Volume 16,
Issue 10,
2013
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【展望】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1423-1432 (2013);
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私たちが,現在,用いている意味での「気分安定薬mood stabilizer」という用語の歴史は比較的新しい。1960年代にlithiumの有効性を検証する過程から,従来の躁うつ病に代わる双極性障害の概念が形成された。1980年代に,valproateやcarbamazepineなど,抗てんかん薬の急性躁病に対する有効性が認められると,その作用機序に関する仮説から,これらの薬物には気分エピソードの再発予防効果が期待されるようになった。1990年代に入り,双極II型障害の概念が公式に登場すると,双極性障害の外縁がさらに広がり,その多彩な病像に対応すべく,従来の抗躁薬を超える新しい効能が求められるようになった。しかし,実際には,いずれの気分安定薬も気分エピソードの予防効果に関する確かなエビデンスは乏しく,気分安定薬という用語に収束される薬理学的特性は見出されない。 Key words : mood stabilizer, bipolar disorder, manic-depressive illness, lithium, anticonvulsant
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【特集】 双極性障害の精緻な薬物療法を求めて
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臨床精神薬理 16巻10号, 1433-1439 (2013);
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双極性障害の薬物療法ガイドラインは,海外にいくつも存在する。躁病,双極性うつ病,維持期の3相について,主なガイドラインの概説を試みた。ガイドラインの内容は統合失調症や単極性うつ病に比べてわかりにくく,その原因としてエビデンスの質,量の不足,1つの神経伝達物質からの説明の限界,横断的視点の行き過ぎが考えられた。双極性障害の疾患概念とその薬物療法の研究の進展が切に待たれる。 Key words : bipolar disorder, treatment guidelines, nomenclature
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臨床精神薬理 16巻10号, 1441-1448 (2013);
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双極性障害は,寛解と増悪を繰り返し,社会的損失も大きい疾患である。そのため,症状改善のみならず再発予防に留意して,薬物療法を含めた治療を継続できることが重要となる。しかし,双極性障害の治療アドヒアランスは良好とは言えず,薬のコントロール下にある不快感,高揚感がなくなること,疾患の否認などの要因からアドヒアランス悪化を来すことも多い。双極性障害の服薬アドヒアランスの評価には様々な方法があるが,その1つにThe Brief Evaluation of Medication Influences and Beliefs(BEMIB)修正日本語版があり有用である。また,アドヒアランス改善には,疾患や治療の理解を深めるための心理教育が重要であり,短期的効果のみならず長期的効果も実証されており,費用対効果の点でも優れている。実際の方法として,Colomらが用いた双極性障害の心理教育マニュアルが訳出されており,実践的である。 Key words : bipolar disorder, adherence, psychoeducation, BEMIB
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臨床精神薬理 16巻10号, 1449-1455 (2013);
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日本うつ病学会の治療ガイドラインでは中等度以上の躁状態に対してはlithiumと非定型抗精神病薬の併用,軽度の躁状態に対してはlithium単剤での治療を最も推奨している。つまり,気分安定薬を基本に,必要に応じて非定型抗精神病薬を考慮するという方針である。他方,最近のメタ解析では非定型抗精神病薬の気分安定薬に対する優位性が報告されている。本稿では,さまざまな側面から非定型抗精神病薬と気分安定薬の抗躁効果を比較した。その結果,概ね非定型抗精神病薬の方が気分安定薬よりも抗躁作用が強い可能性が高いと考えられた。しかし非定型抗精神病薬の中でもドパミン受容体拮抗作用の強い薬物は,抗躁効果の発現が速い反面,うつ転の危険性も高まる可能性がある。さらには,ドパミン受容体の拮抗作用が持続することで,気分に対するゆがみが持続し,長期にわたる再発予防に支障をきたす危険性も否定できない。このような観点から,非定型抗精神病薬を急性期に使用することは有用であるにしても,特にドパミン拮抗作用の強い薬物を引き続き,再発予防に使用することには疑問が残る。一方,ドパミン拮抗作用の弱い薬物の有するメタボリック関連の副作用も無視できない。再発予防効果を見据えた急性期治療が望ましいと考えるなら,単純に抗躁効果の大きさだけで非定型抗精神病薬を急性期治療の第一選択薬とすることは疑問である。このような理由から,現時点では,気分安定薬を基本に,必要に応じて非定型抗精神病薬を考慮するという方針を修正するには至らないと筆者は考える。 Key words : atypical antipsychotics, mood stabilizers, bipolar disorder, mania, anti-manic effects
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臨床精神薬理 16巻10号, 1457-1462 (2013);
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双極性障害の薬物療法において理想的な治療薬とは,抗躁効果,抗うつ効果,再発予防効果の全てを兼ね備えた気分安定薬である。本邦では,lithiumを始め,抗てんかん薬であるバルプロ酸,carbamazepine,lamotrigineが気分安定薬として用いられているが,双極性障害の薬物療法において第二世代抗精神病薬の有効性が認められ,気分安定薬単剤で十分な効果が得られない場合,気分安定薬と第二世代抗精神病薬との併用療法が行われている。また,双極性うつ病の難治例や大うつ病性障害の治療中に双極性障害へ診断変更された症例において,気分安定薬と抗うつ薬が併用される場合がある。このような背景から,双極性障害の薬物療法は多剤併用となりやすく,副作用の発現や薬物相互作用などの問題が生じる。今後は,不適切な多剤併用を避けるため,双極性障害の薬物療法における反応性や効果に関連する生物学的指標の開発が重要であるとともに,新たな薬物療法を確立していく必要がある。 Key words : polypharmacy, mood stabilizer, second generation antipsychotics, antidepressant
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臨床精神薬理 16巻10号, 1463-1468 (2013);
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双極性障害うつ病相(双極性うつ病)に対する抗うつ薬やベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)系薬剤は,実臨床において用いられる機会は多いものの,警鐘を鳴らされることも少なくない。警鐘の根拠は,抗うつ薬の効果が限定的である可能性があること,躁転と急速交代型への移行と関連する可能性があること,BZ系薬剤では依存と乱用の問題,奇異反応による病態の不明瞭化を招く恐れがあることなどである。これらの問題点の指摘から,各種のガイドラインでは抗うつ薬やBZ系薬剤の使用には慎重さが求められている。 Key words : bipolar disorder, antidepressant, benzodiazepine
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臨床精神薬理 16巻10号, 1469-1475 (2013);
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双極性障害に不安障害が併存する場合には,併存しない場合と比べて,発症年齢が早く,気分安定薬への反応が悪く,自殺や物質乱用のリスクも高くなるとされる。したがって,併存する不安障害への治療が重要視されるようになった。しかし,この分野での臨床研究は少ない。これまでの報告をまとめると,最も推奨される薬物はquetiapineとgabapentinである。Quetiapineは最もエビデンスレベルの高い研究で有効性が報告され,gabapentinでは有効性に関する研究のエビデンスレベルはquetiapineよりも低いが,安全性の点で評価される。第二に推奨される薬物は,divalproex sodium,lamotrigine,serotonergic antidepressants,olanzapine,olanzapine-fluoxetine combinationとなる。第三に推奨される薬物はlithium,risperidone,aripiprazole,benzodiazepinesである。このほか,認知行動療法やマインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy)の有効性を示唆する報告もある。今後,薬物療法と非薬物療法を包括したエビデンスの集積が待たれる。 Key words : pharmacotherapy, comorbidity, anxiety disorders, bipolar disorder
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【シリーズ】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1477-1478 (2013);
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臨床精神薬理 16巻10号, 1525-1534 (2013);
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臨床精神薬理 16巻10号, 1535-1543 (2013);
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【原著論文】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1479-1494 (2013);
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Risperidone持効性注射剤(RLAI)の使用実態下における長期投与時(1年間)の安全性,有効性および有用性について調査した。その結果,安全性解析対象症例は1123例,有効性解析対象症例は925例であり,患者の平均年齢は45.2±13.7歳であった。調査期間中に投与された抗精神病薬がRLAIのみであった患者の割合は全症例の16.6%であり,12ヵ月時点において抗精神病薬がRLAIのみとなった患者の割合は48.7%であった。一方,睡眠薬や抗パーキンソン薬の併用割合にはほとんど変化が認められなかった。調査期間の副作用発現症例率は21.9%であり,錐体外路症状が8.6%,血中プロラクチン値増加が8.2%に認められた。最終評価時点の有効率(CGI-Iが軽度改善以上を示した患者割合)は66.7%であり,GAFスコアは67.1%の患者で改善し,58.1%の患者がRLAI治療に満足を示した。12ヵ月間の治療継続率は74.7%であり,外来でRLAIに切り替えた患者の85.0%では調査期間中の入院がみられなかった。安全性,有効性,継続率および非入院率に前治療薬による差は認められなかった。以上のことから,RLAIは統合失調症患者の薬物治療として有用であることが示された。 Key words : risperidone long-acting injection, post-marketing surveillance, schizophrenia
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【症例報告】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1495-1498 (2013);
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Blonanserin(BNS)は非常に強いD2受容体遮断作用と5-HT2A受容体遮断作用を有する一方で,これら以外の受容体に対する親和性が低いことを特徴とする薬剤である。今回我々は,治療中断中であった統合失調症妊婦に対しBNSを用いて周産期管理を行った症例を経験したので報告する。妊娠後期になって幻聴などの陽性症状に加え,感情的不安定が表れた症例に対しBNSを使用したところ,陽性症状の改善と共に感情面での安定が得られ,正常出産に至ることができた。出産後も自ら進んで育児を行い,出産時に残存していた幻聴も育児期には確認されなくなり,良好な経過を辿ることができた。出産前後の精神症状の悪化は母子の生命に直結する種々の事態を引き起こす可能性が考えられるが,BNSを投与することにより分娩後期に悪化した精神症状を改善し,そのことにより出産のみならず育児においても良好な経過を得ることができることが示唆された。 Key words : blonanserin, schizophrenia, pregnancy, perinatal management
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臨床精神薬理 16巻10号, 1499-1503 (2013);
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Clozapineは治療抵抗性統合失調症に対し効果の期待できる薬剤だが,同時に無顆粒球症などの重篤な有害事象の可能性をはらんでいる。その発現や発現した際の準備体制は患者モニタリングシステムにより厳格に管理・規定されているが,合併症発生時の運用面の実際については報告が稀少である。精神科病院に設置された医療観察法病棟での入院処遇中,clozapineによる無顆粒球症を合併し,総合病院精神科病棟で入院治療を実施した1例を報告する。本症例では,処遇変更にあたっての運用の実際,精神症状と身体合併症の管理においていくつかの知見と課題を得た。医療観察法病棟でのclozapine使用は将来ますます増加すると考えられ,同様の事例が生じた際に直面し得る問題を提唱した。 Key words : agranulocytosis, clozapine, schizophrenia, forensic psychiatry, compromised host
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臨床精神薬理 16巻10号, 1505-1509 (2013);
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産後うつ病は比較的頻度の高い疾患であるが,重症例では妄想状態を来し,産褥精神病との鑑別は困難である。今回,罪業妄想など精神病症状を伴う産後うつ病に対して高用量のquetiapineが奏効した1例を経験したので報告する。症例は39歳初産婦,人工授精にて妊娠したが,妊娠高血圧症候群のため緊急帝王切開にて男児を出産した。産後,育児不安を訴えたが,次第に抑うつ気分,罪業妄想が出現し自殺企図に至った。入院後,quetiapineにて治療を開始し,速やかに増量し,最大1,200mg/日まで投与を行ったところ,精神病症状,抑うつ症状は急速に消退した。近年,難治性統合失調症の重篤な精神病症状に対する高用量quetiapine投与の有効性,安全性が報告されている。また,quetiapineは認知,感情症状の改善作用も有していることから本症例においても精神症状改善に寄与したと考えられた。 Key words : quetiapine, high doses, postpartum depression, psychotic symptoms
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臨床精神薬理 16巻10号, 1511-1515 (2013);
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高齢者の精神症状に対して向精神薬を使用する際は,副作用や依存性のリスクを十分に考慮すべきである。特に身体合併症例では薬剤の副作用や相互作用が出やすいため,更なる慎重さが必要である。今回,我々は合併症にて当院の精神科身体合併症病棟に入院した高齢患者の興奮,抑うつ,アパシーなどの精神症状に対して,tandospironeおよび抑肝散の併用による治療を行った。その結果順調に精神症状が回復した症例を経験したので報告する。Tandospironeは憂慮すべき副作用が少なく,依存性を形成しないために,高齢者の精神科身体合併症例に対して,抗精神病薬およびbenzodiazepine系薬剤より優先して使用すべき,第1選択薬になりうる可能性が示唆された。 Key words : behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), frontotemporal dementia, psychiatric and physical complications, tandospirone
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【短報】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1517-1520 (2013);
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高用量のaripiprazole(APZ),quetiapine(QTP)が有効であったと考えられる遅発性パラフレニーの症例を経験した。症例は61歳,女性。幻臭,幻視,汚染妄想,不安焦燥感を呈した。APZ 24mg/日およびQTP 600mg/日を使用し改善を認めた。高用量での忍容性は良好と考えられたが,後に服薬中断に至った。遅発性パラフレニーの治療では,副作用の観点から少量の非定型抗精神病薬が推奨されるが,急性増悪期では一時的に高用量を選択しうると考えられた。 Key words : late paraphrenia, aripiprazole, quetiapine, high-dose
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【Letters to the editor】
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臨床精神薬理 16巻10号, 1521-1523 (2013);
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