がん看護
Volume 16, Issue 6, 2011
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特集 【卵巣がんの最新トピックと看護】
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卵巣がん患者への心のケアに関する現状と展望
16巻6号(2011);View Description Hide Description卵巣がん患者には,高い割合で気持ちのつらさ(うつ・不安)が併存し,抑うつ状態は21~25%,不安状態は50%近くの患者で認められる1).うつ・不安のリスク因子には,若年(たとえば45 歳未満),初診時に病期が進んでいること,診断から時間があまりたっていないこと,身体状態やperformance status(PS)がわるいこと,ソーシャルサポートが低いこと,などがある.化学療法による神経症状が強い人には抑うつ症状も強いこともわかっている2).抑うつや不安の有病率は,最初の診断時と再発時とで有意な差はなく,治療終了後3 ヵ月程度まで持続することが報告されているため,卵巣がんのどの病期や治療状況の患者においても,うつや不安を有している可能性を念頭におく必要がある3,4).また,卵巣がんの診断を受けた直後のうつ・不安症状の強さが,その3 ヵ月後のうつ・不安症状の強さと相関していることも報告されており,注意してフォローアップする必要がある.卵巣がんに関する知識の低さと不安の高さも相関している.心のつらさの強さ(うつ・不安・無力感)は,免疫能の低下との相関することも報告されている.たとえば,腹水内のinterleukin6(IL6)の上昇,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の上昇,pro-angiogenicfactor の上昇,ナチュラルキラー細胞活性の低下などが報告されている57). -
遺伝性腫瘍の基礎知識と遺伝子診断および予防法~遺伝性乳がん・卵巣がんに着目して~
16巻6号(2011);View Description Hide Description当院には図1 のようなポスターやパンフレットが掲示してある.皆さんはこのような質問を患者から受けたらどのように答えるだろうか? 「日本では2 人に1 人ががんに罹るというので,遺伝のことばかり気にしなくてよいですよ」とか「心配もわかりますが,それなら検診を受けたらどうですか?」「心配だったら先生に相談してみては……」などありそうな答えだ.さて,「遺伝子は銃に弾を込め,環境が引き金を引く」という言葉がある.がんだけでなく大多数の病気は遺伝因子と環境因子の両者が関与している多因子遺伝性の疾患といわれているが,遺伝性腫瘍では単一遺伝子の影響が著しく大きくなる(図2). -
遺伝性の卵巣がんと遺伝カウンセリング
16巻6号(2011);View Description Hide Description遺伝性の卵巣がんとしてよく知られているものに,遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and OvarianCancer: HBOC)とリンチ症候群(別名:遺伝性非ポリポーシス大腸がん, hereditary nonpolyposis colorectalcancer: HNPCC)でみられる卵巣がんがある.これらは,特定の遺伝子の生殖細胞系列の(生まれながらにしてもっている)変異を原因とする遺伝性腫瘍(家族性腫瘍)である.遺伝性腫瘍は,若年で発症する傾向や,特定の複数の臓器や対側の同臓器に同時異時にがんを多発すること,家系内にも発症者が集積することなどが特徴として知られている.表1 には,それぞれの症候群について,卵巣がんの発症リスク,そのほかのがんのリスク,原因遺伝子をまとめた.これら症候群が疑われる患者やその血縁者において,より確実な診断や,早期発見・早期治療のための検診プログラム,がん予防対策と,よりインテンシブなケアを提供するための方法として,遺伝カウンセリングがある.本稿では遺伝性卵巣がんの診療における遺伝カウンセリングの適応と役割について概説する. -
卵巣がんの化学療法看護~ノギテカンとはどんな薬?~
16巻6号(2011);View Description Hide Descriptionノギテカン(トポテカン)は,植物性アルカロイドに分類されるトポイソメラーゼ阻害薬で,わが国では2011 年2月に再発卵巣がんに対する治療薬として承認された.米国では1996 年に承認され,「白金製剤ベースの化学療法で再発した卵巣がん」に対する標準治療の1 つとして位置づけられており,わが国でも治療法の選択に苦慮することの多い再発卵巣がんに対する治療薬として保険適用となることが期待されていた.ノギテカンはわが国において,小細胞肺がんで最初に認可され2003 年に発売された薬である.一方で,血液毒性の発症率が高いことより,血液毒性のリスク因子を要する高リスク群では,減量,造血因子製剤の投与および輸血等をあらかじめ考慮する必要がある.すでに臨床での使用実績のある欧米では,リスク因子ごとにノギテカンの減量の目安を定めたガイドラインが作成され,活用されてきた.本稿では,ノギテカン治療に伴う有害事象,欧米で使用されているノギテカン減量のガイドラインおよびノギテカン治療を受ける患者の看護のポイントについて述べる. -
卵巣がん患者の経済事情~治療費ってどのくらい~
16巻6号(2011);View Description Hide Descriptionがん関連の患者団体に所属しているがん患者・経験者とその家族・遺族を対象とした「がん患者意識調査2010 年(n=1,446)」1) によると,がんの治療にかかった費用について回答者の70.9%が「負担が大きい」と回答している.上皮性悪性卵巣がん(以下,卵巣がん)の好発年齢は40~50 歳代であるが,その世代の女性は母,妻,社会人など多様な役割を果たす時期であり,治療に伴う経済的問題は患者本人だけではなく,家族や生活全体にも影響する.それゆえ看護師がそのような背景にある患者を理解するために,卵巣がん治療にかかる費用を知識としてもつことは重要である.こうした背景をふまえて本稿では卵巣がん患者の治療(検査,手術,化学療法)の費用について述べる. -
再発・進行卵巣がん患者への緩和ケアチームのかかわり
16巻6号(2011);View Description Hide Descriptionわが国の年齢別にみた卵巣がんの罹患率は,40 歳代から増加し50 歳代後半でピークとなる.平成21 年度のがん死亡者数は約34 万4 千人であり,そのうち4,603 人が卵巣がんで死亡している1).卵巣は骨盤内臓器であるため自覚症状に乏しいことが多く,また適切な検診法がないことから,卵巣がんの約半数の症例がⅢ,Ⅳ期の進行がんで発見されるといわれる2).それが「サイレントキラー」とよばれるゆえんである.しかし,卵巣がんは化学療法への治療効果が期待できることもあり,がん治療中の症状緩和は治療継続やQOL 改善などのために重要であり,患者やプライマリーチームを支える緩和ケアチーム(palliative care team: PCT)の果たす役割は大きいと思われる.ここでは,進行卵巣がんの症状に焦点を当て,患者の苦痛を全人的な視点からとらえ,その人らしさを支えるケアとして,PCT のかかわりを考えてみたい. -
婦人科がんのサポーティブケア:婦人科がん患者とセクシュアリティ
16巻6号(2011);View Description Hide Description女性にとって子宮や卵巣を摘出することは,年齢を問わずつらい治療法の選択である.がん治療が女性のセクシュアリティに及ぼす影響は,治療関連因子と患者背景,性に関する因子に大別される(表1)1).治療に伴うボディイメージの変化は,自らの性的な魅力への自信を揺るがすことが考えられる.また,外見的な変化は伴っていなくても,子宮を失う,月経が消失する,といった内在的な喪失は社会や文化が形成した女性らしさ(feminity)の喪失として心的・社会的苦悩を抱く場合もある.女性がん患者の生殖や性生活の問題は臨床の場で語られることが少なく,対応には個別性が求められることから,看護者は大切な問題だと感じながらも,実際に臨床の場でどのように介入していけばよいのか課題を感じていることが多い.本稿では,婦人科がんによる治療が与えるセクシュアリティへの影響を概説し,具体的な支援のあり方について検討する. -
婦人科がんのサポーティブケア:母親のがんを子どもにどう伝えるか
16巻6号(2011);View Description Hide Description近年,子育て世代の親のがん罹患率は増加傾向であり,卵巣がんの発生は40~50 歳代がピークとなっている.この時期に親ががんを患うということは,治療の不安や症状の苦痛,今後の不安に加え,親子関係の変化に伴う子どものストレスに対して精神的な負担を抱え,困難な状況と立ち向かわざるを得ない状況が考えられる.また,子どもは親の病気をきっかけに,自分自身をとりまく環境の変化に対して状況を理解できないまま,強い孤立感や不安を抱えている可能性がある.わが国では欧米と比較してがん闘病中の親や,がんで闘病中の親をもつ子どもへの支援体制が乏しい現状がある.これらをふまえ,最愛の母親が“がん”に罹患したとき,子どもはその事実をどのように受け止めていくのか,そしてどのような支援を必要としているのか,真剣に考える必要がある.本稿では,筆者が英国滞在中に遭遇した子ども支援について紹介し,次いでわが国の現状,親と子どもの理解,親のがんを子どもにどのように伝えるか,親子支援の実際について述べる.
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連載
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がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【51】:悪性リンパ腫に対するがん化学療法のUpdate~治療に携わる看護師として知っておきたい情報~
16巻6号(2011);View Description Hide Description悪性リンパ腫は化学療法および放射線療法に感受性が高いことが知られている疾患のひとつである.悪性リンパ腫に対する化学療法はこれまでの50 年間で大きく変化し,新規薬剤の開発や支持療法の進歩,治癒を目指したレジメンの開発などによって,奏効率の向上や無病生存期間の延長,全生存期間の延長などの効果をもたらしてきた.とくに,CD20 を標的とするモノクローナル抗体療法薬リツキシマブなどの登場によって,B 細胞性リンパ腫の治療効果は大幅に上がり,患者に大きなベネフィットをもたらしている.しかし,濾胞性リンパ腫やT/NK 細胞リンパ腫などでは,いまだ十分な効果をもたらす治療法がなく,さらなる治療法の開発が望まれている.また,注目しなければならない問題のひとつに治療による副作用マネジメントがある.急性期の副作用に対する支持療法は大きく進歩し,多くの患者が副作用によって治療を中断するということはなくなってきた.しかし,治癒率の向上や生存期間の延長が得られるようになってきた現在,治療後の晩期副作用や二次がんといった問題がクローズアップされつつある.悪性リンパ腫の治療は日々進歩し,それに伴って治療を受ける患者の状況も変化してきている.こういった変化の中から,本稿では悪性リンパ腫に対する化学療法の最近の動向について,看護師が知っておきたい情報をまとめたいと思う.
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連載講座:JJCCレクチャー
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がん看護のステップアップをめざして ~看護研究論文の読みかた~【4】:看護研究を臨床へ生かす① 症例報告の生かしかた
16巻6号(2011);View Description Hide Description「症例報告ってどうやって臨床現場で活用したらいいの?」「症例報告にはどんな価値があるのかしら?」などと考えたことのある,がん看護の実践者は少なくないだろう.症例報告とは,臨床現場の事象の経過や内容を整理・分析し,その結果として導き出された問題点や課題を検討し,その経緯を報告書としてまとめたもの1)である.つまり,「こんなことが起こりました」「こんな経験をしました」「こんなことをしてみたら,その結果はこうなりました」など時系列にあるいは要点を中心に説明的に記載されていることが多い1)が,何を明らかにしたいのか,研究の問いがあるわけではない.そこで,本稿では,上記のような実際の症例報告を参考にしながら,なんらかの臨床的な疑問が生じたときに,目の前の患者にどのように症例報告を適用していくかという視点を元に説明していく.
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海外がん看護事情
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【英国サウスウェールズの緩和ケアシステム①】:地域ケアシステムの概要とその特徴
16巻6号(2011);View Description Hide Description私たちは,終末期医療の先進国である英国におけるエンド・オブ・ライフケアについて学ぶため,黄色いスイセンの花があちらこちらに咲き並ぶ早春のウェールズを訪れた.この短い滞在の間に見聞できたことについて,今後5回にわたり紹介させていただきたい.今回は,ブリジェンドの緩和ケアシステムを中心に述べる.
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研究報告:再発乳がん患者に対する看護師の思い
16巻6号(2011);View Description Hide Description本研究は,看護師が病棟や外来において再発乳がん患者に対して抱いている思いを明らかにすることを目的とした.調査協力病院の看護部または知人を通じて紹介された乳がん看護経験が1 年以上ある看護師に対して,半構成的面接を実施し,印象に残っている再発乳がん患者とのかかわりを中心に思いを語ってもらった.得られたデータを質的帰納的に分析した.その結果,再発乳がん患者に対して看護師が抱いている思いとして,【乳がん患者の頑張り・強さを感じる】【乳がんは一生付き合っていかなければならないが,先が見えづらい】【再発患者は多くの苦痛を抱えている】【再発患者との関わりは構えてしまう】【再発患者との関わりが不十分である】【看護師としてつらい】【自分なりの関わる姿勢がある】の7 つのカテゴリーが明らかとなった.看護師は患者と接する時間の少なさや関わりの不十分さからくる後悔の思い,同性である患者に対する感情移入などから看護師としてのつらさを感じる一方,患者の女性本来の頑張りや強さに影響を受けて,自分なりの看護師としての姿勢をもっていることが示された. -
研究報告:混合病棟でがん化学療法にかかわる看護師が抱える困難さ~4 名の看護師が半構成的面接で語ったことを分析して~
16巻6号(2011);View Description Hide Description混合病棟で勤務する看護師が,がん化学療法看護を提供するうえで,どのようなことを困難と感じ,不安を抱えているかを知るために,2008 年6~7 月に当院の10 床の個室のみからなる1 つの病棟で勤務する経験豊富な看護師4 名を対象に,がん化学療法看護に関する困難さについて半構成的面接を行い,質的記述的にデータ分析した.抽出された123 コードから,6 コアカテゴリー【抗がん剤の特殊性】【知識不足】【経験不足】【マニュアルや経験者の不足】【自信のないままに提供する看護】【医師との距離】が導き出された.【医師との距離】は,《コミュニケーション不足》《医師の不在》のカテゴリーから構成され,専門病棟ではない混合病棟ゆえに抽出された.これらの困難さを具体的に低減し,がん化学療法看護の均てん化を目指すためには,勉強会の開催や化学療法看護に習熟した看護師を育成し院内のがん化学療法看護の技能を高め,医師との円滑なコミュニケーションを図るようカンファレンスを充実させる必要性が示唆された.看護師4 名の分析ではあるが,がん化学療法専門病棟をもたない当院で,がん化学療法看護認定看護師が具体的な介入を行ううえでの示唆が得られた.
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こちらがん電話相談室
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BOOK
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