臨床精神薬理
Volume 18, Issue 2, 2015
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【展望】
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抗うつ薬開発の必然と時代背景を反映した抗うつ薬の位置づけ
18巻2号(2015);View Description Hide Description抗うつ薬は1950年代中盤に2つの方向からやってきた。1つはGeigy社が抗精神病作用を熱望したimipramineに抗うつ作用の強いことがKuhnによって発見され,その作用機序はAxelrodによってnoradrenaline(NA)やserotonin(5-HT)の再取り込み阻害作用によることが発見された。そしてimipramineから一連の三環系(TCA)・四環系などの抗うつ薬が誕生した。もう1つは抗結核薬iproniazidの有害事象(気分高揚・多幸)からMAO阻害薬としての抗うつ薬が誕生した。さらにRauwolfia serpentinaから単離されたreserpineの長期服用から生じるうつ状態がcatecholamine涸渇作用によることが明らかにされて,必然的にうつ病monoamine仮説が生まれた。Benzamide系のsulpirideはdopamineの放出作用に基づく抗うつ薬とされた。1980年代になってTCAの効果を残して有害事象を取り去る工夫のもとに,選択的な5-HTやNAの再取り込み阻害薬としてSSRIやSNRI,さらには四環系からNaSSAのmirtazapineが作られた。とくにSSRIは不安障害への作用に優れて,米国ではその第一選択薬ともなった。わが国ではこれら新規抗うつ薬の開発が10年以上も遅れ,1999年にようやくSSRIの第1号としてfluvoxamineが世に出た。以降,2000年にmilnacipranとparoxetine,2006年にsertraline,2009年のmirtazapine,2010年のduloxetine,2011年のescitalopramと続いてようやく一段落ついており,あとはvenlafaxineの出を待つばかりとなっている。なお,monoamine以外の新しい機序の抗うつ薬は世界中に待望されながら,なにひとつ成功の気配のないのが残念である。 Key words : antidepressants, TCA, SSRI, SNRI, NaSSA
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【特集】 TCAやSSRIは抗“単極性うつ病”薬なのか?
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抗うつ薬は抗うつ病薬なのか?:Imipramine再考
18巻2号(2015);View Description Hide Description抗うつ薬の原点とも言えるimipramineの臨床特性を,Kuhn, R.らの古典的論文を再吟味する作業を通じて抽出・整理し,それを下敷きとして,筆者なりの仮説を提示した。Imipramineには,投与後数日で発現する「第一相効果」と数週間後に遅れて立ち上がる「第二相効果」がある。前者は対症療法的な「症状に対する麻酔・鎮痛作用」であるのに対して,後者は自然治癒プロセスを促進する「病気の根治療法的作用」である。前者と後者がバランスよく配合されているimipramineは「抗うつ病薬」と呼ぶにふさわしい。この観点からすると,SSRIは,後者を断念する見返りに前者を強化した薬物であると考えられ,「抗うつ薬」ではあっても「抗うつ病薬」とは言い難い。従来の抗うつ薬であれ新規抗うつ薬であれ,うつ病患者に投与する際には,薬物がいかなる「意味」で効いているのかを常に点検し続けていなければ,治療の方向性を誤ることになる。 Key words : depression, antidepressants, imipramine, SSRI, Kuhn -
うつ病モデル動物を用いての抗うつ薬,特にSSRIの行動薬理学的特性
18巻2号(2015);View Description Hide Description抗うつ薬の前臨床的評価法としての行動薬理学的解析は,様々な新規抗うつ薬の開発に寄与してきた。強制水泳試験に代表される実験系は抗うつ薬のスクリーニング法として頻用されている。一方,うつ病の病態を念頭に置き,慢性緩和ストレス,慢性社会的敗北ストレス,恐怖条件づけストレスを負荷されたモデルは,うつ病モデルとしての妥当性がより高いと考えられている。本稿では,三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬による①神経薬理学的作用,②うつ病モデル動物/前臨床的評価法を用いての行動薬理学的作用ならびに③うつ病・抗うつ作用におけるセロトニン受容体サブタイプの関与について概説する。 Key words : selective serotonin reuptake inhibitors, tricyclic antidepressants, behavioral pharmacology, animal models for depression, preclinical study -
PETからみた抗うつ薬
18巻2号(2015);View Description Hide Descriptionうつ病においてセロトニン,ノルエピネフリンの再取り込みを担うトランスポーターは多くの抗うつ薬のターゲット分子として注目されている。陽電子放射断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET)は直接ヒトにおいて化合物の体内分布や動態を画像化することができ,さらに侵襲も少ない核医学的検査手法である。うつ病の病態や抗うつ薬の効果についてモノアミントランスポーターに特異的に結合する放射性リガンドを用い直接ヒトの体内での動態を観察できるようになった。それらの研究により,うつ病の治療にはセロトニントランスポーターにおいては80%以上の占有率,ノルエピネフリントランスポーターでは50%以上の占有率が必要と考えられた。 Key words : Positron emission tomography, antidepressant, serotonin transporter, norepinephrine transporter, occupancy -
高齢者のうつ病に対する低用量の三環系抗うつ薬
18巻2号(2015);View Description Hide Description現在我が国は世界でも類を見ない超高齢化社会に突入しており,年々増加している高齢のうつ病患者への適切な対応が求められている。高齢者のうつ病は症状が非定型的で,早期発見や早期治療が難しく,診断や治療に難渋し遷延化することが多い。また高齢者は薬剤の副作用が出現しやすいため,薬物療法では安全性に優れる新規抗うつ薬が第一選択であり,副作用の多い三環系抗うつ薬が選択される頻度は減少している。本稿では,高齢者のうつ病の特徴と問題点を概説し,低用量の三環系抗うつ薬を使った治療戦略を検討した。三環系抗うつ薬は現在でも重要な選択肢の1つであり,特に,新規抗うつ薬での治療に不耐性や抵抗性を示すうつ病患者に対して,一度は単剤で試す価値のある薬物と考える。その際,副作用をモニタリングしながら,低用量での有効性を慎重に見極める姿勢が望ましい。 Key words : tricyclic antidepressants, depression, late-life, pharmacotherapy -
三環系抗うつ薬の非経口投与による治療は生き残るのか
18巻2号(2015);View Description Hide Description新規抗うつ薬は副作用においては三環系抗うつ薬(TCA)よりも優位にあり,現在では第一選択薬として用いられている。しかし多くの新規抗うつ薬が使用可能となった現在においても,第一選択の抗うつ薬の寛解率は高いとは言えない。一方重度のうつ病,精神病性うつ病などの入院を要する症例などでは,TCAの評価は依然と高く第一選択薬として用いられることが多い。しかしTCAの非経口投与は,新規抗うつ薬の登場以降はその使用頻度は減少の一途を辿っている。国内では,現在使用できる注射液はclomipramineのみである。本稿ではTCAの非経口投与の課題と利点を再検討し,非経口投与の臨床的意義の考察を試みる。Clomipramineの点滴投与は重症患者・治療抵抗性患者・入院患者だけでなく外来患者・軽-中等症患者においても有用と思われ,各種増強療法,ECTの施行前に検討する価値のある治療選択肢である。症例によっては第一選択になりうる治療方法でもある。 Key words : TCA, clomipramine, parenteral administration, intravenous administration -
SSRIの作用の本質:better than well症候群とapathy症候群
18巻2号(2015);View Description Hide Description抗うつ薬,特にSSRIでみられるbetter than well症候群とapathy症候群について概説した。Better than well症候群は,もともと神経質で非社交的であった人が,快活に自信を持って行動できるようになるというものである。SSRI服用開始後比較的早期からみられ,本来の自分の健康状態以上を自覚し,患者本人にとっては好ましい変化と認識される。一方,apathy症候群は,SSRI長期服用後に緩徐に発現する感情面の副作用で,種々の感情の鈍化や喪失を認める。もともと社交性が高く,不安が少なく,発揚気質の人に多いといわれており,患者自身が感情面の鈍化を自覚する場合もあるが,うつ病が遷延・慢性化していると考えられているケースも多い。この相反するSSRIの作用は,共にSSRIの減量・中止で消失する。SSRIは扁桃体の活性化を強く抑えるとともに前頭葉の機能を低下させ,ネガティブ感情を低下させることで感情を鈍化させる。これらはSSRIの感情鈍麻作用に基づいた一連の変化であり,感情鈍麻作用が行き過ぎた結果である。この感情鈍麻作用こそがSSRIの作用の本質であると思われる。 Key words : better than well syndrome, apathy syndrome, SSRI, emotional side-effect, negative emotion -
Bipolarityを有する患者に対する抗うつ薬:抗うつ薬は“mood destabilizer”か
18巻2号(2015);View Description Hide Description双極性障害のうつ状態の患者に対して,抗うつ薬を使用すべきか否かで実地臨床において判断に迷う局面も少なくない。近年ではlithiumに加えて第二世代抗精神病薬が使用されることも増えているが,抗うつ薬の投与もいまだに広く行われていると考えられる。本稿では,双極性障害のうつ状態の治療において抗うつ薬の使用は効果もなければ躁転のリスクもないという研究報告が多いこと,種々のガイドラインでは抗うつ薬の使用を推奨していないものもあれば気分安定薬などとの併用で抗うつ薬の使用をファーストラインとして推奨しているものもあり,その評価は一定していないことなどを述べた。また,やむを得ず双極性障害のうつ状態の治療に抗うつ薬を使用する場合は,気分安定薬を併用すること,三環系抗うつ薬よりはSSRIなどの新規抗うつ薬を使用すること,急速交代型には抗うつ薬は使用しないことなどにも言及した。 Key words : bipolar disorder, mood stabilizer, second generation antipsychotic, treatment -
抗うつ薬の長期投与におけるtachyphylaxisとtardive dysphoriaの問題
18巻2号(2015);View Description Hide Descriptionうつ病寛解後の抗うつ薬による維持療法は再発予防のため重要であると考えられているが,一方で慢性化うつ病や治療抵抗性うつ病の増加が大きな問題となっている。近年,抗うつ薬の長期投与自体がうつ病の慢性化や治療抵抗性の増大を引き起こすのではないかという仮説が注目されている。1つは,初期の抗うつ薬治療では良好な効果を示していたにもかかわらず,繰り返し,また長期間抗うつ薬治療を続けることによって抗うつ効果が減弱したり失われたりすることを指すtachyphylaxis(タキフィラキシー)である。もう1つは抗うつ薬の慢性投与がセロトニン作動性の神経伝達を減弱させることによって,気分不快状態が出現するというtardive dysphoria(遅発性ディスフォリア)である。この2つの仮説にはまだまだ議論が必要であり,また,これらはうつ病再発予防における維持療法の重要性を否定するものでもない。我々は,日常臨床で難治化したうつ病の治療に手を焼いているが,難治例の治療を考える場合,これら仮説からヒントを得られるかもしれない。 Key words : antidepressant, tachyphylaxis, tardive dysphoria, depression, maintenance therapy
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【シリーズ】
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【紹介】
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服薬に関する看護者・介護者評価:Nursing Assessment of Medication Acceptance(NAMA)日本語版の作成
18巻2号(2015);View Description Hide Description精神疾患患者の服薬遵守率は低いことが知られているが,その評価における統一基準は定められていない。看護者・介護者は,日常的に精神疾患患者の服薬介助・服薬管理を担うことから,患者の服薬状況をより正確に把握している可能性が高い。今回我々は,看護者・介護者が,患者の服薬状況や服薬態度,看護・介護上の労力を評価するNursing Assessment of Medication Acceptance(NAMA)について,言語妥当性の確保された日本語版の作成を行った。服薬状況の評価は,複数の評価方法を組み合わせて総合的に判断することが重要と考え,NAMAもその一助になりえると考える。 Key words : NAMA, medication compliance, medication adherence, assessment tool, nurse
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第43回 第二世代抗精神病薬の開発物語――わが国初のSDA系抗精神病薬perospironeの開発物語 その2
18巻2号(2015);View Description Hide Description
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