臨床精神薬理
Volume 10, Issue 1, 2007
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【展望】
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新規抗精神病薬のeffectivenessと精神科病院のダウンサイジング―CATIE Studyから学ぶこと―
10巻1号(2007);View Description Hide Description新規抗精神病薬は臨床への本格的導入から10年以上を経過し,新たな検証の時代を迎えている。近年公表されたCATIE Studyではolanzapineは治療継続や精神症状悪化による再入院の少なさなどの点で,他の新規抗精神病薬や従来型抗精神病薬の代表であるperphenazineよりもやや優れていた。同時にolanzapineは体重増加,グリコヘモグロビン,脂質代謝への影響が他の抗精神病薬群よりも明らかに目立っていた。このような結果は予測されていた通りであり,目の前に現実が突きつけられた印象がある。治療の現場が病院内から地域に移行しつつある現状では,治療目標を長期在院患者の退院促進,地域生活能力の向上,長期入院からの退院後の再発・再入院の減少,新入院・再入院期間の短縮,新たなる長期化防止などに置くことになる。これらの課題の達成のためには抗精神病薬治療レベルのいっそうの向上が欠かせないし,CATIE Studyで明らかになったeffectivenessの違いは,それがたとえ大きな差異ではなくても,地域の中での厳しい臨床現場では長期的転帰の相違となって現れるかもしれない。いずれにせよ,このようなタイプの薬物を使いこなすにはmetabolic syndromeを含む新たな副作用の状況を適切に把握し対応するような,デメリットを最小限にする取り組みが欠かせない。 Key words :CATIE schizophrenia trial, olanzapine, quetiapine, risperidone, ziprasidone, clozapine, perphenazine, chronic schizophrenia, downsizing psychiatric hospitals
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【特集】第二世代抗精神病薬による治療目標の変化
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精神科スーパー救急病棟における新規抗精神病薬の位置づけ
10巻1号(2007);View Description Hide Description当院の救急入院料認可病棟(以下,救急病棟)が運用開始となって4年目となった。当院救急病棟の入院患者は,多様な治療歴をもつことと身体疾患の合併率の高さが特徴である。統合失調症患者の入院初期から退院前期の各段階に至るまで,また未治療例から長期治療例まで,第二世代抗精神病薬が薬物療法の中心的存在となってきている。入院期間は短縮化していく傾向にあり,より適切な薬剤選択と用量設定に速やかに達することが求められている。そのための重要な役割を担ってきている第二世代抗精神病薬を中心に,統合失調症薬物療法の当院救急病棟での現状を報告し,具体的に入院例を提示した。また,多剤大量療法が破綻して再燃入院する例への出会いも多く,それからの脱却に救急病棟も関わっていることにも言及した。 Key words :psychiatric emergency, second generation antipsychotics, rapid tranquillization, schizophrenia, polypharmacy -
急性期治療目標と治療方法は変化したか?―急性期治療最前線―
10巻1号(2007);View Description Hide Description統合失調症の代表的な急性期病像である著明な幻覚妄想状態や精神運動興奮状態の患者に対する従来の治療目標は,急速な鎮静と幻覚妄想状態の消退であり,その方法として従来型抗精神病薬の多剤大量投与が行なわれていた。従来型抗精神病薬に比較して主に陰性症状改善効果と錐体外路症状発現の少なさを特徴とする新規抗精神病薬(非定型抗精神病薬)の登場を1つの契機に,急性期治療目標とその方法に大きな変化を認めている。「人間性回復の可能性をもった状態」を最大目標に,「治療受け入れの促し」「迅速な静穏化」「望ましい寛解状態」という治療概念の変遷とその背景要因および急性期治療方法論について解説する。 Key words :acute schizophrenia, new generation antipsychotics, clinical strategy, psycho―social intervention, motivation for treatments, calming, good remission -
第二世代抗精神病薬で精神科病院における慢性期の治療は変わったのか―民間精神科病院の勤務医が見た10年―
10巻1号(2007);View Description Hide Description欧米では抗精神病薬の開発が契機となって脱施設化とノーマライゼーションが進み,さらに第二世代抗精神病薬とACTなどの発達もあり,精神科病床は10万床まで減少した。我が国では,抗精神病薬で脱施設化は起きず,逆に精神科病床が増え,第二世代抗精神病薬が登場した時には35万床まで膨れ上がっていた。精神科医療費が低く抑えられ,精神障害者の病院収容がまだ求められている我が国では,第二世代抗精神病薬の普及は遅れた。今回,精神科病院の勤務医だった筆者の10年間を振り返り,慢性期治療がどのように変化したかを述べた。一部の精神科医が鎮静最優先の処方を変え,その結果,錐体外路症状の軽減,陰性症状や認知機能の改善が得られ,リハビリテーションが盛んとなり,退院や社会参加を目指す治療へと変わっていった。しかし,新しい薬剤が出て精神医療に携わる者の意識が変わっても,治療より収容という国の施策が変わらなければ本質的な変化は起きないであろう。 Key words :second generation antipsychotics, psychiatric hospital, chronic schizophrenia, hospitalization, inpatient care -
第二世代抗精神病薬導入による精神医療の変化:大学病院
10巻1号(2007);View Description Hide Description1996年,第二世代(新規)抗精神病薬risperidone(RIS)が我が国に導入されて以来,RISと同様な作用機序を有する抗精神病薬としてolanzapine(OLZ),quetiapine(QEP),perospirone(PER)の3剤が導入された。今回,産業医科大学,大分大学,佐賀大学の3大学病院における抗精神病薬の1ヵ月間の処方調査から,統合失調症治療の慢性期における薬物治療について考察した。抗精神病薬の80%以上は統合失調症患者に投与されていたが,その他の精神障害者にも投与されていた。また新規抗精神病薬は単剤治療が51%を占めており,医師の意識として,効果,副作用の評価のために単剤で用いることが多くなっていた。効果不十分,あるいは単剤化への過渡期的な処置として,新規抗精神病薬と従来型抗精神病薬を多剤併用している例も18%程度認められた。 Key words :second―generation antipsychotics, university hospital, pharmacotherapy -
第二世代抗精神病薬の登場による統合失調症治療の変遷―クリニック自験例を中心に―
10巻1号(2007);View Description Hide Description第二世代(非定型)抗精神病薬risperidoneが本邦に上市されて10年になる。それまでのhaloperidolやchlorpromazineを中心とした定型抗精神病薬による,多剤大量投与の入院を主体とした統合失調症の治療がその後大きく変わったと実感するのは,多くの精神科医に共通した印象と思われる。クリニックではその受診の気軽さからか,明らかな幻聴や妄想のみられない顕在発症前の受診も多い。外来で継続的に通院を続けてもらうためにはアドヒアランスの問題も重要である。Risperidoneの登場した後で,またその後相次ぐ第二世代抗精神病薬の登場で統合失調症の治療は変化した。本稿ではrisperidone,perospironeの使用経験とそれぞれの長期投与経験,bromperidolとの比較やうつ状態でのfluvoxamine併用等の自験例を中心に示し,治療目標をどこに向けるようになったかを示したい。 Key words :pharmacotherapy, outpatients, early symptoms, adherence -
統合失調症患者のリハビリテーションと新世代抗精神病薬―退院,地域生活そして就労支援―
10巻1号(2007);View Description Hide Description我が国で稀な「力動的チーム医療」を展開する当院150床における統合失調症患者のリハビリテーション(以下,リハビリ)と新世代抗精神病薬(以下,新世代薬)との関連を探るべく,外来リハビリ部門(デイナイトケア,外来OT,訪問看護の統括部門)通所中の患者228名を対象に調査を行った。その結果,新世代薬処方者は77.6%の177名(単剤105名59.3%,併用31名,旧世代薬併用41名)であった。他に比べ高い新世代薬の処方,単剤化率は,新世代薬の特性が当院の方向性(治療理念,目標)と,つまり当院の「力動的チーム医療」に基づく社会復帰施設を駆使した地域生活や就労支援などの積極的なリハビリ支援(平均在院日数約76日,3ヵ月内再入院率10%以下)と一致しているためと思われる。このことは「まず,薬ありき」とする今回のテーマとは一線を画すが,新世代薬の普及率が増えても平均在院日数が減少せぬ我が国の精神科医療の在り方に一石を投じるものと考える。 Key words :antipsychotics, switching, psychodynamic team treatment, therapeutic community, rehabilitation
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【特集】第二世代抗精神病薬による治療目標の変化<原著論文>
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Olanzapine導入後の家族感情の経時的変化―患者の精神症状とQOL変化との関連―
10巻1号(2007);View Description Hide Description外来統合失調症患者15例とその家族を対象に,olanzapine投与後の家族の感情表出(EE)の変化を,罹病期間および治療の有効性との関連のもとに検討した。また,olanzapine治療後の患者の就労状況や社会生活への参加状況の変化とともに,統合失調症治療のゴールの変化についても若干の考察を加えた。EEの評価には質問紙形式で患者に対する感情を主観的に評価するFASを用いた。Olanzapineによる治療は,患者の精神症状を改善し,患者に対する家族感情が肯定的となり,患者および家族双方の心理社会的教育の導入を促進する可能性が示された。今後の治療ゴールとして,安定した外来通院のもとに患者は家族とともに地域での生活,社会活動参加へと促進されていくと考えられた。 Key words :expressed emotion, schizophrenia, outpatients, QOL, olanzapine
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【特集】第二世代抗精神病薬による治療目標の変化<症例報告>
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多剤大量処方から第二世代抗精神病薬単剤化へスイッチングする中で治療目標をステップアップすることができた3症例
10巻1号(2007);View Description Hide Descriptionわが国における第二世代抗精神病薬の使用もこの5年で飛躍的に増加してきている。しかしながら欧米と比較し単剤化が進んでいないのは,慢性期病棟における多剤大量処方が根強く残っている現状が1つの要因として考えられる。第二世代抗精神病薬による認知機能改善作用や神経保護作用は数多く報告されており,長期入院患者における第二世代抗精神病薬へのスイッチングは,このようなメリットを最大限にもたらすと考えられる。今回,多剤大量処方から第二世代抗精神病薬に切り替え,単剤化をすすめる中で,治療目標をステップアップすることができた3症例を報告した。いずれも慢性期病棟に長期入院の患者で,退院が可能となった症例,周期的症状再燃が改善し,退院が目標にステップアップした症例,長期隔離から脱却し開放病棟への転棟を目標に切り替えることのできた症例である。3症例とも攻撃性の改善,陰性症状・陽性症状の改善,認知機能改善を期待してolanzapineを主剤にスイッチングを行った。社会復帰を見据えた薬物治療を考える上で,その認知機能改善作用と神経保護作用が何らかの有利な影響を与えるのではないかと推察する。 Key words :psychiatric polypharmacy, atypical antipsychotics, schizophrenia, switching, cognitive, treatment target
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【シリーズ】
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【原著論文】
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アルツハイマー型認知症の記憶・認知機能障害に対するdonepezilの効果内容と効果出現の関連因子について
10巻1号(2007);View Description Hide Description<目的>アルツハイマー型認知症(ATD)の治療薬であるdonepezil(DPZ)の記憶・認知機能に対する効果内容と効果出現の関連因子について検討した。<対象>DSM―ⅣによりATDと診断された175名。DPZ服薬群137名と,本邦でのDPZ発売以前に外来を受診した非服薬群38名。<方法>聖マリアンナ医大式コンピュータ化記憶機能検査(即時自由再生課題:IVR,遅延自由再生課題:DVR,遅延再認課題:DVRG,項目再認課題:MST,記憶リハーサル課題:MFT)を用い,治療開始時と約48週間後の変化差を比較した。さらに有意な改善を認めた課題について改善群と悪化群の2群に分類し,2項ロジスティック回帰分析を行い効果関連因子を判定した。<結果>(1)服薬群は非服薬群に比べMST(注意・集中力および情報処理能力と速度を反映)の変化差に有意差を認めた。(2)MST改善群は悪化群に比べ年齢と長谷川式簡易知能評価スケール(HDS―R)得点で有意差を認めた。<結論>DPZ投与によりATDの言語記憶機能障害の進行は抑制されないが,注意・集中力および情報処理能力と速度の低下が抑制される。その効果発現の関連因子は,治療開始時の年齢が比較的若いこと,HDS―R得点が高いことである。 Key words :Alzheimer‐type dementia, donepezil chloride, cognitive function, attention, therapeutic responsiveness -
総合病院精神科における自殺予防の取り組み
10巻1号(2007);View Description Hide Description宮崎県立日南病院精神科は日南市の自殺者数を減少させるために,自殺予防を目指した診療と自殺未遂者への介入を行った。対象は当科外来患者,当院救急外来を受診した自殺未遂者,当市の自殺者である。死亡診断書と当院の診療録を調査した。当市の人口10万対の自殺死亡率は27.6(1996~97年)から23.7(1998~99年)に減少した。指標の自殺企図から6~29ヵ月の期間に,自殺未遂者30例の死亡はなかった。希死念慮が強かったという理由による精神科入院治療は8例であった。自殺企図者に精神疾患ありは多かった。(1)外来患者に希死念慮を聴取する,(2)希死念慮が強い場合は精神科入院治療とする,(3)自殺未遂者を紹介してもらう,(4)自殺未遂者の精神科診療を行う,などの当科の自殺予防の取り組みは効果があったと考えられる。更に自殺者数を減少させるには,初診時に「希死念慮出現時はすぐ受診する」と患者に説明する,精神科入院治療により精神疾患を早期に寛解させるなどが考えられる。 Key words :attempted suicide, completed suicide, depression, psychiatric disorder, suicidal idea
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【症例報告】
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セロトニン症候群遷延例におけるrisperidoneの使用経験―セロトニン症候群治療薬としての可能性について―
10巻1号(2007);View Description Hide Descriptionうつ病の治療に対しfluvoxamineならびにmilnaciplanを5ヵ月間併用投与後に,急激にセロトニン症候群を発症し,症状が遷延した例を報告する。セロトニン症候群発症後,cyproheptadineの投与を行ったが奏効せず,50病日おいても亜昏迷状態,ミオクローヌスが残存していた。52病日にrisperidone0.5mgを開始したところ,60病日にミオクローヌスは消失,簡単な会話ができるまで回復した。Risperidoneの少量投与が症状改善に有効であったと考えられ,作用機序としては,セロトニン症候群で生じたセロトニン・ドーパミン不均衡状態が,D2受容体遮断作用に比べて5HT2A受容体遮断作用が強いrisperidoneを使用することにより,再び均衡の取れた状態へと是正され,症状改善が得られた可能性が考えられた。Risperidoneがセロトニン症候群治療薬として有用である可能性が示唆された。 Key words :serotonin syndrome, prolonged, treatment, risperidone -
自傷行為から長期の身体拘束を要した統合失調症にvalproateが有効であった1例
10巻1号(2007);View Description Hide Description自傷行為から高用量の抗精神病薬の投与,長期の身体拘束を要した統合失調症患者に対して,valproateの少量追加投与が有用であった1例を報告した。症例29歳,男性。緊張型統合失調症。25歳時発症し,治療の中断により再燃し入院した。命令幻聴に影響され,壁や便槽に向かって前転,ベッドから転落するなどの自傷行為を繰り返し,約1ヵ月の隔離,2ヵ月以上の身体拘束による長期臥床を余儀なくされた。抗精神病薬の増量(chlorpromazine150mg/day,olanzapine20mg/day,sultopride1,500mg/day,haloperidol24mg/day)を行ったが,命令幻聴,自傷行為が持続し,拘束解除のための有効な手段が必要となった。自傷行為の軽減を期待してvalproate200mg/dayを追加し,1週間後に400mgに増量した。Valproate投与後1週間で幻聴,焦燥感の改善を認め,自傷行為の自制が可能になった。約1ヵ月後に拘束を全面解除し約2ヵ月後に退院した。統合失調症に対するvalproateの併用は少量でも有効で,長期の身体拘束からの解除を行う際に有用な手段であることが示唆された。 Key words :valproate, schizophrenia, augmentation, restriction, self―mutilation
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【短報】
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Risperidoneからperospironeへの置換により高プロラクチン血症や月経異常が軽快した5症例
10巻1号(2007);View Description Hide Description統合失調症の治療において高プロラクチン血症は頻度の高い副作用である一方,自覚症状に乏しく,また月経異常や乳汁漏出などの症状が出現しても自発的な訴えとして表面化しにくい。今回risperidoneの投与中に高プロラクチン血症または月経異常を呈した5例に対して,perospironeへの置換を行った。その結果86.5~352ng/mlと高値を示していたプロラクチン値が5例中4例では正常となり,5例中3例では月経再来などの改善が得られた。Perospironeへの切り替えに伴う精神症状への影響は,1例では精神症状が悪化しrisperidoneの再投与などの対応が必要となったが,月経再来に伴い妊娠妄想が軽快した症例も1例あった。抗精神病薬投与中に高プロラクチン血症に伴う月経異常が認められる症例には,これらへの対策としてperospironeへの切り替えが選択肢の1つとして考えられる。 Key words :perospirone, risperidone, hyperprolactinemia, menstrual disorder, schizophrenia
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【資料】
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東アジアにおける抗うつ薬処方の現状―アジア5カ国・地域における国際共同処方調査より―
10巻1号(2007);View Description Hide Description我々は,精神薬理学,精神保健疫学分野における国際共同研究(REAP)を行い,2002年に東アジアの6ヵ国・地域における計2,399例の入院統合失調症患者に対する抗精神病薬処方のあり方を明らかにした。その後,抗うつ薬についても同様のプロトコールを用いて国際調査を実施することとなり,2003年10月から2004年3月の間に抗うつ薬の処方とその対象疾患についてカルテ記録調査を実施した。東アジアの5ヵ国・地域の計20施設から計1,898例のデータが収集された。その結果,今回の調査では,(1)新規抗うつ薬(SSRI+SNRI)は全体の70%の患者に処方されていた,(2)全体ではparoxetineが22.4%と最も多く処方されていた,(3)85%の症例で抗うつ薬は単剤処方されていた,(4)抗うつ薬の使用対象疾患はうつ病に限らない,などの特徴がみられた。各国・地域の結果と特徴について考察を行った。 Key words :antidepressant, East Asia, prescription survey, REAP
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【座談会】
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【講演紹介】
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【シリーズ】
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薬の使い方 Olanzapineを使いこなす 第8回 (最終回) 統合失調症以外へのolanzapineの可能性―優しく易しい治療を求めて―
10巻1号(2007);View Description Hide Description -
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