Volume 18,
Issue 10,
2015
-
【展望】
-
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1239-1247 (2015);
View Description
Hide Description
うつ病の有力仮説として,ストレス応答で重要な役割を果たす視床下部─下垂体─副腎系(HPA系)の異常,モノアミン仮説,神経栄養因子仮説,および慢性炎症仮説に着目し,うつ病の発症─治療メカニズムについて述べた。メランコリー型うつ病においては慢性ストレスによってHPA系が亢進し,それは脳由来神経栄養因子の発現や機能を低下させ,それによって脳(海馬など)が傷害されてうつ病を発症するメカニズムが考えられる。休養,環境調整,認知の変化といった治療的介入によってストレスが軽減するとHPA系の亢進が緩和し,加えて抗うつ薬などの生物学的治療によってモノアミンの増加などを介して脳由来神経栄養因子の発現や機能が回復することにより,脳機能が改善して治癒に至ると考えられる(神経栄養因子仮説)。近年,うつ病において慢性炎症が重要な役割を果たしており,脳内分子機構としてトリプトファン─キヌレニン経路の亢進が注目されている。それによってグルタミン酸による興奮毒性とそれによる脳の傷害がうつ病を引き起こすと考えられ,抗うつ薬はキヌレニン経路の活性化を抑制することが治療メカニズムとして働いていると考えられる。 Key words : depression, dopamine, hypothalamic-pituitary-adrenal axis (HPA axis), inflammation, brain-derived neurotrophic factor (BDNF)
-
特集【治療抵抗性うつ病の治療戦略】
-
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1249-1256 (2015);
View Description
Hide Description
2種類以上の作用機序の異なる抗うつ薬による十分な治療により十分に改善せず,中等症以上の症状が続く治療抵抗性うつ病はうつ病の10〜20%と推定される。誤った診断は治療抵抗性の主要因の1つであり,特に双極性障害の誤診は治療抵抗性うつ病の約25%で認められる。その他,不安障害併存(社交不安障害,パニック障害など),自殺の危険性,メランコリー型特徴,小児期虐待(ネグレクト),最初の抗うつ薬に非反応,などが治療抵抗性うつ病の特徴として指摘されている。診断面から治療抵抗性うつ病を解決する1つの糸口は,大うつ病性障害に不可避に含まれる双極性障害(偽性単極性うつ病)を早期に診断し,適正な治療を行うことである。躁病・軽躁病のスクリーニング法開発による見逃しの防止,心理教育が双極性障害の早期鑑別診断に有用である。 Key words : major depressive disorder, treatment-resistant depression, false unipolar depression, anxiety disorder, childhood abuse
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1257-1262 (2015);
View Description
Hide Description
うつ病治療において治療抵抗性を生じる要因は未だ十分には解明されておらず,薬剤反応性を予測する生物学的指標は確立していない。薬物動態学および薬理遺伝学的アプローチから抗うつ薬の治療反応性に影響を及ぼす要因の1つに薬物代謝が関与していることが示唆されている。抗うつ薬の代謝に関わるcytochrome P450 (CYP), セロトニン (5-HT)受容体,セロトニントランスポーター(5-HTT)には遺伝子多型があり,薬効や副作用出現の個人差を考慮したオーダーメイド精神科医療が期待される。本稿では,治療抵抗性うつ病の治療戦略を考える上で重要となる薬剤反応性に関連する薬物動態学および薬理遺伝学の最近の知見をまとめた。 Key words : treatment-resistant, depression, metabolism, pharmacokinetics, pharmacogenetics
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1263-1268 (2015);
View Description
Hide Description
少なくともカテゴリーの異なる2種類の抗うつ薬の治療で十分な効果が得られない患者に対しては,mirtazapineの増強療法が選択されることがある。MirtazapineはSSRIやSNRIとは異なる機序でノルアドレナリン,セロトニン,ドパミンを増加させることが知られている。SSRI,もしくはSNRIを使用しても十分な効果が得られない場合にmirtazapineを併用するという方法は,薬理学的に理にかなった治療であるといえる。臨床研究の報告はまだ限られているが,mirtazapine増強療法の治療効果を示唆するものも見られている。治療に難渋するうつ病患者ではmirtazapine増強療法は有効な治療戦略の1つであるといえるが,抗うつ薬治療はなるべく単剤治療をこころがけるという原則を忘れてはならない。Mirtazapine増強療法については,今後メタ解析やシステマティックレビューで厳密な実証が必要であろう。 Key words : treatment-resistant depression, antidepressant, noradrenergic and specific serotonergic antidepressant, mirtazapine, augmentation
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1269-1276 (2015);
View Description
Hide Description
治療抵抗性うつ病に対する気分安定薬のlithium,バルプロ酸,carbamazepine,lamotrigine,topiramate,gabapentinの効果および安全性に関して,系統的レビューを行った。Lithium増強療法はプラセボをコントロールとした二重盲検無作為割付試験のみを包括したメタ解析で,lithium投与群はプラセボ投与群と比べて有意に治療反応者数が多く,その効果量はnumber needed to treat=5と大きかった。さらに,治療継続率もプラセボ投与群と比較して同等であった。Lithium増強療法は,治療抵抗性うつ病に対して,有効性・安全性ともに優れていると考察された。Lithium以外の気分安定薬は,無作為割付試験や非盲検試験の報告はあるが,メタ解析は行われておらず,エビデンスが乏しいと言わざるを得ない。そのため,治療抵抗性うつ病患者に対する気分安定薬の増強療法としては,lithiumが強く推奨される。 Key words : treatment-resistant depressive disorder, refractory depression, mood stabilizers
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1277-1284 (2015);
View Description
Hide Description
今日のうつ病治療において,7種類のSSRI以降の新規抗うつ薬が臨床使用可能となり,多様化するうつ症状に,より柔軟に対応できる環境が整いつつある。しかしながらメタ解析や大規模臨床試験によると1回,あるいは2回の抗うつ薬の治療で寛解に至るのは半数以下であり,半数以上のうつ病患者には明らかな残遺症状が認められることがわかっている。これら治療抵抗性うつ病患者への薬物療法の1つとして,非定型抗精神病薬の補充療法は治療反応,寛解に効果的であることは既に多くの研究で報告されており,本邦でもaripiprazoleが治療抵抗性うつ病の適応を取得し臨床使用されている。本来,統合失調症の治療薬として開発されたaripiprazoleを含む非定型抗精神病薬は,統合失調症の他,治療抵抗性うつ病,精神病症状を伴ううつ病,双極性うつ病相,躁病相,維持療法など幅広いスペクトラムでの有用性があり,その高い汎用性故に,きちんと診断がなされずに,あるいは適切な治療手順を経る以前にこれら非定型抗精神病薬を“とりあえず”投与してしまう風潮もあるのではないだろうか。本論文では,治療抵抗性うつ病における非定型抗精神病薬の有効性,忍容性,各非定型抗精神病薬の特徴などを概説する。各々の薬剤の特徴を熟知することで,リスクとベネフィットを考慮でき,臨床での有用な活用の一助となれば幸いである。 Key words : treatment resistant depression, augmentation, second-generation antipsychotics, risk-benefit
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1285-1291 (2015);
View Description
Hide Description
今日のうつ病に対する薬物治療は抗うつ薬が中心であるが,抗うつ薬治療に加えて,ベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)系薬剤の併用がしばしばなされる。うつ病治療に対するBZ系薬併用の利益としては,「不眠・不安を改善すること」と「治療初期には症状を早く改善すること」が挙げられる。一方でうつ病治療におけるBZ系薬併用においては副作用があることに留意しなければならない。また,治療抵抗性うつ病においては,BZ系薬が「見かけ上の治療抵抗性うつ病」を作り出している可能性に注意しなければならない。 Key words : benzodiazepine, depression, insomnia, anxiety
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1293-1299 (2015);
View Description
Hide Description
うつ病は,世界中で最も重大な機能障害の1つで,大きな公衆衛生上の脅威となっている。治療には抗うつ薬を用いるが,ほとんどの抗うつ薬はモノアミンをターゲットにした物質である。効果は限定的で,効果発現まで一定の時間を要するという問題点があった。近年海外での臨床試験では,急速な抗うつ効果があると報告されていることからグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬であり,麻酔薬であるketamineが新しいうつ病薬治療薬の候補に挙がっている。さまざまな臨床試験およびメタ解析の結果,ketamineは急速で強力な抗うつ作用を持つことが示されている。しかし,急速な抗うつ効果ゆえに依存が形成されやすく,医療場面以外でのketamineの乱用が懸念されるため,臨床場面で使用するには法的整備を含めてもう少し克服するべき点があると思われる。一方,これまでのketamineの試験結果を受けて,海外ではさまざまなグルタミン酸系薬物のうつ病に対する臨床治験が開始されているため,今後の新規抗うつ薬の開発状況に注目していきたい。 Key words : ketamine, NMDA receptor antagonist, Treatment-resistant depression
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1301-1307 (2015);
View Description
Hide Description
治療抵抗性うつ病の治療戦略において,補完的な役割を演じる可能性のある治療として,光線療法,断眠療法,運動療法の3つを取り上げた。それぞれに関して文献的に検討したところ,光線療法や断眠療法は治療抵抗性うつ病に試みる価値のある治療であり,特に断眠療法,光線療法,lithium療法の三位一体の併用療法(時間治療)が奏効する可能性が高いと考えられる。運動療法に関しては,その前提条件として運動をする意欲や活動性が必要になるためか,今までのところ軽症や中等症のうつ病に対する検討に留まっており,治療抵抗性うつ病に対するエビデンスは乏しい。 Key words : complementary and alternative medicine (CAM), light therapy, sleep deprivation therapy, exercise therapy, refractory depression
-
【シリーズ】
-
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1309-1310 (2015);
View Description
Hide Description
-
【原著論文】
-
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1311-1319 (2015);
View Description
Hide Description
双極性障害維持治療に対して,aripiprazole(以下,APZ)あるいはolanzapine(以下,OLZ)について有効性を比較検討した。対象は,急性期躁病エピソードにて入院した症例のうち, APZあるいはOLZによる初期治療を開始し, 回復した23例 (APZ群13例/OLZ群10例)である。評価期間は回復後52週間か,あるいは躁病エピソード,うつ病エピソードを再発するまでの期間とした。あらゆる気分エピソード〔APZ群69.2%,OLZ群70%(P=0.892)〕,躁病エピソード〔APZ群46.2%,OLZ群40%(P=0.868)〕,うつ病エピソード〔APZ群23.1%,OLZ群30%(P=0.793)〕の再発率は,いずれも群間に有意差を認めなかった。また,APZ群で2例(体重増加1例,akathisia1例),OLZ群で2例(体重増加2例)に特記すべき副作用が見られたが,有害事象,治療中断,転院などによる中止例は認めなかった。長期投与を考慮すると,APZ,OLZ共に有効な抗精神病薬であることが示唆された。 Key words : bipolar disorder, maintenance therapy, aripiprazole, olanzapine, pharmacological property
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1321-1332 (2015);
View Description
Hide Description
抗うつ薬を服用中の成人うつ病患者(男性263人,女性237人)を対象とするオンライン調査を実施した。抗うつ薬服用後に気になっている副作用として,男性の43.7%および女性の22.8%が「性欲が湧かない」「勃起不全」などの性機能障害を選択した。これらの症状の大部分は抗うつ薬の服用後に発現・悪化したと認識されていた。性機能障害を自覚していた男性の73.9%が性機能障害は深刻だと考えており,特に若い年代でその傾向が強かった。女性でも若い年代では性機能障害を深刻だと考える傾向があった。性機能障害を自覚していた回答者の約半数は,その症状について「相談したいが相談できない/抵抗を感じる」としており,その理由は「恥ずかしい・羞恥心がある」が最も多かった。回答者全員を対象とした調査では,男性の24.0%および女性の8.9%が担当医に相談したい副作用として「性や性機能に関すること」を挙げ,女性の62.4%は「同性であれば相談したい」と回答した。 Key words : depression, antidepressant, side effect, sexual dysfunction, patient survey
-
Source:
臨床精神薬理 18巻10号, 1333-1345 (2015);
View Description
Hide Description
双極性障害の躁症状改善に対してolanzapineの日常診療下での安全性及び有効性を評価すべく特定使用成績調査を実施した。本調査は薬事法及びGPSPを遵守して行った。609症例中,olanzapineの投与中止に至った症例は271例(44.5%)であり,そのうち有害事象が58例(21.4%),薬効不十分が16例(5.9%)であった。副作用は119例(19.5%)でみられ体重増加が33例(5.42%)と最も多く,既知のolanzapine安全性プロファイルと同様に体重と血清脂質が統計学的に有意な変化を示した。また,気分安定薬等,他剤との併用で副作用発現頻度がより高まる傾向が認められた。有効性に関しては,ヤング躁病評価尺度日本語版の合計点が経時的に改善方向に変化した。臨床試験等と比較して新たに懸念となる問題はなく,日常診療下においてもolanzapineの双極性障害の躁症状改善に対する安全性及び有効性が確認できた。 Key words : olanzapine, bipolar disorder, manic, post-marketing survey