臨床精神薬理
Volume 16, Issue 2, 2013
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
産業精神保健に関連する精神薬理学的な知見
16巻2号(2013);View Description Hide Description産業精神保健領域では,不眠症,うつ病,妄想性障害などの精神医学的な問題が増加しているが,その治療に用いられる睡眠導入剤,抗うつ薬,抗精神病薬などの向精神薬に対しても職場には偏見を持つ人が多い。病気の性質を考えれば,副作用を考慮しながら相当の期間服用を継続しなければ,これらの疾患は再発・再燃を起こす可能性がある。職場側には,これらの病気だけでなく治療に対する正しい理解が必要であり,その中には向精神薬の知識も含まれると考えられる。 Key words : occupational medicine, antidepressant, sleep inducer, occupational physician
-
-
【特集】 「職場のうつ」に対する薬物療法
-
-
職場における多様なストレスとその軽減・対処方法
16巻2号(2013);View Description Hide Description現代の職場におけるストレス要因,職場におけるストレス・マネジメント,精神科医のかかわりなどについて,公的資料や,企業の健康管理センターにおける筆者の経験をもとに概説する。厚生労働省が平成19年に行った調査によれば,58.0%の労働者が「強い不安,悩み,ストレスがある」と回答しているが,内容としては職場の人間関係の問題が最も多かった。強い不安,悩み,ストレスの相談相手としては家族・友人,上司・同僚が多く,専門職への相談は少なかった。メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所は33.6%であった。取り組みの内訳としては,労働者からの相談対応の体制整備が最も多かった。メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の52.0%が,メンタルヘルスケアのための専門スタッフを配置していた。精神科医は,ストレス要因の軽減や対処よりも,むしろメンタルヘルス障害(精神疾患)に罹患した後の対応に深く関わっている。 Key words : mental health care, psychiatrist, stress management, stressor, workplace -
職場における「うつ状態」:「うつ病」とその鑑別診断
16巻2号(2013);View Description Hide Description職場における「うつ状態」を診察する際,「うつ病」とその鑑別診断をどのようにすべきかを論じた。まず,鑑別診断の手順としては,外因性→内因性→心因性の順番に進めていくべきである。その上で実地臨床では,DSMに基づいた気分障害の鑑別診断用のデシジョンツリーに従って,診断を展開していくのが実用的である。とくに一般身体疾患による気分障害と双極性障害とを,それぞれ大うつ病と鑑別していくことは,臨床的にも,就労上も有用である。また,抑うつ気分を伴う適応障害の過剰診断には留意すべきである。最後に,死別による抑うつと大うつ病との鑑別診断は丁寧に行わなければならない。 Key words : depression, differential diagnosis, work place, depressive state, bereavement -
復職を目指すリワークプログラム参加中の気分障害患者に対する薬物療法の留意点
16巻2号(2013);View Description Hide Description復職にあたり職場が求めるレベルは高いものになっており,復職までの期間も限られているためリワークプログラムの内容もそれに応じて密度の濃いものになる。睡眠覚醒リズムの安定維持,意欲・集中力の向上,復職間際の不安の軽減など,復職準備性を高めるリワークプログラムにおける薬物療法は,心理社会的介入と相互補完的である。リワークプログラムでは,外来診療だけでは得られない患者像を把握することができるため,診断名の変更あるいは併存疾患の存在が明らかになることも少なくない。本稿では,リワークプログラムにおける薬物療法の留意点と,aripiprazoleの使用経験について報告した。復職を目指す患者のQOLを考慮し,中・長期的視野に立った薬物療法が望まれる。 Key words : depression, mood disorder, re-work, mood stabilizer, atypical antipsychotics -
完全回復を目指す復職直後の就労気分障害患者における薬物療法と生活指導の留意点
16巻2号(2013);View Description Hide Descriptionうつ病等の精神疾患によって就業困難となる事例が増え社会問題化している。精神科医は再燃・再発を繰り返す気分障害の社会復帰について治療の困難さが増すことを経験しており,薬物療法のみの治療法には限界を感じている。当院でも復職させることが困難な患者の増加から,リワークを専門とするデイケアを開設した。リワークの経験から復職直後の就労気分障害患者における薬物療法と生活指導の留意点は,(1)日中に眠気などの副作用を来しにくい薬物を使用する。(2)多剤併用から単剤への薬剤減量。(3)認知機能等に悪影響を及ぼしにくい薬物,あるいは認知機能の改善効果が期待される薬剤を使用する。(4)運転技能等の作業能力に悪影響を及ぼさない薬物を使用する。(5)認知行動療法に加えて食事・運動などの生活指導やホルモン補充療法を組み合わせる。以上から気分障害の治療には,薬物療法に加え精神科領域以外の協力を得ながら多面的なアプローチが必要と考えている。 Key words : Himorogi Self-rating Depression Scale(HSDS), Himorogi Self-rating Anxiety Scale(HSAS), late-onset hypogonadism(LOH)syndrome, bipolar disorder, major depressive disorder -
休職復職を繰り返す気分障害患者の治療における薬物療法の留意点----リハビリテーションとそこでの薬物療法から
16巻2号(2013);View Description Hide Description現代の気分障害は,診断治療が困難な例が増えていると認識すべきであり,その1つの表れが再休職の多さである。休職復職を繰り返す難治例では外来診療のみでの診断治療は難しく,デイケアのようなリハビリテーションと薬物療法を組み合わせる必要があり,リワークプログラムはその1つのモデルである。リワークプログラムへ参加した患者の薬物療法の経過を調べると,抗うつ薬の単剤化と十分量の投与が復職を目指す場合にも有効であり,診断の変更や病状への対応のため抗精神病薬や気分安定薬を組み合わせる必要もあると考えられた。 Key words : depressive state, affective disorder, drug therapy, rework program -
「現代型うつ病」の特徴と治療戦略:その薬物療法の位置づけと留意点
16巻2号(2013);View Description Hide Description「現代型うつ病」(1991,松浪)は内因性うつ病の時代的変化をとらえるために従来型の内因性うつ病との比較の際に用いた言葉である。診断としては軽症内因性うつ病であり,昨今論じられる“新型うつ病”とは質的に異なる。「現代型うつ病」では,職場で几帳面な仕事ぶりを発揮せず,私的領域で強迫的な営みを維持していることがあることが特徴である。初診時の訴えに,当惑感,焦燥,諦念などが表現され,組織への一体化を避ける心理を読み取れる。このような変化は,現代の会社組織が効率,成果重視の職場論理によって支配されるにつれ,勤労者の依存対象,あるいは一体化の対象となりえず,勤労者が組織内で強迫的に働く様式を発展させることがなくなったためではないかと推察される。「現代型うつ病」の治療方針は従来型の治療と大きくは変わらないが,軽症例特有の性質に対する治療的工夫,空間的強迫ではなく時間的強迫に対処すること,が重要である。 Key words : endogenous depression, meticulous nature of personality, modern type of mild endogenous depression, new type of depression, life time employment
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【原著論文】
-
-
統合失調症の長期維持治療におけるrisperidone持効性注射剤の有用性----寛解とよりよい回復を目指すために
16巻2号(2013);View Description Hide DescriptionRisperidone持効性注射剤(RLAI)による薬物治療の長期effectivenessを評価するため,2年間の治療継続率と寛解率について,経口剤で治療した症例を比較対照として検討した。あわせて経口剤からRLAIへの切り替えによる有効性・安全性・機能・主観的QOL評価について2010年に報告した半年間の研究結果を追跡し,さらに2年間の前向き調査を行った。結果,2年間の治療継続率はRLAI群73.7%,経口群54.8%,寛解率はRLAI群57.9%,経口群35.5%でRLAI群が継続率,寛解率ともに高かった。RLAIへの切り替えにより精神症状,機能,錐体外路症状,主観的QOL評価ともに改善し2年間維持された。RLAIは統合失調症治療においてeffectiveness向上のために有用な治療選択肢であることが確認された。 Key words : effectiveness, remission, risperidone long-acting injection, schizophrenia
-
-
【症例報告】
-
-
全般性不安障害を合併した大うつ病性障害にescitalopramの付加療法が著効した1例
16巻2号(2013);View Description Hide DescriptionEscitalopramは従来のSSRIに比べ,より選択的にセロトニン再取込み阻害作用を持つ。今回,従来のSSRI(fluvoxamine,sertraline),NaSSA(mirtazapine),SNRI(duloxe-tine)などが十分量投与されたが無効で,三環系抗うつ薬(amitriptyline)では尿閉などの副作用が出現し,前医で電気けいれん療法を推奨されていた全般性不安障害を伴う大うつ病性障害に,escitalopramの付加療法が著効した60歳女性の症例を経験した。初診時,抑うつ気分,意欲低下,希死念慮に加え,強い不安・焦燥,筋緊張を認めた。Quetiapineを主剤とした薬物治療を行い,10週の入院治療で不安・焦燥,抑うつは軽度改善したが,外来治療中に再び抑うつ,不安,筋緊張が高まった。Escitalopram 10mgを付加投与し,20mgまで漸増したところ約4週間で急速にすべての症状が消退した。Escitalopram投与後6ヵ月を経た現在も寛解状態を維持している。高齢者・初老期のうつ病にはしばしば不安障害が併存し,治療抵抗性が高いと考えられるが,escitalopramは不安の強い大うつ病性障害の1つの選択肢となる薬剤であると考えられた。 Key words : escitalopram, general anxiety disorder, depression in elderly, augmentation -
Fluvoxamineが効果的であった露出症の1例
16巻2号(2013);View Description Hide Description露出症は,自らの性器を見知らぬ人に露出することで性的興奮を得る。そして,露出の最中,露出を計画しているとき,露出を想像しているとき,露出を想起しているときなどにマスターベーションを行う。今回我々は,性器の露出衝動に対してSelective Serotonin Reuptake Inhibitors (SSRI)であるfluvoxamine (FLV)が効果的であった露出症の1例を経験した。本症例ではFLV投与開始後に性器の露出衝動が制御可能となり,露出したいと考える時間も短縮した。露出症の治療は十分に確立されておらず,さらなる情報の蓄積が必要と考えられたため,若干の考察を加えて報告する。 Key words : exhibitionism, SSRI, fluvoxamine, Y-BOCS -
Carbamazepineへのolanzapineの付加投与により病相予防効果がみられた双極性障害の1例
16巻2号(2013);View Description Hide Description今回,人工透析を受けている慢性腎不全を合併した双極性障害の病相予防においてcarbamazepine(CBZ)にolanzapine(OLZ)の付加投与が有効であったと考えられた症例を経験したので報告する。本症例では,発症時に躁病エピソードが1回,その後うつ病エピソードが1回出現し,CBZ投与期間中(3年間)に軽躁病エピソードが2回,躁病エピソードが1回認められたが,CBZにOLZの付加投与を行った後4年間は,病相の再発がみられなかった。本症例から,CBZへのOLZの付加投与は,CBZのみでは維持療法が困難である双極性障害患者において病相予防効果をもたらす可能性があると考えられた。 Key words : bipolar disorder, olanzapine, carbamazepine -
Quetiapine投与中にQTc延長を来した統合失調症の1例
16巻2号(2013);View Description Hide DescriptionQT延長症候群(long QT syndrome;以下,LQTS)は抗精神病薬服薬中に出現する循環器系の重大な有害事象である。LQTSでは心電図上QTcの延長に続き,Torsade de pointes型の不整脈が誘発され,しばしば心室細動から死に至る。本論ではquetiapine(以下,QTP)の中等量投与によりQTc延長を来し,投与用量を漸減したことでQTc延長が改善した統合失調症例の治療経過を示した。本例におけるQTP投与量は600mg/日と本邦での使用用量以内であったが,600mg/日に増量後にQTc延長を認めた。その治療経過を検討することにより,循環器系有害事象の危険性が少ない薬剤においても身体疾患や電解質異常によってQTc延長等の有害事象を呈しやすい状態を考慮する必要があること,統合失調症薬物治療では薬剤投与・変更時の身体機能評価や薬物代謝能の評価が重要であることが明らかとなった。 Key words : quetiapine, QTc prolongation, schizophrenia
-
-
【短報】
-
-
Lamotrigineの大量服用後に横紋筋融解症を認めた1例
16巻2号(2013);View Description Hide DescriptionLamotrigineの大量服用後に横紋筋融解症を生じた1例を経験した。症例は31歳男性。Lamotrigine 1000mg,flunitrazepam 30mg,diazepam 100mg,nitrazepam 200mgを服用し受診した。大量服用後2〜4日目にかけて精神病症状を認めた。大量服用後2〜7日目にかけてCPKの顕著な上昇を認め,11〜29日目にかけて紅斑丘疹型薬疹が出現した。本症例のみでlamotrigine中毒と横紋筋融解症の因果関係を特定することはできないが,中毒例で出現する可能性につき注意が必要と考えられた。 Key words : lamotrigine, rhabdomyolysis -
精神科入院患者に対する腎機能に基づいた処方支援
16巻2号(2013);View Description Hide Description一般に,腎機能の低下により薬物の副作用が発現しやすくなる。向精神薬にも腎排泄型のものがあるため,精神科においても腎機能に基づいた薬物の適切な使用が必要と考えられるが,薬剤師からの情報提供が十分に行われていなかった。今回,精神科に入院している全患者の腎機能を調査するとともに,腎機能に基づいて疑義照会を行った。入院患者の腎機能については,男性で14.5%,女性で12.1%において糸球体濾過速度推算値が60mL/min/1.73m2未満であることが明らかとなった。また,当該患者の処方内容を調査し疑義照会を行ったところ,8例の患者において腎機能に応じて薬剤が減量または中止された。8例のうち1例においては消化器症状が継続したものの,その他は症状の悪化は見られず,抗精神病薬の減量につながった症例も3例あった。以上のことから,薬剤師による腎機能に基づいた処方支援は,副作用の未然防止の観点から有用であるとともに,抗精神病薬の減量のきっかけとなり得ると考えられた。 Key words : psychotropic, support for prescription, prescription question, renal function, eGFR
-
-
【講演紹介】
-
-
-
【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
-
-
第19回 悲運の大本命fluperlapineにまつわる物語――その2 Fluperlapine物語:スイスとフランスの思い出をまじえて
16巻2号(2013);View Description Hide Description
-