インフェクションコントロール
Volume 19, Issue 9, 2010
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目次
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特集
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- チームで理解する感染症診療 目からウロコの抗菌薬適正使用
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2 細菌の学名と慣用名-昔の名前で出ています?-
19巻9号(2010);View Description Hide Description臨床検体から細菌が分離・同定された場合,それが実際に感染症の起因菌となっていて抗菌薬による治療の対象であると考えるべきなのか,単純に保菌されているだけか,検体を採取する際に混入したコンタミネーションなのか,標準予防策に加えて感染経路別予防策が必要かどうか,さまざまな判断が必要になりますが,細菌の種類そのものを正しく把握しなければ議論を始めることすらできません.正しい臨床判断のためには,学名も含めて正確な起因菌,分離菌の把握が重要です.細菌の学名に慣れ親しみ,臨床微生物学的に正しく分離菌種を把握することは基本の中の基本といってよいでしょう. 臨床的に検出される細菌はきわめて多岐にわたるため,すべてを網羅することは不可能ですが,本稿では,感染症診療や感染対策に重要な細菌を取り上げて,臨床の現場で混乱が生じないよう名称と呼び方について解説します(臨床微生物学的な詳細については文献1,2 を推薦します). なお,基本的に菌名は学名で把握すべきというのが筆者の主張ですが,これは多くの和名は慣用的に用いられているに過ぎない場合が多く,学術的に云々という理由ではなく,微生物を誤解なく把握するために必要であると考えるからです. -
3 あなたはだあれ? 抗菌薬の一般名と商品名とジェネリックと臨床的特徴
19巻9号(2010);View Description Hide Description①感染対策・感染症治療を学ぶにあたって重要な項目の一つである抗菌薬については,その種類の多さとともに,一般名と商品名があることが学習を困難なものとしている.近年ではジェネリック抗菌薬も発売されており,さらに複雑になっている.②抗菌薬の投与量・投与間隔は,その種類や治療しようとしている感染症の部位によって異なる.感染対策に携わる方には,使用中の抗菌薬が,濃度依存性薬剤なのか時間依存性薬剤なのかを意識していただきたい. -
4 予防と治療-予防投与と先制攻撃治療と非論理的感性治療-
19巻9号(2010);View Description Hide Description「風邪をこじらせて肺炎になるといけません.予防的に抗菌薬で治療しましょう」…これは医療現場でよく聞く(?)会話ですが,これを聞いて皆さんはどう思われますか.別に違和感のない方も多いかもしれません.しかし実は「予防的に抗菌薬で治療する」という台詞のなかには論理的な矛盾が存在するのです. まず第一に,この言葉の主は,抗菌薬を「予防」として使用するのか,「治療」として使用するのかを区別できていません.第二に,そもそも風邪の患者さんに抗菌薬を投与することで肺炎を予防することができるのでしょうか. 感染症は予防できるに越したことはありませんが,予防はその効果や副作用の面において万能ではありません.また,予防と治療はまったく別のものなので,きちんと区別しなければなりません.そこで,本稿では皆さんと一緒に「抗菌薬による予防と治療」にまつわる問題点を考えてみたいと思います. -
5 抗菌薬感受性検査と結果の正しい読み方-MICを「縦読み」しない-
19巻9号(2010);View Description Hide Description抗菌薬感受性検査は,細菌によって引き起こされた感染症の治療抗菌薬選択の際に指標となるものです.臨床検査におけるその測定方法は,「ディスク拡散法」と「微量液体希釈法」が一般的に利用され,一部で「イプシロンテスト(EtestTM)法」が用いられます.2008 年の調査結果1)では,微量液体希釈法が81%,ディスク拡散法が18.5%,イプシロンテスト法が0.5%で,圧倒的に微量液体希釈法が用いられています. 検査結果の表示方法は, 感受性(S:susceptible),中間(I:intermediate),耐性(R:resistant)といった菌属菌種ごとに設定されたブレイクポイントをもとに示されるものと,最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)として示されるものがあります.しかし,これらはあくまでも生体外試験の結果であって生体内で同様に働くとはかぎりません. 近年,少しでも生体内での効果を反映するようにと,感受性検査結果の緻密な解釈と応用がなされるようになり,それまで被検菌に対して「効く」か「効かない」程度であったものが,その読み方は複雑になってきました.ここでは,検査方法,結果の表示方法と解釈について解説します. -
6 組織移行性とは何か-髄液移行性,前立腺移行性-
19巻9号(2010);View Description Hide Description①抗菌薬が感染臓器で効果を発揮するためには,感染臓器で組織濃度を十分に保つ必要がある.②大部分の感染臓器では,「十分な血中濃度=十分な組織濃度」となるため,投与量・投与間隔さえ気を付ければ,臨床的に問題となることは少ない.③「髄液・中枢神経系」と「前立腺」の感染症にかぎっては,十分な組織濃度を保つために各組織へ移行する抗菌薬がかぎられている.④臨床現場でよく耳にする「胆道移行性」は,胆道移行性の有無で治療成績に差が出ないことに注意する.⑤ヒトの細胞内に寄生し感染症を起こす微生物に対しても,細胞内での十分な濃度の維持の面から,効果がある抗菌薬が限られていることに注意する. -
7 PK-PD理論に基づく抗菌薬治療-効果的な抗菌薬投与法とは-
19巻9号(2010);View Description Hide Description抗菌薬の投与法は用いる薬によって大きく異なります.また,同じ薬でも投与回数が患者さんによって2 回であったり,4 回であったりします.さらには治療を開始した後で1 回量や投与回数が変更されたりすることもまれではありません. 近年,「適正使用の観点から,PK-PD を考慮した,あるいはPK-PD 理論に基づいた抗菌薬投与が重要である」と言われています.「PK-PD 理論って何? なぜ薬や患者さんで投与法がそんなに異なるの?」との疑問を抱いているICT メンバーもいるのではないでしょうか? ここでは抗菌薬の作用特性と効果的な投与法および指標とされているPK-PD パラメータについて解説します. -
8 CRPはデッドボール-出塁できてラッキー! だからといって抗菌薬の投与は退場!-
19巻9号(2010);View Description Hide Description野球で「ヒットで出塁した場合は得点につながるが,デッドボールで出塁しても点にはならない」というルールはありません.ヒットもデッドボールも同じ出塁であり,得点の価値は同じです.炎症反応の指標であるC 反応性タンパク(C-reactiveprotein,CRP)に関する議論もその有用性の高低を巡って,同じ論理で進められているように感じます.CRP に特異性がないこと,数値の絶対的比較ができないこと,上昇までのタイムラグがあること,予後の改善などのエビデンスが少ないことを理由に,CRP は「得点に結び付かない」という結論にはならない,と思うのです.要は打率には関係しないが,得点にはつながる,と考えればよいと思います. 発熱はどうでしょう? CRP と発熱,どちらが役に立つか,ではなく,どちらも役に立ちます.発熱はフォアボールくらいの価値があります.つまり,注意してみれば,その価値は高められるし,その限界を知って利用すれば臨床に有用である,と考えます. 日本ではCRP は16 点(160 円)で測定されています.デッドボールと同じで少し痛い.毎日測るのはナンセンスですが,医療費の高騰の大きな原因ではないはずです.それよりも,熱があるから,CRP が高いから(主治医の)安心のために抗菌薬投与というのが,医療費だけの問題ではなく,院内における耐性菌の増加などのマイナスの面が強く,これは「退場」に相当します. -
9 組織横断的な感染症診療の意義-感染症診療支援はこんなに素敵!-
19巻9号(2010);View Description Hide Description感染症はどの診療科の患者さんにも起こりうる疾患であり,どの診療科の医師も感染症診療を避けて通ることはできません.しかし今日,医師の仕事は分業化・専門化が進んでおり,すべての医師が感染症診療に精通しているとは必ずしもいえない状況です.加えて医療の進歩とともに患者背景は複雑化し,耐性菌の出現もあいまって,当該科のみで感染症を解決することは容易なことではありません. このようなとき身近にいて,いつでもすぐに相談に乗ってもらえる感染症医の存在は大変心強く,主治医は安心して自分の職務に専念することができます.また感染症医が患者さんの診療に携わり,チームで医療を行うことにより,診療の質が向上し,患者さんによりよい医療を提供することが可能となります. ここでは当院における組織横断的な感染症診療を紹介し,その意義について考えてみたいと思います. -
10 カゼをひいても抗菌薬を欲しがらない-まず「隗より始めよ」-
19巻9号(2010);View Description Hide Descriptionいわゆるカゼ(急性上気道炎やカゼ症候群を含む)の原因は,ほとんどがウイルスであり,ほとんどの症例において抗菌薬が不要である(効かない)ことは明白な事実である.にもかかわらず,「細菌による二次感染の予防に有効だから」など,もっともらしい誤解(言い訳?)を並べ立てるのは,そろそろ終わりにする時期がきている.カゼに対する正しい知識を持ち,体調不良時はすみやかに十分休養・療養することを理解する職場環境の醸成を行っていくことも大切である. -
11 実例からみる抗菌療法のピットフォール
19巻9号(2010);View Description Hide Descriptionたとえば,咳,痰と微熱を主訴に受診した患者さんの胸部X 線写真で,3cm 大の円形の浸潤影がみられたとします.バイタルサインには問題なく,C 反応性タンパク(CRP)は5 でした.この時点で肺炎を「疑って」抗菌薬を投与してみようと考える医師はいるかもしれませんが,肺がんを「疑って」とりあえず抗がん剤を投与してみる医師はいないでしょう. がんを疑えば,どの臓器のがんで,がんの種類は何で,範囲はどこまでか,などを評価した後に,抗がん剤の適応が判断されるはずです.実のところ,感染症に対する抗菌薬の適応の判断もこれと同様のプロセスが必要なのですが,これがまるごと省略されてしまっていることも多いように思います.抗菌薬は抗がん薬に比べれば副反応も少なく,たまたまうまくいけば後遺なく感染症が治癒しますので,この必須のプロセスを省略してしまうことの重大性に気付きにくいのかもしれません. 本稿では,不用意な抗菌薬投与によって陥るおそれのあるピットフォールを,実例をもとに紹介します.その弊害の大きさを認識すると同時に,これを避けるために必要なことは,(感染症診療に特別なものではなく)いかなる分野の診療においても必要な基本的姿勢を実践することに過ぎないのだ,ということを理解したいと思います. -
12 コラム 遺伝薬理学と薬理ゲノム学の感染症治療への応用
19巻9号(2010);View Description Hide Description「私って薬が効きやすい(効きにくい)」などという会話をおそらく一度は聞いたことがあると思いますが,その原因が,自分が持つ遺伝子に関係していると考えたことはあるでしょうか? 筆者は,6 年ほど前までは米国でナースプラクティショナーとして,感染症を持つ患者さん,特にHIV・AIDS の患者さんに医療を提供してきました.ナースプラクティショナーは,医学的診断・治療を行えるため,HIV・AIDS 患者さんに対する薬物療法も行っていました.さまざまな患者さんを治療するうちに,アドヒアランスが高い(処方された薬の95%以上を飲み忘れなく,適切に内服している)患者さんのなかでも,耐性ウイルスに変異を起こしてしまう人とそうではない人がいることに気が付きました.「何が異なるのだろう」と気になって調べたときに,初めて「遺伝薬理学(pharmacogenetics)」と「遺伝ゲノム学(pharmacogenomics)」という言葉に出会いました. 感染症に関わる現場の人間が,なぜ遺伝学など知らなければならないのか,と思われるかもしれません.しかし,分子遺伝学や生物化学の発展に伴い,遺伝子が薬剤の効果に影響を与えるということが分かり,よりよい薬物療法を提供することが可能となり始めています.断りますが筆者は,基礎科学研究者ではありません.しかし感染症に関わる一臨床家として,遺伝薬理学・遺伝ゲノム学を臨床でどう活用できるかについて,本稿で説明したいと考えます.
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連載
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- フロントエッセイ
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- 月刊CDCガイドラインニュース
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- 感染対策 ラウンド・ザ・ワールド
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- SPOT オーストラリアの感染対策を視察して
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- IC日記
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- ICN Sachikoのオールザッツ感染対策/薬剤師から発信! 感染対策に効くクスリ
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- 院内勉強会に使える 感染対策問題集
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- SPOT 新型インフルエンザ対策における地域保健・学校保健との連携-感染制御医師として地域を守る-
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新型インフルエンザ対策における地域保健・学校保健との連携-感染制御医師として地域を守る-
19巻9号(2010);View Description Hide Description今回の新型インフルエンザA(H1N1)(以下,新型)では,地域の感染源となった学校での感染対策が重要であり,厚生労働省と文部科学省という縦割り行政のなかで,地域における横のつながりの必要性が改めて問われたのではなかろうか.日々,感染対策に従事する我々には,自施設を守るためにも医療関連感染の枠を超えて地域に視野を広げ,学校保健や地域保健と連携していく使命があると考えている. 筆者らは,季節性インフルエンザ(以下,季節性)に対して,2002 年度より継続して飛沫予防策の強化に取り組み,季節性が病院内で流行しない施設づくりを実践してきた1).また,新型出現を念頭に置き,「インフルエンザに強い地域づくり」を目指し,新型出現以前の2007 年度より活動の場を地域に広げ活動してきた2, 3).本稿では,いちICD の活動から始まった共助の大きな輪が,新型対策においても有効に機能した,松山市での地域保健・学校保健との連携を紹介する. - ニュース丸かぶり
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