ブレインナーシング

術後出血の頻度は，約1％程度と言われています．とくに脳腫瘍摘出術後や外傷の手術後などに多く，約半数は脳実質内に起こりますが，硬膜下腔や硬膜外腔にも起こります．術後出血は手術した部位に起こることが多いのですが，時に手術した部位と離れた場所に起こることもあります．これは，脱水や過度の髄液排出によって静脈還流が悪くなることによるためと言われています．

手術の際に微小血管壁が損傷されると，血液脳関門の破綻たんにより血液中の水分やタンパク質が脳組織内に漏れ出るために浮腫（血管原性浮腫）を生じます．術中に動脈が損傷されると，動脈閉塞に伴う虚血により細胞活性が障害され浮腫（細胞毒性浮腫）を起こします．また，主要な静脈を閉塞すると還流障害による血管床の増大により血管原性浮腫を引き起こします．

脳血管攣縮は，クモ膜下出血後の最も重要な合併症ですが，現在においても残念ながら根治的予防，治療法として確たるものはありません1）．一般的にクモ膜下腔の血腫量が多いもの（すなわち重症例）に起こりやすいと言われています．血管攣縮誘発物質には多くの候補がありますが，血腫の分解吸収過程で生じるオキシヘモグロビンや各種の過酸化物などの多因子が複合的にかかわって生じると考えられます（原因機序は完全には解明されていません）．

髄膜炎は脳神経外科手術後感染のなかでも頻度が高く１），急激に悪化して大きな後遺症をもたらしたり，最悪の場合は致命的にもなりうる感染症です．脳の手術の多くは基本的に無菌手術であり，創部をきっちり閉じた後は閉鎖腔となり理論的には髄膜炎は起こりえません．よって手術中の感染を除けば，皮膚などの創部からの感染の波及，髄液ドレナージなど脳と外腔との交通路を介しての感染に限られるわけです．髄液ドレーンが入ったり，ハーディー手術（経蝶形骨洞手術）や頭蓋底手術後の髄液鼻漏など術後に外腔との交通ができてしまった場合，またシャントや人工骨などの異物が入る手術において術後感染の危険が高くなります．原因となる主要な細菌はグラム陽性球菌です．

脳卒中や開頭術後など意識障害を伴う状態における感染性合併症として，肺炎と尿路感染は最も頻度が高いものです．とくに重要な点は，いずれも医療器具や医療関係者の手を介して感染が起こる可能性が高いことです．

1．頭部外傷後　頭蓋底骨折に伴うものが多いです．前頭部や顔面正面からの打撲で前頭蓋底骨折をきたし，髄液鼻漏が発生する場合が最多です．また，頭蓋の側方からの打撲で錐体骨や乳突蜂巣に骨折をきたして，髄液耳漏となるものもあります．　2．脳神経外科手術後　手術の際の硬膜の不完全縫合などに伴って起こりえます．とくに頭蓋底手術で副鼻腔や乳突蜂巣が開放された場合，経蝶形骨洞下垂体切除術（ハーディー術）後に起こりやすいです．また，水頭症に対するシャント手術例でシャントの機能不全に際して見られることがあります．

教科書での記載は「成人で1 日尿量3,000mL 以上，比重1.005 以下」ですが，これは慢性期の尿崩症の定義であり，脳神経外科の術後では時間とともに変化するためさらに細かい，短時間での対応が必要です．つまり術後急性期では尿崩症を，「尿量400mL 以上/2hでかつ尿比重1.005 以下」と定義しています．

視力視野障害の症状，発生部位を理解するには眼球からの視路を理解する必要があります（図）．　網膜→視神経→（視神経管）→視交叉→視索→外側膝状体⇒視放線→後頭葉視中枢

脳脊髄液はおもに側脳室に存在する脈絡叢で産生され，脳室系を通ってクモ膜下腔を満たし，クモ膜顆か粒で吸収されます（図1）1，2）．この脳脊髄液の循環が妨げられ，頭蓋内に脳脊髄液が貯留した状態を水頭症と言います．水頭症には，脳室系のどこかが閉塞することによる“ 非交通性水頭症” と，クモ膜下腔やクモ膜顆粒で循環が妨げられることによる“ 交通性水頭症” があります（図2）1，2）．　　また水頭症は，症状が進行するスピードによって，急性の経過をとる“ 急性水頭症” と慢性の経過をとる“ 慢性水頭症” に分類されます2）．

水頭症の治療は現在シャント術が主に行われています．シャントは大まかに脳室- 腹腔シャント（VP シャント），脳室- 心房シャント（VA シャント），腰椎- 腹腔シャント（LPシャント）の3 つに分類されます（図）．いずれも余分な脳脊髄液を体の他の部分に流して頭蓋内圧を正常に保つのが目的です．また近年，神経内視鏡による第三脳室開窓術が一部の症例で行われています．　水頭症の病態の詳細な解説および手術適応は他稿を参照していただくこととして，本稿では脳室- 腹腔シャント術と，第三脳室開窓術の術後トラブルに関して解説します．

身体の深い部分にある静脈を深部静脈と言います．ここで血流がうっ滞すると，静脈弁の部分を中心に血栓ができ大きくなっていきます．これを深部静脈血栓と言います．ひざの裏あたりに一番多く起こります．この血栓が血管の壁からはがれると，血流に乗って下大静脈から右心房，右心室を通って肺動脈に入り詰まってしまいます．これが肺梗塞です．梗塞に陥った肺では，酸素摂取が行えなくなります．患者は呼吸困難になり，太い肺動脈が閉塞した場合はショックに陥ります．

けいれん発作（てんかん発作）は神経細胞の過度の放電によって起こります．術後のけいれん発作は，多くは放電の焦点が手術部位にあると考えられます．この場合，脳の局所的な発作である部分発作から始まります．そして，そこから放電が広がると，部分発作が脳全体を巻き込む全般発作に進展することがあります．これを発作の二次性全般化と言います．脳神経外科手術後に起こるけいれん発作はこのような発症の仕方が多いです（図）．　手術部位が大脳半球の皮質の場合，とくに術後のけいれんが起きやすいと考えられます．原因となる疾患としてはとくに髄膜腫，脳動静脈奇形，脳内血腫，中大脳動脈瘤，脳膿瘍などで多いと言われます1）．心構えとしては，疾患にかかわらず起こりうると考えておきましょう．

各種の中枢神経疾患や開頭術後には消化管出血によく遭遇します．おもな出血源は上部消化管であり，これらは急性胃十二指腸粘膜病変に分類される一種のストレス潰瘍です．このような中枢神経障害に合併する消化管病変はクッシング潰瘍（中枢性潰瘍）とも呼ばれます．病変の種類は出血性胃炎，胃潰瘍（図1-A），十二指腸潰瘍，出血を伴うびらん性胃炎（図1-B）や慢性潰瘍の急性増悪などですが，圧倒的に胃の出血性病変が多く認められます．

脳に流れる血流が何らかの理由で長期間慢性的に低下している状態に，治療として血流を元の正常な状態に戻すことは一見，いいことに思われます．しかし，時として脳が必要としている血流以上に流れすぎることがあります．この現象を過灌流と言います．この過灌流に対し早期から適切な治療が行われないと，脳出血をきたし死に至ることがあります．たとえて言うなら，長期間食べ物を少ししか与えず腹をすかせておき，あるときに急に大量の食べ物を与えることに似ています．そうすると，限度を超えて食べ，おなかを壊すことになります．　脳神経外科の疾患では，①頸部内頸動脈狭窄症に対する内膜.離術およびステント留置術，②内頸動脈あるいは中大脳動脈閉塞症，もやもや病に対するバイパス術後に出現することがあります．

河村武明（かわむら・たけあき）1970 年京都生まれ．2001 年10 月に脳梗塞で倒れ，一時は生死の境をさまよいながらも奇跡的な回復を遂げた．現在は失語症と言語障害，聴覚障害，右手麻痺の回復のためにリハビリを続けながら，絵と詩を描きためては京都の路上で販売している．お天気の土日に京都・四条小橋の上でする「ストリート」で，多くの人々と交流する．

錐体路は前回触れたように大脳皮質から運動信号が延髄で交叉して脊髄を下行して対側の運動を支配するというきわめてシンプルな構造です．しかしこれだけではぎこちなくて四肢の緊張のみが強くて動けない状態になり実用的には何もできないということになってしまいますね．錐体外路は回路が複雑で理解しにくい面がありますが，今回は小脳と錐体路との関係を強調した図で説明したいと思います．図は大脳，小脳，延髄を後ろから眺めていると思ってください．

この博物館は，ペルーの黄金製品の研究・収集の第一人者ミゲル・ムヒカ・ガヨ氏により創設され，国外への逃散を免れた貴重な製品の保存のほか，新たな発掘品を加えた30,000 点以上のコレクションを有する施設です．　ユーカリの木立に囲まれた住宅地の一角にあります．1532 年，スペイン人ピサロがインカ帝国に侵入し，インカ王ダワルバからほとんどの金を略奪しました．残った金から装身具などが作られ，これらが展示されています．

患者がリハビリ室で訓練を行っているとき，看護師は患者がどこにいるのか把握できなかったため，所在がわかるように作成した．

今日も引き続いて経腸栄養実施中の患者さんを受け持つよ．前回は下痢についてだったけど，今回は嘔吐を予防するケアについて考えてみようね．

私が出会ったナースは，私にとってはすべてが忘れ得ぬナースです．今から30 年前の脳神経外科は，まだいろいろなものが発展途上でしたから楽しくもあったのですが，大変で真剣勝負でした．その時代，患者さんを診み るときに絶対に協力を仰がねばならないのがすべてのナースだったからです．とくに頭部外傷，脳卒中急性期，脳腫瘍の術前の脳ヘルニアの前段階，あるいは初期所見を迅速に報告してくれたナースには今でも忘れずに感謝の念をつねに持っています．

本書はスポーツコラムニストとして毎日を多忙に過ごし活躍する著者ミッチと，大学時代の恩師モリー教授が死の床で行った最後の授業の記録です．16 年ぶりに再会した恩師モリー教授はALS（筋萎縮性側索硬化症）に侵され, 余命4 〜 5 カ月と宣告されていました．だれよりも慕っていた恩師の近況に，ミッチは落胆と戸惑いで何もできませんでしたが，毎週火曜日には遠く離れたモリーに会いにくることを約束し，“ 愛，仕事，家族，老い，死……” の人生の意味について教えてもらいます．そして訪れるたびに病魔にむしばまれていくモリーの力になりたくて，どうすれば最も楽に心地良くできるのかと，ミッチは必死に介護の手技を習得していきます．

脳卒中の患者・家族は突然の発症に困惑し，さらに後遺症と今後の介護に対する不安が入院直後から生じます．急性期の治療，看護，そしてリハビリテーション（以下，リハビリと略）とともに同時進行で行うことが必須とされるケアのひとつが“ 退院計画” であり，看護師による“ 退院支援” です．当院では病棟に専属の退院支援看護師を配置し，退院支援の中核を担っています．

気管切開のある患者にY ガーゼを使用していますが，必要なのですか？また消毒はいつまで必要なのでしょうか？

塩酸ドネペジルは，わが国で開発された薬剤です．国内では1989 年より臨床試験が開始され，1999 年に「軽度および中等度アルツハイマー型痴呆における痴呆症状の進行抑制」の適応で承認されました．2007 年8 月には，高度アルツハイマー型認知症に対して効能効果および用法用量が追加承認され，軽度から高度まで使うことができるようになりました．口腔内崩壊錠であるD 錠も発売されており，“ 痴呆” の表記は“ 認知症” に変わっています．

1933 年の開院以来，地域の医師不足に悩む岩手県の中核病院として，秋田地方など広い範囲の診療をカバーする．観光地ならではの土地柄で冬はスキー事故による骨折，秋には温泉での発症など救急患者や高齢患者が多いことも特徴だ．そんななかにあっても病棟の離職率はゼロ．「喜び喜ばれ喜びあえる病棟」をキャッチフレーズに他職種とのチーム医療で急患・急変を24 時間体制でカバーする病棟運営をレポートする．

突然死の原因のひとつである肺血栓塞栓症（pulmonary embolism：PE）は，おもに深部静脈血栓症（deep vein thrombosis：DVT）によって引き起こされますが，最近ではPEとDVT を含めて静脈血栓塞栓症（venousthromboembolism：VTE）と呼ばれています．　PE の患者にDVT が発見されるのは50％程度1）です．手術後のベッド上安静，心臓病や脳神経疾患による寝たきり状態，下肢に麻痺のある人は，足を動かすことが少ないため下肢の静脈に血栓が形成されやすく，これによってVTE が発症すると考えられています．VTE は，呼吸器症状が出現してからでは対処が困難になる1）ため，予防が最良の治療であると言えます．現在，多くの学会でVTE 予防に関する取り組みが取り上げられています．同時に医療従事者の危機感も高まり，エビデンスに基づいた具体的かつ効果的な予防策の必要性が叫ばれ，さまざまな実践や報告がなされています．　そこで私たちの病棟でも2006 年から安全に関する取り組みのひとつとして，脳神経外科におけるVTE 予防を実践しました．

1996 年より日本看護協会で認定看護師の育成が開始され，2007 年度では17 領域の看護分野において認定看護師の育成が行われている1）．しかし，脳神経領域に関する認定看護師の育成はまだ開始されていないのが現状である．　脳神経疾患領域における医療は，脳神経の解剖や機能が複雑で多様であり，その損傷は致命的である．そのため，脳神経領域看護においては普遍的な看護に加えより高度で専門的な看護が必要である．とくに，脳神経の損傷によって対象者は命の危険にさらされるだけではなく，これまでの生活行動が困難になり自己の基本的欲求を満たすこともできない危機的な状況にさらされている．そのため，脳神経の損傷の初期から生命の危機を回避しながら，脳神経の生理学を基盤とした生活行動への介助やその構築に向けての看護が必要となる．これらの専門的な看護の教育は基礎教育ではなく，臨床において応用教育として各病院や病棟の看護師を対象にした教育（以下，院内研修）で行われているのが現状と推測される．そこで今回，5 年以上脳神経領域看護を経験した大学教員を講師とし，さまざまな病院で脳神経看護に携わっている看護師を対象にした神経領域看護研修会（以下，研修会）を開催した．本論文はこの研修を紹介し，この研修に参加した者を対象に看護業務の困難さとその解決に関する方法と本研修の満足について調査を行い，脳神経領域看護のキャリア形成における教育研修のニーズについて検討したので報告する．