ハートナーシング

　心臓血管外科は，外科学としての歴史はまだ浅く，多くの術式が標準化された現在もさまざまな術式の改良・変更が行われているのが実情である．そのため，心臓血管外科手術の看護に関しては，より専門的な知識・技術が必要と考えがちだが，系統立てて学び，実践することにより，誰でも身に付けることが可能である．　本稿では，主に心臓血管外科手術の各疾患・手術ごとにおける合併症について詳しく説明していく（表1）．

　集中治療は呼吸，循環，代謝をはじめとして，専門診療科のように臓器単位の縦割りの診療と異なり，横断的な全身管理を提供するサービス部門である．ICU で行われる診断･治療は多岐にわたり，その内容をすべて解説すると一冊の教科書が必要なほどであるので，今回の特集では心臓手術後にICU に入室してから退室するまでの流れに沿って，業務内容と安全管理上の注意点に焦点を合わせて概説する．　また，近年は早期抜管，早期退室を目指すFast-track 麻酔（元来は医療資源の効率的利用の観点から，短時間作用性の麻薬，筋弛緩薬，吸入麻酔薬などを用いて麻酔からの覚醒および回復時間の短縮を図り，早期の抜管を目指す麻酔管理方法）へと麻酔管理も変化しており，それに応じてICU 管理も変わりつつあるが，基本は的確に押さえておかねばならない．

　弁膜症患者の術後ケアは，術後の心不全の程度や合併症（糖尿病，腎不全，呼吸器疾患など）により個別性のある術後管理が求められる．　術前は，基礎疾患に塩分や水分の過剰状態が加わり，心不全が発生しやすい状況にある．感染や貧血を合併している場合にはリスクがさらに増大する．　術後は，体外循環中の大動脈遮断に伴う心筋虚血や，出血による貧血などによって心筋収縮力低下や心拍出量の減少を来していると考えられ，心不全の合併により一層の注意が必要である．

　虚血性心疾患とは，心筋を栄養する冠動脈の閉塞や狭窄によって心筋の酸素需要量を供給量が下回ることを主な原因として起こる．虚血性心疾患の手術では冠動脈バイパス術（CABG）が行われる．CABG の適応は表1 に示す．　心臓は全身へ血液を送るポンプ機能を持つ唯一の臓器であるため，術後注意すべき合併症は多岐にわたる（図2）．また，近年の高齢化に伴い動脈硬化性病変や腎機能低下，糖尿病など重度の合併症を伴う患者も増えており，術後看護では，より詳細な観察と異常を早期に発見，対応する能力が求められている．　本項では多岐にわたる合併症の中でも特に注意したい，㈰術後出血，㈪低心拍出量症候群，㈫周術期心筋梗塞，㈬心タンポナーデ，㈭不整脈，㈮脳梗塞の6 点を重点的に述べる．

　当院では入院から退院までの一貫した治療，看護を特徴としており，高齢者や呼吸機能障害など既往歴のある患者の手術も積極的に行っている．胸部大動脈疾患に対する手術は侵襲の大きな手術であるが，「早期抜管」，「早期離床」，「チーム医療」で合併症を回避し，早期回復につなげることができている．　虚血性心疾患や弁疾患手術のケアとの相違として，㈰術後の血管内ボリュームの維持，㈪疼痛コントロ−ルが挙げられる．㈰は，胸部大動脈疾患の手術では，手術中の水分バランスの数値に反映されない不感蒸泄が大きく，術後血管内脱水に陥りやすい．そこで，術後は血管内ボリュームを補い，維持しつつ，利尿を図ることが胸部大動脈疾患の手術後には重要である．㈪は，手術創の部位や範囲により，持続的な強い疼痛がみられる場合がある．疼痛は，循環動態・呼吸状態・活動状態・食事摂取にも影響を与えることから，適切なコントロールが必要となる．これらを念頭に，胸部大動脈疾患術後のケアに携わることが求められる．　これらを踏まえ，今回は手術当日からリハビリ開始期に至るまでの看護ケアのポイントを経時的に説明する（図1）．

・ 心臓血管外科術直後の患者は容態の変化が大きく，常に迅速な判断や先を読んだ対応が求められる．そのため，術前の個別の情報収集とアセスメントが重要である．・ 病棟（状況によってはICU）→手術室→ ICU と患者が移動する中で一貫した継続看護を行うために，他チームのナースとの連携は必要不可欠といえる．

　ステントグラフトは金属製のステントに人工血管（グラフト）を逢着したものである．そのステントグラフトが細かく折り畳まれた状態で，口径7.0mm 前後の太さのシースに挿入されたデリバリーシースを用いて施行する．このデリバリーシースを，外科的に露出した総大腿動脈からX線透視下に挿入する．動脈瘤の中枢および末梢でステントが広がることにより，人工血管が大動脈に固定される．それによって動脈瘤内への血流を閉鎖し，動脈瘤を治療する方法である．開腹する必要がないため，従来の人工血管置換術と比較すると低侵襲な治療法であり，術翌日より歩行および食事摂取が可能である．解剖学的な制限はあるが，現在3 種類のステントグラフトが承認されて使用可能となっており，動脈の性状や屈曲に応じてそれぞれのデバイスの特性から最も形態に合ったデバイスを選択し使用している．

　春になると環境が大きく変わりやすい．今年の1 月，ついに私もそのウネリに飲み込まれ，在宅から病棟へ舞い戻ることになった．PEG（経皮的内視鏡下胃瘻造設）ケアや摘便ケアなどが多かった在宅の世界から，点滴ケアが重要な病棟看護の世界へ旅立つことになったのである．私が勤めているケアセンターは，小さな総合病院のグループ下にあるため，今回私は「異動」という形で病棟へ行く．

　パス使用により処置や業務は標準化したが，患者教育・指導においては，作成したものが有効に活用しきれていない状況があった．そのため，指導・教育面での変更が必要であると考え，患者指導の現状を調査し，今回患者指導を統一することができたので紹介する．

　東北地区の最北端に位置する青森県．そこで唯一の特定機能病院としての役割を担うのが，弘前大学医学部附属病院である．その中の第一病棟7 階は，循環器・呼吸器・腎臓内科疾患の看護を行う病棟である．循環器内科では，急性心筋梗塞や心不全をはじめとする重症心疾患の患者を24 時間体制で受け入れ，緊急心臓カテーテル検査やPCI を行っている．また，呼吸器内科は肺がんや慢性閉塞性肺疾患などを，腎臓内科では慢性腎炎症候群や生体腎移植の術前・術後管理など，最新の医療を提供している．　地方の高齢化は著しく，同時に患者の高齢化も進んできている現在，患者にいかに質の高いケアを提供し，元の生活へと復帰させていくかという課題は大きい．今回はそんな問題に積極的に取り組み，地域に根ざした看護を提供する第一病棟7階の皆さんを取材した．