臨床精神薬理
Volume 11, Issue 4, 2008
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【展望】
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AD/HDの治療における薬物療法の位置づけ
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionAD/HDの治療における中枢刺激薬を用いた薬物療法の意義は,近年わが国においても十分に認知されるようになってきた。しかし,その矢先にRitalin(R)の使用がAD/HD治療の領域では不可能となり,替わって長時間作用型methylphenidateであるConcerta(R)がAD/HD治療薬として販売開始になるという大きな波が襲ってきた。そのような現在であればなおさら,AD/HDの包括的な理解と評価に基づく,客観性のある治療の組み立てがより一層必要になったといってよいだろう。本稿ではそのような観点からAD/HDの全体像を概観し,薬物療法についても,最近の諸外国の治療ガイドラインを通してその位置づけを検討した。 Key words :AD/HD, guideline, methylphenidate, atomoxetine, pharmacotherapy
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【特集】AD/HDに対する薬物療法のエビデンス
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AD/HDの神経生物学的基盤と薬物療法のターゲット
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionAD/HDの発症にはドパミン神経に関わる複数の遺伝子アリルや胎生期における母胎の喫煙が関与している。さらに,AD/HD患者では,皮質下領域を中心にドパミン神経活性の低下が,また,ドパミン神経投射先を多く含む前頭皮質や前帯状回皮質の形態的/機能的異常や,大脳皮質の成熟遅延があることが明らかにされている。皮質―線条体―視床―皮質(CSTC)回路がAD/HDの病態を最も反映すると考えられ,Sonuga―Barkeは,CSTC回路の機能不全が実行機能と報酬系の機能障害をもたらし,AD/HDの中核症状をもたらすと考えた。Methylphenidateは,前頭皮質だけでなく,尾状核,被殻,側坐核にも直接作用し,いずれの脳部位においてもドパミン系の神経機能不全を改善することから,実行機能および報酬系の機能を改善する。一方,破壊的行動障害を併存するAD/HDの治療には,抗精神病薬を併用するケースもあるが,Grace理論に基づくと,methylphenidateはTonic相のドパミン濃度を上昇させ,抗精神病薬はPhasic相のドパミン神経のシグナルを直接遮断することによりTonic/Phasicバランスを正常化するという仮説が成り立ちうる。 Key words :attention deficit/hyperactivity disorder, dopamine, cortico―striato―thalamo―cortical circuit, executive function, reward system -
児童期のAD/HDに対するmethylphenidate速放錠・徐放錠のエビデンス
11巻4号(2008);View Description Hide Description注意欠陥/多動性障害の治療ガイドラインは,一致してmethylphenidate(MPH)を第一選択薬に位置づけている。MPH速放錠は,MTAスタディをはじめとする様々な臨床試験でその有効性が確認されてきたが,半減期が短く,リバウンドを来したり,学校での服用が必要になることから,アドヒアランスやプライバシーの面で問題があった。MPH徐放錠は,MPH速放錠を3分服した場合と同様の血中濃度の日内変化を示すが,血中濃度の立ち上がりは緩やかに上昇するように設計されており,リバウンドの回避,依存リスクの軽減を期待できる。日本では2007年10月に,MPH徐放錠が承認され,MPH速放錠からの切り替えが急速に進められている。本稿では,海外のエビデンスを中心にMPHの有効性と安全性を検討したが,さらに今後の臨床経験を踏まえた検討が必要である。 Key words :attention deficit/hyperactivity disorder (AD/HD), methylphenidate, osmotic―controlled released oral system, clinical trials, adherence -
Methylphenidateの依存リスク―基礎から臨床までのエビデンスの検討―
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionMethylphenidate(MPH)が物質乱用をもたらすリスクについて,薬理研究,動物実験,臨床的なエビデンスをもとに展望した。これらの研究から得られた知見は必ずしも一致しないが,多くのエビデンスは,MPH静注には一定の乱用リスクがあるものの,経口投与では乱用リスクが低いことを示している。さらに,臨床データに基づくと,MPH治療を受けた注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の児童では,将来の物質使用障害のリスクが低下する。AD/HD治療におけるMPHの長期的な影響を評価するには,縦断的な前向き研究が必要である。 Key words :methylphenidate, abuse, dependence, attention deficit/hyperactivity disorder -
AD/HD治療における成長遅延と心血管系副作用
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionAD/HDの薬物療法(中枢神経刺激薬)について,その効果に関しては短期的な効果,安全性に関しては様々なエビデンスが存在しているが,反面こうした薬剤の中期,長期的な使用における効果,副作用に関しては,まだまだ検討の課題を残している。こうした中,本稿では中枢神経刺激薬による心血管障害のリスク,成長遅延を取り上げ,これまでの報告を中心に概説を試みた。心血管障害のリスクに関しては,ケースレポートを背景とした米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会からの勧告に端を発し,血圧,心拍数などの心血管系への影響の報告はあるものの,実際のリスク評価に関しては,まだまだ一定の意見を得られてはいないのが現状である。一方,成長遅延に関しては,zスコア解析を用いた大規模研究においても,最初の1~3年で約1cm/年程度の成長遅延が示されていて,中期,長期的な薬物療法を行う上で,考慮されなければいけないものと言える。しかし,そのメカニズム,長期投与での最終身長への影響に関しては,今後のさらなる検討が待たれるところである。 Key words :methylphenidate, growth deficit, Multimodal Treatment Study of Children with ADHD, caridiovascular risk -
AD/HDに対するノルアドレナリン再取り込み阻害薬のエビデンス
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionAD/HDの薬物療法として本邦では保険適応外ではあるが,methylphenidate(MPH)が主に使われてきた。MPHは依存性などの副作用の問題はあるものの,患者の70%~80%に効果があるとされ,効果発現の早さなどからもAD/HD薬物治療の第一選択となってきた。しかし今後,本邦でもMPHの徐放剤であるConcerta(R)に続き,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるatomoxetine(Strattera(R))が使用可能になる見込みである。本稿では世界的にAD/HDに適応が承認されていて,エビデンスの蓄積があるatomoxetineを中心に記した。その結果atomoxetineは小児や成人のAD/HDにおいて精神刺激薬と並んで使用できる可能性が示唆された。しかし,精神刺激薬と同様に成長遅延の問題を始めとする副作用については,長期にフォローアップした研究がさらに必要である。 Key words :AD/HD, selective norepinephrine reuptake inhibitor, atomoxetine, methylphenidate -
AD/HDに併存する破壊的行動阻害に対する薬物療法のエビデンス
11巻4号(2008);View Description Hide Description破壊的行動障害(DBD)は反抗的,挑戦的行動によって特徴づけられる障害であり,注意欠陥/多動性障害(AD/HD)と併存することが多い。AD/HDに併存するDBDに対する治療法はまだ確立されていないが,さまざまな研究で薬物療法が有効であるというエビデンスが示されている。AD/HD治療薬であるmethylphenidateは,DBD症状の改善にも有効であることが多くの研究で示されているため,現時点では最も推奨されている薬物である。また,攻撃性に対しては抗精神病薬,atomoxetineなどの有効性が報告されている。DBDでみられる反抗的行動や攻撃性は,生物学的要因と環境的要因が複雑に影響しあって発現しているため,個々の症例に合わせて治療法を選択することが重要であり,薬物療法の際には心理社会的介入も併用して行うことが推奨されている。 Key words :attention―deficit hyperactivity disorder, conduct disorder, disruptive behavior disorder, oppositional defiant disorder, pharmacotherapy -
AD/HDに対する包括的治療のエビデンス―行動療法と薬物療法の統合―
11巻4号(2008);View Description Hide Description近年,注意欠陥多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder:AD/HD)の子どもに対する心理社会的治療と薬物治療を併用した包括的治療の有効性と必要性が報告されている。行動療法を用いた3週間の夏期治療プログラム(Summer Treatment Program:STP)に参加したAD/HD児で,行動療法単独では問題行動の修正が困難で,薬物療法との併用により臨床症状に大きな改善が見られた1例について臨床経過の詳細を報告し,エビデンスに基づく包括的治療の効果検証を試みた。 Key words :AD/HD, behavioral treatment, pharmacological treatment, summer treatment program -
成人期におけるAD/HDの診断と薬物療法における問題
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionAD/HDは,児童期のみならず,青年期,さらには成人期まで持続し,患者の社会生活機能を妨げることが認知されるようになった。成人期のAD/HDを対象にした二重盲検試験から,methylphenidate,atomoxetine,bupropion,三環系抗うつ薬の有効性が示唆されている。AD/HDは,物質使用障害のリスク因子であり,行為障害や双極性障害などの併存障害があると,そのリスクはさらに高まる。児童期からのmethylphenidate治療は,物質使用障害のリスクを軽減することが明らかとなっている。しかし,成人期の服用では中枢刺激薬の依存リスクが異なる可能性もあり,中枢刺激薬の投与について一層の慎重さが要求される。依存形成には,血中濃度の急激な上昇が関連することから,静脈内投与や吸入に比べて速放錠の経口内服,さらに血中濃度の立ち上がりが緩やかな徐放錠の内服は,より依存リスクが低いと考えられる。しかし,既に物質使用障害を認める成人には,依存リスクのないatomoxetineやbupropionの使用が推奨される。日本においては,成人期のAD/HDに対する治療薬が失われたという現状にあり,早急の対策が不可欠である。 Key words :attention―deficit/hyperactivity disorder, methylphenidate, atomoxetine, diagnosis, comorbidity, substance use disorder
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者の退院促進に関する調査―川口病院における非定型抗精神病薬導入後の薬物療法の変化との関係―
11巻4号(2008);View Description Hide Description現在,わが国の精神科医療では精神科病床を削減する方向に動いており長期入院患者の退院も含めた入院期間の短縮が求められている。精神科入院患者の多くは統合失調症患者であるが,その治療の中心である薬物療法は定型抗精神病薬(以下,定型薬)から非定型抗精神病薬(以下,非定型薬)に変わりつつある。今回,非定型薬の導入により統合失調症患者の退院が促進されたのかを川口病院にて調査・検証した。さらに,退院にいたった患者の薬剤の調査を行い適切な薬物療法とは何か検討した。その結果,わが国全体で短期入院の傾向が促進している状況において,非定型薬の導入も入院期間の短縮と退院患者数の増加に関与していることが示唆された。また結果として,1年未満の入院患者はもとより治療抵抗性症例と考えられていた長期入院患者の退院時処方にも非定型薬の単剤投与率が高かった。現時点での適切な薬物療法とは非定型薬の単剤投与であると考えられ,それが統合失調症患者の退院促進に関与していることが示唆された。 Key words :schizophrenia, typical antipsychotics, atypical antipsychotics, monotherapy, polypharmacy, reduction of hospital days -
「第2回 うつ病の薬物療法についての考え方」実態調査結果―より適切な薬物療法の推進を目標として
11巻4号(2008);View Description Hide Descriptionうつ病に対する薬物療法の実態を把握し,適切な薬物療法の推進に役立てることを目的として,インターネットもしくは調査票を用いた第2回の調査を実施した。抗うつ薬の選択にあたっては抗うつ作用の強さと問題となる副作用の少なさ・弱さが第一に重視されていた。うつ病におけるファーストラインの抗うつ薬はSSRI,SNRIであり,うつ病に不安障害が併発した場合のファーストラインはSSRIであった。うつ病の寛解の判断には就労・就学能力の回復やうつ症状の完全な消失,対人機能や社交性が第一に重視されていた。副作用に対して第一に選択される対処法は,服薬指導,副作用の少ない薬剤の選択,用量のコントロールであった。Discontinuation syndromeへの予防策としては,急に中止してはいけない理由を患者に伝え理解してもらうことが最善として選択された。 Key words :depression, survey, pharmacotherapy, first―line antidepressant, SSRI
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【症例報告】
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外来診療における初発・再発再燃21例へのaripiprazoleの使用経験―統合失調症の急性期から維持期を捉えた治療の重要性―
11巻4号(2008);View Description Hide DescriptionドパミンD2受容体パーシャルアゴニストという新規の薬理作用を有し,鎮静作用の極めて少ない特性を有するaripiprazoleを,外来診療における統合失調症の初発16例,再発再燃5例の計21例に投与した。Aripiprazole維持投与量は12~30mg/日の範囲が15例/21例(71.4%)であった。Aripiprazole投与期間は,半年以上の症例が13例(61.9%)を占め,現在も継続投与しているのは17例(81.0%)に達していた。Aripiprazoleの全般改善度は,中等度改善以上が71.4%(15例/21例)と高い改善率を示していた。また,患者自身による社会生活レベルの評価を行ったところ,aripiprazole投与初期より社会生活レベルの改善傾向が確認された。初発2例・再発再燃1例のaripiprazole投与経過も提示したが,いずれの症例も投与後1~3ヵ月で,復職したり,家事がこなせるなどの日常生活機能が改善し,社会復帰が早まっていた。以上の結果より,aripiprazoleは統合失調症の初発・再発再燃例の第一選択薬と考えられる有用性の高い薬剤であることが確認された。 Key words :aripiprazole, schizophrenia, first―episode, recurrent, social function -
強固な服薬拒否例に対するolanzapine口腔内崩壊錠の使用経験―長期維持が可能となった2症例―
11巻4号(2008);View Description Hide Description病識欠如と被害妄想や副作用から強固に服薬を拒否した2症例にolanzapine口腔内崩壊錠を投与した。2症例とも著明な急性期症状を呈し,治療への同意が得られなかったため,初期治療は強制的な治療となった。症状軽減後も病識がなく,根本的に服薬の必要性に否定的であったため,服薬の自己中断の危険性が高い症例であったが,olanzapine口腔内崩壊錠投与後,精神症状の安定とともに服薬に対する理解も得られ,長期的に治療が継続され,地域生活が円滑に営まれるようになった。Olanzapineによる精神症状改善とともに,口腔内崩壊錠という剤型のメリットが患者の治療の必要性に対する理解と服薬継続を促したと考えられた。 Key words :compliance, olanzapine, orally disintegrating tablets, insight, adherence -
初発・再発再燃で入院を余儀なくされた統合失調症10例に対するaripiprazoleの使用経験―Aripiprazole 12mg/日の初回(入院時)用量からの検討―
11巻4号(2008);View Description Hide Description初発・再発再燃で入院を余儀なくされた急性期統合失調症患者10例(初発3例,再発再燃7例)に対し,入院と同時にaripiprazole12mg/日の初回用量から投与を開始した。そのうち,1例のみaripiprazole12mg/日で継続投与し,その他の9例は15~24mg/日に増量したことから,平均維持用量は19.8mg/日であった。途中中止した1例を除くaripiprazole投与9例の急性期病棟入院期間は,14~65日間で平均43.8日間であった。10例の全般改善度は,中等度改善以上が80%(8例/10例)であり,悪化例はなかった。10例中9例は退院後もaripiprazoleを継続投与している。再発再燃1例と初発2例の個別報告も行った。3例ともに,aripiprazole12mg/日で開始し,18mgもしくは24mg/日と増量し,それぞれ35,56,35日間後退院に至り,日常生活も改善していた。以上のように急性期の入院を必要とする統合失調症に対して,aripiprazole12mg/日から開始し,12~24mg/日の維持用量で治療を行い,その有用性を確認した。 Key words :aripiprazole, schizophrenia, acute phase, hospitalization
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【総説】
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統合失調症治療におけるアドヒアランスとは
11巻4号(2008);View Description Hide Description近年,「コンプライアンス」に代わって,「アドヒアランス」という表現がしばしば用いられるようになった。しかし,2者の概念は明らかに異なる。「コンプライアンス」は主に「服薬遵守度」といった意味合いで用いるのに対して,「アドヒアランス」は薬物療法に限らず,健康問題に対する行動変容介入全般を対象とした概念である。各種の行動変容介入によって健康な状態を維持,継続することを,患者自らが肯定的に選択し,その実践に主体的に参画していく過程である。統合失調症は特にアドヒアランスが不良となりやすい疾患であり,しかも医師がその実態を把握することは容易ではない。特に統合失調症の治療においては治療者と患者の良好な治療関係が基本となり,この関係を構築することが統合失調症においてアドヒアランスを向上させる最大の対策である。アドヒアランス不良は統合失調症治療において最も重要といえる再発予防を困難にし,最終目標である再発のない安定した社会生活の維持を阻む主要な原因になる。また,アドヒアランスを向上させるには各種の系統的介入が必要であり,その一部として薬物療法の簡素化は有用と考えられる。 Key words :schizopherenia, compliance, adherence, antipsychotic medication, prevention of relapse
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【座談会】
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【講演紹介】統合失調症の薬物療法
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【講演紹介】がん患者の精神症状マネジメントとコミュニケーションスキル
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【シリーズ】
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