Biotherapy
Volume 25, Issue 5, 2011
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総説
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バイオセラピィの息吹―カワラタケが拓いた世界―
25巻5号(2011);View Description Hide Descriptionがん免疫療法の進歩について,歴史的変遷をまとめながら概説した。過去40年においてがん免疫療法は,カワラタケから抽出した蛋白多糖体PSK や細菌製剤などの初代免疫療法の開発に始まり,サイトカインの同定と臨床応用,活性化リンパ球の応用,がん抗原の同定とワクチンとしての応用,そしてモノクローナル抗体のヒト化と応用へと発展・進化してきた。この潮流のなかで,初代免疫療法剤から学ぶことは多く,これを次につなげなければならない。polysaccharide-K(PSK)の話題について示した。今,がん免疫療法は,副作用が少なく身体に優しい,生命予後を延長する第四のがん治療として市民権を得ようとしている。バイオセラピィの息吹を強く感じながら新規治療開発に向け,今後も不断の努力を惜しむまい。
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特集
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- 分子標的剤の現状
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食道扁平上皮癌におけるHER2 を標的とした分子標的治療
25巻5号(2011);View Description Hide Description食道扁平上皮癌に対しては,広範なリンパ節郭清を伴った手術療法,化学療法,放射線療法などによる集学的治療が施行されている。しかし,進行食道扁平上皮癌患者の予後はいまだに不良であり,さらなる成績向上のためには新たな補助療法の開発が望まれる。一方,HER2を分子標的とした治療薬として,抗HER2 ヒト化モノクローナル抗体であるHerceptin やHER1/HER2 のチロシンキナーゼ阻害剤であるlapatinib が使用されており,それらの効果は様々な癌種において認められている。食道扁平上皮癌患者においても,HER2 を標的とした分子標的治療は,新しい有効な補助療法の一つとして考えられる。実際,われわれが本論文で示したように,食道扁平上皮癌患者の29.4%においてHER2 が発現されており,Herceptin とlapatinib はHER2強発現食道扁平上皮癌細胞株に対して増殖抑制とapoptosis を惹起し,それらの効果はHER2 強発現乳癌細胞株に対する効果と同程度であった。さらにlapatinibは,食道扁平上皮癌細胞株において細胞表面上のHER2の発現を増幅させ,Herceptin-mediated ADCC の効果を15〜25%増強させた。このHerceptin-mediatedADCCの増強効果は,HER2強発現細胞株だけではなくHER2低発現細胞株においても認められた。これらの結果から,HerceptinとlapatinibはHER2強発現ESCCに対して有効であり,Herceptinとlapatinibの併用療法は食道扁平上皮癌症例の29.4%に対して有望な補助療法の一つとなる可能性があると考えられる。 -
CetuximabにおけるADCC 活性の重要性と免疫細胞療法の可能性
25巻5号(2011);View Description Hide Description大腸癌化学療法の進歩には分子標的治療が大きな役割を果たしている。cetuximab の抗腫瘍機序はepidermalgrowth factor receptor(EGFR)封鎖による下流のKRASなどの制御にあり,KRASやBRAF遺伝子変異例には有効性が低いとされている。一方,cetuximab にはNK 細胞などがもつFcγRIIa やFcγRIIIaを介するantibody-dependent cell cytotoxicity(ADCC)による殺腫瘍機序が存在し,FcγRIIa やFcγRIIIaの遺伝子多型によりcetuximab 投与症例の予後が異なるとの報告もある。ADCC 活性をもつリンパ球などを用いた免疫細胞療法とcetuximabの組み合わせによる新たな大腸がん治療戦略について考察する。 -
抗EGFR 抗体のADCC を利用した細胞療法の可能性
25巻5号(2011);View Description Hide Descriptioncetuximabは大腸癌,trastuzumabは乳癌に対する分子標的治療薬であるが,後者は近日HER2陽性進行胃癌にも使われるようになった。これらの分子標的治療薬は,いずれも抗体療法であり,成長因子受容体に結合することにより細胞内の増殖シグナル伝達を止めることが作用機序の一つと考えられるが,いずれもIgG1 抗体であることから,もう一つの作用機序としてADCC の関与が指摘されている。今回われわれは,cetuximabがEGFR陽性大腸癌細胞に対してADCC活性を有するかどうか,またADCC活性をさらに活性化する方法について検討した。方法として,癌細胞はヒト大腸癌細胞(HT-29)を用い,ADCCを期待する抗体としてはcetuximab を,コントロール抗体として非特異的IgG1 抗体を用いた。cetuximab およびtrastuzumab単独では細胞傷害活性のない条件下で健常人ボランティアの末梢血単核球(PBMC)を,各抗体を作用させた癌細胞と共培養し細胞傷害活性を検討した。またPBMC の代わりにIL-2 で活性化したPBMC を用いても検討した。さらに,用いたPBMC のNK 活性,perforin 1,grangyme B,CDマーカーの発現を同時に検討した。その結果,cetuximab単独では,HT-29の生死に影響を及ぼさなかった。cetuximabと同時にPBMC をHT-29と共培養させると,癌細胞は有意に細胞死に陥りADCCを発揮したと考えられた。またIL-2で活性化したPBMCを用いた場合,さらにADCC活性は増強し,同時にNK 活性,perforin 1,granzyme Bも上昇するがCD マーカーの発現は変化しないことが明らかになった。さらにADCC とNK 活性の間には強い相関が認められた。以上より,cetuximabはADCC活性を有しており,それはNK 活性に相関する。担癌患者において化学療法によりNK 活性は低下傾向にあるため,そういった状況でも有効なADCC活性を引きだすため,培養NK 細胞の移入療法などの開発が期待される。 -
トラスツズマブの耐性メカニズムの関与
25巻5号(2011);View Description Hide DescriptionHER2は約20%の乳がんで過剰発現しており,その病理に中心的な役割を果たしていると考えられている。トラスツズマブはHER2 の細胞外領域に結合するモノクローナル抗体であり,HER2 陽性転移性乳がんからHER2陽性早期乳がんの術後補助化学療法に至るまで,その治療成績を大きく改善した。最近では,トラスツズマブの臨床的適応は,HER2陽性進行胃がん(胃がんの13〜23%でHER2過剰発現)にまで拡大された。これらトラスツズマブの臨床的有用性の一方で,一部の腫瘍はHER2過剰発現にもかかわらず同剤に一次耐性を示し,転移性腫瘍ではトラスツズマブ治療に一度は反応した場合でもいずれ獲得耐性を示し再燃する。本稿では過去10余年の間に提唱されてきた,トラスツズマブ耐性のメカニズムをレビューする。これらは大きく,HER2へのアクセス障害,代替細胞内シグナル,下流シグナルの異常活性化,FCGR3Aの遺伝子多型に分類される。さらに,これら耐性を克服し得る治療戦略についても紹介する。 -
肝細胞癌に対する分子標的治療の現状
25巻5号(2011);View Description Hide Description肝細胞癌(肝癌)は典型的な血管新生を呈する腫瘍である。2008 年,血管新生阻害剤sorafenib(Nexavar,BAY43-9006)の第III相ランダム化臨床試験の結果が報告され,肝癌に対する全身化学療法として,初めて全生存期間(OS)の有意な改善を認めた。わが国でも切除不能肝癌への適応が認可され,肝癌治療は新しい時代を迎えている。本稿では,sorafenibを中心とした肝癌分子標的治療の開発と実際の臨床について解説する。 -
大腸癌に対する抗血管新生分子標的治療の現状
25巻5号(2011);View Description Hide Descriptionbevacizumab(BV)は,現在本邦で唯一使用可能な血管新生阻害剤であり,初回治療における5-FU/LV,FOLFOX,FOLFIRI への上乗せ効果や二次治療での有効性が証明された大腸癌化学療法におけるkeydrug の一つである。しかしながら一次治療における抗EGFR 抗体との使い分けやPD 症例における二次治療での継続使用についてなど検証すべき事項も残されており,進行中の臨床試験の結果が待たれる。BV のバイオマーカーも検討されているが,まだ臨床的に有用なマーカーは確立されていない。その他の血管新生阻害剤としてsunitinibやaxitinib,vatalanib,cediranibの臨床開発が行われたが,いずれも既存の治療に対する有効性は示せなかった。現時点で有効性を示しているのはaflibercept だけであり,二次治療例を対象としたFOLFIRI+/−afliberceptの第III相試験(VELOUR試験)では生存期間,無増悪生存期間,奏効割合に対するaflibercept の上乗せ効果が報告された。現在,regorafenib やbrivanib,ramucirumab の第III相試験が進行中であり,結果が待たれる。 -
呼吸器腫瘍における血管新生抑制療法
25巻5号(2011);View Description Hide Description肺癌は悪性腫瘍のなかでも罹患者数が最も多い癌種の一つで,世界的にも癌死亡の大きな要因となっている。肺癌は臨床的特徴から小細胞肺癌とそれ以外の非小細胞肺癌に大別される。血管内皮増殖因子(VEGF)に対するヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブは標準的なプラチナベースの2剤併用化学療法に加えることで,扁平上皮癌を除く非小細胞肺癌において治療成績が改善されることが示された。しかし,ベバシズマブ併用による生存期間の延長効果は限定的であり,治療効果を予測できるバイオマーカーの確立が必要である。小細胞肺癌は肺癌の約15%を占め,非常に進行が早く化学療法が治療の中心となる。小細胞肺癌に対するbevacizumab(BEV)の併用効果はこれまでの臨床試験では明らかでなく,第III相試験での検証が必要である。悪性胸膜中皮腫は早期診断が困難であり,従来の化学療法や放射線治療に感受性が低いことから,予後を改善するために有効な新規治療薬の開発が切望されている。最近の研究で,悪性胸膜中皮腫の進展においても血管新生が重要な役割を果たしていることが明らかとなり,重要な治療標的と考えられている。そこで,われわれは悪性胸膜中皮腫進展の分子メカニズムの解明や血管新生を標的とした治療の有効性を検証するために,ヒト悪性胸膜中皮腫細胞株をSCIDマウスに胸腔移植する同所移植モデルを確立した。このモデルにおいて,BEVはVEGFを高発現する悪性胸膜中皮腫細胞株にのみ効果を示した。一方,多くの血管新生関連因子受容体のマルチキナーゼ阻害薬であるE7080 はVEGF 高発現株と低発現株に対していずれも増殖を抑制し,同所移植モデルマウスの延命効果を示した。腫瘍血管新生の分子メカニズムのさらなる解明が呼吸器悪性腫瘍における血管新生抑制療法の発展に非常に重要である。