臨床精神薬理
Volume 17, Issue 7, 2014
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【展望】
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適応拡大の多様な側面
17巻7号(2014);View Description Hide Description近年,抗精神病薬の気分障害への適応拡大,注意欠陥多動性障害治療薬の成人への適応拡大をはじめとした向精神薬の効能追加(適応拡大)が相次いでいる。適応拡大は,新たな効能の追加により治療の選択肢が広がり,より多くの患者が保険適応下で薬物療法を受けられるようになる一方,当該の向精神薬を処方される可能性のある患者が増加することを意味しており,服薬のデメリットに遭遇する機会も併せて増加することを念頭におく必要がある。向精神薬の適応拡大は社会的に大きな影響を及ぼす場合があることから,医療従事者は従来のように治療上のメリットのみに注目していられない状況におかれている。本稿では効能追加のプロセスを通じて,適応拡大には臨床上の必要性による適応外使用の解消のみでなく,新薬のライフルサイクルマネジメントの意味合いなど多様な側面があることを概述し,向精神薬を臨床現場で新しい効能に使用する際の留意点について考える。 Key words : psychotropic medication, expand indication, drug patent expiration, patent cliff
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【特集】 向精神薬の適応拡大―最新の知見―
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Olanzapineの双極性障害への適応――双極性障害の躁病
17巻7号(2014);View Description Hide Description非定型抗精神病薬のolanzapineが躁病の治療薬の選択肢となった。国内試験および外国の代表的な試験をレビューし,olanzapineによる躁病治療の意義について検討した。その結果,olanzapine単剤投与のエビデンスが確立していた。また,気分安定薬との比較では,olanzapineと気分安定薬との間で有効性については大きな違いはなく,副作用のプロフィールが異なっていた。躁病の治療においては,olanzapineと気分安定薬の有効性には大きな違いはないと思われるが,薬剤の作用機序は大きく異なっており,気分安定薬で効果が不十分な症例に対してはolanzapineを使用することの意義が小さくないと考えられる。今後,躁病の症例に対してどのようにolanzapineと気分安定薬を使い分けていくべきか,臨床的観点から更なるエビデンスが期待される。 Key words : olanzapine, mania, atypical antipsychotic, mood stabilizer -
Olanzapineの双極性うつ病に対する臨床効果と適応拡大
17巻7号(2014);View Description Hide Description2012年2月双極性うつ病に対するolanzapineの保険適応が承認された。双極性うつ病に対する効能,効果が明記された薬物は国内ではこれまでなく,olanzapineの適応承認は画期的なことであった。Olanzapineは海外ではSSRIであるfluoxetineとの合剤により双極性うつ病への保険適応が承認されており,この合剤はolanzapine単剤よりも有効性が高く,安全性は同等である。Olanzapineの単剤と合剤以外には,quetiapine,lithium,lamotrigineなどが双極性うつ病の治療薬として国内外の治療ガイドラインで推奨されているが,最も有効性が確実で海外で保険適応が承認されているのはquetiapineである。Lithium,lamotrigineの双極性うつ病に対する有効性はまだ十分に確立されているとはいえない。現時点では双極性うつ病の保険適応内の治療は限られているが,今後保険適応内かつ有効な治療法が増えて,双極性うつ病患者の予後が改善することが望まれる。 Key words : bipolar disorder, bipolar depression, olanzapine, quetiapine, lithium -
Aripiprazoleの双極性障害への適応――躁状態
17巻7号(2014);View Description Hide Description本稿では,双極性障害躁病エピソードに対する,aripiprazoleの効果発現の薬理学的作用機序仮説,無作為化比較対照試験の結果,および筆者の治療経験に基づいた印象について述べる。AripiprazoleはドーパミンD2受容体,ドーパミンD3受容体,セロトニン5-HT1Aに対する高い親和性を有し,それぞれのパーシャルアゴニストとして作用する第2世代抗精神病薬である。双極性障害の病態は未だ不明であるが,Prangeらのモノアミン仮説では,いずれの病相とも中枢性セロトニン機能が低下する一方,躁病相におけるカテコラミン機能の亢進,うつ病相でのカテコラミン機能の低下がみられるとされており,aripiprazoleの双極性障害の両病相に対する治療効果を説明しうる。臨床的には無作為化比較対照試験のメタアナリシスによって,aripiprazoleの双極性障害躁状態に対する有効性が示されている。筆者の印象によると,aripiprazoleは治療経過中過鎮静となることが少なく,治療開始から寛解へ比較的速やかに至る。したがって ,aripiprazoleは双極性障害躁状態に対する最も有力な治療選択肢の1つであると考えられる。 Key words : aripiprazole, bipolar disorder, dopamine, manic episode, serotonin -
Aripiprazoleの大うつ病に対する増強療法の適応追加
17巻7号(2014);View Description Hide Description我が国のうつ病患者は急増しているが,第1選択薬の抗うつ薬で治療しても約60%の大うつ病患者が寛解に至らない。治療抵抗性うつ病に対しては,多くのガイドラインで他の抗うつ薬への切替とともに,非定型抗精神病薬の増強療法が推奨されている。Aripiprazoleは,国内で初めて大うつ病に対する増強療法の適応承認を得た非定型抗精神病薬である。国内の短期(6週間)試験では,固定用量(3mg/日)と可変用量(3〜15mg/日)によるaripiprazole増強療法が,大うつ病の中核症状を早期に改善させ,ともに高い有効性を示した。有害事象としては,アカシジアと振戦が多かったが,大部分は軽度もしくは中等度で,多くは減量ないし抗パーキンソン薬の投与で継続可能であり,忍容性も良好であった。長期(52週)試験では,高齢者を含め,その有効性と安全性が確認された。本結果からaripiprazole増強療法の開始・推奨用量は3mgと低用量であり,多くの寛解に至らない大うつ病患者に対する最善の治療選択肢の1つになるものと考えられた。 Key words : aripiprazole, augmentation, major depressive disorder, treatment-resistant depression -
Lamotrigineの双極性障害への適応
17巻7号(2014);View Description Hide DescriptionLamotrigine(LTG)は海外ではいち早く双極性障害治療薬として認知されてきたが,本邦では2008年にまず抗てんかん薬として上市され,2011年に双極性障害の維持期治療薬として遅れて適応が拡大された。本剤の病相予防効果に関しては,維持期のうつ病相予防に対する効果を中心にその有用性が国内外で実証されてきたが,急性期うつ病相への効果については十分なエビデンスが確立されたとはいえない。一方,維持療法を見据えた急性期うつ病相の治療を考える際には,LTG単剤使用よりもLTGとlithiumまたはquetiapineとの併用療法が有効である可能性についても言及した。これらの知見に加えて,本稿では,本剤追加が著効したラピッドサイクラーの自験例を挙げるとともに,われわれが前向き臨床研究として行った本剤の血中濃度と治療反応の関連についても紹介する。 Key words : lamotrigine, bipolar disorder, depressive episode, relapse prevention -
Methylphenidate徐放錠とatomoxetineの成人への適応
17巻7号(2014);View Description Hide Description注意欠如・多動性障害(ADHD)は,小児を中心に診断基準が作成され,その病態が検討されてきた。しかし,近年のエビデンスは,ADHDが成人期にも持続しうること,成人のADHDも小児と同様に評価しうることが明らかにされている。本稿では,methylphenidate徐放錠とatomoxetineの臨床エビデンスを概観した。その結果は,両薬剤がいずれも十分な有効性と忍容性を有することを明らかにしている。しかし,両薬剤の使い分けをめぐるコンセンサスは確立していない。診断の妥当性の検証とともに,臨床エビデンスの構築が求められる。 Key words : adult, attention-deficit/hyperactivity disorder, OROS-methylphenidate, atomoxetine -
Donepezilのレビー小体型認知症への適応
17巻7号(2014);View Description Hide Description現在,アルツハイマー型認知症(AD)の認知機能障害に対して本邦で保険適応のある薬剤は,コリンエステラーゼ阻害薬(ChEIs)のdonepezil,galantamine,rivastigmine,NMDA受容体拮抗薬のmemantineの4剤である。一方,レビー小体型認知症(DLB)に適応を有する薬剤は,現在のところ存在しない。DLBではAD以上に脳内アセチルコリンが減少しており,これまでにDLBの認知機能障害と認知症の行動・心理症状(BPSD)に対するChEIsの有効性が報告され,ChEIsがDLBにも保険適応となることが期待されている。Donepezilは本邦で二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の第Ⅲ相試験が終了している。本稿では,DLBの概念と臨床診断基準,臨床症状と薬物療法についてChEIsを中心に概説した上で,donepezilのDLBの適応に向けた多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の結果について述べる。 Key words : dementia with Lewy bodies (DLB), cholinesterase inhibitors (ChEIs), cognitive impairment, behavioral and psychological symptom of dementia (BPSD), parkinsonism
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【シリーズ】
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薬の使い方 Aripiprazoleを使いこなす 第11回 児童・青年期精神疾患患者におけるaripiprazoleの有効性と安全性
17巻7号(2014);View Description Hide Description
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【原著論文】
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Risperidone持効性注射剤の日本における1年間の長期治療成績および継続率に関連する因子
17巻7号(2014);View Description Hide Description民間精神病院4施設を含む合計5施設で,risperidone long-acting injection (RLAI)を1年間使用した患者107名について後方視的カルテ調査を行い,1年間の長期治療成績と継続率を調査し,それらに関連する因子について明らかにした。データ不足などから73名が最終調査対象となった。1年間RLAIを継続した48名ではClinical Global Impressions Change(CGI-C),The Global Assessment of Functioning (GAF)ともに有意な改善が認められた。RLAI導入後にはchlorpromazine(CP)換算値が上昇していたにもかかわらず,錐体外路症状が悪化したのは4.1%のみであった。本調査におけるRLAIの1年間継続率は65.8%であった。なかでも本人希望でかつ外来導入例では全患者が1年間継続できていたことは重要であった。中止理由の内訳は,効果不十分が40%,患者希望が40%,副作用が12%,副作用以外の身体合併症による転院が8%であった。1年間継続率と関連因子との解析結果からは,「性別が男性」「RLAI導入時にbenzodiazepine(BZ)系薬剤の併用群」において統計学的に有意に1年間のRLAI継続率が高いことが示された。 Key words : risperidone LAI, discontinuation, consciousness of disease, extrapyramidal symptom, clinical predictor
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【症例報告】
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標準注意検査法がatomoxetine薬物治療による不注意症状の改善を反映しえた成人期注意欠如・多動性障害の1例
17巻7号(2014);View Description Hide Description成人期の注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)の治療においては,効果判定は主観的な臨床評価によっており,客観的な評価方法は確立されていない。今回我々は,atomoxetineを用いた成人期ADHD患者の診断・治療効果判定に,客観的臨床評価手法として標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention:CAT)を使用し,臨床経過をよく反映した1例を経験したので報告する。症例は40歳女性,中学時代から学校への忘れ物が多く,集中力がないことを自覚し始めた。21歳時にうつ病と診断されていたが,40歳時に発達障害を疑われ当院に紹介された。改めて病歴聴取を行い,学童期以降のADHD症状を確認し,CATの結果も参考にしながら,ADHDとの診断に至った。Atomoxetineを40mg/日から内服開始し,80mg/日に増量したところ,日常生活およびCATでの評価における不注意症状の改善を認めた。成人期ADHDでは,不注意が生活の障害となることが多いが,CATは,ADHDの不注意症状を反映する可能性があると思われた。 Key words : Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD), atomoxetine, Clinical Assessment for Attention (CAT), adults
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【座談会】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第36回 SNRIの開発物語――その3.波瀾万丈の末に世界制覇に成功したduloxetineの開発物語:中編 わが国での開発その1
17巻7号(2014);View Description Hide Description
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