Volume 17,
Issue 10,
2014
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【展望】
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臨床精神薬理 17巻10号, 1343-1352 (2014);
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第二世代抗精神病薬(SGA)の普及は,それまでの精神科治療のパラダイムシフトに連なったとはいえ,新たな問題も浮き彫りにした。多剤大量療法による死亡リスクの増大,SGAの代謝系副作用の問題と身体アセスメントの重要性,行政当局による規制開始などである。これらの問題に対して,(1)治療の目的や基本概念などの見直し,(2)処方の計画・実施に関する技術の向上,(3)情報共有,共同意思決定,多職種連携の導入の3つの視点から,抗精神病薬治療の適正化を提案する。 Key words : choosing wisely, second-generation antipsychotics, polypharmacy, high-dose antipsychotic medication, Japanese Adverse Drug Event Report database
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【特集】 抗精神病薬の適正使用
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臨床精神薬理 17巻10号, 1353-1359 (2014);
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統合失調症患者に対する抗精神病薬の多くの治験で,適量の抗精神病薬が単剤で使用された時にはプラセボに比較して安全で有効であることが示されている。諸外国では,抗精神病薬の大量投与は改善されてきている。しかし,日本では抗精神病薬の多剤併用大量投与が未だに行われている。充分な根拠のない治療法のために多くの日本の統合失調症患者が苦しんでいるがその改善は困難である。それは抗精神病薬の減量に伴う離脱症状への対応が不十分であるから,と考えられる。われわれは,抗精神病薬のゆっくりとした減量法を提案しその有効性を2つの無作為割付試験で示すことができた。ゆっくりとした減量法は,減量単純化研究では「RAS法」と呼ばれ,また,安全で効果的な是正研究では「SCAP法」と呼ばれている。本稿では,SCAP法が成立するまでの考え方,および,2つの臨床研究の結果,その限界と応用を概説する。多くの医師にとって,より適切な処方を実行するための参考となれば幸いである。 Key words : schizophrenia, antipsychotics, combination therapy, high dose
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臨床精神薬理 17巻10号, 1361-1365 (2014);
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BPSDに“精神病薬処方の理由づけ”をすることを目的にアルツハイマー病(AD)のBPSDに関する我々の研究およびADの薬物療法について総説した我々の報告を紹介し,ADのBPSDに対して抗精神病薬を処方する意義と抗精神病薬処方の注意点について述べた。BPSDは,比較的若年で認知機能が保たれているADの早期では精神症状,行動症状,抑うつ症状に明瞭に区別されるのに対して,年齢や認知症の重症度が増すとともに,感情障害と不安および恐怖という抑うつ症状が妄想観念,幻覚,攻撃性と結びつくことが示された。このため,ADの一部のBPSDはうつ状態ないしは躁うつ混合状態であると考え,ADのBPSDに対する薬物療法として増強療法にて非定型抗精神病薬を処方する意義を総説した。ただし,ADのBPSDはアセチルコリンの低下と関係するBPSDもあり,まずこれらの鑑別が重要である。また,我が国でうつ状態,躁状態の適応を取得している非定型抗精神病薬が比較的使用しやすい薬剤であると考えることを必ず伝え,家人の同意を得ることも重要である。第一選択は特に超高齢者ではまず抗うつ薬である。一般的にも非薬物療法がBPSDの第一選択であることを心がけるべきである。 Key words : Alzheimer's disease (AD), antipsychotics, augmentation, behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD)
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臨床精神薬理 17巻10号, 1367-1373 (2014);
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確かにいくつかの抗精神病薬は,主観的な催眠作用,睡眠ポリグラフ上での入眠潜時の短縮,総睡眠時間の延長,中途覚醒時間の短縮など催眠鎮静作用を有する。しかし,適応病名のことを別にしても,不眠の臨床的な改善効果とリスク・ベネフィットバランスの観点から,成人の(原発性,二次性)不眠症に対して抗精神病薬を用いることを積極的に支持するエビデンスは十分でない。統合失調症に伴う不眠であれば,その他の精神症状に対する効果と合わせてリスク・ベネフィット比が担保される場合も多いだろう。一方で原発性不眠症,もしくは身体疾患に伴う二次性不眠症に対して積極的に用いる根拠は相対的に弱くなる。NIH State of the Science Conferenceにおいても,原発性および二次性不眠症に対する抗精神病薬の有効性,安全性に対する情報は不足しており,睡眠薬代わりに用いることは推奨できないと総括されている。眠気や倦怠などによるQOL障害や耐糖能異常などの副作用リスクを勘案すると,現時点では抗精神病薬を用いた不眠医療に過大な期待を抱くことはできない。今後,既存の睡眠薬が奏効しない難治性不眠症に対する補完療法として抗精神病薬の一部を活用することが可能か,用量,投与期間,安全性を明らかにする臨床試験が実施されることを期待したい。 Key words : antipsychotics, insomnia, hypnotic action, sleep structure, drug safety
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臨床精神薬理 17巻10号, 1375-1382 (2014);
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非定型抗精神病薬の登場以降,児童青年期患者に対する抗精神病薬投与が世界的に増加している。しかし,精神病以外の児童青年期精神疾患に対する抗精神病薬の効果を検討した研究は,自閉スペクトラム症の興奮性やトゥレット症に関するものを除けば,ごく少数である。境界域から中等度の知的能力障害を伴う反抗挑発症や素行症の患者に対するrisperidoneの効果については,有効とするいくつかの二重盲検プラセボ対照研究があるが,メタ解析ではその有効性が確認されていない。知的能力障害を伴わない反抗挑発症や素行症の患者に対するquetiapineやrisperidoneの効果については,サンプルサイズの小さい研究があるのみであった。そのため,いずれも原則として抗精神病薬の適応ではないと考えてよいであろう。また児童青年期患者に非定型抗精神病薬が投与された場合,錐体外路症状の出現頻度が高く,顕著な食欲亢進が特徴である。さらに長期投与によって,肥満やメタボリック症候群が増加することが明らかとなっている。 Key words : antipsychotics, autism spectrum disorder, intellectual disorder, ADHD, disruptive behavior disorder
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臨床精神薬理 17巻10号, 1383-1393 (2014);
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抗精神病薬は広く使用されているが,特に統合失調症と同じかそれ以上に気分障害に処方されている。気分障害への抗精神病薬使用とは範囲が広く,本稿ではまず,気分安定薬としての抗精神病薬について考える。気分安定薬の定義について考え,ふさわしい薬剤は何かについて検討する。次に,治療抵抗性うつ病に対する抗うつ薬の補助療法としての抗精神病薬使用についてふれる。また,双極性うつ病に対する抗うつ薬と抗精神病薬の使用との関係性から双極スペクトラム障害について再考する。 Key words : antipsychotic, depression, bipolar disorder, mood stabilizer, treatment-resistant depression
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【緊急報告】
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臨床精神薬理 17巻10号, 1395-1418 (2014);
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ゼプリオン(paliperidone palmitate)が本邦に導入されて6ヵ月間の推定投与例約11,000例において,32例の死亡例が市販直後調査で報告された。その半数の16例は広義の突然死(12例は狭義の突然死,4例は突然死の可能性),4例は悪性症候群関連の死亡,7例は自殺であり,悪性腫瘍,肺炎など重篤な身体疾患の患者に投与して死亡した例も存在していた。他の調査との比較ではゼプリオンの全死亡リスクは高くはなかったが,突然死リスクは海外の調査との比較では高い可能性がある。しかしこれはあくまで推定値に基づく暫定的な検討であり,確実な数値を得るためには死亡例以外のゼプリオン使用全症例を登録した上での調査が必須である。症例概要が公開された27例についてみると,悪性症候群類似状態後の死亡4例,重篤な合併症での死亡4例,そして広義の突然死13例などがあった。症例に基づいて悪性症候群を最小化するための取り組みの必要性や重篤な身体合併症における持効性注射製剤の適応について議論した。ゼプリオン投与中の突然死例の死因は不明であり,統合失調症,突然死そして薬物依存について文献的考察を行った。統合失調症患者と一般人口との間には,20年前後のmortality gapが存在し,これに強く影響しているのは自殺よりも心臓突然死を中心にした身体疾患である。心臓突然死の一部にはQTc延長などの伝導系障害の関与もあるだろうが,虚血性心疾患によるものが少なくとも半数以上であり,これを生み出す最大の原因はメタボリック症候群である。統合失調症患者は,遺伝的にメタボリック症候群のリスクが高く,問題が多いライフスタイルや抗精神病薬の影響,不十分な健診や身体的治療などによって心臓突然死による死亡リスクが相乗的に高まると想定される。ゼプリオン投与中の死亡例によって,わが国の精神科医療の中で忘れられていた,あるいは無視されていた統合失調症患者の突然死問題(特に通院患者)が白日の下に引きずり出されたことになる。これを機に,我々はこの問題に真剣に取り組むべきであり,実態を正確に把握した上で,少しでも死亡リスクを減らすように努力しなければならない。 Key words : paliperidone palmitate, sudden cardiac death, metabolic syndrome, coronary heart disease, neuroleptic malignant syndrome, schizophrenia
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【シリーズ】
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臨床精神薬理 17巻10号, 1419-1420 (2014);
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【原著論文】
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臨床精神薬理 17巻10号, 1421-1434 (2014);
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本試験では,日本人健康成人男性を対象にfluoxetine 5mg,20mg,又は40mgを単回投与,20mg/日又は40mg/日を28日間反復投与したときの安全性,忍容性及び薬物動態について検討した。死亡例やその他重篤な有害事象は認められず,治験薬との因果関係が否定できないと考えられる有害事象は同一被験者1例での軽度の浮動性めまいと不安であった。定常状態の血漿中fluoxetineとその活性代謝物であるnorfluoxetineの消失半減期はそれぞれ約2〜3日,約6〜8日であり,反復投与ではCYP2D6の自己阻害によりCYP2D6の遺伝子多型による薬物動態の差がなくなることが示唆された。Fluoxetine 40mg/日の安全性と忍容性は概ね良好であり,以降の日本人に対する臨床試験での40mg/日までの投与は妥当であると考えられた。 Key words : fluoxetine, norfluoxetine, safety, pharmacokinetics, CYP2D6
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臨床精神薬理 17巻10号, 1435-1455 (2014);
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Duloxetineのうつ病・うつ状態に対する日常診療下での使用実態を把握するため特定使用成績調査を実施した。収集した3369例の調査票のうち,安全性評価対象症例3179例,有効性評価対象症例2992例,ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)評価対象症例428例に対して最終解析を実施した。本剤の継続率は26週時点で57%であった。副作用発現率は19.57%(622/3179例)であった。26週後において,有効性評価項目である臨床全般印象改善度における改善率は68.7%,HAM-D17総スコアの本剤投与開始前と比した変化量は−15.0であった。QOLを示すSF-8は,本剤投与開始時と比較して,26週後にすべての項目でスコアの改善が観察された。以上の結果から,安全性については国内治験での安全性プロファイルと大きく異なる傾向は観察されず,現時点で特記すべき事項は認めなかった。有効性についてはうつ症状とQOLに関し改善傾向を示し,うつ病・うつ状態に対して日常診療下で本剤は有用であると考えられた。 Key words : depression or depressed state, duloxetine, postmarketing surveillance study, Japan, safety and efficacy