臨床精神薬理
Volume 17, Issue 6, 2014
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【展望】
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精神神経疾患領域の臨床試験の特長と課題--Study design, operation and outcome -lessons learned
17巻6号(2014);View Description Hide Description精神神経疾患領域の医薬品開発は活発であり,国際的にも数多くの臨床試験が実施されている。当該領域の医薬品開発を目的とした臨床試験は,プラセボ対照試験が国際的にも基本であるが,プラセボに対する優越性を示すことも容易ではない。臨床試験から得られる結果(Outcome)は,被験薬の薬効だけでなく,試験デザインやその実施方法の影響を受けることがあり,よく計画し適切に実施する必要がある。近年は,当該領域の臨床試験でのプラセボ反応性が経年的に増加傾向にあり,有効性が示されないこともたびたび経験される。このため,試験デザインや試験の実施方法が,プラセボ反応性やエフェクトサイズに与える影響についても検討が進められている。本稿では,当該領域の臨床開発の状況を踏まえ,臨床試験の計画や実施方法に関わる特徴について解説する。 Key words : psychiatric clinical trial, study design, operation, outcome, placebo response
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【特集】 向精神薬の治験再考-なぜこのメカニズムの向精神薬の治験は失敗したか?
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HPA axisに働く抗うつ薬の可能性
17巻6号(2014);View Description Hide Descriptionストレスに関連する視床下部─下垂体─副腎皮質系(hypothalamo-pituitary-adrenal axis:HPA系)のフィードバック障害による過亢進がうつ病患者急性期の約半数において認められる。HPA系はうつ病のバイオマーカーとして注目される一方,HPA系を制御する薬が抗うつ薬として臨床使用できるのではないかと期待されてきた。中でもCRH受容体1アンタゴニストのうつ病治療薬としての開発が期待されてきたが,R-121919は大うつ病性障害で有効性が報告されたものの肝機能障害例をみたため臨床実用化には至らなかった。HPA系に直接作用する他の薬剤では,V1b受容体アンタゴニストのSSR149415,コルチゾール合成抑制剤のmetyrapone,グルココルチコイド受容体アンタゴニストのmifepristone,ミネラルコルチコイド受容体アゴニストのfludrocortisoneが現在も治験中である。 Key words : CRH-1 receptor antagonist, glucocorticoid receptor antagonist, mineralocorticoid receptor agonist, vasopressin receptor antagonist, clinical trial -
トリプルモノアミン再取り込み阻害薬
17巻6号(2014);View Description Hide DescriptionTricyclic antidepressants(TCAs)は本来の目的とは異なる効果器とも結合するために有害事象を引き起こしやすい。そこでselective serotonin reuptake inhibitors(SSRIs)が開発されたが,肝心の抗うつ効果が不十分であった。さらにserotonin-norepinephrine reuptake inhibitors(SNRIs)やdopamine-norepinephrine reuptake inhibitors(DNRIs)も臨床場面に登場したが,いずれの薬を用いても反応しないうつ病が存在する。薬に反応しないうつ病に対して試された併用療法のうち,特にSSRIとDNRIの併用が効果的であることが示唆されるに至り,3つのmonoamineを同時に取り込み阻害することが効果的なのではないかと期待されるようになった。このような背景の下で開発されたtriple monoamine reuptake inhibitors(TRIs)ではあるが,これまでの臨床試験では,期待されたほどの成果は見られていない。 Key words : triple monoamine reuptake inhibitor, serotonin, norepinephrine, dopamine, depression -
代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)2/3アゴニスト
17巻6号(2014);View Description Hide Description統合失調症の根治的治療法はいまだ見つかっておらず,ドパミンD2受容体以外の明確な治療標的は存在しない。2007年に報告された代謝型グルタミン酸受容体2/3アゴニストLY2140023(pomaglumetad methionil)の第Ⅱ相臨床試験の結果は,D2受容体阻害作用をもたない薬剤が,非定型抗精神病薬と同等の抗精神病作用と優れた安全性を示したという点でセンセーショナルであった。しかし,後続の数本の試験でLY2140023は,プラセボを超える有効性を証明できず,本薬剤の開発は中止された。これらの治験の失敗の原因として,プラセボ反応率が高かった影響や受容体の脱感作が生じた可能性は否定できない。我々は,この経験を生かしながら,今後もグルタミン酸伝達を調節する薬剤をさらに探求しエビデンスを蓄積することが,次世代の薬剤開発にとって重要であると考える。本稿では,LY2140023の話題を中心に,代謝型グルタミン酸受容体2/3アゴニストの臨床試験をめぐる課題と展望を考察した。 Key words : LY2140023, LY404039, metabotropic glutamate receptor 2/3 agonist, pomaglumetad methionil, schizophrenia -
アルツハイマー病におけるアミロイドワクチン
17巻6号(2014);View Description Hide Descriptionアミロイドワクチンは,能動ワクチンと受動ワクチンに大別されるが,現在のところ,双方ともに順調に開発が進んでいるとは言い難い。従来型のワクチンである能動ワクチンは,免疫を賦活することによる脳炎などの重篤な副反応が問題となっており,開発が難航している。また,免疫賦活を回避するために開発された抗体製剤である受動ワクチンは,多くの大規模な治験が行われたが,現在のところ,明確な臨床効果を実証できていない。現状を打開するためには,抗体製剤のターゲットであるアミロイドβ蛋白の神経毒性発揮メカニズムをもう一度検討することにより,特定の凝集体など神経毒性を発揮する形態のアミロイドβ蛋白に対して抗体を作成する必要があるのではないかと考えられる。また,アミロイドワクチンの治験は投与期間が1年以上と長期にわたるために,併用薬など治験のしくみ自体の再考も必要と考える。 Key words : amyloid, Alzheimer's disease, active vaccine, passive vaccine, oligomer -
アルツハイマー病におけるγ‐セクレターゼ阻害薬
17巻6号(2014);View Description Hide Descriptionγセクレターゼ阻害薬はアルツハイマー病の根本治療薬として期待され,これまで精力的に研究開発が進められてきた。しかし,臨床治験は悉く失敗に終わっている。その理由として,この開発には「アミロイドカスケード仮説」を基盤としているが,アミロイドの蓄積は発症以前の極めて早期から起こっていることや,タウの病理も協働して発症につながることなどが想定される。また,非選択的にγセクレターゼを阻害することは,生理的なNotchシグナルの阻害ばかりではなく,アミロイド病理をかえって悪化する嫌いがある。そこで,γセクレターゼの活性を調節するγセクレターゼモジュレーターの開発に期待が寄せられている。 Key words : disease-modifying drug, γ-secretase modulator, amyloid cascade hypothesis -
今後期待される新しいメカニズムの向精神薬
17巻6号(2014);View Description Hide Description本特集において,抗精神病薬,抗うつ薬,抗認知症薬などの様々な向精神薬における治験の失敗について述べられている。その原因には,いくつか挙げられるが,1)想定したメカニズムそのものの問題,2)メカニズムに対する試験デザインの問題,3)診断基準の問題,4)創薬における経済原理の問題などが挙げられる。本稿においては,各種向精神薬に関して,成功例と失敗例を比較しながら,その本質について迫り,これらを踏まえた上での今後の創薬の方向性を議論し,1つの例として,統合失調症の認知機能障害に対する創薬について述べる。 Key words : schizophrenia, major depressive disorder, dementia, cognitive decline
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【シリーズ】
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【原著論文】
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抗精神病薬の説明文書を用いたインフォームド・コンセントが双極性障害患者における満足度および服薬態度に及ぼす影響について
17巻6号(2014);View Description Hide Description第二世代抗精神病薬(SGA)は統合失調症のみならず,患者の症状や状態により双極性障害への適応外使用も行われることは少なくない。このため,適正なインフォームド・コンセント(IC)の実施が求められている。そこで,精神科外来を受診したSGAを服薬している106名の双極性障害の患者を対象に,SGAに関する説明文書を用いたICが患者の服薬に対する満足度や服薬態度にどのような影響を及ぼすかについて調査を行った。その結果,多くの患者が抗精神病薬の効果と副作用に関する説明文書を用いた十分なICを受けていない現状が明らかとなり,説明文書を用いたICは患者の薬に対する満足度や服薬態度に悪影響を及ぼすことはなく,患者側からはむしろその必要性が求められた。さらに,IC後の患者の薬に対する満足度が高いほど服薬継続意思が高かったことから,治療のリスクとベネフィットについての十分な説明に加え,患者の意見を尊重するSDM(Shared Decision Making)の実践が重要となる。 Key words : informed consent, bipolar disorder, second-generation antipsychotics, satisfaction, medication attitude -
慢性かつ治療抵抗性統合失調症患者における幻聴に対するblonanserinの上乗せ投与による有用性と単剤化への試み
17巻6号(2014);View Description Hide Description我々は慢性かつ治療抵抗性統合失調症患者の幻聴に対するblonanserin (以下BNS)の上乗せ投与による有用性(以下Step 1)とその後の単剤化への試み(以下Step 2)について検討した。Step 1は慢性かつ治療抵抗性の統合失調症患者30例に対して,投与前平均chlorpromazine(以下CP)値828.6mgにBNS平均21.2mgを全例上乗せ投与した。その結果,53.3%(16例)で著明改善を認め,PANSSのP3スコアは5.4から3.1へと有意に改善した。幻聴改善に至った平均日数は13.7日であった。Step 2では,23例を対象に他の抗精神病薬の減量およびBNS単剤化を試みた。平均CP値は1421.4mgから513.0mgへと減量し,BNS単剤で8週間以上安定した症例は91.3%(21例)であった。DIEPSSは6.2から1.2へと軽減した。本試験よりBNS上乗せ投与は慢性かつ治療抵抗性の統合失調症患者に有用であり,併用されている抗精神病薬の薬剤整理の一助となり得る薬剤であることが示唆された。 Key words : blonanserin, chronic schizophrenia, polypharmacy, monotherapy, additional dosage -
統合失調症患者における第二世代抗精神病薬持効性注射剤の受け入れに関する調査
17巻6号(2014);View Description Hide Description持効性注射剤は治療の良好な継続が可能であり,経口薬と比較して再発率が低いことから,欧米では統合失調症治療の主要な治療戦略の1つとして重要な役割を担っている。しかし,本邦では,持効性注射剤は第一世代抗精神病薬のみであったこともあり,あまり普及していないのが現状である。そこで,統合失調症患者145名を対象に,本邦初の第二世代抗精神病薬のrisperidone持効性注射剤(RLAI)の受け入れに関する調査を行った。その結果,34.4%の患者がRLAIを試してみたいと回答し,その主な理由は「2週間に1回投与される方が楽だから」であった。さらに,入院患者におけるRLAIの受け入れ率(45.1%)は外来患者の受け入れ率(28.7%)よりも有意に高く,入院患者の受け入れ率とDAI-10(服薬アドヒアランス評価)およびSAI(病識の評価)との間にそれぞれ正の相関が認められたことから,患者の服薬アドヒアランスおよび病識を改善させることにより,RLAIの受け入れ率がさらに向上することが示唆された。 Key words : risperidone long-acting injection, adherence, DAI-10, SAI, schizophrenia -
Risperidone持効性注射製剤上市後の持効性注射製剤の処方動向--2010年および2011年の全国多施設処方実態調査研究より
17巻6号(2014);View Description Hide Description精神科臨床薬学研究会(PCP研究会)では,2005年よりPCP研究会会員病院に入院中の統合失調症患者を対象とした処方実態調査を行っている。今回,2010年および2011年の調査結果から,risperidone持効性注射製剤(RLAI)上市後の持効性注射製剤(LAI)の処方動向を検討した。その結果,LAIの処方率は7.6%から8.2%に増加していた。2010年のLAI投与患者における抗精神病薬平均投与剤数および投与量は2.8剤,1277.9mg/日,単剤処方率は13.4%であり,2011年においても変化を認めず多剤かつ高用量で推移していた。また,LAI投与患者の多くは経口抗精神病薬が併用され,LAI単剤に比べ抗精神病薬投与量,抗パーキンソン薬,抗不安薬・睡眠薬,気分安定薬の併用率が有意に高値であった。一方,RLAI単剤では,第1世代(定型)抗精神病薬LAI単剤,RIS経口薬単剤に比べ,抗パーキンソン薬の併用率が有意に低く,RLAIの薬理学的特性が反映されていると考えられた。 Key words : schizophrenia, prescription survey, polypharmacy, antipsychotics, long-acting injection
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【症例報告】
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新規抗うつ薬に不耐性または反応不良性の大うつ病性障害に低用量のimipramineが著効した1例
17巻6号(2014);View Description Hide DescriptionImipramineは1959年に本邦に導入された最初の三環系抗うつ薬である。近年,うつ病の治療は選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などの新規抗うつ薬の使用が主流となり,imipramineの使用頻度は極めて少なくなった。今回,6種類の抗うつ薬に不耐性または反応不良性を示したが,低用量のimipramineが著効した高齢の大うつ病性障害の1例を経験したので報告する。Imipramineは,新規抗うつ薬での治療に不耐性や抵抗性を示すうつ病患者に対して,各種増強療法や抗うつ薬の併用療法を施行する前に,一度は単剤で試す価値のある薬物である可能性が示唆された。 Key words : treatment-intolerant depression, imipramine, switching, pharmacotherapy, tricyclic antidepressant
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【講演紹介】
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DSフォーラム2013 シンポジウム「統合失調症の維持期を見据えた急性期治療を考える」講演1 昭和大学烏山病院スーパー救急病棟におけるblonanserinの活用--平成22年・23年カルテ調査より
17巻6号(2014);View Description Hide Description -
DSフォーラム2013 シンポジウム「統合失調症の維持期を見据えた急性期治療を考える」講演3 Blonanserinの2年間における治療継続率と安全性--Blonanserinはrecoveryを実現できるか?
17巻6号(2014);View Description Hide Description
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第35回 SNRIの開発物語--その2.波瀾万丈の末に世界制覇に成功したduloxetineの開発物語:前編 海外での開発の経緯
17巻6号(2014);View Description Hide Description
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