臨床精神薬理
Volume 15, Issue 9, 2012
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【展望】
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Lithium療法の歴史と現状
15巻9号(2012);View Description Hide Description我が国で最初にlithiumの抗躁作用が発表されたのは1968年である。それ以来-1975年にかけて全国の精神科医師がlithiumに関心を持ち,非比較試験の成績発表が続いた。そして,lithiumが市場に登場することを期待して,chlorpromazine(CPZ)を対照薬として二重盲験比較試験が行われた。1~5週間にかけて全ての期間でlithiumはCPZより効果が優れていた。Lithiumの投与量は平均1100mg/日,血中濃度は0.3~1.0mEq/Lであった。同時期にlithiumの抗うつ効果を確かめるためimipramineを対照薬とした二重盲検比較試験が筆者等により行われ,軽症から中等症のうつ病に対する有効性が確認され,発表された。Lithiumの副作用については特記すべき点はなかった。 Key words : history of lithium therapy, mood stabilizer, bipolar disorder, antidepressant, atypical antipsychotics
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【特集】 Lithium再考:多様なムードスタビライザーの時代にlithiumを再考する
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Lithiumの作用メカニズムはどこまで分かったのか?
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionGSK-3やIMPaseの阻害作用など,近年明らかになったlithiumの作用機序についてまとめた。最終的にlithiumは成長因子の増加,autophagyの活性化,神経新生の増加,興奮毒性やアポトーシスの減少など,神経保護的な働きを強化する。それぞれの機序はお互いに関連しており,どの機序が最も効果に関連しているかを特定するのは難しい状況であるが,lithiumの作用機序を突き詰めることは双極性障害の生物学に新たな発見をもたらす可能性がある。Lithiumの作用機序に関する臨床研究は始まったばかりであるが,pharmacogenomicsやneuroimagingの研究法は近年著しく進歩しており,さらなる研究成果が期待される。Lithiumの神経保護作用は,双極性障害以外にも脳損傷や脳虚血,アルツハイマー型認知症,ハンチントン舞踏病,筋萎縮性側索硬化症など様々な精神神経疾患に有効であることが議論されており,今後の臨床研究も期待される。 Key words : lithium, molecular action, pharmacogenomics, neuroimaging, neuroprotective effect -
神経心理学的側面からみたlithiumの効果
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionLithiumの有効性について,認知機能,衝動性,気分安定化に対する効果に関して概観した。認知機能に対する悪影響は軽微であり,長期投与によって神経保護効果を発揮し,気分障害のみならず様々な疾患に伴う認知機能障害の改善あるいは進行防止の可能性が示唆されている。また,衝動性軽減効果があり,気分安定化作用を発揮するために必要な血中濃度よりはるかに低値で,その効果を示すと考えられている。さらに,気分安定化作用は,うつ病相に対しては弱いものの,急性効果,再発予防効果のいずれも有しており,万能型のムードスタビライザーと位置付けられている。作用機序については,神経保護作用あるいは神経可塑性作用に基づく可能性が示唆されている。 Key words : lithium, bipolar disorder, cognitive function, impulsivity, mood stabilizer -
ムードスタビライザーとしてのlithiumの位置づけを巡る議論
15巻9号(2012);View Description Hide Description近年,それまで躁状態に対する付加療法の1つであった抗精神病薬が,多くの臨床試験の結果から,それ自体が気分安定化作用を持つ薬剤として認知され,本邦でもolanzapine,aripiprazoleが双極性障害の諸症状に対する適応を新たに得ている。一方,双極性障害の治療におけるgold standardと考えられていたlithiumは,精神疾患に対する薬物療法の黎明期に発見されたが故に,その有用性を実証した試験の方法が,現在の厳しく管理された臨床試験の方法と比較すると十分ではない。そのため,lithiumの本来の実力が問われる中,新たにlithiumを対象とした臨床試験が行われ,その有用性や限界が明らかになりつつある。それら新たな知見から,うつ病相においては,lithiumの有用性を上回る薬剤が現れてきたが,躁病相や維持療法においては,現在もなお,第一選択薬に位置する薬剤であると考えられた。 Key words : lithium, mood stabilizer, bipolar disorder, manic phase, depressive phase -
双極性障害に対するlithium療法の実際
15巻9号(2012);View Description Hide Description双極性障害の治療において,lithiumは効果における極性特異度が少なく,躁・うつの両病相に対する急性効果と再発予防効果を併せ持つ総合的なmood stabilizerと考えられてきた。しかし,evidence-baseでの実質的効果は,躁病急性期における第2世代抗精神病薬,うつ病急性期におけるquetiapine,うつ病相再発予防におけるlamotrigineよりも劣ることが示唆されている。Lithiumは,遺伝負因を背景に持ち,経過上,病相の反復が少なく,病相間に一定の寛解期間を挿み,躁時には爽快気分を主徴とする,といった古典的病像・経過に対して良好な反応を示す一方で,残遺症状,精神病像,混合病像,急速交代がある場合の反応は不良とされる。本剤は治療濃度域を考慮した投与量設定を行う必要があり,抗躁効果として0.6-1.0mEq/L,抗うつ効果として0.4-0.8mEq/L,再発予防効果として0.6-0.8mEq/Lの血中濃度を一応の目安とする。慢性投与時には,3ヵ月ごとの薬物濃度モニタリングと6ヵ月ごとの甲状腺ホルモンおよび腎機能の定期検査を行うことが望ましい。 Key words : lithium, bipolar disorder, acute effect, relapse prevention, therapeutic drug monitoring -
Lithiumによるaugmentation療法を巡る問題
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionLithiumによるaugmentation療法(=lithium augmentation)は,抗うつ薬による治療で寛解に至らない治療抵抗性うつ病の治療において,最もエビデンスレベルの高い選択肢として多くのガイドラインで推奨されている。その作用機序として,lithiumはセロトニン系システムを介して抗うつ薬の効果を増強させる可能が示唆されているが,臨床上,治療抵抗性うつ病患者がlithiumの追加投与に反応を示した場合,lithium augmentationの効果をlithium単独の気分安定薬としての効果と区別することは困難である。Lithium augmentationは大うつ病性障害~双極スペクトラム障害~双極性障害といった幅広い対象に行われており,特に抗うつ薬の有効性が確立していない双極性障害においては,lithium単独の効果であることが予想される。Lithium augmentationの有効性はbipolarityとの関連が示唆されており,有効性予測因子として「第一度親族における双極性障害の家族歴」が有用であることが報告されている。Lithium augmentationへの反応性そのものが,bipolarityの指標の1つとして診断を見直す手がかりとなりうるであろう。また今後の課題として,lithium augmentationによって寛解に至った後の維持療法について,さらなる研究が必要である。 Key words : lithium augmentation, treatment-resistant depression, major depressive disorder, bipolar depression, bipolarity -
自殺防止とlithium
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionLithiumの自殺予防効果を,医薬品としての立場と,微量元素としての立場から検討した。いずれの立場においても,lithiumの自殺予防効果を示すエビデンスは増加している。Lithiumの自殺予防効果には気分安定化作用を介さない機序も存在する可能性があり,それはおそらく衝動性や攻撃性に対する緩和作用と考えられる。これによって,精神疾患を有する患者はもとより一般の健常人においても,微量なlithiumが自殺予防に役立つ可能性が示唆される。また,自殺予防効果とは別に,lithiumに長寿効果があるかもしれない。この夢のような可能性を検討するために,今後さらに研究を重ねる必要があるし,研究する価値も大きい。 Key words : lithium, aggression, impulsivity, longevity -
長期lithium療法の安全性――維持療法の際に注意すべきポイント
15巻9号(2012);View Description Hide Description双極性障害はいったん維持療法が開始されると,それはほぼ生涯にわたる長期間の治療となる。Lithiumは今日においても維持療法の第一選択薬であるが,一定の注意を払えば安全に使用できる薬剤である。しかし,治療期間が長期にわたることは,患者の心身の状態が治療開始時とは大きく変化する可能性のあることを意味する。それに伴い,当初は起こりえないと考えられた有害事象が出現する場合もありうる。本稿ではlithium長期投与時に問題となる副作用を概括した。特にlithium中毒は未然に防止することが求められるが,長期投与に伴う慢性中毒が急性中毒よりも重篤になりやすいこと,血中濃度が治療域に保たれていても中毒症状が出現することがあること,治療期間が長期に及ぶ中での患者の心身の変化が中毒の引き金になることがあること,身体疾患治療薬との相互作用で中毒を引き起こすことがあることなど,長期のlithium投与にあたって注意すべき点を列挙した。 Key words : lithium, bipolar disorder, long-term maintenance treatment, lithium intoxication
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【シリーズ】
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【原著論文】
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Aripiprazoleの外来処方調査――5年転帰データからみる長期有用性の検討
15巻9号(2012);View Description Hide Description以前,当院外来にてaripiprazole(APZ)発売の2006年6月から6ヵ月間,統合失調症患者を対象にAPZの8週間投与による評価を報告した。今回はその後5年間の追跡調査を行い,長期の有用性について検討した。対象症例47例において,投与5年後の治療継続率は29.8%(14例)であった。中止・脱落の理由として一番多かったのが,症状改善後来院しなくなった例であり,次いで症状悪化や副作用であった。いずれも投与初期での脱落例が多かった。また投与8週時の全般改善度(中等度改善以上)は48.9%(23例)であったが,投与5年後では59.6%(28例)と服薬継続によって更なる改善が示された。副作用は投与8週で59.6%(28例)にみられたが,8週以降では26.3%(10例)と副作用の発現は少なくなった。以上よりAPZが長期投与に適した有用性の高い薬剤であることが示唆された。 Key words :aripiprazole, schizophrenia, outpatient, long―term effectiveness, drug continuation rate -
認知症へのmemantine実践的投与:鎮静効果による介護負担軽減と活動性低下などの副作用を減らす減量投与について
15巻9号(2012);View Description Hide Description【目的】認知症へのmemantine実践的投与。【方法】対象:外来の44名:アルツハイマー病(AD)32名,レビー小体型認知症(DLB)6名,前頭側型認知症(FTD)5名他 投与:memantineを20mgまで増量中に有害事象が現れた場合は減量/中止。評価:投与開始前と維持量12週後にMMSE,NPI,NPI―Dの評価とアンケート。【結果】1)経緯と有害事象:全体では認知機能・意欲の低下,興奮,胃腸障害,血圧上昇などで9例が中止,10例が10~15mgの減量投与。2)評価結果:全体(n=25)では12週後にMMSEに有意差なし。NPIはDLB/FTD(n=6)で改善傾向を示したが全体(n=22)では有意差なし。NPI―Dを指標とした介護負担は全体で有意に低下(n=22,p=0.045)。投与開始前MMSE得点と各指標変化点数との間に相関なし。3)介護家族アンケート:全体(n=28),とくにDLB/FTD(n=9)では,穏やかさ,イライラ,不安などで改善が悪化を上回った。【まとめ】ADでは鎮静作用があり,有害事象による中止や減量投与が目立った。DLB(10mg減量投与)とFTDでは易怒性低減と介護負担の低減が期待された。20mgにこだわらず,症例ごとに適量を投与することで,活動性低下などの有害事象を減らす工夫が必要。 Key words :memantine, Alzheimer disease, dementia with Lewy bodies, front temporal dementia, care burden -
RLAIを投与した35症例の症状・薬剤量の変化の調査――外来群と入院およびグループホーム入居患者群の比較をまじえて
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionRisperidone持効性注射剤(RLAI)の特徴を明確にすることを目的に,RLAIを投与された35症例(40例中,5例中止)のCGI,GAF,抗精神病薬投与量,抗精神病薬剤数の変化を切り替え前の薬剤と比較した。なお,5例の中止例は,3例が症状悪化,2例が本人希望により変薬となった。調査は後方視的に行われ,調査期間はRLAI投与開始から12週間とした。また,上記35例を,コンプライアンスが良好と思われる入院およびグループホーム入居者群と,ともすればコンプライアンスの不良も予測される外来群の2群に分割し,その2群間の比較検討も行った。全体のRLAI投与開始から12週後の全般改善度(CGI)は,著明改善5例(14.3%),中等度改善5例(14.3%),軽度改善14例(40.0%),不変10例(28.6%),軽度悪化1例(2.9%)であり,症状改善を軽度改善以上とする定義すると症状改善率は68.6%であった。そのうち,定型LAIからの切り替えは6例(17.1%)で,RLAI使用後は,GAFは35.8から49.2と変化し,症状改善率(軽度改善以上)は83.3%であった。また,経口risperidone(RIS)以外の非定型薬主剤が8例(22.9%)で,RLAI使用後は,RIS主剤の場合は,GAFは41.5から52.3と変化し,症状改善率(軽度改善以上)は,70%であった。それに対して,経口RIS以外の経口抗精神病薬からの切り替え症例では,GAFは43.8から56.3と変化し,症状改善率(軽度改善以上)は75%であった。次に,入院およびグループホーム入居者群と外来群の症状改善率の比較では,入院患者およびグループホーム入居患者群46.7%,外来群85%であった。またGAF平均スコアは,入院患者およびグループホーム入居患者群で42.8から53へと改善し,外来群で33.8から49.5へ有意な差をもって改善した(p<0.01)。抗精神病薬投与量については,入院およびグループホーム群では前薬611.5mg,12週後434.3mgへと有意(p<0.05)な減少を認めたが,外来群では前薬622.6mg,12週後512.8mgへと減少したものの有意な差は認められなかった。 Key words :risperidone long―acting injection, adherence, GAF, CGI, drug dosing -
統合失調症薬物療法治療においてaripiprazoleの薬理特性を考慮した使用方法に関する検討
15巻9号(2012);View Description Hide Description松阪厚生病院精神科を受診し,筆者が診察を行った統合失調症患者93例に対するaripiprazoleの使用方法に関する調査を後方視的に実施した。患者は統合失調症の初発および再発を含み使用方法は様々であった。Aripiprazoleが維持用量に入るまでの期間が初発と切り替えでは異なっており,初発では維持用量までの到達期間が短い傾向であった。また切り替え症例においては初期用量の違いによって継続率に差が生じており,3mgの低用量開始群は6mg,12mgに比較して継続率が高かった。いずれの方法においても副作用の発現頻度や,その種類には違いはなく,錐体外路症状は少なく,脂質代謝異常や高プロラクチン血症はなく,切り替え症例においては体重が有意に減少していた。また,治療継続率は高く長期にわたり維持治療が可能な状態であった。以上よりaripiprazoleは使用する患者によって使用方法を変更することで,有用に使用できる可能性が示唆された。 Key words : aripiprazole, schizophrenia, switching, pharmacology -
Ramelteon投与によるベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬離脱へのアプローチ
15巻9号(2012);View Description Hide Description精神疾患に伴う不眠症に対しベンゾジアゼピン(BZ)系・非BZ系睡眠薬を内服中の外来患者にramelteonを上乗せ投与し,睡眠薬処方の変化,薬の飲み心地,安全性等を調査した。19例にramelteon 8mg/日を投与し12週間維持した。平均年齢は55.8歳,罹病期間は20.4年,精神科治療期間は17.2年で,主診断は統合失調症が最多であった。Diazepam換算値が有意に減少し(初回:12.2vs.4週:10.2mg, P=0.008;4週vs.12週:7.4mg, P=0.008),減少量は初回から4週まで2.1mg,初回から12週まで4.9mgであった。剤数(ramelteon含まず)も有意に減少した(初回:1.9vs.4週:1.5,P=0.018;4週vs.12週: 1.2,P=0.028)。DAI-10(Drug Attitude Inventory-10 Questionnaire)スコア上昇は4週までに留まり(初回:7.3vs.4週:7.9, P=0.045;4週vs.12週:7.9, P=0.798),副作用を訴える患者は52.6%(初回)から10.5%(12週)に減少した。介入したことで通常臨床より減量の動機づけが進み,薬剤減量により副作用は減少した。メラトニン受容体作動薬ramelteonへの置換法はBZ系・非BZ系睡眠薬離脱のための有力な選択肢となり得る。 Key words : ramelteon, insomnia, benzodiazepine, non-benzodiazepine, melatonin
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【症例報告】
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lozapineによって頻回の解離症状・自傷行為が消失した治療抵抗性統合失調症の1例
15巻9号(2012);View Description Hide DescriptionClozapineは治療抵抗性の陽性症状を有する統合失調症患者や,錐体外路症状の出現によって抗精神病薬の忍容性に問題を有する統合失調症患者に対して効果的である。また自殺企図のあるケースにおいて,そのリスクの軽減に有効であることもよく知られている。しかし難治例ではしばしば感情障害や解離症状,自傷行為など多彩な精神症状を伴うこともある。今回我々は若年女性の統合失調症患者で,幻覚妄想の他に解離症状と自傷行為が繰り返される症例に対して,clozapineを使用したところ全ての症状が大幅に改善した症例を経験した。本症例を通じてclozapineが様々なタイプの自傷行為・自殺企図に極めて有効であり,自殺関連症状のある症例に極めてよい適応であることが改めて示唆された。 Key words :clozapine, dissociative symptom, schizophrenia, self―harm, suicide
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【Letters to the editor】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第14回 Triazolo benzodiazepine物語――その3 失われたbenzodiazepine系抗うつ薬の物語
15巻9号(2012);View Description Hide Description
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【座談会】
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