臨床精神薬理
Volume 17, Issue 5, 2014
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
長期予後を見据えた統合失調症の薬物療法:非定型抗精神病薬持効性注射剤の可能性――アドヒアランス維持とドパミン過感受性精神病の予防・改善
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症患者の再発率は極めて高く,初発精神病エピソードに対する治療導入後,数年で80%以上の患者において再発が経験されるとの報告がある。その背景として,患者の大多数が部分アドヒアランス状態にあることが挙げられる。一方で,抗精神病薬の多剤大量療法に代表されるドパミンD2受容体の過剰遮断は,錐体外路症状,二次性の陰性症状や認知機能障害など様々な有害事象と関係し,社会機能の回復を妨げる。同時に同受容体の過剰遮断は,代償性にドパミンに対する過感受性を惹起し,ドパミン過感受性状態を形成させる。この現象は再発準備性を高め,治療中断時の再発エピソードに繋がる。すなわちアドヒアランスの維持とドパミンD2受容体の過剰遮断の予防との両立が重要である。本稿では,その解決策として,非定型抗精神病薬持効性注射剤による治療が,両者の問題を考慮したアプローチであり,長期予後を改善する可能性を考察する。 Key words : adhererence, long-acting injection (LAI), dopamine supersensitivity, relapse, antipsychotic
-
-
【特集】 ライフサイクルに応じた統合失調症の薬物療法
-
-
児童青年期の統合失調症の薬物療法
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症を顕在発症した児童・青年を対象にした二重盲検比較試験を展望した。児童青年期の統合失調症には,非定型抗精神病薬の定型抗精神病薬に対する優位性が認められず,また非定型抗精神病薬間でも比較試験において有意な差を認めていない。しかし,錐体外路性副作用の出現は定型抗精神病薬に多く,代謝系副作用はolanzapine,quetiapine,risperidone,clozapineで多く,aripiprazoleで少ない。また,aripiprazoleはプロラクチンを上昇させない,など,薬剤間で副作用のプロフィールには相違がある。臨床効果よりも副作用に基づく薬剤選択が現実的である。しかし,これまでのエビデンスは,ほぼ青年期のものであり,児童期の薬物療法がいかにあるべきか検討が求められる。 Key words : early-onset schizophrenia, childhood and adolescent, neuroleptics, efficacy, adverse event -
発送早期(発症直後)first episodeとその後の維持治療――初回服薬体験の重要性:病識、患者‐医師関係、アドヒアランスを高める工夫
17巻5号(2014);View Description Hide Description近年,精神病未治療期間(DUP:Duration of Untreated Psychosis)の長さが抗精神病薬に対する治療反応性に影響することや,精神症状だけでなく機能的予後の改善も含めた全体的な転帰を予測する独立因子となりうることが示されたことから,統合失調症治療において早期介入の重要性が強調されるようになった。今後は,DUP短縮の重要性が医療現場だけでなく,社会的にもより周知されることで,発症後早期で受診する患者の増加が予想される。そのような発病早期の治療については,統合失調症に対する一般的な治療原則を基本とするだけでなく,その特殊性も考慮して治療されるべきであることから,より適切な治療について再考していく必要がある。 Key words : DUP, adherence, physician-patient relationship, antipsychotics medication, first-episode schizophrenia -
結婚・妊娠・授乳を見据えた薬物療法
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症患者に対するケアの向上や非定型抗精神病薬の使用により,女性患者の50〜60%が妊娠できるようになった。しかし,妊娠した患者の50%は,患者の家族計画の乏しさや性的暴行を受けたことなどによるもので,無計画あるいは望まない妊娠となっている。統合失調症患者については,向精神薬による催奇形性の懸念よりも,患者の精神症状の管理を重視して対応せざるをえない。妊娠中の抗精神病薬の使用については,特異的で頻度の高い形態奇形は報告されておらず,多剤併用・大量投与を避けて用いることが原則である。また,気分安定薬として抗てんかん薬を併用する際には,形態奇形や機能奇形に注意しなければならない。新生児適応不良症候群については,重篤になることは少なく,分娩前に向精神薬を中断することはむしろ母子ともに危険となる。さらに授乳中も,一部の向精神薬に注意しながら患者に効果があるとわかっている処方を続けることが適切である。 Key words : pharmacotherapy, schizophrenia, marriage, pregnancy, breastfeeding -
認知機能を考慮した統合失調症患者への薬物療法を考える――就労を見据えた薬物治療戦略
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症患者の就労率は低いが,精神障害者の就労率を上げる取り組みがなされつつある。最近の報告では,統合失調症患者の就労ができていないために必要とされるコストが多いことが分かってきた。就労や社会機能を高めるためには認知機能や社会機能の回復が不可欠と考えられている。つまり,精神科医には認知機能を意識した統合失調症薬物治療戦略が今後は求められることが考えられる。本稿では,統合失調症の薬物治療戦略の観点から,急性期から維持期にかけての認知機能を考慮した薬物治療戦略について考える。就労を見据え,非定型抗精神病薬の単剤治療やそれぞれの薬剤ごとの適切な用量設定,併用薬の使い方,再発やアドヒアランスを加味した治療戦略,錐体外路症状を加味した副作用に対する配慮が必要だと思われる。 Key words : schizophrenia, cognition, getting employed, atypical antipsychotics, social function -
中高年の統合失調症患者の身体的健康管理――生活習慣病の発症をいかに減らすか
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症患者の生活習慣病の発症を減らすためには,患者の生活の様子を把握し,生活習慣・環境や理解力に合わせた運動・栄養指導,禁煙治療を行うことが推奨されるが,陰性症状や認知機能障害の影響で生活習慣の改善が達成困難な場合も多い。患者の身体的健康を守るため,主治医は抗精神病薬による体重増加・肥満,糖・脂質代謝異常などの代謝系副作用や,過鎮静による活動性の低下といった生活習慣病への負の影響を慎重に考慮しつつ,適切な薬剤の選択と不要な薬剤の整理を行う必要がある。また,ガイドラインに沿った血液検査を含む適切なモニタリングを遵守し,生活習慣病の早期発見,早期治療につなげる必要がある。本稿では統合失調症患者の生活習慣病,特にメタボリックシンドロームに注目し,その一次予防,二次予防について概説する。 Key words : schizophrenia, antipsychotics, life style related diseases, metabolic syndrome, prevention -
高齢統合失調症患者への薬物療法
17巻5号(2014);View Description Hide Description国民の高齢化が進行しているが,統合失調症患者でも同様である。高齢統合失調症患者の治療のゴールをどのように設定するか今後の課題のひとつである。高齢患者の病態については一般に陽性症状は軽減し,陰性症状が前景になるとされているが,筆者らの勤務する病院での調査では,陽性症状の再燃による65歳以上の入院者数は全体の約20%であった。入院患者と通院患者の比較では,陽性症状のみならず陰性症状ともに入院患者において平均症状スコアは高いが,通院患者にも顕著な陽性症状を認める症例があった。抗精神病薬の平均用量は入院患者では通院患者の約倍量であったが,錐体外路症状に大きな差はなかった。高齢統合失調症患者に望まれる薬物療法について,加齢に伴う病態の変化,抗精神病薬の代謝と忍容性,錐体外路症状やその他注意すべき随伴事象の特徴などを中心に患者調査と文献レビューから考察す Key words : elderly schizophrenia, antipsychotic medication, tolerance, side effect
-
-
【シリーズ】
-
-
-
薬の使い方 Aripiprazoleを使いこなす 第10回 統合失調症治療における抗精神病薬の各剤形がもたらす治療メリット
17巻5号(2014);View Description Hide Description
-
-
【原著論文】
-
-
RLAI(Risperidone Long Acting Injection)導入と認知機能障害への影響についての検討――経口非定型抗精神病薬との比較研究
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症の再発により入院治療を行った患者に対して,Risperidone Long Acting Injection(RLAI)あるいは経口非定型抗精神病薬(対照群)をそれぞれ主剤とし,導入あるいは変薬前と退院24週間後の認知機能障害への影響について,単科精神科病院の実臨床下において前方視的に比較検討した。対象はRLAI群10例,対照群9例であり,両群の背景因子の分布に違いは認められなかった。安全性では,RLAI群の2例,対照群の1例にアカシジアと,RLAI群の1例に高プロラクチン血症を認めたものの投与中止には至らなかった。両群の統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS-J)のcomposite score(総合的認知機能)の改善に有意差は認められず,全19例でも明らかな改善効果は見られなかった。対照群の主剤が認知機能障害への改善効果が報告されている経口非定型抗精神病薬であること,急性期症状が消退し退院のめどがついた時点をbaselineとして設定したこと,抗コリン薬の併用による認知機能障害がその理由として考えられた。 Key words : schizophrenia, cognitive impairment, Risperidone Long Acting Injection,The Brief Assessment of Cognition in Schizopherenia, prospective
-
-
【症例報告】
-
-
Mirtazapineの増量に一致してアカシジア様の症状を認めたうつ病の2症例
17巻5号(2014);View Description Hide DescriptionMirtazapineはノルアドレナリン作動性/特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)に分類される抗うつ薬である。今回,筆者らは,うつ病患者に対して投与したmirtazapineの増量に一致して,アカシジア様の症状がみられた2症例を経験した。1例は,mianserin 10mgでも同様のアカシジア様の症状を呈し,trazodone 50mgとしたところ,アカシジア様の症状はみられずうつ症状は軽快した。1例では,duloxetine 60mg,paroxetine 40mgでもアカシジア様の症状は生じなかった。Mirtazapineによるアカシジアの報告は多くないが,mirtazapineは用量依存性にアカシジア様の症状を引き起こす可能性があることが示唆され,この機序を薬理学的に考察した。 Key words : mirtazapine, mianserin, akathisia, NaSSA, depression
-
-
【総説】
-
-
第2世代抗精神病薬の糖尿病惹起作用――臨床から基礎へ
17巻5号(2014);View Description Hide Description統合失調症治療薬である第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics:SGA)は糖尿病を惹起するリスクを有する。SGAの糖尿病惹起作用は大きく2つに分けられる。1つは食欲亢進や体重増加作用で,インスリン抵抗性に起因する。もう1つはβ細胞に対する直接作用で,インスリン分泌の低下を招くことによる。前者に関しては,臨床ならびに基礎研究が十分行われている。後者に関しては,非肥満症例でもSGAにより糖代謝障害を認めることから臨床的にその存在が推測されているが,詳細なメカニズムは解明されていない。そこで本稿では,前半はSGAによる肥満を介さない代謝障害を臨床的に概観し,後半はそのメカニズムの一端を示す最新の基礎研究のデータを紹介する。インスリン分泌の恒常性維持には小胞体という細胞内小器官(オルガネラ)が重要な役割を果たす。小胞体は分泌蛋白質の品質管理を行っており,さらに小胞体ストレスと総称される不具合(構造異常蛋白質の小胞体内蓄積)が生じるとそれに対応する防御機構を備えている。いわゆる小胞体ストレス応答(unfolded protein response:UPR)である。SGAであるolanzapineもrisperidoneもβ細胞に対してマイルドな小胞体ストレスを惹起し,3種存在する小胞体ストレスセンサーが全て活性化される。β細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であることが知られているが,通常(risperidone処理の場合も含め)UPRの活性化によって細胞はマイルドな小胞体ストレスから保護される。しかしolanzapineは,小胞体ストレスセンサーの1つであるPERKが活性化してもその下流のイベントである翻訳開始因子eIF2αのリン酸化が起こらないようにするため,olanzapine処理細胞では翻訳抑制が行われずインスリンが作り続けられる。その結果,細胞内にインスリンやプロインスリンが蓄積してアポトーシスが誘起されるのである。この現象はSGAの立体構造と関連すると推測され,臨床で観察されるolanzapineによる肥満を介さない代謝障害を説明することが可能である。臨床での疑問を基礎研究で解明し,それを再び臨床へ応用することが大切である。 Key words : second generation antipsychotics, diabetes mellitus, endoplasmic reticulum, unfolded protein response
-
-
【Letters to the editor】
-
-
-
【新薬紹介】
-
-
Rotigotine経皮吸収型製剤ニュープロ®パッチ
17巻5号(2014);View Description Hide DescriptionRotigotine経皮吸収型製剤は,非麦角系ドパミンアゴニストの貼付剤で,パーキンソン病および中等度から高度の特発性レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)の効能効果を有する。有効成分のrotigotineは,ドパミンD1〜D5のドパミン受容体サブタイプのすべてに親和性を有し,中でもD2およびD3受容体に対する親和性およびアゴニスト活性が高いことからRLSに対して効果を発揮すると考えられる。ドパミンアゴニストは,RLSの下肢不快感の改善効果が高く,周期性四肢運動(periodic limb movement:PLM)に対する効果も優れていることから,RLS治療の第一選択薬として位置付けられている。Rotigotine経皮吸収型製剤は,1日1回貼付することにより24時間血漿中濃度を一定に保つことができ,日中にRLS症状のある患者にも適応となるほか,長期投与にも適していると考えられている。また,腎機能や肝機能が低下した患者や周術期にも使用できる。今後,RLS治療における有用な選択肢となることが期待される薬剤である。 Key words : rotigotine, transdermal patch, restless legs syndrome, clinical trial, guideline
-
-
【座談会】
-
-
-
【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
-
-
第34回 SNRIの開発物語――その1.わが国初のSNRI milnacipran:レーダーに映らない戦闘機といわれて
17巻5号(2014);View Description Hide Description
-