インフェクションコントロール

2018年度に抗菌薬適正使用支援加算が新設され、多くの病院でAST活動が本格化している。AST専従者の職種は病院により異なるが、当院では薬剤師が専従者となり活動を開始した。主な活動は感染症モニタリングであり、日々悪戦苦闘している。そのほか、採用抗菌薬の整理や周術期の抗菌薬適正使用の推進、ICT専従看護師とともに他施設へのラウンドも行っている。薬剤師の専従者は抗菌薬 適正使用支援だけでなく、薬剤師の専門性を活かした感染対策支援活動も重要と考えている。始まったばかりのAST活動ではあるが、その評価は不可欠である。プロセス指標とアウトカム指標を用いた活動評価は、今後の課題であり、特に中小規模病院での活動内容や成果を、学会発表や論文などで発信していくことは、今後の重要課題といえる。

私たちの究極の願いは、すべての人が幸せになることであろう。なかでも職場における幸せを考えることは大切である。なぜなら私たちは1日の大半の時間、仕事をしているからである。感染管理という仕事の性質上、問題となることを探すことが多いが、チームの運営や人材育成においても問題点ばかりを探してしまうことは、自分も相手もつらくなってしまう。チームメンバーや自分自身の強みを見出し、仕事へのモチベーションを保ち、困難があってもしなやかに乗り越え、チームのつながりを大切にする環境づくりという視点も大切なのではないだろうか。少し視点を変えて、このようなアプローチもあるのだということをお伝えしたい。

感染対策において、どんなに細心の注意を払っても起こってしまうトラブルはあるであろう。そのときにどう自分の気持ちを整えて対処すべきか、有事と平時の場合について考えたい。筆者らの研究班は、看護職が逆境においてもそれを乗り越えるための力（レジリエンス）を高めるためのプログラムを開発した。レジリエンスプログラムは看護職だけではなく、ほかの医療従事者 にも普及しており、ポジティブなフィードバックを得ている。本稿では、そのプログラムを紹介したい。

医療従事者、特に感染対策担当者は、その仕事の厳しさゆえに自己批判が強い人が多い。自己批判が度を越してしまうと、この仕事を続けていくこと自体が辛くなってくる。そうならないために必要なのは、セルフ・コンパッションである。セルフ・コンパッションとは「自分への思いやり」であり、自分に対する優しさ、共通の人間性、マインドフルネスの3つの要素から構成される。

80代、男性。悪性黒色腫のため緩和ケア病棟に入院したが、入院直前に塗抹陰性肺結核の合併を指摘された。緩和ケア病棟では初めての結核患者受け入れであったため、予後の限られた患者に対する結核治療や各種検査の必要性、空気予防策の開始時期、感染対策の適切性の評価、乳幼児の面会の可否など、種々の問題が生じた。これらに対し当院では、陰圧室の運用やN95マスクの使用法について再度周知するとともに、職員の接触者健診を実施した。さらに乳幼児が結核患者に面会する方法として、車いす型アイソレーターの使用について検討を行った。また、緩和ケア病棟における結核治療は、本人の生活の質を下げる可能性がある一方、付き添 いの家族や職員を感染から守るには不可欠と考えられ、結核患者が入院した場合は、基本的に結核治療や定期検査を実施する運用とした。緩和ケアの拡大に伴い現場での結核対策の構築は急務であり、本例は貴重と考えられた。