ペリネイタルケア
Volume 29, Issue 3, 2010
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特集
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- 危機的出血や臓器障害から母体を守ろう 産科出血:前置胎盤と常位胎盤早期剥離
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1 前置胎盤の病態と診断
29巻3号(2010);View Description Hide Description前置胎盤 (placenta previa) は,「胎盤の一部または大部分が子宮下部 (子宮峡) に付着し,内子宮口に及ぶものをいう.内子宮口にかかる程度により,全・一部・辺縁の3 種類に分類する.これは子宮口開大度とは無関係に診断の時点で決め,検査を反復した場合は最終診断による.なお,「低置胎盤は含めない」と日本産科婦人科学会では定義されている1). -
2 前置胎盤の管理と術前準備
29巻3号(2010);View Description Hide Description前置胎盤は常位胎盤早期剥離と並び,大量出血をきたし得る疾患である.2006 年までに神戸大学病院で扱った症例は前置胎盤・低置胎盤合わせて年間10 例未満で推移していた.しかし,福島県立大野病院事件の影響からハイリスク妊娠・分娩をできるだけ高次施設に送るという考え方が広まったため,2007 年以降,前置胎盤・低置胎盤の症例が増加し,2009 年では全分娩数のおよそ1 割に当たる年間40例に達している. -
3 前置胎盤症例における帝王切開術の問題点
29巻3号(2010);View Description Hide Description前置胎盤は年々わずかながら増加していると推測されている.その背景として,前置胎盤のリスク因子としての妊婦の高齢化やIVF-ET(体外受精—胚移植)があげられる1).さらに,ハイリスク妊娠の高次医療施設への集中が高次医療施設での症例数増加に拍車をかけている.埼玉県唯一の総合周産期母子医療センターである著者らの施設でも,前置胎盤の頻度はこの10 年で2 倍に増加している(表1).前置胎盤は,帝王切開(以下,帝切)時の出血量も多く,その対応を誤ると重大な結果を招く.著者らの施設の成績では,前置胎盤の帝切の出血量は通常の帝切の約2 倍多いことが明らかになっている.周産期領域におけるその管理は,とくに高次医療施設においては重要なポイントの一つである. -
4 常位胎盤早期剥離の病態と母体のリスク
29巻3号(2010);View Description Hide Description常位胎盤早期剥離(以下,早.)は,妊娠中あるいは分娩経過中の胎児娩出以前に正常位置,すなわち子宮体部に付着している胎盤が,子宮壁より.離するものをいう.早.の発症頻度は1,000 分娩あたり,単胎妊娠で5.9 例,双胎妊娠では12.2 例と報告1)されており,日常診療で比較的よく遭遇する疾患である.周産期医療が発展した現在においても発症の予知は困難であり,さらに,いったん発症すると急速に母児の状態が悪化し,とくに児においては予後不良となることも多い.母体においても出血性ショック,DIC,多臓器不全などを呈することがあり,患者の生命の危険を伴う疾患である. -
5 常位胎盤早期剥離の診断と分娩前管理
29巻3号(2010);View Description Hide Description常位胎盤早期剥離はさまざまな臨床所見を呈する.自覚所見には腹痛,外性器出血や胎動の減少などがある.また他覚所見には胎児心拍数モニタリングでの遅発一過性徐脈などの胎児心拍数異常や頻回の子宮収縮波を認めることがある.さらに血液検査所見では血小板数減少やフィブリノゲン値の著しい低下など消費性凝固障害(consumption coagulopathy)を認めることも多い.また妊娠高血圧症候群などの基礎疾患があると常位胎盤早期剥離を起こしやすいが,目立ったリスク因子を持たないケースでの発症も稀ではない.このように多彩な臨床所見のため診断は必ずしも容易ではない.さらに急速に母体DICや胎児機能不全に陥ることも多い.そのような場合は常位胎盤早期剥離の確定が得られないまま,母児の健康状態の確保のために妊娠終結をまず優先させねばならないこともある. そこで本稿ではまず常位胎盤早期剥離の周産期予後に与える影響を理解したうえで,臨床的に常位胎盤早期剥離が疑われる所見をあげながら,その診断と分娩前管理について述べる. -
6 常位胎盤早期剥離症例の分娩方法
29巻3号(2010);View Description Hide Description常位胎盤早期剥離は予測不能で突然発症し,予後が非常に不良な産科救急疾患である.予後を改善するためには早期発見と早期介入が重要である.患者教育と産科スタッフの危機管理能力が必要であり,超緊急帝王切開などのシミュレーションも行っておくべきである.
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レポート
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- 第25回日本分娩研究会
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教育講演(1) 助産師に知って欲しい胎児心拍数パターンの読み方
29巻3号(2010);View Description Hide Description1800 年代初期にLaennec によって聴診器が発見されたが,その直後の1822 年にはDeKergaredecは胎児の心音を聞き,それを数えることで,子宮内の胎児の状態を知ろうとする試みを始めたといわれている1).その後,今日まで分娩中の胎児の健康状態を知る有力な指標として心拍数が使われている.1950 年代になってその心拍数を1 拍ごとに1 分あたりの心拍数に換算してペーパーに記録する技術が開発された2).その結果,心拍数の変化をパターンとして捉えられるようになり,さまざまなパターンについての研究が進んだ.そしてその背後にある胎児心拍数の中枢制御機構に関する研究も進歩したため,分娩監視装置は,今日の産科臨床の場ではなくてはならない医療機器として広く使われている. -
教育講演(2) 助産師に必要な産科ガイドライン
29巻3号(2010);View Description Hide Description安全性を重視した,多様な妊娠・分娩に対しては,産婦人科医師と助産師,看護師を含む医療スタッフが基本知識を共有し,協働して適切な判断と対応とを行うことが必須である. ここでは,2008 年度の厚生労働科学研究の中で作成された「助産外来ガイドライン」1)と「院内助産ガイドライン」2)の中から,周産期管理上,医師から見て,とくに助産師に重要だと考えられる項目と内容について解説する.なお,ここで述べる助産外来および院内助産とは,医師の開設する分娩取り扱い施設(病院,診療所)における助産師の業務を指し,助産所で行う助産師の業務は含まない. -
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連載
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- 何がわかる? どう使う? 画像でみる産科学
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- 自然分娩のメカニズムを解明する アクティブバース・サイセンス
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バルサルバ手技の弊害とアクティブバース
29巻3号(2010);View Description Hide Description娩出期の声門閉鎖による努力性努責は胎児に弊害を及ぼすとして,アクティブバースは声門の開放と生理的反射に則したいきみを提唱している.バルサルバ手技は娩出力を増強する反面,胎児に非生理的低酸素血症を誘発する可能性があるが,これは羊水圧上昇により胎児胎盤血流循環不全をもたらすとともに,母体の胸腔内圧上昇により子宮への血流供給を低下させ,母児間ガス交換機能を障害することが原因である. - 哺乳を科学する 画像研究からみえてきたもの
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- 胎児染色体スクリーニングの新しい展開と最近の進歩
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- 使える! 助産ケアのエビデンス
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妊婦の水分摂取は,羊水量の増加と関係があるか?
29巻3号(2010);View Description Hide Description妊婦は,妊娠期間中にさまざまな生理的変化を経験しますが,その中の一つに羊水量の増加があります.羊水は,ごく少量ですが妊娠3 週頃からみられはじめ,16 週までには約200mL,30 週から35 週には約800mL と増加のピークを迎え,その後は徐々に減少して,正期産では約500mL となります.妊娠中期以降の羊水のほとんどは胎児尿に由来し,絶えず産生・吸収されています.羊水量の検査には,羊水インデックス(AFI)や羊水ポケットの測定があります.これらは胎児の健康状態の指標となっており,羊水量の増加が思わしくない場合は,胎児の腎機能の異常や妊娠高血圧症候群の有無などが検討されます.しかし,母児共に医学的な異常が認められなくても羊水量が妊娠週数に比して少なめと診断される場合もあります.羊水の産生量は,胎児の腎機能だけではなく,妊娠高血圧症候群の有無にも関与するということから,羊水量は胎児への水分供給量,つまり臍帯を通して胎児に供給される妊婦の循環血液量の影響も受けていると考えられます.それでは,母児に医学的な異常が認められないのに羊水量が週数相当に満たないと診断されたとき,妊婦が自身の循環血液量を増加させようと水分摂取量を増やすと,胎児への臍帯血流量が上昇し,羊水量の産生を増加させることができるのでしょうか.今回は,妊娠中の妊婦の水分摂取・補液の羊水量への効果とその適用について吟味していきます. - 助産婦の歴史
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エッセー・読み物
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- 周産期の未来に向けて
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- 子育てに生かしたい年中行事
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- 遠き国より マダガスカル シスター平間からの手紙
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