臨床精神薬理
Volume 16, Issue 4, 2013
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【展望】
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日本におけるclozapineの使用実態とその問題点――東京女子医科大学病院における自験例を踏まえて――
16巻4号(2013);View Description Hide Description2009年より日本においてもclozapineの使用が開始された。無顆粒球症をはじめとする副作用を,早期に発見し対応するために,患者,医療者,医療機関の三者に対しての適応条件が設定されている。三者はクロザリル患者モニタリングサービス(Clozaril Patient Monitoring Service:CPMS)に登録され,処方は,検査結果と処方量を複数の職種によって確認しながら行われる。日本における,2009年7月〜2012年8月までの使用実態は,登録医療機関は188医療機関,登録患者数は1,028例である。重篤な副作用である無顆粒球症は10例(1.0%)に生じているが,CPMSの管理により適切に対処されている。Clozapineの有効性は,精神症状の改善のみならず,認知機能や社会機能の改善,自殺予防といった効果が期待される。優れた効果と多くの副作用のバランスを考慮し,clozapine治療の目的を明確に共有しながら,治療にあたることが重要である。 Key words : clozapine, CPMS, agranulocytosis, treatment resistant schizophrenia
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【特集】 治療抵抗性統合失調症の治療―Clozapine導入で何が変わったか―
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治療抵抗性統合失調症および治療反応を定義する
16巻4号(2013);View Description Hide Description治療抵抗性統合失調症(Treatment-resistant schizophrenia : TRS)は,日常臨床現場において大いなる課題を呈する。通常TRSは,十分な抗精神病薬治療を行ったにもかかわらず,十分な治療反応を示さない場合に定義される。また治療反応は,評価尺度において一定の低下(多くは20%以上のスコア改善)を認めることにより定義される。とりわけKaneら(Arch. Gen. Psychiatry, 45:796-796, 1988)による定義は高名であり,後の研究に多大な影響を与えるものとなった。しかしながら,過去の知見を包括的にレビューしたところ,TRSとその治療反応の定義には完全な一致を見ておらず,この事実が試験結果を解釈する際に,多大な影響を及ぼすことが判明した。本稿は,過去のエビデンスを基とした実践的なTRSとその治療反応の定義を提唱した上で,付随する様々な要素を考察することを目的とする。 Key words : definition, response, treatment-resistant schizophrenia -
Clozapineの適応と導入のタイミング――電気けいれん療法(m-ECT)との比較――
16巻4号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineと電気けいれん療法の導入のタイミングはどう考えるべきだろうか。当院では2012年9月末までにclozapineの使用は47例,うち電気けいれん療法を併用したものは17例であった。また両者を用いた事例では,すべてでclozapine導入前に電気けいれん療法を行っており,その内訳をみると,2例では忍容性不良で維持ECTを行ってきたものの,幻覚妄想状態の再燃が維持電気けいれん療法では予防できなくなったものであった。そして残りの15例ではclozapineへの変薬を円滑に行うためであった。当院の経験からは,忍容性不良の問題から維持電気けいれん療法により安定を維持するほかなかった患者が,clozapineの導入により,維持電気けいれん療法から離脱することができていた。また慢性緊張病状態で,昏迷状態が持続し,電気けいれん療法でも部分回復にとどまった1例が,clozapineにより,さらに回復し,幻覚妄想は持続するものの自身の身の回りのことはでき,院内では適応に問題がないまでに回復した。また自傷他害が切迫しており変薬時の減薬が困難な事例,強い拒絶症・敵意,幻覚妄想に圧倒されており治療関係が作りにくい事例には,電気けいれん療法にて1段階回復させたうえで,clozapineへ変薬することが有効であった。重篤な病態であるときには電気けいれん療法で,切迫した状態をなるべく短い期間でとおりぬけることが患者関係を円滑なものにしていた。そして電気けいれん療法では部分反応例がclozapineにてさらに回復する可能性があると考えられた。 Key words : clozapine, electro-convulsive therapy, treatment-resistant schizophrenia, clozapine augmentation -
Clozapine使用の最適化――副作用対策も含めて
16巻4号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineが2009年に上市されてから3年半になる。2012年10月末までに,国府台病院では治療抵抗性統合失調症55例に対してclozapineを投与した。この経験からclozapine使用の最適化について考察した。全症例でclozapine導入前日に前治療薬(抗精神病薬)を中止し,clozapineを単剤で投与した。Clozapineを1ヵ月以上継続したのは51例(93%)である。そのうちの18例(35%)は,clozapine開始1ヵ月後にBPRS総点が20%以上改善した。そのうち9例(18%)は30%以上改善した。Clozapine開始1ヵ月後のclozapine用量は最小50mg,最大300mg,改善例の平均は176mg,未改善例の平均は179mgである。200mg未満の低用量で早期に改善する症例が少なからず存在した。Clozapine開始1ヵ月以内に4例(7%)が中止になった。中止の理由は,白血球数減少,好中球数減少,薬疹,空腹感であった。重篤な副作用の発現はなかった。Clozapine使用の最適化とは,clozapineを単剤で投与し,緩徐な増量で副作用の軽減をはかり,必要最低限のclozapine用量で治療効果を得ることである。併せて看護師,薬剤師,家族の力が重要である。 Key words : clozapine, treatment-resistant, schizophrenia, side effects, optimizing strategies -
医療観察法病棟におけるclozapineの位置づけ
16巻4号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineは,治療抵抗性統合失調症の適応を持つ唯一の抗精神病薬で特に陽性症状に対して非常に高い効果を認める。医療観察法入院対象者の8割以上が統合失調症に罹患しており,高いレベルで病状が改善することは対象者の円滑な社会復帰や地域生活の安定に繋がるため,琉球病院では積極的にclozapine処方を行っている。Clozapineは副作用の出現率が高い印象があるが,副作用マネジメントを適切に行い処方継続することで効果を高めることができる。医療観察法医療ではclozapineは必須であり,過去の薬歴や病状を確認し,入院早期よりclozapine治療の可能性を検討することが望ましい。また医療観察法病棟では多職種による濃密な心理療法,社会復帰調整官を中心とした地域支援体制が構造化されており,それによりclozapine治療を最大化することができ入院対象者の社会復帰をさらに促進させることが可能となる。 Key words : clozapine, treatment-resistant schizophrenia, BPRS, CGI, forensic -
精神科病院におけるclozapineの位置づけ――保護室長期滞在患者やスーパー救急病棟の患者を含む治療抵抗性統合失調症患者へのclozapine治療の経過から考察する
16巻4号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineは,治療抵抗性統合失調症に対し唯一適応を持つ抗精神病薬である。我が国においては,2009年7月に市販された。Clozapineの使用を始める医療機関はクロザリル患者モニタリングサービスに登録する必要があり,その数は2012年12月3日時点で200医療機関となっている。桶狭間病院 藤田こころケアセンター(以下,当院)は,スーパー救急病棟148床(以下,救急病棟)を含む315床を有する精神科病院である。当院ではclozapine治療を2010年7月から2012年6月までに53例に開始した。その治療経過を振り返り,そもそもclozapineが「治療抵抗性統合失調症患者」にどのような効果があったのか,その中でも精神科病院で最重度と考えられる「長期の保護室滞在患者」には処遇変化はあったのか,また「救急病棟の患者」は,退院促進につながったのかを検討した。いずれもclozapineの有効性を示唆し,また,国内外の報告も同様であった。今後も経験を積む必要があるが,clozapineは少なくとも当院のような精神科病院では,これまでの治療に加えて日常診療の中で使用することが妥当な薬剤であると考えられた。本稿が,統合失調症を治療する医療機関がclozapineの導入を検討するきっかけになることに期待したい。 Key words : clozapine, drug resistant schizophrenia, emergency ward -
Clozapine非反応例または不耐性例に対する薬物療法
16巻4号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineに部分反応または非反応の症例においては,十分量,十分期間用いられたことを確認した上で,向精神薬追加による増強療法が実臨床ではしばしば試みられている。抗精神病薬ではrisperidone,aripiprazole,sulpiride,抗てんかん薬ではlamotrigine,topiramateがこれまで比較的多く検討されてきている。有効性を示す報告が複数みられる薬剤は,lamotrigineとaripiprazoleであるが,いずれの薬剤についてもエビデンスとしては必ずしも確立されていない。また,clozapine不耐性例に対して向精神薬を追加することで,副作用を軽減する試みも行われており,aripiprazole追加による体重増加や脂質代謝障害の軽減が報告されている。 Key words : augmentation, clozapine, intolerant, pharmacotherapy, resistant -
統合失調症の回復を援助する心理社会的治療
16巻4号(2013);View Description Hide Description実際の臨床で社会機能の回復の障害になるものは陽性症状に限らない。意欲・希望,現実検討や遂行機能の障害,対人スキル,治療へのアドヒアランス,ストレスへの脆弱性など多面的な軸に対して,薬物療法と心理社会的治療はどちらがどちらを受け持つといった二分法ではなく,統合的に使っていく必要がある。そうした実例を示し,回復が困難である場合に,どのプロセスでどのような心理社会的な治療が有用であるかについて概説した。さらにこれまでの生物・心理・社会的治療によって十分改善が困難な場合として,神経認知機能障害,意欲・発動性の低下・社会的興味の消失,持続的な対人過敏・被害的傾向,病識欠如,ストレス・脆弱性を挙げて治療の可能性や今後の発展方向について論じ,さらに「障碍を障碍としない環境」の重要性についても触れた。 Key words : psychosocial treatment, psychoeducation, cognitive-behavioral therapy, treatment-resistant schizophrenia, psychiatric rehabilitation
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【講演紹介】
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【シリーズ】
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【原著論文】
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精神科治療中に生じる栄養不良の原因の検討と対策
16巻4号(2013);View Description Hide Description抗精神病薬の副作用として体重増加・肥満が知られているが,60歳前後で体重が徐々に減少し栄養不良に至る統合失調症患者も経験される。今回,6ヵ月で10%以上体重が減少した65歳未満の統合失調症66例を対象とし,実態を調査し原因を検討したところ,多動・不穏による必要エネルギー増加,腸管機能低下等,精神科特有の原因が存在することが示唆された。腸管機能低下例について,使用薬剤との関連を検討した。体重減少なく65歳を超えた例と比較すると,精神疾患用剤のCP,BP換算量が有意に高く,高用量投与により腸管機能が低下し,栄養不良となる可能性が考えられた。対策として,食事量増量・形態変更,下剤・浣腸の減量・中止,整腸剤・大建中湯使用,精神疾患用剤見直しを個々の状態に合わせ複合的に実施した結果,体重が増加し栄養不良が改善した。精神科治療においても栄養不良の早期発見・早期対策が重要である。 Key words : Nutrition Support Team, weight loss, schizophrenic inpatients, intestinal dysfunction, nutrition therapy -
急性期症状を呈した初発・再発統合失調症患者におけるblonanserinの単剤治療の有用性の検討
16巻4号(2013);View Description Hide Description初発,再発(1ヵ月以内で抗精神病薬の内服歴がない)の統合失調症患者におけるblonanserin(BNS)の単剤治療の有用性について検討した。急性期症状を呈した初発あるいは再発統合失調症患者8例を対象に,8週間のオープンラベル試験を行った。BNS投与終了時の評価において8例中6例の患者で改善効果が得られた。8週間の試験を完了できた症例は4例であった。PANSS,CGI評価において,いずれも投与開始2週目時点で改善が認められた。特にPANSS-ECにおいては,投与開始1週の時点でベースラインからの改善が得られており,投与開始早期での治療反応性が示された。試験期間を通じて重篤な副作用は認められなかったが,錐体外路症状(EPS)が3例に認められ,その内2例(初発症例)はBNSの減量や抗パーキンソン薬併用といった対処を行ったが,EPSの改善は認められず中止に至っている。今回の結果から初発例では8〜16mg/日投与が適正な初期治療用量で,増量は慎重に行うことが望ましいと考えられた。 Key words : blonanserin, acute phase schizophrenia, effectiveness, side effect, monotherapy
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【座談会】
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【講演紹介】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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