がん看護
Volume 15, Issue 6, 2010
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特集 【抗がん剤の安全な取り扱いと曝露対策~個人・組織に求められる取り組み~】
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日本における抗がん剤の取り扱いと曝露防止の現状
15巻6号(2010);View Description Hide Description抗がん剤の開発によってがんは治癒を期待できる病気となり,“死の病”というイメージは減弱しつつある.抗がん剤はがん細胞を制圧する一方で,正常細胞にも作用し,取り扱う医療従事者にも発がん性,変異原性,催奇性等の健康影響を及ぼすことが懸念されている.これらの懸念を裏づけることとして,1935 年にHaddow らによる腫瘍の成長を抑制するいくつかの多環芳香族炭化水素に発がん性があることを動物実験によって明らかにした研究や1),1979 年にFalck らの,抗がん剤を取り扱った看護師の尿中の変異原物質が,抗がん剤を取り扱っていない事務職員や精神科医よりも増加していることを明らかにした研究などがある2).このように抗がん剤への継続的な接触により,健康影響の出現の可能性が示唆されたことから,職業的に抗がん剤を取り扱う医療従事者の曝露を防止することは重要な課題である.本稿では筆者らが実施したいくつかの調査から,日本の看護の現場における抗がん剤の取り扱いと曝露防止策の現状を紹介する. -
抗がん剤の取り扱いによる健康影響
15巻6号(2010);View Description Hide Description看護師をはじめとする医療従事者は,抗がん剤の混合調製や,抗がん剤治療を受けている患者の看護の場面などで,これらの薬剤により曝露されていることが知られている.1979 年にFalck ら1)が,抗がん剤治療を受けている患者を看護した看護師の尿中から変異原物質を検出して以降,医療従事者における抗がん剤の職業性曝露による健康影響は重大な関心事であり,欧米を中心にさまざまな研究が行われてきた.本稿では,抗がん剤の細胞毒性が生体に与える影響と,職業性曝露による健康影響に関する研究論文の一部を紹介し,抗がん剤を取り扱う看護師の曝露防止や研究課題について述べる. -
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抗がん剤の安全な調製方法
15巻6号(2010);View Description Hide Description抗がん剤の調製は,職業曝露を避けるため安全な薬剤の取り扱いの知識とともに,調製時の手技の習得も必要である.とくに抗がん剤調製時は曝露の危険性が高いため,十分注意して作業を行うことが重要である.病棟における抗がん剤の調製業務に関しては,場所の確保や,設備やコストの問題,必要物品の準備など,十分な安全確保がむずかしいのが現状である.本稿では,抗がん剤の曝露予防策として,調製時の作業準備,個人防護具(personal protect equipment:PPE)とその装着方法,調製の実際,調製時の曝露の危険性とその対処方法について述べる. -
抗がん剤の曝露予防対策
15巻6号(2010);View Description Hide Description看護師は化学療法を受ける患者に,もっとも長時間密接にかかわっている職種である.抗がん剤投与,投与中の管理,排泄物の処理など,看護師がケアを行う場面で抗がん剤に曝露する危険性は高い.看護師が曝露により体内に取り込まれる抗がん剤の量は,微量ではあるが,急性中毒のみならず,長期間多くの種類の抗がん剤に曝露されることによる慢性的な影響も危惧されている.看護師は,抗がん剤の特性と曝露による影響を知り,曝露予防を実践していくことが重要である.本稿では,曝露予防対策を中心に述べる. -
抗がん剤曝露時の対処方法
15巻6号(2010);View Description Hide Description抗がん剤を扱う看護師は,細胞毒性のある薬剤を扱うため健康にも影響があり,抗がん剤による医療曝露を予防するために,個人防護具着用,調整時には安全キャビネットの使用など,個人や施設として環境を整えるなど十分に注意を払ってきている.しかし,こぼれ(スピル)が生じてしまうことがある.本稿では実際にスピルが生じたときに,あわてることなく安全にしかも適切な方法で対処できるようにその方法を述べる. -
久留米大学病院『病棟での抗がん剤取り扱い指針』の作成と導入~始動から普及まで~
15巻6号(2010);View Description Hide Description当院は30 の診療科をもつベッド数1,165 床の特定機能病院である.地域がん診療連携拠点病院に指定され,2009 年度の抗がん剤処方件数は,入院12,508 件,外来4,796 件であった.当院の抗がん剤調製は原則薬剤部で薬剤師が行っている.ただしオーダリングシステムの締め切り時間以降の指示や当日指示,土日祝日は各病棟や外来で医師もしくは看護師がダブルチェック下で調製を行う.当院の抗がん剤曝露予防対策の実態は2007 年当時,聞き取り調査では病棟毎もしくは各医療スタッフによって異なっていた.そこで当院は抗がん剤取り扱いにかかわるすべてのスタッフの職業性の曝露防止を目指し『久留米大学病院―病棟での抗がん剤取り扱い指針―』を作成し導入した.その組織横断的取り組みの過程をPDCA サイクルに沿って報告する. -
抗がん剤曝露の実態調査に基づく実践現場改善の取り組み
15巻6号(2010);View Description Hide Description近年,抗がん剤曝露に対する看護師の関心は高まっており,2002 年以降,抗がん剤を取り扱う看護師の職業性曝露に関する実態調査が報告されるようになった.2005 年に五十嵐ら1)が,がん化学療法に従事する全国10 施設の看護師を対象に調査した結果によると,抗がん剤の調製を行っている看護師は64.5%で,そのうちの48.7%は調製時に曝露を経験していたが,調製時の防護具の装着率は手袋89.5%,マスク60.3%などと徹底されていないことが明らかになっている.また同年,石井ら2)は,全国313 施設を対象にした調査においては,回答者の40%が抗がん剤の職業性曝露による危険性を知らず,82%が職業性曝露による健康影響について関心をもっていたこと等を報告している.当院では,件数は少なくはなっているが,看護師が抗がん剤の調製を行っている場合もあり,調製,与薬,患者の排泄物やそれが付着したリネンの取り扱いなど,適切な知識と防御策をもたなければ看護師が曝露しうる機会は多い.筆者は抗がん剤曝露対策(以下曝露対策とする)に関しては問題意識をもっていたが,緩和ケアチームの専従看護師として活動しており,時間的制約もあり,なかなか取り組めずにいた.そのようななか,2006(平成18)年に当院で外来化学療法室が開設,2007(平成19)年に地域がん診療拠点病院指定,看護部においてがん看護リンクナース会の発足という機会に恵まれ,がん化学療法看護認定看護師,看護学科教員と協働で2008(平成20)年度より曝露対策に関する取り組みを開始した.本稿では実態調査をもとに筆者らが2 年間で取り組んだ曝露対策について紹介する. -
院内ガイドラインに沿った曝露対策の取り組み
15巻6号(2010);View Description Hide Description当センターはがん専門病院であり,すべての病棟で化学療法を施行している.ほとんどの看護師が日常的に抗がん剤と携わるため,抗がん剤の曝露のリスクは高い.2002年に看護師を対象に実施した抗がん剤の取り扱いに関する調査結果では,適切な曝露予防対策がとられておらず,曝露・汚染対策が十分認識されていないことが明らかとなった.そこで,抗がん剤曝露に対する危険性を看護師に啓発し,正しい曝露予防対策を講じるため,抗がん剤の取り扱いに関するガイドラインの作成に取り組んだ.ガイドライン作成の経緯と当センターで行った抗がん剤曝露の啓発活動について紹介する. -
海外文献にみる抗がん剤曝露対策の取り組みの概観
15巻6号(2010);View Description Hide Description近年,がん化学療法は外来や中小規模病院での実施へとその枠を広げ,多くの医療従事者,医療廃棄物やリネンなどの処理業者などが抗がん剤に関与するようになった.そのため,より広範囲の医療従事者,処理業者への知識の普及,環境の整備を行う必要性が出現している.1991 年に日本病院薬剤師会によって取扱い指針1)が作成され,抗がん剤取り扱いの重要性は広まりつつあるが,曝露対策については十分になされていない現状がある.一方,欧米諸国では1970 年代後半から抗がん剤曝露の影響2,3)が明らかになり,その後医療従事者に対する健康被害,定期的なモニタリングなどの研究が重ねられている.今後の取り組みに役立てるためにどのような研究がなされているのか,取り組みに焦点をあて文献検討を行いまとめたので紹介する. -
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連載
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がん看護のいま,そしてこれから~厚生労働省看護技官の経験から~【4】:がん看護推進のために私たちにはなにができるか②:~実践と行政との連携強化を~
15巻6号(2010);View Description Hide Description -
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【45】:がん化学療法を受ける患者・家族からの看護相談を受けるための準備について考える
15巻6号(2010);View Description Hide Descriptionがん化学療法は薬物の複雑な投与や副作用症状のマネジメント,経済的問題など,患者にとって多くの不安や苦痛が伴う治療の1 つである.がん化学療法に携わる看護師であれば,がん化学療法を受ける患者・家族からなんらかの看護相談を受けた経験があると思う.しかし,看護相談とはどのようなもので,相談を受ける側として何を準備し,どのように実践・評価をするのかを明確に打ち出したものはなく,組織や看護師の個人的な考えで行われていることが多い.実際に「相談」という言葉の意味を調べてみると,多くの関連用語があがってくるが,結局,看護や医療における相談とは何なのかははっきりしない.そこで,本稿では,がん化学療法看護の領域での看護相談というのはどういったもので,相談を受ける支援者としてどのような準備が必要なのかを,関連文献を参考に筆者の意見を述べたいと思う.
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連載講座:JJCCレクチャー
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対応のむずかしいがん患者へのケア~リエゾン精神看護師の視点から~【5】:看護師ならではの,がん患者とのコミュニケーション(1)
15巻6号(2010);View Description Hide Description
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投稿
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研究報告:がん患者の思いを聴くコミュニケーションシートの活用と効果
15巻6号(2010);View Description Hide Description本研究の目的は,がん患者が主体となって話せる会話を通し,看護師が患者理解を深めるためのコミュニケーションシートを作成し,シートを用いた会話が有効であるかを明らかにすることである.A 病院外科病棟に入院してきたがん患者とその受け持ち看護師を対象に,シートを用いた会話群(シート群)と通常の会話群(対照群)でコミュニケーションの有効性を比較した.調査方法は,入院から1ヵ月間に10日に1回の割合で10分程度の対話を行ってもらい,終了後にその看護師と患者に作成した質問紙を渡し,無記名自記式で任意のアンケート調査を行った.分析対象はシート群15名,対照群20名であり,患者が看護師との会話によって「気持ちの共有ができ,身近に感じた」と答えた人はシート群に高い傾向があり(84.6%),「気持ちが楽になった」と答えた人は対照群で有意に高かった(70.6%).看護師は「患者の思いが聴けたか」で群に差はなかったが,経験年数別では「1~5年目」のシート群の方が思いを聴ける傾向にあった.また,シートを使用しての会話内容は,ほとんどが回目の会話で語られており,シートの活用は入院して治療を開始するまでの初期段階での使用が有効であると示唆された.
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海外がん看護事情
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REPORT
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がんプロフェッショナル養成プランセミナーに参加して
15巻6号(2010);View Description Hide Description昨年に引き続き,兵庫県立大学大学院看護学研究科において,海外より講師を招き「がんプロフェッショナル養成プラン特別講義」が開催された.その中でも2010 年2 月27 日に開催された放射線療法患者のための高度実践看護の講演は,「放射線療法患者のための高度実践看護」,「不安とがん患者」,「がん患者の放射線照射による倦怠感」といった内容で,米国において放射線療法看護を専門とするナースプラクティショナー(nurse practitioner: NP)の実践活動に基づいた興味深いものであった.看護学の専門性を基盤として,放射線療法を受けるがん患者の治療による身体の変化,心理的な変化をアセスメントし,医師や放射線技師との緊密な協力のもとに独自の判断で放射線療法を完遂する働きは,今後わが国の放射線療法における看護の役割を発展させる際に,貴重な資料になるものと思われる.講義は,日本の放射線療法看護の現状や今後の看護師の役割拡大への展望にむけての視点をふまえ進められた.本稿ではその講義内容について紹介していく.なお,本セミナーは「平成21 年度がんプロフェッショナル養成プラン」の助成を受けている. -
ONS(米国がん看護学会)第35 回Annual Congress 報告
15巻6号(2010);View Description Hide Description「これほど有意義ながん看護学会があるのか」これが,米国がん看護学会(以下ONS)のAnnual Congress に初めて参加したときの感想だ.開会式で鳥肌が立つほどの感動を覚え,そして各セッションでは,予想以上に多くの学びを得た.それ以来やみつきになり,今年も5 月13~16 日まで,カリフォルニア州サンディエゴ市コンベンションセンターで開催された,第35 回Annual Congress に参加した.今年は,約4,000 名のがん看護に携わる同士が,米国国内からだけでなく,世界30 数ヵ国から,一年中温暖な気候に恵まれているサンディエゴに集結した.例年多数のセッションが開かれるが,誌面の都合のため本稿ではその一部を報告する.
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こちらがん電話相談室
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BOOK
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