臨床精神薬理
Volume 16, Issue 9, 2013
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【展望】
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DSM-5を迎えて気分障害はどう変わっていくか、そして薬物療法はどうあるべきか
16巻9号(2013);View Description Hide Description本稿においては,気分障害におけるDSM-ⅣからDSM-5の変更点についての概説を行った。DSM-5では,多軸診断の廃止などの大きな変更点はあるが,気分障害においては基本的に大きな変更点はない。主要な変更点としては,①大うつ病の診断基準には大きな変更点はないが,気分障害のカテゴリーがうつ病性障害(Depressive Disorders)と双極性障害その他の関連疾患(Bipolar and related disorders)の2つの章にわかれ,気分障害(Mood Disorders)という大項目は削除された。しかし,②うつ病性障害において死別反応の除外基準が廃止された。③混合性エピソードが廃止され,混合性の特定項目(mixed specifier)および不安による苦痛の特定項目(anxious distress specifier)が追加され,うつ病性障害,双極性障害の両者を対象としてそれらの特定項目を付加することが可能になった。④破壊性気分不快障害 (Disruptive Mood Dysphoric Disorder:DMDD),月経前不快気分障害 (Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD),持続性うつ病性障害(ディスチミア)(Persistent Depressive Disorder:Dysthimia)などの新しいカテゴリーが創設された。⑤ 閾値下の症候(亜症候)が取り上げられ,それらを対象とする新たなカテゴリーが設けられた,などの変更が行われた。これらの変更は,気分障害において将来的なスペクトラム概念を意識したものであり,ネオ・クレペリニズム一元論を指向するものであろう。今後の診断および薬物療法を含む治療に大きな影響を与えると考えられ,気分障害全般における問題点,および診断と治療の将来的な展望についての考察を行った。 Key words : DSM-5, depressive disorders, bipolar disorders, mixed feature specifier, anxious distress specifier, bipolar spectrum disorders
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【特集】 様々な気分障害患者を今どう治療するか
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非定型うつ病をどう治療するか
16巻9号(2013);View Description Hide Description非定型うつ病の歴史,概念について簡単に解説し,治療のエビデンスを文献的にレビューした。薬物療法としては,モノアミン酸化酵素阻害薬,三環系抗うつ薬,セロトニン再取り込み阻害薬の有効性を比較した文献を中心に詳しく紹介した。また,本邦で用いることはできないbupropion,精神刺激薬についても簡単に紹介した。非定型うつ病を対象にした精神療法としては認知行動療法と薬物療法の比較研究,再発予防研究についても触れた。これまでは有効性が乏しいと考えられてきた電気刺激療法の有効性に関する研究も紹介した。これらのエビデンスを基に非定型うつ病の治療戦略についてまとめた。 Key words : atypical depression, treatment, SSRI -
現代の「軽症うつ病」とその内因性の要素
16巻9号(2013);View Description Hide Description「新しいタイプのうつ病」概念が提唱され,マスコミの報道量の増加と共に,その概念は市民権を得てきている印象である。我々はかつて,うつ病診断を①外因性,②内因性,③心因性,の順番に行うことをその作法としてきた。しかし,担当医が,いわゆる「新しいタイプのうつ病」患者を診察した時,安易に②を飛び越え③に飛びつく傾向が強いのではと危惧しているのは私だけであろうか。そうであれば,その背後にある疾病性が軽んじられ,精神論で治療が進められる可能性が高まってしまうであろう。今回我々は「新しいタイプのうつ病」に内因性の要素を見出すための考え方について,他の研究者の論文や当医局が単一精神病論を展開していた当時の諸先輩の研究報告などを参考にし,検討を進めてゆきたい。 Key words : mild depression, mixed state, endogenous depression -
躁的因子(bipolarity)を有するうつ病
16巻9号(2013);View Description Hide Description大うつ病性障害と診断して治療していた患者が,躁病や軽躁病エピソードを生じ,抗うつ薬投与中に躁転や賦活症候群を生じることをしばしば経験する。このような患者の多くに躁的因子の存在が示唆されており,正確に躁的因子を把握することが臨床上,有用であると考えられる。本稿においてはまず,Akiskal,StahlやAngstの提唱する躁的因子を紹介する。次に筆者らが行ってきた気質研究を紹介し,躁的因子の現時点までのエビデンスを整理し,把握したい。最後に,躁的因子を有するうつ病に対する治療について検討した。 Key words : bipolar disorders, depression, bipolarity, temperament, treatment -
服薬アドヒアランス不良なうつ病患者に対する工夫とは
16巻9号(2013);View Description Hide Descriptionうつ病治療において,薬剤への不安や抵抗感を抱く患者は少なくない。それによって治療の導入期や維持期にアドヒアランス不良に至ることがあり,再発防止の観点から好ましいものではない。服薬に対して否定的となる理由には,病識の欠如や疾病の否認,また依存や副作用などへの不安が挙げられる。薬物に対する家族の否定的な姿勢や医師との不十分な信頼関係,あるいは服薬習慣の欠如やモチベーションの低下,複雑な服薬スケジュール,副作用の発現なども一因となる。アドヒアランス低下を防止するために,これまで様々な介入研究が報告されている。心理教育や医療者によるフォローを中心とした複合的なアプローチが効果を示しているが,医師と患者の信頼関係という基本的な要素の重要性が挙げられる。日常の臨床では,資材などを用いた心理教育や処方の検討,またShared-Decision Makingという考え方に基いた,患者参加型の治療決定が望ましいと考えられる。 Key words : adherence, compliance, Shared Decision Making, therapeutic relationship, psychoeducation -
思春期のうつ病をどう治療するか
16巻9号(2013);View Description Hide Description児童思春期のうつ病は,症状が非定型的であり,双極性要素を有するとされたが,双極性障害はむしろうつ病との関連性が示され,両者を症状によって分離することは困難である。これまでに提出されたエビデンスでは,fluoxetineやescitalopramの優位性が示唆されるが,前者は日本で発売されておらず,後者は眠気やQT延長などの副作用を有する。思春期うつ病は自殺企図なども多く,治療上難渋することも多い患者群である。これまでの臨床経過から症状の成り立ちを見極め,環境調整や精神療法的接近をはかりながら,慎重に薬物療法を実施する。その治療反応性をみながら,患者の診断仮説を見直し,治療方針を修正するという慎重かつ堅実な基本的姿勢が求められる。 Key words : major depressive disorder, adolescence, antidepressant, bipolar disorder, DSM-5 -
増強・併用療法が奏効して寛解したうつ病患者のその後
16巻9号(2013);View Description Hide Descriptionうつ病治療を開始しても,最初の抗うつ薬に反応する割合は約30%と言われている。寛解に至らないうつ病患者は,再燃や自殺の危険性が高く,予後が悪いため,増強・併用療法は寛解を目指した治療戦略として重要である。具体的には,他の抗うつ薬,第2世代抗精神病薬,気分安定薬,甲状腺ホルモンによる増強・併用療法を取りうる。治療についての最良のエビデンスは,無作為化比較試験 Randomized Controlled Trial(RCT)とそのメタ解析meta-analysisから得られる。それらによる寛解率・反応率を改善させる強いエビデンスが存在するのは,mirtazapine,aripiprazole,olanzapine,quetiapine,risperidone,lithiumである。一方,増強・併用療法で寛解した場合,用いた他剤を継続投与すべきか否かという疑問に答えるエビデンスはまだ少ない。 Key words : depression, augmentation therapy, combination therapy, prognosis, remission -
自殺を繰り返すうつ病
16巻9号(2013);View Description Hide Description自殺,自殺企図,自傷行為等の用語の定義は曖昧で,統一されていないとする指摘がある。筆者が調べた限りにおいて,表題の「自殺を繰り返すうつ病」といった内容の総説等は認められず,文献は総じて少なかった。このため,うつ病と繰り返す自殺企図,自傷行為(過量服薬等)等を念頭に文献検索を行い,現時点での表題に関する周辺の知見を概説した。現状では,自殺関連事象を繰り返すうつ病に焦点を絞った研究は少なかったものの,併存する精神障害(特に境界性人格障害)には注意を要すると考えられた。自殺関連事象を繰り返すうつ病への特別な介入方法は明らかでないが,向精神薬が自殺関連事象へ与える影響は念頭において臨床にあたる必要があり,「自殺を繰り返すうつ病」に対しては,自殺関連事象を来たす症例一般における危険因子,対応法等を援用しながら診療していくことが重要であると考えられた。 Key words : suicide, suicide attempt, deliberate self-harm, depression, recurrence
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【シリーズ】
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薬の使い方 Blonanserinを使いこなす 第9回 統合失調症治療におけるblonanserinへの期待――高プロラクチン血症を中心に
16巻9号(2013);View Description Hide Description -
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【原著論文】
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Blonanserin投与による血清プロラクチン値の日内変動
16巻9号(2013);View Description Hide Description第2世代抗精神病薬であるblonanserin(BLO)投与後の血清プロラクチン値(PRL)を経時的に測定し,PRLに与える影響およびその日内変動パターンを検討した。統合失調症男性患者を対象とし,2週間以上同一量のBLOを服用している症例とした。BLOを18:00に経口服用し,2時間後,13時間後および23時間後に採血を行い,PRL濃度を測定した。対象者は9例でありBLO服用量は2-24mgであった。服用後2時間のPRL値は全例で異常高値(平均値28.2ng/ml:13.7-45.9ng/ml)を認めたが,日内変動は比較的大きく,13時間後の平均値は18.2ng/ml(7.9-30.0ng/ml)となっており低下傾向が認められた。20mg以下群では1例を除いて23時間後には正常値となっていた。24mg投与群3例では23時間後も正常値までには低下しなかった。BLO投与による血清PRL値の日内変動は投与2時間後にピークがあり,最高値はそれほど高くなく,最小値はピーク値の50%以下までに低下し,20mg以下では正常域にまで低下するパターンであることが明らかとなった。 Key words : antipsychotic, blonanserin, prolactin, hyperprolactinaemia, dopamine-2 receptor antagonist -
双極性障害の躁症状に対するolanzapineの安全性および有効性――特定使用成績調査における投与開始後1ヵ月の中間解析結果
16巻9号(2013);View Description Hide Description双極性障害の躁症状に対するolanzapineの特定使用成績調査の中間解析を行った。Olanzapine投与開始後1ヵ月のデータを解析した結果,安全性解析の対象患者425例中,olanzapineの投与中止に至った患者は82例(19.3%)で,その内訳は,医師の判断20例(4.7%),追跡不能19例(4.5%),有害事象18例(4.2%),患者の判断15例(3.5%)などであった。観察期間中に報告された有害事象で主なものは,傾眠(3.76%),体重増加(2.35 %),高プロラクチン血症(1.41%)であった。重篤な有害事象として,浮動性めまい,体重増加,腹痛,血中トリグリセリド増加,転倒が各1例(0.24%)に認められたが,腹痛,血中トリグリセリド増加,転倒についてはolanzapine投与との因果関係は否定された。有効性解析対象におけるYMRS-J総スコアのベースラインからの変化量は―15.2(95%CI:―16.77〜―13.65,p<0.001),CGI-BP(躁病)は―1.7(95%CI:―1.86〜―1.51,p<0.001),CGI-BP(うつ病)は―0.1(95%CI:―0.22〜―0.03,p=0.014),CGI-BP(総合)は―1.5(95%CI:―1.68〜―1.34,p<0.001)であり,いずれにおいても有意な変化が認められた。以上より,双極性障害の躁症状に対するolanzapine投与後1ヵ月の日常診療下における安全性および有効性が確認できた。 Key words : olanzapine, bipolar disorder, manic, post-marketing survey
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【症例報告】
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非定型抗精神病薬による重度の認知症周辺症状(BPSD)・せん妄と統合失調症の縦断的治療経過について――2症例報告を通して
16巻9号(2013);View Description Hide Description重度のBPSD・せん妄と統合失調症は,幻覚妄想状態,精神運動興奮状態を呈し非定型抗精神病薬が有効であるという点では類似している。「非定型抗精神病薬による統合失調症の縦断的治療」の指針は「非定型抗精神病薬による重度のBPSD・せん妄の縦断的治療」のモデルとなり得るが,その逆もまたしかりである。本稿では,重度のBPSD・せん妄の治療ではpostpsychotic fatigueは出現するがpostpsychotic depressionは出現しないこと,統合失調症の治療ではpostpsychotic depressionもpostpsychotic fatigueも出現し得ることを示し,両者を明確に区別して治療することが重要であることを報告する。重度のBPSD・せん妄と統合失調症の縦断的治療経過における非定型抗精神病薬の薬理学的な効果と副作用について解明すべき点は多い。本報告はあくまで2症例を通しての考察であり報告である。今後はさらなる症例の蓄積と検討が必要である。 Key words : behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), schizophrenia, atypical antipsychotics, postpsychotic depression, postpsychotic fatigue -
多剤併用大量療法と長期隔離による入院治療後転院し,短期教育入院を経て単剤外来維持療法に移行できた初発統合失調症患者の1例
16巻9号(2013);View Description Hide Description長期隔離と多剤併用大量の抗精神病薬(5剤;CP換算2356mg)と気分安定薬による薬物療法でしか入院治療を継続することができなかった初発統合失調症患者が,転院し患者心理教育を柱とした短期教育入院をしたところ,処方薬を漸減でき,退院後に適量の非定型抗精神病薬単剤(paliperidone 6mg/日;CP換算400mg/日)のみによる外来維持療法で病状が安定化するようになった例を報告した。重症患者でも適量単剤療法にすることを諦めることなく,多職種による教育入院プログラムを明るいストレスの少ない環境で行って,患者の安心・信頼を高め,プログラムへの積極参加・集中力向上ができるように指導し,病識の獲得・病気の管理の理解と実践を促しつつ,減薬方針のもと薬物を慎重に漸減し,途中状況に応じて頓用薬を有効利用していくことが,薬物療法を適正化するうえで重要であると考えられた。 Key words : maintenance therapy, monopharmacy, psychoeducation, schizophrenia -
不安焦燥感を呈する精神疾患に対するtandospirone使用経験
16巻9号(2013);View Description Hide DescriptionTandospironeは5-HT1A受容体に選択的に作用し,心身症における身体症候ならびに抑うつ,不安,焦燥,睡眠障害,神経症における抑うつ,恐怖に適応となっている。Benzodiazepine系薬剤は,いずれも対症療法に過ぎない上に,依存性,筋弛緩作用,眠気,鎮静等の副作用があり,処方には慎重を要する。Tandospironeは,非benzodiazepine系の抗不安薬として期待されている。今回,不安焦燥感を呈する精神疾患4症例に対して,tandospironeの投与を行い,全ての症例が改善に至った。今回の検討によりtandospironeは,①benzodiazepine系抗不安薬未服薬例,②benzodiazepine系抗不安薬の頓用で効果のないもの,③benzodiazepine系抗不安薬の多剤併用例,④認知症に伴う行動・心理症状などに効果が期待できる可能性が示唆された。 Key words : tandospirone, 5-HT1A partial agonist, anxiety disorder, irritability
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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