモデルに安全な移乗・移動動作の介助方法とポイントを紹介します. -
5.患者にやさしい安全な抑制の工夫
23巻7号(2007);View Description Hide Description当病棟は,脳神経外科・泌尿器科の混合病棟です.入院患者は高齢化にともない70〜80歳代が多く,脳卒中急性期の患者から,回復期,ターミナル期の患者まで多岐にわたります.昨年度のインシデント報告は,70〜80歳代の年齢層が一番多く,種類別ではドレーン・チューブ管理,転倒・転落が半数を占めていました.とくに急性期の患者は,気管チューブ,ドレーン,点滴などのチューブ類が接続されており,これらを自己抜去することは,生命を脅かす危険が考えられます.私たちはこのような状況で,患者の安全確保に努めなければなりません.ドレーン・チューブ管理,転倒・転落の予防には,一時的に体を抑制することも必要となります.やむを得ず抑制を行う場合,抑制の目的を明確にし,必要最小限にとどめることが大切です.患者にやさしい安全な抑制の工夫に向けて,病棟での取り組みを紹介します. -
6.脳神経疾患の転倒・転落 文献から見た要因の検討
23巻7号(2007);View Description Hide Description医療事故では,入院患者の転倒・転落(以下,転倒と略)事故が,薬剤関係の事故に次いで2番目に多い原因とされています.転倒の要因として脳神経疾患そのものが誘発因子である1)と言われていることから,病棟では脳神経疾患に起こりやすい実態を十分把握したうえで,転倒防止対策を考えることが大切です.脳神経疾患患者は麻痺のみでなく,意識障害や失語,失行,失認などさまざまな障害を併せ持っています.事故が発生すれば,本来の疾患の回復を遅らせるのみでなく,その後のADL拡大への不安や恐怖など,心理的なダメージを負わせることにつながります.脳神経疾患患者には複雑な神経的背景がありますが,転倒要因の特徴を明らかにすることにより,それぞれの病棟で独自の安全対策を検討することができると考えます.
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巻頭カラー
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- 食べたくなる!食べさせたい!嚥下食
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七夕の短冊に,願いをこめて!
23巻7号(2007);View Description Hide Description7月の「ごちの日(ごちそうの日)」は,七夕のお食事に短冊(お手紙)を添えてお届けしています.星型に抜いたゼリーとお粥に飾った星型のニンジンは,夜空にちりばめた星をイメージしています.また,新ジャガ芋と鶏肉の含め煮には,青モミジや笹の葉の生麩ふを飾り七夕飾りに見立てています.ホウレン草のプディングには天の川をイメージしてホワイトソースをかけています.栄養科に届いた短冊には,願いごとや感謝の言葉が書かれており,患者様の喜びが伝わってきます. - 短い時間で楽しく読める・じっくりわかる 神経解剖ナビゲーション
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ウィリス動脈輪近傍の穿通枝
23巻7号(2007);View Description Hide Description今から7年前に52歳の男性が高血圧性脳出血で緊急入院しました.部位は左視床.血腫量は少なく脳室穿破もなかったため手術はせずに保存的加療後に軽い右上下肢麻痺・知覚鈍麻を後遺され歩いて退院されました.しかし数カ月して右顔面を含む右半身に針を刺すようなたまらなく強い痛みが出現してきたのです.いわゆる視床痛でした. - 拝見!ちょいわざくふうモノ
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マンガ新連載
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- あなたならどうする?先輩・後輩ナースの脳神経疾患看護計画 Ver.2
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お勉強
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- スッキリ解決!Q&A
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- 今日からできる!根拠がわかる!脳神経ナースがする呼吸理学療法
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酸素療法
23巻7号(2007);View Description Hide Description人間は,外呼吸と内呼吸により外気から酸素を取り込んでいます.酸素は各組織に運搬され,エネルギー代謝のために活用されています.呼吸不全による低酸素症の影響を最も受けやすい組織は脳と心臓です.一般に,PaO2(動脈血酸素分圧)が30mmHg以下では生命の維持は困難です.また,脳機能障害が発生するのはPaO2が50mmHg以下と言われています.さらに,炭酸ガスは64(704)BRAIN NURSING 2007 vol.23 no.7脳血管拡張能を持っており,PaCO2(動脈血炭酸ガス分圧)の上昇は頭蓋内の血液量を増し頭蓋内圧亢進をきたすと言われています.頭蓋内圧亢進予防のためには,PaO2=90mmHg,PaCO2=30±5mmHgを保つように管理するのがよいと言われています. - 病棟薬剤師に聞く 脳神経疾患ナースのためのくすりの知識
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- 完全マスター 脳卒中急性期の看護
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脳卒中診療のガイドライン,アルゴリズムの作成
23巻7号(2007);View Description Hide Description現代社会において,食生活の変化や高血圧に対する関心の高まりから,脳卒中における脳内出血の割合は徐々に低下しています.一方で,生活習慣病や不整脈を含む心疾患などさまざまな基礎疾患が関与する脳梗塞の比率・患者数は,ともに増加傾向にあります.わが国では,2003年に日本脳卒中学会など5学会による脳卒中合同ガイドライン委員会によって「脳卒中治療ガイドライン(初版)」が作成されました.2004年には,改訂版が発行され,脳卒中の治療レベルの向上が図られてきました(表1).
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エッセイ・読みもの
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- 忘れ得ぬナース&ドクター
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- 探訪 世界のスカル-ミュージアム
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フランス人類博物館
23巻7号(2007);View Description Hide Descriptionセーヌ川を挟んでエッフェル塔の真向かいにどっしりと建つシャイヨー宮は,937年のパリ博覧会のときにパビリオンとして建設された建物です.中央のテラスを挟んで左右に大きく翼を広げたような格好で2つの翼棟があり,内部は現在,海洋博物館,人類博物館,文化財博物館,映画博物館の4つの博物館になっています.人類博物館はシャイヨー宮の西翼の位置にあります.中央のテラスからセーヌ方面を向くと,眼前のトロカデロ広場,セーヌ川を挟んでエッフェル塔,それに続くシャンドマルス公園を見渡すことができ,見事なシンメトリーをなすその景観はパリ随一です - 脳をくすぐる一冊
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- ドラマ・映画にみる脳の疾患 シネマホスピタル
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エターナル・サンシャイン
23巻7号(2007);View Description Hide Description不思議な映画です.何がどうなっているのか,映画を観ながら混乱します.しかし,最後にすべてが氷解され,納得する恋愛ものです.記憶を医学的に消去された男女の恋物語.過去の記憶に自分が戻り,第3者として見つめて,あらたな出発をします.「忘却はあらたなる前進を生む」,「忘却は許すこと」など名句も効いています.2004年アメリカ映画で,第77回アカデミー賞Rの脚本賞を受賞しています.
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全国施設情報
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- NURSE STATION
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特定医療法人祥和会脳神経センター大田記念病院 4階病棟,3階病棟(ICU・SCU)
23巻7号(2007);View Description Hide Description1976年に開設された特定医療法人祥和会脳神経センター大田記念病院は,病床数180床の脳神経疾患専門病院である.看護部は開設当時から2交代勤務を導入し,“看護婦”を“看護士”へ呼称変更するなど,革新的かつ斬新な活動を展開してきた.同院の呼びかけで始まった“備後脳卒中ネットワーク”では,地域連携パスを作成するなど広島の地域医療を担っている.患者・家族から絶大なる信頼が寄せられる現場を取材した.(編集部:大谷・平野) - おしえて!全国脳神経疾患病棟 看護のくふう
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片麻痺障害患者に対するインスリン自己注射・自己血糖測定指導
23巻7号(2007);View Description Hide Description当院の脳神経外科病棟においても,多数の糖尿病合併患者が入院しています.そのうち,インスリンを自己注射・自己血糖測定している患者も複数人います.脳血管障害発症後は後遺症の程度にもよりますが,その手技を家族に依存することを多々経験します.しかし,家族に依存するとなると,毎日のインスリン注射は家族の負担がきわめて大きく,インスリンの頻回打ちは困難となることが多く見受けられます.さらに,自己血糖測定は血液感染のリスクもあり,家族の協力がより得られにくいため,家族に依存する時点で中止することがほとんどです.インスリン自己注射・自己血糖測定に少しくふうを行うことで,患者本人を自立させることが可能であり,それを実現するための補助具が多数報告されています.そこで,今回は製薬会社や自己血糖測定器メーカーが提供する補助具を紹介し,片麻痺障害患者への使い方を報告します.