ペリネイタルケア

産む場所がない．少子化の時代にこれほどまでに産科施設の不足が切実な状況になると誰が予想しただろうか．現在の産科医師の減少・産科医療の機能縮小は，少子化のスピードを上回って壊滅的とも言える．その中でわれわれ医療従事者は，安全・快適なお産空間の維持のための情報を提供すべきだろう．　2006 年に提唱された分娩の集約化に疑問を持ち，有志で「どうする？ 日本のお産」ディスカッション大会を全国9 カ所で開催してから早くも2 年が経過した1）．そこで学んだことは，対話や共通認識の少なさがそれぞれの立場の無理解や誤解を生じさせているということである．訴訟や逮捕への不安から，医師が社会貢献として医療を施す空しさを感じているのも事実である．一方で，「自然に産みたい」というニーズを認めないかたくなな医療従事者もおり，産婦や家族のわずかな希望をいとも簡単に医療側の理屈一言で片付けようとすると，それがまた訴訟行動へとつながっていく．　しかし，事態はいっそう深刻化している．医療従事者は，医療の受け手と対話しながらこの局面を乗り切らなければならない．産婦や家族にそんな医療の現実を知ってもらいつつ，最適な医療ケアを提供するための出産・育児準備クラスが望ましいと考える．

出産・育児準備クラスは，親になる当事者たちへの支援を目的としている．育児支援は行政によるものでは経済的支援や人材支援などが行われているが，ここでは出産・育児準備クラスにおいて行われる情報提供，心理的サポートの目的について，助産師あるいはクラス担当者の視点から改めて確認したい．　消費社会と言われる中で，出産・育児の領域でも消費傾向が見られるようになってきている．当事者たちのニーズが多様化し，消費感覚が高まる中，「医療消費者」という概念が一人歩きしているようにも感じられる．準備クラスを運営していくうえで，そうした新たなニーズや問題にどのように応えていくことが求められるのか考えてみたい．

ふたつとして同じお産がないように，両親学級もそれぞれ違う．出産に向けた身体の変化に合わせて，クラスの女性たちはいま何が必要かを私たちバース・エデュケーターに教えてくれる．それに沿って，それぞれの妊婦に最良の指導法を見出すのが私たちの仕事だ．クラス参加者はそれぞれ出産に関する知識を持っていて，まったく白紙の状態の人，私たちの言うことをそのまま受け入れるような人はいない．しかしクラス参加者がすでに知っていることをくり返して言うことも，時として私たちの役目となる．それが妊婦にとって新たな発想につながることもあるからだ．妊婦にはそれぞれの生き方があり，「人生観に合った出産」を自分で選べることを認める姿勢が，バース・エデュケーターの基本となる．

2006 年に日本助産師会から「助産師の声明」が公表された．その中の助産師の定義には「助産師は母子のみならず，女性の生涯における性と生殖にかかわる健康相談や教育活動を通して家族や地域社会に広く貢献する」と謳われている1）．助産師の仕事の可能性がしっかり定義付けられたことになる．しかしお産を取り巻く現状は，高度医療を維持するためにケアの質をどのように保つかという課題があり，厳しい状態にある．1986 年WHO は，「産後における適切な医療技術のためのWHO コンセンサス会議」において「いかなる国および地域でも，産後の期間に行われている文化的慣習は，有害であることが証明されない限り尊重され，維持されるべきである．医療者と母親とのコミュニケーションが深まることで，地域の伝統の力を認識する機会が増え，それが他の女性たちにも広まることになるだろう」（勧告10）としている2）．これは，女性には子どもを育てる能力が自然に備わっており，地域社会の中で育まれる子育てが望まれるということである．消費社会にあり，ますます高まる医療への期待と依存の中，人間の営みとしての子育ての能力はどうなっていくのだろうかと，現場の助産師として不安を感じている．私は15 年ほどの臨床での経験から，助産師として，地域社会における子育ての受け皿となる支援ができないか試行錯誤していた．本稿では出張開業を経てから5 年，たらちね助産院開業に至った思いと概要，および地域行政の子育て支援制度への参画について述べる．

「babyZOO」は，生後2 〜 10 カ月の赤ちゃんと母親のための育児支援クラスである．会場となる東京・恵比寿のスタジオには，毎回15 組ほどの親子が集まりリラックスした時間を過ごす．場所柄，参加者は9 割以上が仕事復帰を控えるワーキングマザーだ．　「babyZOO」のプログラムは全4 回で，1 回2 時間のクラスを隔週で行い，2 カ月間にわたり同じメンバーが顔を合わせる．各回とも前半のパートは，ベビーヨーガ，アフターヨーガなど赤ちゃんと楽しむ人気のエクササイズクラス，そして後半のパートは，お産の振り返り，子育てなどのテーマに沿ってそれぞれ担当の講師が参加者から意見や悩みを引き出す情報交換のクラスである．全プログラムに参加することで，自然にママ友達ができ，育児の不安や悩みを解消して親としての自信を得ることができるよう工夫されている．（鈴木賀世子）

「マドレボニータ」とは，スペイン語で「美しい母」の意味である．「美しい母が増えれば世界はもっとよくなる」をキャッチフレーズに，産後の心と体のヘルスケアに特化したプログラムを開発・研究・普及してきた．本稿では，これまでの10 年の活動から，「真に求められる母親支援」について考察してみたい．　「美しい母」とは，すべての母親の願いだ．それは「ママになってもキレイに」といった表面的なものではなく，「人として美しくありたい」といった意味での「美しい生き方」である．しかしそれを唱えるだけではスローガンで終わってしまう．実際に美しい生き方をするためには，体力や知恵やコミュニケーションスキルが必要なのだ．　子どもにとっての最も身近なロールモデルである母親となったからこそ，美しい生き方がしたいと願う大人たちが，出産をきっかけに自分の心身に向き合い，体力やコミュニケーション力を鍛える機会を持つことができれば……．そんな思いも込めてプログラムを提供している．そう，このプログラムは，「ママのリフレッシュ」といった単なるガス抜きではなく，子育ての導入期における大事な学びの場であり，エンパワメントされる場なのである．

当センターは年間分娩件数2,000 を超える総合周産期母子医療センターである．クラスでは講義形式と参加型を取り入れ，「自然分娩・母子同室・母乳育児」という方針を理解していただき，妊婦自身が情報を選択し，自己決定できるように働きかけている．本稿では当センターのクラス内容の紹介を通して，実践のためのノウハウを提案したい．

皆さんもご存じのように，胎児は羊水に囲まれて生活しています．胎児にとって羊水は環境そのものです．羊水の主成分は，妊娠初期では母体血漿や胎児血漿の漏出したもの，妊娠中期以降は胎児尿や胎児の肺胞分泌物が考えられています．羊水は，主に胎児の嚥下を介して腸管より吸収されます．羊水量の異常と胎児の異常あるいは母体合併症との関連はよく知られていますが，羊水量の異常を認めた場合は，その産生と吸収の調節機構に問題が生じているものと考えられます．

みなさん，こんにちは．今月は，「分娩後30 分から2 時間までのBKC の実際」ということで，第4回（7 月号）の「分娩直後のBKC の実際」からの続きとなります．赤ちゃんの身体チェック項目や評価などは，第5 回（8 月号）の「BKC 中の赤ちゃんの評価」に記載していますで，今回は，ケアを行う私たちがBirth Kangaroo Care；BKC 中に配慮しておきたい点などを中心に説明してゆきます．

現在，安全な分娩管理のために，胎児心拍数モニタリングはなくてはならないものとなっています．胎児心拍数モニタリングの学習に先駆的に取り組んでいる施設の活動を知り，自分たちの施設に取り入れる際のヒントを見つけましょう．

多くの妊産褥婦やその家族と接する以上，クレームを受けることもあるはずです．とくに産科では，妊産婦や家族の「安全に出産できて当然」という考えのもと，特有のクレームが寄せられるのではないでしょうか．さまざまな事例をもとに，クレームを妊産褥婦との信頼関係構築のチャンスに転じる方法を学びましょう．

読者の皆様，こんにちは．るかデンス研究会です．臨床において慣習的に行われているルチーンを見直したり，新しいケアを提案したり，実践の変革を目指したとき，どのようにアプローチしていますか？ 本連載では文献的検討によって，助産師をはじめ周産期に携わる医療者が日々のケアにおいて活用することができる助産ケアのエビデンスを紹介します．エビデンスを臨床で応用し，日々のケアの向上を目指しませんか？

いま，10 代の人工妊娠中絶や性感染症が大きな問題となっています．そんな子どもたちに「性」と「命」の大切さを伝えるために，学校での性教育講座を始めている助産師の皆さんも多いのではないでしょうか？ 学校との交渉の仕方やより効果的な授業の展開方法を，「いのち語り隊」のメンバーから学びましょう．

春夏秋冬，日本はとても季節感のある国です．桜の季節である4 月は，入学や入社の時期で，新しい制服を着た新入生や新入社員を多く見かけます．しかしアメリカでは，日本のように入学や入社の時期ははっきりしていません．一応9 月が入学の時期とされていますが，学校には各学期の始まるときに入学できますし，求人の有無によって一年を通して就職することができます．私の働いている病院でも一年を通して随時新しい職員が入ってきます．年齢は20 代から60 代までとさまざまです．

前項（2008 年8 月号）に述べたように，国際助産師連盟（The International Confederation ofMidwives；ICM）の前身である国際助産婦連合（TheInternational Midwives Union；IMU） は， 昭和3（1928）年オーストリアのウィーンで開催された第4 回大会でその名が決定された．会名は通常発足前の準備会などであらかじめ内定され，第1 回総会で正式決定されるようであるが，なぜか第1 回から第3 回大会まで決められていない．その原因として，この国際的助産婦団体の会員が，各国における一国の代表的（national） 助産婦協会（a nationalassociation of midwives）であって，助産婦個人ではなかったことがあげられよう．個人の集まりであれば，熱心な少数の有力者によってでも迅速な発展が見られるが，既成の団体組織の連携による国際団体の成立のためには，連絡や意志の疎通に時間を要したり，言語的，経済的困難が大きいため，決定するまでに6 〜 9 年も要した，ということであろう．イギリスの助産婦会（The Midwives Institute）も昭和6（1931）年にようやく加盟した1）．イギリス・N ノッティンガムottingham のTテ ューew2）は，その著書『安全な出産とは？妊産婦ケアの歴史評論』の中で，この発足時の団体を《国際助産婦協会（an international associationof midwives）》と不定冠詞をつけた，小文字の普通名詞で表現しているが，これは正式名称でなかったことを示している．

鉄はヘモグロビンの合成に必要なミネラルで、体の各器官に酸素を運ぶ重要な働きがあります。鉄が不足すると体が酸欠状態になり、目覚めがつらかったり、めまい、息切れなどの症状が起こりやすくなります。残念なことに鉄は体内でつくることはできないうえに、これだけでは吸収されにくい成分なので、ビタミンＣや蛋白質を含む食材と一緒に食べ、効率よく摂れるよう意識しましょう。

七五三の祝いの源流には，3 歳男女児の「髪置き」「ひも落とし」，5 歳男児の「袴着」，7 歳女児の「帯解」があります．「髪置き」は，そり落としていた髪を伸ばし始める，「ひも落とし」は，幼児が着用するひもの付いた着物から，ひもなしで帯を結ぶ着物に替える，「袴着」は碁盤の上に子どもを立たせて袴を着せる，「帯解」は丸帯を結び，大人の装いをする，といったように，装いで子どもの成長の祝いを象徴化しています．子どもと家族は正装して氏神を参拝し，近所や親戚，産婆に挨拶回りしたり，自宅に招いたりして祝宴を開きました．

日々の仕事に追われ，忙しい読者の皆様，たまにはちょっと脱線して，旅に出ませんか？ 鉄道好きの産科医，助産師が案内する，心を癒す鉄道紀行です．

アフリカ・マダガスカル，アシジの聖フランシスコ病院で働く助産師，シスター平間理子さんから，助産師，上林文子さんへの手紙を掲載しています．

2008 年4 月28 日と29 日の両日，米国メリーランド州のロックビルにある米国国立小児健康成育研究所（National Institute of Child Health and HumanDevelopment：NICHD）にて，「胎児心拍数モニタリング再評価ワークショップ（Electric fetal heartrate monitoring：A reevaluation workshop）」が行われた．これは，米国における胎児心拍数（FHR）モニター判読に関するコンセンサス会議であり，全米の医師，研究者，看護師が約30 名と，カナダと英国から各1 名が集まった．筆者も招請参加する機会を得たので，会議の内容と意義について報告する．

「産婦人科ならここ」と，昔から地元の信頼が厚いNTT 東日本札幌病院産婦人科．助産師外来と医師による妊婦健診の2 本立てで，妊婦にとって「満足いくお産」を目指す取り組みが行われている．