臨床精神薬理
Volume 13, Issue 1, 2010
Volumes & issues:
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【展望】
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統合失調症の早期介入と予防:認知障害の視点
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症の病態の中核は古くから認知障害と考えられてきた。認知障害は精神症状以上に疾患の機能的転帰に強い影響力をもっており,最近では機能的転帰に対してより特異的と思われる“社会認知”に概念が拡大し,さらに認知障害自体を治療標的と考えるようになってきた。統合失調症における認知障害の形成過程については,早期の神経発達障害に加えて,発症前の精神病への移行期前後での変化を支持する所見が増えており,さらに一部の認知機能は発症後にも変化する可能性があるとされている。こうした複数のおそらく連鎖的な病理過程が認知障害形成に関係していると推定され,認知改善のための治療“臨界期”はより早期にまで拡大して対人的,社会的機能障害の出現時点を考慮する必要があるだろう。その際,機能的転帰に特異的な認知領域に注目することと,疾患の異種性を考慮することが重要である。現時点では早期介入による認知改善の程度は限定的である。そのためより有効で安全な薬物療法の開発に加えて,精神病への発展過程を段階的に規定するモデルを構築し,機能的転帰に対する心理社会的影響因子を考慮した,しかも倫理的に十分配慮されたきめ細かい包括的治療法の開発が期待される。
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【特集】統合失調症発症前における予防的薬物療法の可能性
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統合失調症前駆期および初回エピソードにおける脳構造画像所見の特徴
13巻1号(2010);View Description Hide Description"脳画像研究の進展により,統合失調症における軽度の脳灰白質体積減少などの構造変化についての知見が集積されてきた。また近年では,統合失調症を含む精神病性障害に対する早期介入活動の新しい試みと軌を一にして,初回エピソード,さらに遡って前駆期における構造変化に関する研究報告も増加しつつある。それとともに,顕在発症が切迫した時期から初回エピソードにかけて,活発な進行性の脳体積減少が生じていることが明らかになってきた。本稿では,そのような病初期における脳構造画像研究の選択的なレビューを行い,特に進行性変化の特徴を明らかにするとともに,今後の課題について考察する。 -
統合失調症ないし精神病性障害の前駆期/超ハイリスクの症候学
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症ないし精神病性障害の発症前状態に関しては,本来後方視的な概念である前駆症と,前方視的な概念である超ハイリスク(UHR)/発症危険精神状態(ARMS)がある。UHR/ARMSは精神病状態発現の切迫したリスクがある人を同定しようとするものであり,CAARMS,SIPS/SOPSといった評価尺度ではUHR群の包含基準と精神病状態発現の基準が操作的に定められている。一方,統合失調症の前駆期に見られる特徴的症状を示したものに,Huberの基底症状と中安の初期統合失調症症状がある。これらはいずれも統合失調症の経過上最初期に出現すると考えられているものであり,前駆期における統合失調症の早期発見をその目的としている。本稿ではCAARMS,SIPS/SOPS,基底症状,初期統合失調症症状について症候学的側面から概説し,それらの異同について検討した。 -
統合失調症前駆期における薬物療法
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症を含む精神病の前駆期を対象とした医療的介入は,発症の遅延や社会機能の維持という観点から重要であり,関連する研究も多くなされている。例えば,第二世代抗精神病薬の予防的投与が,前駆期における精神病症状を軽減するなどのエビデンスが蓄積されつつある。また,発症予防に対する抗うつ薬の有効性などについても関心が向けられている。さらに,統合失調症の病因・病態生理に基づく新しい薬物療法に関する基礎的研究も進んでいる。本稿では,統合失調症への脆弱性を有するハイリスク者における発症前の薬物療法について,その意義,効果の検証,今後の方向性などに関し,これまで報告されている研究成果の概説を交え論じた。早期介入プログラムなどを通じた発症予測精度の向上への取り組みとともに,心理社会的アプローチと有機的に連動した予防的薬物療法の開発促進が,本邦においても今後期待される。 -
DUP(duration of untreated psychosis)と薬物療法による治療予後
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症を含む精神病においてDUP(duration of untreated psychosis)の短縮が予後の改善に繋がることから,早期発見・早期介入の必要性が強調されている。本稿では,まずDUPと予後の関係とその生物学的背景について概説した。さらに,薬物療法との関係性やDUPをめぐる今後の課題についてまとめた。 -
統合失調症スペクトラム障害に対する薬物療法の可能性
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症スペクトラム障害の明確な定義はないものの,統合失調症と似た症状を持つ精神障害,統合失調症とその他の精神障害との中間にある精神障害,統合失調症の病前段階と考えられる精神障害,そして統合失調症と遺伝的に類縁であると考えられる精神障害がそれに該当すると考えられている。具体的には,DSM-IV診断の統合失調症様障害,短期精神病性障害,失調感情障害,妄想性障害,共有精神病性障害,短期精神病性障害,特定不能の精神病性障害などの統合失調症および他の精神病性障害に分類されるもの,妄想性パーソナリティ障害,シゾイドパーソナリティ障害,失調型パーソナリティ障害のA群パーソナリティ障害と回避性パーソナリティ障害,そして統合失調症との鑑別が困難である場合があり,シゾイドパーソナリティ障害との異同が議論されるアスペルガー障害が含まれる。本稿では,これらの統合失調症スペクトラム障害の概念とその薬物療法の可能性について概説する。 -
非定型抗精神病薬による進行性脳病態保護の可能性
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症の初回精神病エピソード顕在化が切迫している「警告期」において,非定型抗精神病薬を用いた早期介入を行うことで,「警告期症候」の改善のみならず,精神病エピソード顕在化への進行,認知機能障害の進行および脳萎縮の進行を阻止できる可能性がある。その作用メカニズムは明らかでないが,MRS(magnetic resonance spectroscopy)を用いた研究から,こうした時期における脳内グルタミン酸系神経伝達亢進の可能性が想定可能である。さらに,我々の動物モデルのデータから,「警告期」におけるグルタミン酸放出亢進を,olanzapine,risperidoneおよびaripiprazoleなどが抑制することで,上記病態進行を阻止できる可能性が想定される。こうした病態進行と進行防止のメカニズムを明らかにすることが,早期介入の方法論のさらなる発展,開発につながるものと考える。
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【シリーズ】
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【原著論文】
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Social Adaptation Self-evaluation Scaleを用いたmilnacipranの臨床効果の検討
13巻1号(2010);View Description Hide Description"最近,うつ病患者の社会適応能力を評価するために有用であるといわれている,新たな評価尺度Social Adaptation Self―evaluation Scale(SASS)の日本語訳が作成され,日常診療においても使用することが可能となった。そこでうつ病患者のQuality of Life(QOL)検討の一環として,milnacipranの臨床効果を本評価尺度により評価することとした。さらに,ハミルトンうつ病評価尺度(HAM―D),自記評価式うつ病尺度(SDS)による評価も同時に行った。その結果,milnacipranはSASSにおいても効果があることがわかった。一方,SASSの推移とHAM―Dの推移に明らかな相関は認められず,社会適応能力の評価はSASSの方が有用であると考えられた。
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【症例報告】
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統合失調症患者の維持治療におけるquetiapineの使用経験
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症の治療は長期にわたることを考慮した場合,副作用の少ないquetiapineなどの第二世代抗精神病薬が維持治療に適していると思われる。Quetiapineは,陰性症状や認知機能障害を改善し,錐体外路症状の発現も少ない。しかし,D2受容体に対する親和性が低く,D2受容体からの解離が速いというquetiapineの特性は再発予防効果に適していない可能性も考えられる。今回,quetiapine単剤(300~400mg/日,1日3回投与)で維持治療していた統合失調症患者4例の症状再燃に対して,quetiapine単剤(400~500mg/日)の就寝前1回投与で長期間(9~20ヵ月)維持できた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。
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【総説】
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統合失調症の認知機能に対するolanzapineの効果
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症の中核症状と考えられている認知機能障害は,患者の社会機能の低下を招き,さらにはQuality of Lifeを悪化させ,社会復帰への大きな障害となる。統合失調症の認知機能障害は明らかな精神症状の発現以前の前駆期から存在し,その後長期にわたって存在するとされ,統合失調症治療において認知機能障害の改善を目標とすることは重要であると考えられている。既報の臨床研究より,非定型抗精神病薬の認知機能障害に対する有効性が示されており,その効果が期待されている。現在までに数種類の非定型抗精神病薬が統合失調症治療薬として承認されており,追加研究が必要であるものの,認知機能障害に対しそれぞれ異なる効果を示すと考えられている。本稿では,olanzapineの統合失調症患者の認知機能に対する有効性についての研究結果を中心に概観した。統合失調症の認知機能障害に関する研究は発展途上であるが,本論文が有益な情報となることに期待したい。
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【資料】
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日本における統合失調症入院患者への薬物療法の特徴―東アジアにおける向精神薬の国際共同処方調査REAP-AP2(Research on East Asia Psychotropic Prescription Pattern-Antipsychotics 2)の結果から―
13巻1号(2010);View Description Hide Description"2004年に東アジアの国々で,統合失調症入院患者に対してどのような処方がなされているのかを調査した。本論文は,その国際共同研究の結果を紹介し,2001年に実施した同様な調査の結果と比較検討したものである。2001年および2004年の調査には,中国,香港,日本,韓国,シンガポール,台湾という東アジアの6つの国・地域から多くの施設が参加し,共通の研究プロトコールに従って,統合失調症と診断された2,000を超える症例の処方を調査した。2001年の調査では,日本の多剤併用,大量処方が,近隣のアジア諸国・地域と比較し顕著であることが指摘された。2004年の調査で明らかになったのは,2001年と比較して参加国・地域の中で唯一,日本において平均抗精神病薬投与量の有意な低下を認めたことである。抗精神病薬の多剤併用も,日本と台湾において有意に減少していた。しかし日本における併用の頻度は依然高く,中でも定型+非定型という組み合わせの多剤併用が,他の国・地域と比較して多く見られ,また非定型+非定型という組み合わせも増加していた。日本における抗精神病薬の処方に関して,定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の適正な併用をどのように考えるか,また新たな形の多剤併用を如何に減少させるのかが重要な課題である。
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【特集】Clozapine症例集Ⅰ(全2回)
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Clozapine投与後に精神症状は著明に改善したが腸炎のため継続を断念した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"Clozapineの重篤な副作用として無顆粒球症や好中球減少症が知られており,白血球数および好中球数のモニタリングにおけるclozapineの投与中止基準も定まっている。我々はclozapine投与により顕著な精神症状の改善を認めたが,その後重篤な感染症を合併し,白血球数および好中球数が本来増加すべき状態で増加しなかった症例を経験した。Clozapineとの因果関係は証明されていないが,同薬投与中にはたとえ投与中止基準に抵触しなくても,clozapineにより免疫応答が抑制されている可能性も念頭に置くべきと考えられた。 -
Clozapine治療中に急激な肝障害と好酸球増多を来した難治性統合失調症患者の1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"治療抵抗性統合失調症患者に対するclozapine(CLZ)の安全性と有効性を検討する24週間,多施設共同試験で,急激な肝障害と好酸球増多を来し,CLZ治療が中断となった1症例を報告する。CLZは治療抵抗性統合失調症に対して高い有効性を示すことが知られるが,免疫系に対して強く作用する症例,糖代謝異常を来す症例も数多く報告されている。その際には,迅速に他科との連携をはかることが重要であると思われた。 -
治療抵抗性統合失調症にclozapineが著明に有効であった1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"非定型抗精神病薬にほとんど反応せず,眼球上転の副作用を繰り返し,服薬が中断しがちだった統合失調症患者にclozapineを投与した。副作用はほとんどなく,症状の改善も示した。退院の目途が立たなかった症例であったが,clozapine投与から9ヵ月で退院に至った。しかし,退院後すぐに服薬の中断があり,治験は終了せざるを得なくなった。統合失調症患者の服薬についてあらためて考えさせられる症例であった。 -
Clozapineの投与により疎通性改善がみられた治療抵抗性統合失調症の1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"治療抵抗性統合失調症患者に対するclozapine(CLZ)の安全性と有効性を検討する24週間,多施設共同試験で,CLZの投与により慢性固定期にあった治療抵抗性統合失調症患者に疎通性の改善がみられ,病棟での生活の幅が拡がった。副作用としては,耐糖能異常が出現し,45週で投与中止となったが,服薬の中止により回復している。CLZは無顆粒球症や心内膜炎などの重篤な副作用が報告されているが,十分な監視のもとに使用する価値はあると考えられる。 -
Clozapineにより解体症状が改善した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"統合失調症の主要な症状の中でも解体症状は治療抵抗性であり,また疎通性が悪いことで日常生活能力や社会生活力に大きな影響を与える。今回解体症状が著しく,また抗精神病薬投与により副作用が生じやすく,服薬中断により入退院を繰り返した34歳,男性の解体型統合失調症患者に対してclozapine(維持量425mg/日)を投与し,解体症状の改善を認めた症例を経験したので報告する。 -
電気けいれん療法および抗精神病薬大量療法が無効であった症例に対してclozapineが有効だった1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"治療抵抗性統合失調症に対する治療として,電気けいれん療法や超高用量抗精神病薬療法はさまざまなガイドラインにおいて下段に位置づけられており,慎重に適応を限定された上での選択肢とされている。今回,電気けいれん療法や超高用量抗精神病薬療法が無効であり,隔離を余儀なくされていた統合失調症患者にclozapineを投与し,自宅退院可能となった症例を経験した。今後,さらに生活範囲拡大のためにclozapineを増量したいが不安を抱いており早期の普及が望まれる。 -
Clozapine中止後も顆粒球減少症が再燃した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"Clozapineによる無顆粒球症は有名であるが,その副作用にもかかわらず血液モニタリングシステムによる厳重な管理のもと治療抵抗性統合失調症に対して世界各国で使用されている。今回,clozapineによる顆粒球減少症により投与中止となった後,速やかに好中球数回復したが,約5週間後,顆粒球減少症が再燃したケースを経験した。本症例を通してclozapine中止後も,血液モニタリングシステムによる厳重な経過観察が必要であると思われた。 -
Clozapineにより症状の改善傾向を認めたが肝酵素値上昇のため投与中止した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"幻聴とそれにともなう行動異常や陰性症状のため長期入院を余儀なくされていた治療抵抗性統合失調症患者にclozapine(以下CLZ)単剤投与を行ったところ,幻聴や行動異常はほぼ消失し,疎通性や自閉性にもある程度の改善を認めた。長期投与期間中に肝酵素検査値の上昇のため治験中止となったが,CLZによる臨床症状をともなわない一過性の肝酵素上昇は多く見られるものであり,CLZの有効性や至適用量の設定とともに治療継続には一考の余地があると考えられた。 -
自殺の危険因子をともなう治療抵抗性統合失調症に対するclozapine治療の経験
13巻1号(2010);View Description Hide Description"症例は19歳頃に幻聴,妄想などで発症し41歳時にclozapineを開始した統合失調症の女性。実母,実兄が自殺既遂。本人も20歳時の精神科初診以後,複数回の自殺企図がある。複数の第1世代および第2世代の抗精神病薬が単剤あるいは多剤併用で投与されてきたが,幻覚,妄想,希死念慮が消失することはなく,これまで十数回の入院を要した。Clozapine単剤による治療を開始したところ,それまで固辞してきたデイケアを利用するようになり,その後希死念慮の訴えが減少したとの家族の評価を得ている。 -
Clozapine単剤治療によって生じた無症候症のアミノトランスフェラーゼ異常に対処した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"薬物治療抵抗性の統合失調症患者にclozapine単剤治療を行い,短期間で著効を認めた1例である。投与直後より,血清アミノトランスフェラーゼ(AST,ALT)値の上昇が繰り返し認められた。しかし,これらは無症候性のものであり,いずれも減量または現状量維持による経過観察によって,1~2週間ほどで正常化に至るものばかりであった。 -
Clozapine投与下でもなお施設内適応を脱することができなかった1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"幻覚妄想に影響された衝動行為や自傷行為を呈する長期入院処遇の治療抵抗性統合失調症患者に対しclozapineの使用を試みた。本症例におけるclozapineの使用は衝動行為にともなう隔離・拘束の頻度を減少させたものの完全消失には至らず,なお当院の閉鎖病棟での処遇継続を要した。Clozapineは従来の治療に抵抗性の患者においても一定の効果が期待できる。しかしそれでもなお,十分な寛解には至らない患者群が存在することも事実である。 -
Clozapine投与により脳波異常~てんかん発作が出現した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"Clozapineは治療抵抗性の統合失調症に対して優れた効果を発揮する一方で,無顆粒球症を代表とする重篤な副作用が存在する。中でも,てんかん発作は抗精神病薬の一般的な副作用として知られているが,clozapineは他の抗精神病薬よりもその出現頻度が高い。我々は,clozapine増量後にてんかん発作が出現し,抗てんかん薬中止後に再び脳波異常が認められた症例を経験した。Clozapineを導入するにあたっては,事前および定期的な脳波検査の施行が必要であると考えられた。 -
Clozapine治療により精神症状の改善とジストニアが消失した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"治療抵抗性の33歳,男性統合失調症患者にclozapineを投与することで精神症状や疎通性の改善が認められた症例を報告する。本症例は著明な頸部屈曲が認められ,抗パーキンソン病薬への反応も乏しく遅発性ジストニアと考えられたが,clozapine投与によりこの頸部ジストニアも消失し,日常生活や行動も大きく改善し,自宅退院となった。 -
Clozapineにより認知機能が改善した治療抵抗性破瓜型統合失調症の1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"幻嗅と幻聴が活発で,洗浄強迫を認め,それぞれ週に一度のデイケアと作業所に通う以外はほとんど家から出ずに,家族以外とはほとんど接触のない状態で過ごしていた治療抵抗性の統合失調症患者が,clozapine投与により徐々に幻覚体験や強迫観念に対し距離の取り方を覚え,作業所への通所回数が増加してきている1例を経験した。幻覚や強迫観念に対し,なるべく囚われないようにする態度が身についてきていると考えられた。 -
Clozapineにより著明な陰性症状・認知機能の改善が認められた1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"怠薬を引き金とした急性増悪を繰り返していた21年の罹病期間のある統合失調症の男性症例である。種々の抗精神病薬による治療でも改善の得られない治療抵抗性であり,陽性症状の持続とともに人格水準の低下が目立つ状態が長く続いていた。Clozapine導入にて幻覚妄想状態の軽減とともに陰性症状・認知機能障害の著明な改善がもたらされ,その結果,生活機能が改善し・社会適応能力がこれまでの治療経過の中で最も向上した。 -
好中球減少症によりclozapineを中断した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"37歳,男性。薬物への反応が乏しい治療抵抗性の統合失調症患者で,被害的な内容の幻聴や体感幻覚が活発にあり,周囲から攻撃を受けているという妄想が強かった。そのため,しばしば他の患者や看護師に対して攻撃的になり,結果として抗精神病薬の多剤併用処方と長期の入院生活を強いられていた。陽性症状と暴力的な傾向を改善する目的でclozapineの治験に参加したが,好中球減少をきたし開始後9週にて中断となった。しかし,幻聴などの症状に大きな変化はなかったものの,治験期間中には攻撃的な様子は影を潜め,「力が入らない」などと訴えながらも,服薬を嫌がる様子も見られなかった。 -
Clozapineにより暴力と多飲症が改善し、アドヒアランスも改善した1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"32歳,男性。統合失調症であるが,病識が不十分であり,怠薬による再燃を繰り返していた。また,活発な幻聴や体感幻覚があり,そのために暴力的になる様子がしばしば見られただけでなく,経過中出現した多飲症により,もうろう状態で嘔吐しながらも飲水しようとするなどの状態も認められていた。Olanzapineの高用量処方,risperidoneなどの薬物療法への反応は不十分で,活発な幻覚に左右されることや過剰な飲水のために体重が著明に増加し精神症状・神経症状が悪化することが繰り返し出現したため,clozapineの治験へ参加することとなった。Clozapineを服用したことにより,幻聴や多飲傾向自体が消失することはなかったものの,幻聴に左右されることや多飲による精神症状,意識レベルの変化,低ナトリウム血症は認められなくなり,自宅でも怠薬することなく安定した生活が送れるようになった。 -
Clozapineにより陽性症状、陰性症状の両方に改善が認められた、精神発達遅滞をともなう統合失調症の1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"32歳,男性。軽度精神発達遅滞を合併した統合失調症である。既存の抗精神病薬による治療への反応は不十分で,活発な幻聴に加えて衝動性の亢進に基づくさまざまな問題行動があり,保護室の長期使用を余儀なくされていた。また,日常生活においては好褥的で自発性に欠け,周囲との交流もほとんどない様子であった。Clozapineを開始した後もしばらくは不安定な状態が続いていたが,増量とともに精神症状全般における改善が認められるようになり,一般病室での生活が可能になるだけでなく,以前はできなかった身の回りのことが自発的にできるようにもなった。本症例はclozapineが幻聴や衝動性などの症状だけでなく,自発性の低下や意欲の低下などの症状に対しても一定の効果を発揮した1例である。 -
Clozapineが奏効した妄想型統合失調症の1例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"長期にわたり幻聴,被害関係妄想を主症状とした病的体験が持続していた治療抵抗性妄想型統合失調症患者に対してclozapine治療を導入した。導入時より著明な顆粒球数の変動が認められたが,BPRSおよび日常生活における活動性の改善を認めた。退院後も状況反応的に病状の動揺は認められるものの,再入院に至ることなく外来治療継続中である1例を経験したのでこれを報告する。 -
Clozapineが効果的であった治療抵抗性統合失調症の2例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"今回,治療抵抗性統合失調症に対して有効であるとされているclozapineが一定の効果を示した治療抵抗性統合失調症の2例を経験したため報告する。2例ともに非定型抗精神病薬を含めた数通りの薬物療法によっても改善せず,mECTを行ったという治療歴がある。ClozapineによってBPRSの得点および実際の臨床において両者ともに改善効果を認めた。Clozapineは重篤な副作用の発現に注意しつつ処方することで,治療抵抗性統合失調症に対して切り札となり得る薬剤であると考えられる。 -
Clozapineが効果的であった重大な他害行為を行った統合失調症の2例
13巻1号(2010);View Description Hide Description"今回我々はclozapineが効果的であった重大な他害行為を行った統合失調症の2例を経験したため報告する。2例ともに重大な他害行為を行い当院へ入院となった症例である。長期にわたる薬物療法に対して改善は乏しくmECTも併用するなど治療は難渋した。Clozapineの治験へ参加したことで,両者ともに参加前と比較して改善を認めた。1例はclozapine治験中に白血球数が中止基準値近くまで減少した。無顆粒球症という重篤な副作用のリスクを考慮しても,clozapineは統合失調症の治療において大変重要な役割を担っていると考えられる。
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【講演紹介】
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