臨床精神薬理
Volume 16, Issue 8, 2013
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【展望】
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統合失調症の死亡リスクと薬物治療
16巻8号(2013);View Description Hide Descriptionかなり以前より統合失調症患者の死亡リスクが一般人口より大きいことは知られていた。これまでに行われた臨床研究の結果を要約すると,(1)一般人口と比較した統合失調症患者の標準化死亡比(Standardized mortality ratio:SMR)は1.51〜5.98程度,平均余命の減少幅は10.3〜43.5%程度であること,(2)自殺に関するSMRは8.38〜30.9と極めて高いものの,統合失調症患者にもたらされた超過死亡中に占める割合は必ずしも大きくなく,病死によりもたらされる超過死亡の方が大きいこと,(3)病死の中では心血管疾患による死亡の影響が特に大きいこと,(4)近年統合失調症患者のSMRは増加傾向にあることが示されている。抗精神病薬は心血管疾患のリスク・ファクターであるさまざまな代謝系副作用を有するので,抗精神病薬の投与と死亡リスクの関連を検証する必要性は大きいが,さまざまな臨床研究の結果から,抗精神病薬の継続投与が行われていると,死亡リスクを0.2〜0.68倍程度に低下することが示されている。 Key words : schizophrenia, mortality, antipsychotics
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【特集】 統合失調症患者の死亡リスクと薬物治療
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若年・早期精神病患者の死亡リスク
16巻8号(2013);View Description Hide Description若年の早期精神病患者の死亡リスクと最も関連のある要因は自殺であり,医療機関を受診する前の自殺未遂は10〜28%もの患者に認められる。経過の早期は特に自殺リスクが高いが,自殺リスクのピークが過ぎた後でも一般人口と比較して約4倍のリスクがある。早期段階の自殺リスクは精神病症状との関連が大きく,自殺予防のためには精神病の早期発見,早期介入が重要であると考えられる。長期的にはアドヒアランス維持の治療戦略と,経過中に経験する負のライフイベントに対する反応に適切に対処できる体制が不可欠である。薬物療法では第二世代抗精神病薬が推奨され,治療抵抗性の精神病症状に対しては,早期のclozapine投与も考慮すべきとされている。現在わが国では若年の早期精神病患者に特化した精神保健サービスは不足しているが,死亡リスクを最小限とするためにも,啓発教育とともに適切なアセスメントと包括的サービスを提供できる機関の広がりが求められる。 Key words : first-episode psychosis, at-risk mental state, mortality, suicide, adherence -
Clozapineと死亡リスク
16巻8号(2013);View Description Hide DescriptionClozapineの副作用による死亡リスクと抗自殺効果について文献に当たって考察し,症例提示を含めてclozapineの危険性と有益性について論じた。Clozapineを必要とする治療抵抗性統合失調症患者に対し,その副作用による死亡リスクと抗自殺効果とを天秤にかけて,clozapineの導入を躊躇することもあるだろう。しかし,clozapineでなければ救えない患者が存在する。CPMSの血液モニタリングによって無顆粒球症による死亡リスクは大幅に低下した。日本でのclozapine上市は欧米諸国に19年遅れたが,諸外国の経験を反映し,日本のCPMSでは血糖モニタリング(血糖値とHbA1c)も行われている。これは,糖尿病性ケトアシドーシスなどの糖代謝系障害による死亡リスク低減に有効に働くであろう。心循環系疾患に対処するには定期的な血圧測定,心電図検査を行う必要がある。また排便状況の継続的なモニタリングも重要である。この経験は,通常の精神科診療においても統合失調症患者の生命予後を向上させるために有用となるであろう。 Key words : clozapine, schizophrenia, mortality, suicide, side effects -
統合失調症患者における疼痛感受性低下
16巻8号(2013);View Description Hide Description20世紀前半にBleulerやKraepelinが統合失調症における疼痛感受性の低下を指摘してから,約1世紀以上にわたり議論がなされている。今回,統合失調症と疼痛感受性低下の原因について,再考を試みた。現時点では,(1)統合失調症そのものの症状である可能性,(2)抗精神病薬による影響,(3)統合失調症の病状による表出の問題,(4)併存する身体疾患に伴う知覚障害等が原因としてあげられる。しかしいずれも統合失調症における疼痛感受性低下を支持する決定的なものとはいえない。現在においても,内臓知覚の疼痛感受性低下を伴った症例報告は続いているが,原因については不明である。一方で,疼痛感受性低下は診断の遅れや誤診につながり,死亡に至った例もあり,疼痛感受性低下が死亡リスクを上げる可能性もある。実際の臨床の現場においては,統合失調症患者における疼痛の表出は軽度である可能性に,臨床医は十分に注意すべきである。 Key words : clozapine, Clozapine Induced Gastrointestinal Hypomotility, pain insensitivity, schizophrenia -
統合失調症患者における循環器疾患と死亡リスク
16巻8号(2013);View Description Hide Description統合失調症患者の生命予後は一般人口と比較して15年から30年短いと報告されており,抗精神病薬による心血管系,代謝系の有害事象が統合失調症患者の生命予後に影響を与えていると考えられているが,抗精神病薬を服用していなくても統合失調症患者では虚血性心疾患,脳卒中による死亡リスクが上昇することが示唆されている。静脈血栓塞栓症に関しては,現在服用中であることが発症,死亡リスクを上昇させているようである。抗精神病薬は用量依存的に致死性不整脈発症のリスクを上昇させていると考えられる。多剤併用は心血管疾患発症のリスクを上昇させ,死亡リスクも上昇させている可能性が高い。 Key words : cardiovascular diseases, venous thromboembolism, lethal cardiac arrhythmia, antipsychotic agents, polypharmacy -
統合失調症患者へのベンゾジアゼピン投与と死亡リスク
16巻8号(2013);View Description Hide Descriptionベンゾジアゼピンは,統合失調症薬物治療において幅広く,時には安易に処方されている。しかし近年統合失調症患者についての北欧の大規模研究において,ベンゾジアゼピン投与と死亡リスクの増加に関係があることが明らかになっている。 その原因はなお明らかでないが,ベンゾジアゼピン投与に関連した心肺機能抑制,転倒,暴力的行動や自殺の増加,交通事故増加などが関係するかもしれない。Clozapineやolanzapine筋注製剤とベンゾジアゼピン非経口投与の併用における心肺機能抑制,精神病圏が疑われる患者にベンゾジアゼピンだけを投与した場合の自殺リスク増加,ベンゾジアゼピン投与と交通事故リスク増加などについて臨床家は十分注意をはらい,ベンゾジアゼピン処方のリスクとベネフィットの評価をさらに厳密に行うべきと考える。 Key words : benzodiazepine, mortality, schizophrenia, flunitrazepam, falling, paradoxical reaction, suicide, road-traffic accidents -
脱施設化と統合ク調症の死亡リスク
16巻8号(2013);View Description Hide Description近年,統合失調症患者の自殺率増加に関心が集まっているが,その因子の1つとして,脱施設化の影響についての議論がなされている。北欧や米国で精神科病床減少の動きと統合失調症患者あるいは精神障害者の自殺率の変化との関連を調査した研究報告が散見されるが,結論は一致していない。しかし,脱施設化を首尾良く進めていくためには,入院期間の短縮や,退院直後から1年後までの自殺リスクのアセスメントが特に重要である。一方で,地域ケアへの支出額や有効な地域ベースのプログラムの整備状況,地域社会の精神障害(者)への態度によっても死亡リスクは異なってくることも念頭に入れ,「脱施設化の質」を吟味する必要がある。また,東北福祉大学せんだんホスピタルACTチームの5年間の支援の中で利用期間中に死亡した5例は全て統合失調症圏であり,その経験から学んだことを整理した。 Key words : ACT, deinstitutionalization, mortality, schizophrenia, suicide
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【シリーズ】
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薬の使い方 Blonanserinを使いこなす 第8回 慢性期統合失調症の抗精神病薬多剤併用大量療法から単剤化を目指したblonanserinの使い方
16巻8号(2013);View Description Hide Description
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【原著論文】
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統合失調症患者に対するaripiprazoleの18ヵ月間における有用性――治療継続率,社会復帰の実態,寛解率と中止例の検討
16巻8号(2013);View Description Hide Description2006〜2009年にaripiprazole(APZ)を処方された統合失調症,統合失調感情障害,その他精神病性障害の外来あるいは入院患者を対象に,APZの有効性,安全性,治療継続率,社会機能や就労・就学など社会復帰の状態などを多面的に調査し,18ヵ月間のAPZの有用性を検討した。また,中止例および急性期の入院治療を行った症例についての分析を行った。77例のAPZの18ヵ月間の治療継続率は59.7%であった。APZ継続症例46例において,CGI-SおよびGAFはAPZ開始前に比べて有意に改善したが,APZ中止症例31例では有意な差はなかった。中止理由は,効果不十分が32%であり,副作用による中止はなかった。また,中止までの日数は平均56.3日であった。社会復帰の状態として,APZ継続群では,無職が90.7%から34.9%に低下し,作業所・デイケア通所利用の割合,就労・就学・家事従事の割合が有意に増加した。中止群では,無職,作業所・デイケア通所,就労・就学・家事従事について有意な変化はなかった。本研究の結果より,APZの長期の有用性が示唆された。 Key words : schizophrenia, aripiprazole, treatment continuation, social recovery, effectiveness -
外来統合失調症患者を対象とした栄養サポートチームによる栄養指導の実践と10年後の結果
16巻8号(2013);View Description Hide Description我々は,2002年に栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)を立ち上げ,精神科外来患者に対して多職種による栄養指導を行ってきた。栄養指導は患者の認知度ステージやテーマに応じた内容とし,ソーシャルサポートや院内連携等を組み合わせることにより,継続的かつ柔軟な栄養管理サポートが可能な体制を整えた。栄養指導の結果を体重,空腹時血糖値,空腹時総コレステロール値,空腹時トリグリセリド値を検査項目とした健康診断で評価したところ,2001年と比較して2011年では全項目において異常値を示す患者割合が有意に減少した。それは,risperidone, olanzapine投与継続群でも調査対象全例と同様の傾向であった。本調査結果より,外来患者にNSTによる栄養教育を継続的に実施することで,BMI,血糖値,総コレステロール値,トリグリセリド値が改善することが示された。したがって,NSTによる栄養管理は,精神科外来患者の生活習慣病の改善に効果があると考えられた。 Key words : nutrition education, nutrition support team, psychiatric out-patients, antipsychotics -
日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターン:ナショナルデータベースの活用
16巻8号(2013);View Description Hide Descriptionナショナルデータベースを活用して,日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターンを検討することを目的とした。第1に,抗精神病薬が2剤以下の割合を求めた結果(n=10,776),精神科包括病棟が76%,精神科出来高病棟が56%であった。第2に,精神科出来高病棟と精神科外来の処方パターンを評価した結果(n=13,101),入院における,抗精神病薬の単剤処方の割合は27%,抗精神病薬が4剤以上の割合は20%であった。ベゲタミンR錠の処方割合は,入院が15%,外来が8-%であった。入院と外来ともに上位20位の向精神薬の剤数の処方パターンの集積割合は,50%をを下回った。本研究の結果,適正な使用法から外れている可能性のある抗精神病薬の処方は,現実場面で頻繁にみられることが示唆された。最新のエビデンスと通常診療の差を埋めるための,全国規模の努力が求められる。 Key words : schizophrenia, psychotropic agents, administrative database, clinical indicator
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【症例報告】
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嘔吐恐怖症に併発した経口摂取困難にolanzapineが有効であった1例
16巻8号(2013);View Description Hide Description今回,経口摂取困難を伴う嘔吐恐怖症に,抗精神病薬であるがその薬理学的特性から制吐作用を有するolanzapine(OLZ)が有効であった1例を経験した。我々の検索した限り,本病態に対してOLZの有効性を論じた報告は認めなかった。本症例では嘔吐恐怖症発症後に経口摂取困難,食欲低下をきたし,低体重に至った。嘔吐恐怖症が背景にある経口摂取困難に対して,経鼻栄養と支持的精神療法を行ったが,患児の食事への抵抗は持続した。そしてOLZを少量開始した後より徐々に自力での経口摂取が可能となっていった。本症例の検討から,OLZは経口摂取困難を伴う嘔吐恐怖症に対して考慮すべき治療選択肢と考えられた。 Key words : emetophobia, vomiting, oral intake difficulty, olanzapine, antiemetics
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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