臨床精神薬理
Volume 10, Issue 8, 2007
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【展望】
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臨床薬理遺伝学の現状と課題
10巻8号(2007);View Description Hide Descriptionこれまでの臨床精神薬理学研究では,少数の遺伝子と臨床効果との関連解析から臨床効果予測に有用な遺伝子マーカーが同定されてきたが,臨床効果という表現型には複数の遺伝子およびそれらの間の相互作用,社会・環境的因子などさまざまな要因が影響しているため1つの遺伝子マーカーの同定では治療効果予測に十分なパワーを持たない。こうした背景とゲノム技術の発展により,包括的・網羅的な遺伝子解析から臨床効果を予測する薬理ゲノム学的アプローチへの関心が高まっている。しかし,薬理ゲノム研究によるオーダーメイド薬物治療実現には,遺伝子間の相互作用を仮定した解析方法の確立,ゲノム情報と臨床情報,社会・環境因子を統合したデータベース構築など多くの課題がある。またtheragnosticsの概念から,薬理遺伝学・薬理ゲノム研究とプロテオーム研究やメタボローム研究との連携の重要性が示唆されており,それらは今後の薬理遺伝学・薬理ゲノム研究に活用されるべきである。 Key words :pharmacogenetics, pharmacogenomics, theragnostic, individualized pharmacotherapy
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【特集】オーダーメイド医療の時代は来るか―臨床薬理遺伝学の現状と課題
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抗精神病薬の治療効果を予測できるか
10巻8号(2007);View Description Hide Description個々人に最適な治療選択を事前に予測して行うテーラーメイド医療の実現が昨今求められてきている。テーラーメイド医療の基盤技術として最も有力視されているのが遺伝情報を元に薬物の種類・用量などを決定する遺伝薬理学である。中枢神経領域ではこれに脳内の特定分子を可視化する分子イメージングと組み合わせることによって実現を図ろうとしている。抗精神病薬についてはこれまでどの薬物が個々人でどの程度有効なのかは投与してみないと判別できなかった。一方でclozapineのような重篤な副作用の発現をもし事前に予測できたらという観点から精神科領域での薬理遺伝学がすすめられてきている。本稿では特に抗精神病薬の治療効果に焦点をあて,これまでの薬理遺伝学的治験を整理するとともに今後の薬理遺伝学の方向性について述べたい。 Key words :pharmacogenetics, personalized medicine, polymorphisms, dopamine receptor, serotonin receptor -
抗精神病薬による錐体外路系副作用の予測
10巻8号(2007);View Description Hide Description抗精神病薬の副作用の1つである錐体外路症状(extrapyramidal symptoms:EPS)は,患者へのデメリットが高く,治療の妨げになることも多い。新たな薬物の開発が重要である一方で,薬物投与前に副作用の発現を予測できる因子の研究が進められている。これまでの薬理遺伝研究では,薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2D6や1A2,ドーパミンD2,D3受容体遺伝子やセロトニン2A,2C受容体遺伝子などが候補遺伝子となっている。それぞれの遺伝子多型でEPSとの関連があるという報告も多いが,いずれも臨床に援用できるほどの明確な結論が出ていないのが現状であり,今後は,詳細な臨床情報と薬剤履歴を収集した上で,均質な集団を対象とした大規模な解析や,ハプロタイプ解析,また薬物動態学的観点と薬力学的観点の双方を考慮するなど複数因子を組み合わせた多層的検討が必要と考えられる。 Key words :extrapyramidal symptoms, polymorphism, cytochrome P450, dopamine receptor gene, serotonin receptor gene -
抗精神病薬による水中毒をどう予測するか
10巻8号(2007);View Description Hide Description精神科領域の臨床において,多飲行動が起こることは比較的よく観察される。病的な多飲のため低Na血症が生じ,けいれんや意識障害といった中枢神経障害を起こし(水中毒),時には死に至るケースもある。病的多飲の病態生理については,抗精神病薬が関与する抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)が一部想定されているが,いまだ不明な点も多く,確立した治療法や予防策は見出されていない。これまでの研究で病的多飲の危険因子として男性,喫煙,統合失調症,白人,疾患の慢性化,SIADHの原因薬剤などが指摘されてきた。我々は臨床遺伝学的研究(家族研究)により,統合失調症における病的多飲の成立に遺伝要因が関与することを指摘した。現在,分子遺伝学的手法により,候補遺伝子と統合失調症における病的多飲との関連研究がいくつか報告されている。遺伝的プロフィールにより病的多飲や水中毒のリスクを予測し,個々人に最適な薬物選択を可能にする薬理遺伝学的なアプローチによって,より有効な対策に向けた取り組みが始まっている。 Key words :polydipsia, water intoxication, schizophrenia, antipsychotics, pharmacogenetics -
第二世代抗精神病薬による肥満、糖尿病発症の遺伝的側面
10巻8号(2007);View Description Hide Description近年,第二世代抗精神病薬(second generation antipsychotics,SGA)内服中の統合失調症患者における体重増加と,高血糖,糖尿病,高脂血症などの代謝疾患との因果関係が示唆されている。これは,SGAの中でも,clozapine,olanzapineなどに報告が多く,薬剤間の差異が存在すると思われる。また,同じ薬剤を内服している個人においても,疾患発症の有無がある。健常人における肥満や糖尿病発症の候補遺伝子として,摂食,消費,脂質や糖代謝,インスリン感受性等に関与する脂肪細胞由来の生理活性物質(アディポサイトカインadipocyotokin)や,受容体,酵素蛋白等の遺伝子多型,遺伝子変異が多く発見されている。SGA内服後,5―HT2C受容体の遺伝子多型により,肥満の有無が生じる可能性があることが報告されている。また,初発薬剤未投与の統合失調症患者において,耐糖能低下が指摘されている。疾患発生の機序を含め,多くが未解明であり,遺伝子との関連を含め,今後の研究が待たれる。 Key words :metabolic syndrome, second generation (atypical) antipsychotics, diabetes mellitus, visceral adipose tissue polymorphism -
臨床薬理遺伝学からみた抗うつ薬の治療効果
10巻8号(2007);View Description Hide Descriptionうつ病治療において三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬が用いられていた時代には,治療薬の選択にKielholzの分類が使われていた。1990年代に入り,本邦において新規抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が導入された。これによりうつ病治療薬の選択肢が増えた。しかし,新規抗うつ薬は,従来の抗うつ薬と異なる副作用が出現するという問題を有している。一方,抗うつ薬による治療効果発現や副作用出現には個人差がある。これらの反応性の差異は,抗うつ薬が作用する部位の遺伝子多型の違いにより生じると考えられている。今後抗うつ薬の効果発現や副作用出現と作用部位の遺伝子多型との関係を明らかにする目的から,治療前にDNAチップを用いてうつ病患者の遺伝子多型を調べておくことにより抗うつ薬治療に対する反応性を予測することが可能になると考えられる。 Key words :antidepressant, DNA chip, fluvoxamine, paroxetine, pharmacogenetics -
SSRIの副作用をどう予測するか
10巻8号(2007);View Description Hide Description選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,現在うつ病をはじめ不安障害や強迫性障害など多くの精神疾患薬物療法においてその地位を確立させている。確かに従来の抗うつ薬と比較すると副作用出現の頻度は軽減した感がある。しかしいまだにその副作用は患者の服薬コンプライアンスを低下させ,治療継続を困難とする一因として多くの臨床家を悩ませている。近年,適切な治療,患者の負担軽減を目的としたオーダーメイド医療の実現が期待されてきている。治療効果や副作用出現がある程度予測可能になれば,患者や臨床家にとって大きな薬物療法の転機となるであろう。本稿ではSSRIによる副作用出現の予測指標として,薬物動態学的因子(血中濃度,CYP2D6遺伝子多型)や薬力学的因子(セロトニントランスポーター遺伝子多型,セロトニン受容体遺伝子多型)を中心にこれまで行われている薬理遺伝学的研究およびTDM関連研究について概説する。 Key words :adverse event, SSRIs, CYP2D6, serotonin transporter, serotonin receptor, TDM
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者へのolanzapine治療と主観的ウェルビーイングの変化
10巻8号(2007);View Description Hide Description統合失調症患者におけるolanzapine長期投与時の有効性と安全性の検討を行った。同時にSWNS―Jを用いた主観的ウェルビーイングの評価を行った。対象症例はICD―10によって統合失調症と診断された30例で,そのうち28例は入院患者であった。試験期間は24週であり,4例はolanzapine投与開始時に抗精神病薬の処方がない状態でolanzapineを新たに投与し,26例は他の抗精神病薬からolanzapineに切り替えた。切り替えは漸減漸増法を用い,切り替え前の抗精神病薬は主剤以外の併用薬1剤に限って必要最少量を調査期間中に併用可とし,同様に抗パーキンソン薬も可能な限り減量することとした。ベースラインと切り替え後24週時とを比べると,PANSS合計点は26例で改善し,20%以上の改善率を示したのは11例だった。18人の患者がSWNS―Jの調査に参加を承諾し,主観的ウェルビーイングは18人中12人の患者で改善した。24週時に8例が7%以上の体重増加を示した。Olanzapine投与前に錐体外路症状が認められた26例のうち,切り替え後に20例が軽減し,増悪した症例はなかった。調査期間内に2例が再燃し,1例は治療を中断した。本調査結果からolanzapineによる長期治療は有効性および安全性ともに優れ,統合失調症治療に有用な薬剤であると考えられ,主観的ウェルビーイングにも好影響があると思われた。 Key words :olanzapine, subjective well―being, long―term treatment, relapse, schizophrenia
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【講演紹介】CNSフォーラム2006
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【講演紹介】CNSフォーラム2006 分科会2:社会復帰をゴールとしたうつ病治療―最新の治療ストラテジー
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【講演紹介】CNSフォーラム2006 分科会3:がん緩和医療―身体症状と精神症状へのアプローチ
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【講演紹介】CNSフォーラム2006
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【講演紹介】CNSフォーラム2006 分科会4:各科における神経系疾患治療
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【講演紹介】CNSフォーラム2006 分科会6:治療のための診断―軽度発達障害を中心に
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【シリーズ】海外文献紹介
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【シリーズ】
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