がん看護

がん（悪性新生物）は1981 年から日本人の死因第1 位であり，「不治の病」という死を連想させる病気のイメージは根強い．人口の高齢化もあり，日本ではがんに罹患する人は年々増加傾向にある．2013 年のがん登録数は656,272人（409 施設データ）で，前年に比べて42,899 人（前年は397 施設データ）増加している1）．また，生涯でがんに罹患する確率は男性63％，女性47％（2012 年）であり2），日本人の2 人に1 人ががんになる時代といわれ，今では多くの人にとって身近な疾患となった．さらに，がんと診断された人の5 年相対生存率は男女計で62.1％（2006～2008年）であり2），治療の発展に伴って，進行がんであったとしても，うまく病状をコントロールしながら病気と長く付き合うことができるようになった．このような状況において，がんサバイバーへのケアは，ますます重要なテーマとなっている．

もし家族の一員が，がんと診断されたら家族全体にどのような影響が生じるだろうか．もし母親が乳がんと診断されたら，母親は自分の病気だけでなく家族や子どもへの影響を心配するだろう．がんサバイバーが，家族の中で担っている役割は，一人一人異なる．そして，家族の影響の受け方もさまざまである．がんサバイバーは，そもそも家族の中で生きる家族の一員である．本稿では，がんサバイバーがたどる病の軌跡と家族システムとの関連をふまえ，援助者の役割について考察したい．

思春期・若年成人期にある人々は心身の成長発達の途上にあるだけでなく，青春と呼ばれる短い期間に入学，就業，結婚等の大きなライフイベントを経験する．成長発達途上にあるという脆弱な世代の発症・治療・闘病生活は，身体面だけでなく，精神心理面や家族など，他の世代と異なるさまざまな配慮が必要となる．　諸外国においても思春期・若年成人期（Adolescents andYoung Adult）の開始・終了年齢の定義には統一したものがなく，研究者の専門性や患者団体等のサービス対象や支援内容によって異なる（Rainusso N et al, 2011）．下限年齢は12 歳から15 歳であり，小児病院の受入年齢の制限や社会福祉サービスの開始年齢等の社会的要因によるものである．上限年齢は25 歳，29 歳，30 歳，39 歳とさまざまである．疾患治療面で高齢者のがんと大きく異なる点は，基礎疾患（生活習慣病等の成人型疾患，粥状能動脈硬化，2型糖尿病）などや，加齢による免疫機能の減弱を考慮しなくてもよい点である，若年成人期の上限年齢はこのような治療上の理由とともに，生殖医療の適応年齢という観点から39 歳としている．本稿では筆者がもともと小児看護学を専門としていたことから，白血病や脳腫瘍を中心として，中学生から20 代の未婚患者を想定して私見を述べたい．

がんの治療は，検査から始まり，診断，初回治療，（治癒・寛解），再発，再発治療，終末期，死と長い経過をたどる1）．高齢化によるがんの罹患率は増加し，QOL を重視したがん治療の開発と支持療法の進歩により，さまざまな場面で，高齢者自身が治療の選択や今後の療養先などを意思決定していかなければならない．老年がんサバイバーの在宅療養の実態やスピリチュアルニーズの実態，告知やインフォームドコンセント，トータルペインのケア，エンドオブライフケアなどが報告されており，老年がんサバイバーとその看護への関心は高まりつつある．ここでは，老年がんサバイバーの特徴から，看護の実際，かかわりのポイントなどを述べる．

近年，がん医療技術の向上は目覚ましく，5 年生存率は向上し続けている．2016 年7 月には，5 年生存率は62.1％1）に到達した．これはひとえに，長年にわたり，がん医療従事者が治癒や予後の延長を目指し，医療技術の向上に向けて組んできた成果であろう．　一方で，長期生存が実現すればおのずと生じる，社会生活とがん治療の両立に関する議論が立ち遅れていたことが，この数年で浮き彫りにされている．結果，2012 年6月に閣議決定されたがん対策推進基本計画の全体目標に「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が，個別目標には「がん患者の就労を含めた社会的な問題」への現状把握と体制構築の項目が新たに追加されるなど，国策として検討するほどに必要性に迫られている．こうした現状の中，今はまず，一人でも多くのがん医療従事者が，がん患者が直面している社会的問題について正しい認識をもち，個々の実践の中で支援を展開することが期待されている．　以上のことをふまえ，本稿ではがん患者の社会的問題について概観した上で，今，医療現場で実践可能な支援について解説する．

がんサバイバー支援のためさまざまな取り組みがなされている．社会の高齢化が進む中，厚生労働省は高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで，可能な限り住み慣れた地域で，自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう，地域の包括的な支援・サービス提供体制（地域包括ケアシステム）の構築を推進しており，がん患者も高齢化となっており例外ではない．　これまで診療にかかわる病院では外来診療時や入院加療中に施設内での支援を中心に展開してきた．施設内のみの支援では，地域包括ケアシステムの推進においても多くの課題がある．がんサバイバーを支援していくためには，施設，職種の枠を超えて，また，多角的な視点から課題をとらえ支援していくことが求められる．そのためサポーティブケアの推進が必要となる．

がんサバイバーの多くが，抗がん治療終了後，「正常に」戻るのはむずかしいという感覚を抱くと言われる1,2）．がんサバイバーは，再発恐怖3），精神的苦痛4） （不安や抑うつ5）など），死の不安6），治療選択の後悔7）など，さまざまな精神的問題を有する．本稿では，主に米国のNational ComprehensiveCancer Network（NCCN）のサバイバーシップのガイドライン8），American Society of Clinical Oncology（ASCO）による成人がん患者およびサバイバーの不安と抑うつのスクリーニング，評価，ケアのガイドライン9）に触れながら，日本の現状に即して解説する．

がんの早期発見や効果的な治療，適切な緩和ケアなどにより，がんと診断されても長期的に生存する患者が増えている．患者と家族はがんとともに生きる過程で，がんの診断，治療の不成功，再発，積極的抗がん薬治療の中止などの困難を乗り越え，身体と心を保ちながら生きている．がん患者と家族が，次々と起こる困難をじっと耐えながら生きるのではなく，今を十分に大切に生きられるように支援する役割を看護師は担っている．　本稿では，がんとともに生きる患者が自身の力を高めるかかわりと，患者と家族にとって重要な局面を逃さないようにしながら，意思決定を支援する看護師の役割について述べる．

筆者は，大学院で「症状マネジメントのための統合的アプローチ（the Integrated Approach to Symptom Management：IASM）1-3）」を学習して以降，IASM を実践に用いることが多い．IASM（表1）は，MSM（the Model of SymptomManagement）4）に，症状の機序と現れ方に関する基本的な看護の知識と，患者のセルフケアによる症状マネジメントを援助するための知識・技術・サポートの提供とを併せた患者主体の症状マネジメントのアプローチである．詳細は，本誌前号をご参照いただきたい5）．　本稿では，化学療法に関する事例と日常的な臨床場面を通して，患者主体の症状マネジメントについて，筆者の考えるところを概説する．なお，事例は，プライバシー配慮のため，本論に影響しない範囲で，個人が特定できない表現としていることをご了承いただきたい．

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻では，がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン事業がん看護能力スキルアップセミナー（インテンシブ）を2016 年6 月19 日開催した．本セミナーのテーマは，「看護師が行う研究の質向上のための示唆」であったが，当初想定していた参加者を上回る多数の応募が多職種，また緩和ケア以外の分野の方からあり，テーマの関心の高さがうかがわれた．そのため，参加希望者が1 人でも多く受講できるように急遽会場を変更し，当日は，全国各地の臨床・教育・研究に携わる看護師，医師，薬剤師など86 名が参加した．参加が叶わなかった皆様には，本稿を通して，内容の共有ができればと思う．　看護師が主導で行う緩和ケア領域の研究では，無作為化比較試験からアウトカムを導くことはむずかしいが，どのようにしていけばよいのであろうか．また，そのような研究者となるにはどのようにキャリアアップしていけばよいのだろうか．今回講師に招いたMarie A Bakitas 先生（アラバマ大学バーミンガム校　The University of Alabamaat Birmingham：UAB 教授，図1）は，看護学の研究者である．進行期がん患者に対する緩和ケア介入の有効性を検証した無作為化比較試験がほとんどない中，早期からの緩和ケア介入の効果などについてのエビデンスを発表してこられ，研究成果はThe Journal of the American MedicalAssociation （JAMA）, Journal of Clinical Oncology などのインパクトファクター（雑誌引用影響率）が非常に高い雑誌に掲載されている．講演では，先生がどのようにしてこのような大規模研究に取り組むにいたったかを研究者としてのキャリアの軌跡をふまえて，“The Accidental Researcher: Becoming aPalliative Care Nurse Scientist”というタイトルで講演いただいた．本稿では先生の講演内容のエッセンスを紹介する．

近年，膵臓がんの新規化学療法レジメンの開発により膵臓がんの化学療法の件数が増加している．がん研究会有明病院（700 床のがん専門病院であり，60 床の外来化学療法センターを有する）では2015 年度の外来化学療法実施数は年間約33,500 件，1 日平均130 件を超えた．そのうち，膵臓がんレジメン実施件数は2014 年度1,435 件であったが2015 年度では2,748 件であり，およそ2 倍に増加した（図1，2）．　膵臓がんは早期発見が困難で発見時に切除不能であることが多く，化学療法を延命や症状緩和目的で継続する患者が多い．延命や症状緩和目的の化学療法では，がん性疼痛などの症状緩和のケアを考慮しながら効果が得られている期間は化学療法を継続しなければならない．また，全身状態不良の場合を除き，初回化学療法を外来導入する患者が増加しており，化学療法のセルフケア支援，がんによる症状緩和や心理的サポート，栄養サポート，治療効果が得られなくなった場合の思いの傾聴や支援など，院内のさまざまな職種・部門が一丸となって時期を逃さず患者・家族支援をする必要性が浮き彫りになってきた．　そこで当院では，切除不能進行再発膵臓がん患者に対して，早期からの多職種の支援が受けられるサポートプログラム（PANDA：PANcreatic Direct Approach team，以下PANDA プログラム）を準備し，2015 年4 月より運用を開始した．本稿ではサポートプログラムを作成した経緯と大切にしたいこだわりなどを紹介する．

2000 年以前は，抗がん薬の剤形は主に注射薬であり，治療は入院あるいは外来化学療法センターで医師や看護師の主導のもとで行われてきた．その後，分子生物学の発展などにより経口抗がん薬が数多く承認されている．経口抗がん薬は自宅で服用することが可能であり，通院などの負担が少なく，患者の治療に対する自己効力感が得られるなどの利点がある．一方で，服薬管理や副作用症状管理などを患者自身あるいは家族が行わなければならず，正しい薬の理解や取り扱い方法に関する知識の習得，セルフケアを行うなど負担は大きい．さらに，分子標的薬では高額な薬価による経済的な負担や，特徴的な副作用症状が出現するため，自身で判断して症状マネジメントを行わなければならないという負担もある．　世界保健機関（World Health Organization：WHO）の報告（2003）では，経口薬による治療を受ける患者の50％はノンアドヒアランス（非遵守）で，とくに糖尿病，心不全，気管支喘息，およびHIV 抗レトロウイルス療法などの慢性疾患の治療レジメンで多く見られていた．がん患者ではpalliative care で，診断結果の深刻さなど心理面が影響し，ノンアドヒアランスになることが多いと報告されている1）．　経口抗がん薬による治療を受ける患者が多くなってきた今，看護師はどのように患者をアセスメントし，かかわっていく必要があるのかといったことが課題となっている．本稿では，経口抗がん薬による治療を受ける患者のアセスメント，看護介入の方法について述べる．

本誌2016 年7・8 月号（第21 巻5 号）では，がん性疼痛や呼吸困難のある終末期肺がん患者（A さん）の希死念慮・自殺企図に介入した事例を紹介した．今号では同事例をもとに，「死にたい気持ち」をもつがん患者の精神的苦痛の多面性を検討し，患者が自殺企図に及んだ場合の対応方法について考える．また，医療者が精神科コンサルトの必要性があると判断した場合でも，患者・家族から受診の同意が得られないことや，医療機関に精神科医が勤務していないことは多く，すべてのケースで精神医療の専門家による対応が可能とは限らない．精神科の診療体制が十分に整っていない医療機関において，希死念慮や自殺企図を呈する患者に看護師がどのように対応できるかという点についても検討する．

日頃のケアの中で疑問が湧いて文献を調べようと思っても，どうやって文献検索をしたらよいのかわからない，キーワードを入力しても文献がヒットしない，なかなかよい文献に出会えないという経験をした人は多いのではないか．そのため，疑問を解決させるために文献を探そうと研究のはじめの一歩を踏み出しても，時間と労力ばかりかかり，結局何も解決させられずにへこたれてしまうこともあるだろう．今回，ちょっとした工夫やコツを知ることで，よい文献に出会い，日頃のケアに文献検索結果が活用できるようになり，さらに，看護研究への一歩が踏み出せるよう，その具体的な方法を紹介したい．

緩和ケア訪問看護師の教育プログラムを開発するために，訪問看護師に必要な在宅緩和ケアの実践能力を明らかにすることを目的に，在宅ホスピスケアの経験を有する医師，看護師12 名を対象に，半構成的インタビュー調査を実施した．データを内容分析した結果，在宅緩和ケアを担う訪問看護師に求められる実践能力として，【医師と連携し自律して症状緩和ができる】【緊急時の判断をし，対応ができる】【今後起こりうる事柄を予測し，ケアを柔軟に調整する】【医療的に管理するのではなく，患者・家族自身の生活を支える】【謙虚に患者と家族に向き合い，思いを汲む】【患者・家族の生き方や価値観を受け止め，尊重したケアをする】【家族の力を信じ，支え，看取れる家族に育てる】【死に向かう患者，家族にデスエデュケーションを行い，支える】【看護師自身が抱えるストレスに向き合い，自分を強くする】【在宅緩和ケアチームを作り，育てる】【末期がん患者を看取れる地域をつくる】の11 カテゴリーが示された．今回得られた内容をもとに，今後，在宅緩和ケアの教育プログラムを作成，実施し，質の高い在宅緩和ケアを提供できるよう訪問看護師を支援していく必要がある．