がん看護
Volume 21, Issue 4, 2016
Volumes & issues:
-
特集 【がん患者の鎮静を考える ~現状を理解して,今日的な課題に向き合う~】
-
-
-
緩和ケアにおける鎮静とは~終末期がん患者への鎮静の現状と問題点・課題~
21巻4号(2016);View Description Hide Description鎮静という医療行為は以前よりさまざまな現場で行われてきた.本稿ではその中で,終末期がん患者に対する鎮静について述べてみる. -
終末期の鎮静は安楽死なのか? 議論再び
21巻4号(2016);View Description Hide Description本稿では,「終末期の鎮静は安楽死なのか?」について国際的な知見を整理する.理解を助けるためにところどころ筆者の意見を加えているが,総合的な理解のためには文献に重要なレビューを挙げておくので,誤解のないよう詳細はそれぞれ原著を読んでいただきたい. 現代で言うところの鎮静が初めて医学文献に登場したのは1990 年のVentafridda の報告である1).当時WHO 方式鎮痛法の委員長をしていたVentafridda がWHO 式鎮痛を行ったとしても鎮静が必要だったと報告したことが事態の深刻さをうかがわせた.その後,死亡直前に鎮静薬を投与する行為をterminal sedation と呼称した報告がいくつか出されたが,これは広く受け入れられなかった.terminalという言葉がterminate つまりは「命を終わらせるための鎮静」を連想させたためと考えられている. 現在では古典として扱われる報告でBillings とBlock が持続的深い鎮静と安楽死との境界が不透明であることをslow euthanasia と表現して騒然となった.これは否定的にとらえられその後学術雑誌には登場しなくなった.10年前後の議論の末,2000 年初めに世界各国からpalliativesedation therapy という表現が提案された.先鞭をつけたものはわが国からの提案がLancet とJournal of Pain andSymptom Management に掲載されたことである2,3).この提案はその後世界各国の定義・概念枠組みを主導した.その後議論は収束する方向となり,世界各国で鎮静のガイドラインが作成された4,5). さて,現在の議論の直接のきっかけとなったのは,オランダからの報告である6,7).オランダはもともと安楽死が合法化され実態が定期的に医学論文に報告される国として有名であるが,鎮静についてもガイドラインを作成して実態を報告し始めた.経年的に持続的な深い鎮静を受けて死亡する患者(がん患者に限らない)は増加しており,近年では10%を超過した.持続的深い鎮静を行った医師の20%程度は「生命の短縮も意図して」鎮静を実施しており,実際に40%くらいの患者では「生命予後が短縮した」と推測した.このほかにも,患者の同意が必ずしも得られていないことや,鎮静の標的症状がせん妄や呼吸困難ではなく疼痛や精神的苦痛であること,緩和ケア専門家にコンサルテーションされていないことも指摘された.この持続的な深い鎮静は必ずしも専門施設で行われているものではなく,全国で行われているものである. これをきっかけに再び鎮静に関する議論が巻き起こっている8-11). -
鎮静アセスメントの実際
21巻4号(2016);View Description Hide Description苦痛緩和のための鎮静は,鎮静の意図から相応性を判断し,患者,家族と医療者の合意形成のもと,安全に実施されなければならない. ここでは,苦痛緩和のための鎮静における評価・意思確認・治療・ケアのフローチャートに沿って,アセスメントの実際を述べる. -
-
深い鎮静のケアの実際~患者と家族の気持ちに寄り添えた事例~
21巻4号(2016);View Description Hide Description鎮静ガイドライン1)において,深い鎮静とは「言語的・非言語的コミュニケーションができないような,深い意識の低下をもたらす鎮静」と定義され,終末期がん患者のうち約25~35%は深い持続鎮静が実施されている.また,深い鎮静が生命予後を短くする可能性は低いことが報告されている2,3).鎮静の対象となる主要な症状として,せん妄,呼吸困難,全身倦怠感,痛みなどがあげられる1,4,5)が,今回は,筆者が臨床で出会った,呼吸困難を体験し深い鎮静にいたった患者およびその家族の事例とケアの実際を紹介する. -
浅い鎮静・間欠的鎮静のケアの実際~母との面会の希望をかなえられた事例~
21巻4号(2016);View Description Hide Description日本緩和医療学会の「苦痛のための鎮静に関するガイドライン」によると,患者の耐えがたい苦痛があり,さまざまな治療方法の実施や専門家に相談しても無効な場合に鎮静の適応となる.苦痛を緩和できる範囲で,意識水準や身体機能に与える影響がもっとも少ない方法を優先する.すなわち,一般的には,間欠的鎮静や浅い鎮静を優先して行い,深い持続的鎮静は間欠的鎮静や浅い鎮静によって十分な効果が得られない場合に行う1). 私たち看護師は24 時間患者のそばにいる存在であり,苦痛の場面に遭遇する機会も多い.患者の苦痛を緩和するためのケアを常に考えながら看護を行っている.鎮静前・鎮静開始後の一連の過程において看護師の果たす役割は大きい.看護師は日々のケアの中で患者・家族に寄り添い苦痛緩和の方法をともに考える中で病状や死に対する思い,悲嘆をくみ取り,患者・家族の意思決定にタイムリーにかかわることができる2). ここでは,浅い鎮静・間欠的鎮静を行う際の看護師の役割について事例を通して具体的なケアを考えてみたい. -
一般病棟における鎮静の現状と課題~デスカンファレンスを通してみえてきたこととは~
21巻4号(2016);View Description Hide Description一般病棟では,がんに対する積極的な治療から終末期へと移行していく患者に対して,入院時から退院後の療養環境を見据えて準備し,滞りなく在宅療養に移行できるように支援を行っている.しかし,在宅療養中に苦痛症状が出現すれば,在宅療養の継続は困難となり,入院による症状緩和が必要になることが多い.とくに,筆者の勤務する呼吸器内科病棟では,症状緩和のために必要な薬剤を投与していても耐えがたい呼吸困難のために鎮静を必要とする事例をしばしば経験する. 初期治療時には,治療に対する説明が中心で,苦痛増強時の対応について説明されることは少ない.治療が奏功せずに,苦痛が増強して緊急入院したときに,初めて最期のときの過ごし方を問うことになることが多い.苦痛が増強してから,鎮静について確認することになった事例を振り返り,患者の望む苦痛緩和のための鎮静や鎮静施行までについて考えたい. -
-
緩和ケア病棟における鎮静の現状と課題
21巻4号(2016);View Description Hide Description緩和ケアでは,可能限り最後の時間まで,周囲との良好なコミュニケーションを保ちつつ症状緩和を行うことが最善である.しかし,終末期のがん患者では標準的な治療に抵抗性の耐えがたい苦痛が出現し,意識を保ったまま苦痛症状を緩和することが困難となることが少なくない.鎮静は,このような治療抵抗性の,患者にとって耐えがたい苦痛に対する治療方法の1 つと位置づけられている.これまでの報告では終末期がん患者に対する鎮静の頻度は,施設により施行率に大きな差があるが,鎮静ガイドラインでは終末期がん患者のうち20~35%は鎮静が必要であると見積もられている.また,鎮静の主要な対象症状は,せん妄,呼吸困難,痛みであり,ときに,倦怠感,嘔気・嘔吐,ミオクローヌス,精神的苦痛などが対象となると考えられる.鎮静期間は多くが数日以下であるが,1 週間以上の鎮静が行われる場合もあると考えられる1). 鎮静に使用する薬剤は,ミダゾラムが第1 選択薬となる.半減期が短く調節性に富み,また皮下注射・静脈内注射が可能であり,鎮静の深度・持続時間を問わず使用できることが特徴である.症例報告やケースシリーズも含めた系統的レビューにおいて,投与量の中央値は35 mg/日,範囲は10~480 mg/日とされる1),フェノバルビタールは半減期が長く,調節性に乏しく,十分な効果発現までに12~24 時間以上必要とされるが,ミダゾラムの効果が薄い場合でも強力かつ安定した鎮静効果が得られる.また,少量持続投与では浅い鎮静が可能であり,有効な薬剤である.一般的に浅い鎮静の場合5~15 mg/時で,深い鎮静の場合,20~40 mg/時で使用する2,3). 鎮静がもたらす好ましい効果は,苦痛緩和である.一方,好ましくない効果は,意識の低下によりコミュニケーションをはじめとする通常の生活ができなくなることなどである.このように,鎮静には益と害が伴うため,鎮静の意図や患者・家族の意思など倫理的妥当性を明確にするための多職種カンファレンスが重要である.また,家族も患者同様,ケアの重要な対象であり,鎮静に関する意思決定に際して,患者に対するのと同じように,家族への十分な配慮が必要である.家族の心配や不安を傾聴し,悲嘆や身体的・精神的負担に対する支援を行うことも重要である.
-
-
がん医療 よもやま話
-
-
-
BOOK
-
-
-
リレーエッセイ マギーズ東京便り 【3】
-
-
-
連載
-
-
-
緩和ケア教育を考える ~学生のこころを育てる講義の工夫~【5】:終末期患者を受け持つ際の実習指導の工夫
21巻4号(2016);View Description Hide Description学生が患者の訴えに戸惑うときの指導・援助 「がんとわかったときには本当につらかった.妻にも言えず1 人で泣いた」と学生に吐露した患者がいた.学生は患者のそばで長時間話を聞くためか,患者は学生に対して,耐えがたい苦悩や死に関する話をしてくることが多い.自分が体験したことがないほどの深い苦悩に戸惑い返答できずに,どうしたらよかったのかと悩む学生は少なくない.患者が本音を語れるかどうかは医療者の返答で決まってくるため,非常に重要な場面といえる.そこで,1 つ目の検討課題を「学生が患者の訴えに戸惑うときの指導・援助」としたい.
-
-
第3 回がんプロ国際シンポジウム発表内容より【2】
-
-
マッサージ・体操・排泄姿勢指導による便秘の予防~乳がん化学療法患者に対するランダム化比較試験の計画と実施~
21巻4号(2016);View Description Hide Description運動やセルフケアなどがん治療中の過ごし方の情報に対するニーズは高い1).しかし患者が得る情報の中には根拠が十分とは言えず効果が不明であるものも数多く含まれる. 非薬物的なセルフケアが行われやすい症状の1 つに便秘がある.便秘は人に言いにくい症状であり,食事や運動などのセルフマネジメントによる対処が行われやすい2).一方,がん化学療法中の便秘は一般的に薬物療法で対処されるが,下痢や腹痛などの副作用により不快感が除去できない場合があり3),多くの患者の健康関連QOL(Health-RelatedQuality of Life,以下HRQOL)を低下させる原因となっている. そこで化学療法中の便秘に対しマッサージ・体操・排泄姿勢の工夫からなるセルフマネジメントプログラム(以下プログラム)が予防効果をもつか検討した4).研究の詳細は筆者の論文4)に譲り本稿では研究計画を中心に述べる.
-
-
連載
-
-
希死念慮をかかえるがん患者へのサポート【2】:がん患者の「死にたい気持ち」に耳を傾けることの大切さ②~希死念慮・抑うつのアセスメント,精神科診療との連携~
21巻4号(2016);View Description Hide Description本誌前号(2016 年3・4 月号)では,「死にたい」と訴える事例の第1 回として,「死にたい」の訴えが,抗がん薬治療に伴う有害事象などに対する抑うつ反応なのか,あるいはうつ病かの判断過程を記述した.詳細は前号を参照していただきたい.今回は,同事例をうつ病の症状と判断して,精神科医にコンサルテーションした後について述べる. -
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【79】:がん化学療法看護における特定行為の意義と特定行為研修のこれから
21巻4号(2016);View Description Hide Description2014(平成26)年に,地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に伴い保健師助産師看護師法(以下,保助看法)の一部が改正され,2015(平成27)年10 月1 日より「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行されることとなった1).2016 年3 月には,2015年度に特定行為研修の教育機関として厚労省に申請,認定された教育機関より特定行為研修修了者が輩出された. 保助看法は,看護職のあり方を規定する法律である.保助看法に特定行為が明記され,特定行為研修が制度化されたことは,これからの看護に大きな影響をもたらすだろう.本稿では,現時点で筆者の理解する特定行為と特定行為研修のポイントを整理し,がん化学療法看護の領域における特定行為および特定行為研修のあり方の可能性について考察する.
-
-
JJCC レクチャー
-
-
あなたのケアが変わる!看護臨床研究の活用と取り組み【2】:なぜ,がん看護に臨床研究が必要か②~放射線療法の選択の場面にて~
21巻4号(2016);View Description Hide DescriptionEBN (Evidence-Based Nursing:根拠に基づいた看護)が重要と言われて久しいが,実際の臨床現場ではどうだろう.忙しい業務の中で,看護実践に活用できる文献を探し,研究論文独特の表現を十分に理解して信頼に足るかどうかの判断をした上で,実際の看護に応用するというのは,むずかしいと感じている読者も多いのではないだろうか.さらに,自ら研究疑問を見つけて,倫理的にも正しい方策で看護研究を行うのは,ハードルが高いと感じるかもしれない.そこで,今回は,「がん医療で有用とされる研究結果を理解する.そして患者とのコミュニケーションに活用する」ということを目指したい.また,文献を簡便に入手する方法のヒントについても記述したい.
-
-
投稿
-
-
症例報告:栄養パスを用いた臍帯血移植におけるアウトカムに影響する関連因子の探索~生着不全を呈した1 例報告~
21巻4号(2016);View Description Hide Description【目的】臍帯血移植(CBT)において生着不全を呈した1 例の介入経過から,栄養パスのアウトカムに影響する関連因子を明らかにする.【対象】2014 年に静岡がんセンター血液幹細胞移植科において,CBT 後生着不全を呈し2 回目の治療(CBT)を施行した1 例とした.【方法】前処置開始前から2 回目の治療を経て,静脈栄養が終了するまでの間,栄養パスのアウトカムである体重変化率(体重減少率:% LBW7.5%>)と,BEE 充足率を評価した.栄養パスのアウトカムに影響する栄養関連有害事象および喫食率と経口摂取熱量の関係性を調査した.【結果】65 歳男性,身長164.4 cm,BMI19.1,% IBW87%.介入期間は84 日間であり,% LBW3%,BEE 充足率は115%であった.栄養関連有害事象および喫食率と経口摂取熱量に統計学的有意な相関が見られた.(r=-0.6,r=0.6)【結論】栄養パスのアウトカムに影響する関連因子は,患者の主訴と,病棟栄養士による患者カウセリングおよび医師により投与される熱量のコントロールと,病院食担当栄養士によるテーラーメイド食事サービスであり,その3 因子が有機的に関連し,その複合点であるアウトカムは達成されていた. -
総説:婦人科がん術後の下肢リンパ浮腫に関する文献的考察
21巻4号(2016);View Description Hide Description[目的]婦人科がん術後の下肢リンパ浮腫に関する文献レビューを行い,外来におけるリンパ浮腫へのケアについて考察すること.[方法]子宮頸がん,子宮体がん,卵巣がん術後患者のリンパ浮腫に関して,オンライン書誌データベースから文献を収集し,3 つのCQ について検討した(CQ1 リンパ浮腫の発症頻度,発症時期,主なリスクファクターとは何か,CQ2 リンパ浮腫の症状とQOL にはどのような影響をもたらすのか,CQ3 下肢リンパ浮腫への効果的な対処とケアとは何か).[結果]69 の文献について検討した.CQ1.リンパ浮腫の発症率は10.1~18.3%で,そのうち52.7~84%が術後1 年以内に発症し,主なリスクファクターは放射線照射,リンパ節郭清だった.CQ2.患者は見た目,感覚,ライフスタイルの変化を体験していた.CQ3.治療では複合的理学療法が多く報告され,対処行動はマッサージ,ストッキング着用などだった.[考察]看護師はリンパ浮腫が発症しやすい疾患,術式,発生頻度,発生しやすい時期を知識としてもち,指導や教育に活かす必要があると考える.外来看護ではリンパ浮腫発症のリスクファクター,症状,ライフスタイルへの影響など,患者の個別性に基づいた支援の提供が重要と考えた.
-