がん看護
Volume 21, Issue 5, 2016
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特集 【がん看護に欠かせない リンパ浮腫の知識とケア】
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浮腫の種類の見分け方
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがん患者にかかわる臨床現場の中では,患者の浮腫を目にすることは珍しくない.この「浮腫」の症状は,客観的に観察できる症状であるため,患者やその家族,また医療従事者も「なんとか浮腫を改善させたい」と考えるだろう.しかしながら,浮腫の種類によっては浮腫の軽減を目指したケアが必ずしも患者の苦痛の軽減につながらない場合や,それどころか,患者の生命を脅かすことになりかねない場合もある. リンパ浮腫を学ぶ前に,まずは浮腫とは何かを知った上で,浮腫の原因とそれぞれの対策の違いをおさえておく必要がある. -
リンパ浮腫とは
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionリンパ浮腫とは,リンパ管やリンパ節の閉塞や狭窄,損傷などによる輸送障害によってリンパ液の流れが滞り,タンパク成分を多く含む組織間液が皮下組織に過剰に貯留するむくみである.リンパ浮腫患者については,複合的治療をはじめとするケアを必要とするが,リンパ浮腫の臨床分類0 期で臨床的にむくみがみられない時期においてもリンパ液の輸送障害は生じていることから,予防的な段階としてリンパ浮腫ケアの対象となる. リンパ浮腫発症リスクのある患者への予防的ケアや早期発見のための指導は,リンパ浮腫の重症化を防ぐためには重要であり,リンパ浮腫患者が症状の増悪を回避し,浮腫を抱えつつもその人らしい生活を維持するために果たす看護師の役割は大きい.看護師は,リンパ浮腫患者および発症リスクのある患者に対し,患者の治療歴や浮腫の病態などを的確にとらえ,患者個々の全体像をふまえた包括的アセスメントをていねいに行い,適切な目標のもとでケアや指導を提供することが求められる.そのためには,がん治療やリンパ浮腫に関する最新の正しい知識や技術をもつことはもちろんのこと,リンパ浮腫をとりまく社会背景にも関心をもつことも大切である.本稿では,リンパ浮腫指導に役立つ基本知識について,国内外の知見に基づき解説する. -
リンパ浮腫の治療:1.保存的治療の概要
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがんの治療でリンパ管系を損傷することにより発症する可能性があるリンパ浮腫は,いったん発症すると完治させることは困難である.ただ完治はなくても,発症早期に診断して患肢の状態に応じた適切な治療を行い,患者自身にも日常生活の注意点やセルフケアを指導することで,軽症な患肢の状態を維持することが可能である.しかし実際には,発症早期から介入している医療機関は少なく,軽症を維持できずに悪化し慢性化して症状を改善させづらくなることが多い. リンパ浮腫治療の基本は,複合的理学療法1)を中心とした保存的治療(複合的治療)であり,近年手術治療が急速に普及しているが,術前後も複合的治療は欠かせない2). 本稿では,複合的治療の概要や適応とともに適応・禁忌について解説する. -
リンパ浮腫の治療:2.圧迫療法
21巻5号(2016);View Description Hide Description圧迫療法は浮腫の改善効果が高く,リンパ浮腫の改善には症状に応じた適切な圧迫療法を行うことが重要である.一方で誤った圧迫方法により症状を悪化させる可能性があるので,圧迫療法についての正しい知識と適応を理解し,安全で適切な方法で行うことが大切である.リンパ浮腫での圧迫療法の概略と,当院で行っている発症早期や軽度のリンパ浮腫への圧迫療法を中心に解説する. -
リンパ浮腫の治療:3.外科治療・その他の治療法
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionリンパ浮腫の外科治療は適切な適応と術式を守り,一連のリンパ浮腫ケアと併用することで,患者のQOL の改善に大きく貢献できる.本稿では主にリンパ浮腫外科治療の方法とその役割について解説する. -
リンパ浮腫の予防教育・指導
21巻5号(2016);View Description Hide Description本稿では,リンパ浮腫予防に関する患者教育,指導の内容について述べる.リンパ浮腫は一度発症すると完治することはむずかしいため,発症前の予防指導は,後のがん患者の生活やQOL に大きく左右する.患者の日常生活や生活様式,嗜好などは多岐にわたるため,患者のライフスタイルをよく理解しておかないと効果的な指導にはならない.現場の医療従事者が患者の情報を事前に収集し,とくにハイリスクとなるような患者には十分に予防指導を行うことがリンパ浮腫の発症を防ぐキーとなる. -
リンパ浮腫の合併症とそのケア
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionリンパ浮腫の患肢の皮膚は菲薄化しており傷つきやすい.また皮下にはタンパク質を多く含む組織液が貯留している.そのためさまざまな合併症が発症する危険性がある.ここではリンパ浮腫に合併しやすい蜂窩織炎・リンパ小疱・リンパ漏とそのケアについて述べる. -
再発・終末期の浮腫とそのケア
21巻5号(2016);View Description Hide Description浮腫は,Palliative Prognostic Index (PPI)の指標の1つであり,終末期にあるがん患者の50%以上が体験する症状である.浮腫により患者は,皮膚の張り感・疼痛などの症状が出現し,日常生活での活動に支障をきたすこともある.またボディイメージの変容から死が間近に迫っているという不安を感じることなどさまざまな影響を受けるため,適切な対応が求められる. また,近年化学療法の進歩に伴い,再発がん患者の多くが治療を受けており,ドセタキセルなどのように薬剤性浮腫が副作用として発症することもある.そのため予防的にデキサメタゾンが投与されることがある.それでも発症した場合,ドセタキセルの使用を中断すると浮腫は徐々に軽快するが,リンパ節郭清などを受けている患者の場合,症状が軽減しない場合もあるため,継続的なアセスメントと適切なケアが必要である. 以下,終末期のリンパ浮腫に対するケアと再発がん患者の薬剤性浮腫について述べていきたい. -
リンパ浮腫治療専門家との連携・リンパ浮腫ケアに役立つ情報の活用
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがんサバイバーは,がん治療を受けたときからリンパ浮腫発症のリスクを生じる.近年,入院期間の短縮化や地域医療の推進により,がん患者の療養の場は病院から地域へと移行している.リンパ浮腫の発症や発症後のケアにおいて問題が生じるのは,通院間隔が延長され地域での生活が中心となる頃である.リンパ浮腫を発症後,早期に適切な治療やケアを開始することができる療養環境が整備されたら,リンパ浮腫の重症化予防ができ,がん患者のQOL の維持・向上につながるであろう. 2008 年にリンパ浮腫指導管理料が算定されるようになり,リンパ浮腫発症のリスクがある患者に対して,リンパ浮腫の予防を目指した患者教育が行われるようになった.しかし,リンパ浮腫を発症したがん患者に対して,早期から適切なケアが提供できる環境が十分に整備されているとは言いがたい.本稿では,リンパ浮腫発症のリスクが生じたときから,仮にリンパ浮腫を発症したとしても,がん患者が安心して生活できるようリンパ浮腫診療の専門家にどのようにつなげたらよいかについて検討したい.
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がん医療 よもやま話
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リレーエッセイ マギーズ東京便り 【4】
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臨床に生かすアセスメントツール【2】:外来化学療法を受けているがん患者の気がかり評定尺度の開発と活用事例の紹介
21巻5号(2016);View Description Hide Description筆者が「化学療法を受けているがん患者気がかり評定尺度」を学術誌1)に発表してからすでに10 年が経過している.この間,本尺度の使用登録は2016 年4 月末までに34名であり臨床適用されている.また,2015 年には韓国で本尺度が翻訳され2)使用されているなど国際的な尺度としても発展をみている. 本尺度の開発経緯としては,2002(平成14)年に外来化学療法加算が新設され,外来化学療法を受けているがんサバイバーは増加の一途を辿っていたことがあげられる.治療法や支持療法の進歩により社会生活を営みながら化学療法を継続できるようになってきている.QOL を保ちながら治療継続するためには,看護師による副作用症状と生活マネジメントのセルフケア支援,心理的な安定(コントロール感)や自分らしさを失わないことへの支援が不可欠である. しかし,現実的には外来の看護師数は少なく,しかも流動的な看護職員によって支えられている現状を筆者は研究者・教育者そしてがん看護相談を受ける立場から感じていた.そこで2003 年,がんサバイバーの個別的な気がかりを短時間のうちに知り,早期の支援によって安定した状態で治療が継続できる,がん患者の気がかりをアセスメントできる尺度をつくりたいと考えた.またがん患者のおよそ20~40%にうつ状態や適応障害が生じており,問題状況を的確にとらえることもこの尺度で可能になると考えられた.これまで筆者は外来治療者に対して,潜在的な不安を測定するために不安尺度State Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し,研究や実践を行ってきていた3-5).しかし,不安が高いことがわかっても,さらに不安の本質は何かを対話により掘り下げないと支援ができないことを経験していた.日本人は日常の中で,気にかかることを「気がかりである」と表現することが頻繁にある.そのため臨床現場でアセスメントや介入指標として臨床応用性が高い尺度として「化学療法を受けているがん患者気がかり評定尺度」が証明されたので開発手順と活用事例を紹介する. -
緩和ケア教育を考える ~学生のこころを育てる講義の工夫~【6】:死をどう教えるか~死生観をはぐくむ~
21巻5号(2016);View Description Hide Description緩和ケアが提供される時期は,患者が診断を受けたときから死亡時,その後,遺族が生活をスムーズに送れるようになる頃までである.ケア提供者は人の死に触れることが必須であるため,自分なりに死について考え,死生観をもつことが欠かせない.しかし,死生観は急には育たないため看護師になる前から,医療従事者の立場で死について考えておくことが望ましい.恐怖や不安を高める可能性がある死について考える機会を,学生にどのように提供すればよいのだろうか.第1 回目では「死にまつわる講義を行う際の学生への配慮」について論じたが,今回はとくに「死を教えること」に焦点をあてて述べたい. -
希死念慮をかかえるがん患者へのサポート【3】:自殺企図がある患者への対応・精神科診療との連携①
21巻5号(2016);View Description Hide Description前号では,多くのがん患者が抱える「死にたい気持ち」について考察し,看護師による希死念慮・抑うつのアセスメントと精神科診療との連携の視点について述べた.本稿では,「死にたい気持ち」が自殺企図に及ぶ可能性に関する理解と,精神科医による診療を得ながら患者の自殺防止に努める看護師の対応について考察する. -
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【80】:がん薬物療法による医療事故防止に向けた取り組みを考える
21巻5号(2016);View Description Hide Descriptionがん薬物療法で用いられる抗がん薬は劇薬または毒薬に指定されており,その取り扱いには十分な注意が必要である.抗がん薬は,一般薬に比べ効果と有害反応の曲線間が狭く,治療域が非常に狭いため,少しの間違いによっても重大な副作用が出現する可能性がある.2000 年以降は多種多様な薬剤が臨床に導入され,薬剤ごとの特徴(作用機序,投与方法,投与量,投与順番)や,支持療法,モニタリング方法などが非常に複雑になっており,現場ではしばしば緊張が高まるような出来事を体験する. 過去にも抗がん薬の過剰投与や投与スケジュール間違いなどの医療事故,あるいはヒヤリ・ハット事例の報告は数多く報告されている.本稿では,今までに報告されている医療事故の状況,実際の医療現場での取り組みについて紹介し,今後の医療事故防止対策を考える.
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JJCC レクチャー
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あなたのケアが変わる!看護臨床研究の活用と取り組み【3】:がん医療のデータ分析で用いられる主なグラフの意味,読み方
21巻5号(2016);View Description Hide Description近年,がん医療の分野ではがん種ごとにさまざまな臨床試験が行われており,その結果をもとに標準治療は毎年変化している.このため,がん医療にかかわる医療従事者にとって,がんの臨床試験に対する理解は不可欠なものである.臨床試験を理解するためには,臨床試験がどのように組まれているのか,またどのような統計学的手法を用いて結果が解析されているのかについて理解する必要がある. 臨床試験には第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験,第Ⅲ相試験と3つの段階がある.新薬や新しい治療(試験治療)は,第Ⅰ/Ⅱ相試験で安全性と有効性が確認された上で第Ⅲ相試験に進み,臨床的有用性が実証されて初めて保険承認され,標準治療となる.このため第Ⅲ相試験の理解はとくに重要である.本稿では第Ⅲ相試験の詳細と,そのデータ分析で用いられる主なグラフの意味,読み方について解説する.
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調査報告:働く世代のがん患者へ経済的支援を目指した情報提供サイト「がん制度ドックβ 版」の利用状況の分析
21巻5号(2016);View Description Hide Description【目的】働く世代の経済的支援を目指し,公的制度・民間保険の申請漏れを防ぐため,NPO 法人「がんと暮らしを考える会」は「がん制度ドックβ版」を2013 年6 月に公開した.今回,その利用状況について分析を行った.【方法】無記名のWeb 調査で有用性についての回答を単純集計,および自由記載内容の分析,Google Analytics によるアクセス解析を行った.【結果】総訪問者数は2,768 名で総閲覧数は3,521 回だった.対象者の94.5%は65 歳未満だった.「がん制度ドック」・「がん制度ドッグ」で検索をした訪問者は直帰率が低く(それぞれ,34.69%,18.60%),閲覧ページ数は4 ページ以上だった.有用性評価の回答数は33 名で,回答率は約1.2%(33/2,768 名)で,回答者の79%(26/33 名)が「役に立った」と回答した.アンケートの内容分析では3 つのカテゴリー「検索結果に安心感を得た」「操作のしやすさ」「内容への不満足感」が抽出された.【考察】Web 調査の限界はあるが,本サイトが働く世代のがん患者が利用できる公的制度・民間保険を,簡便な方法で確認できるサイトとなっていた. -
研究報告:頭頸部がん患者における放射線皮膚炎に対するセラミド含有保湿剤の有用性の検討
21巻5号(2016);View Description Hide Description【目的】頭頸部がん患者の放射線皮膚炎に対するセラミド含有保湿剤(以下,保湿剤)の有用性を,皮膚の水分量と弾力性,皮膚炎の評価と皮膚炎の苦痛の程度から検討した. 【方法】中咽頭・下咽頭・喉頭・舌および付属のリンパ節に総線量50 Gy 以上照射する患者を対象に,保湿剤を毎日塗布した.照射前に照射部位の皮膚の弾力値と水分値を測定した.治療終了時に,放射線皮膚炎を放射線療法医が有害事象共通用語基準(CTCAE) v4.0 により評価し,苦痛の程度を6 段階評定で確認した. 【結果】対象者は45 名,平均年齢69.5±8.0 歳であった.弾力値は治療前18.6±7.6,終了時16.4±4.7,水分値は治療前67.8±10.7,終了時67.1±11.9 でいずれも差がなかった.皮膚炎は,グレード1 が5 名(11.1%),グレード2 が27 名(60%),グレード3 が13 名(28.9%)であった.皮膚炎のグレードが高いほど苦痛が強く,有意差が認められた(p=0.023).苦痛と弾力値の間に負の弱い相関が認められた(r=-0.345). 【考察】保湿剤の塗布により,放射線療法中の皮膚の保湿性と弾力性は維持される.治療終了時,全対象者が皮膚炎を発症していたが,皮膚の弾力性の維持が患者の苦痛を緩和する可能性が示唆された.
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