臨床精神薬理
Volume 19, Issue 2, 2016
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【展望】
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不眠医療,不眠科学で解決すべき課題
19巻2号(2016);View Description Hide Description本特集の総合タイトルは「不眠症の薬物療法を再考する」である。不眠治療に用いられる睡眠薬や代替薬物療法の臨床試験は抗精神病薬や抗うつ薬のそれに比較して試験規模やデザインにおいて不十分な点があることは否めない。これはベンゾジアゼピン系薬物が全盛であった期間が長く治療選択肢が乏しかったこと,不眠症という病態の理解が不十分であったこと,そのため疾患単位ではなく症状ベースで捉えられることも多く診断や治療学に十分なエフォートが注がれてこなかったことなどの理由による。しかし今や睡眠覚醒の神経基盤は急速に解明され,疫学や脳機能画像学の進歩により不眠症の病態生理に関する理解も格段に深まっている。またポストベンゾ時代の治療薬として非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ系),メラトニン受容体作動薬,オレキシン受容体拮抗薬と作用メカニズムの異なる睡眠薬が次々と上市されており,催眠鎮静系抗うつ薬や一部の抗精神病薬と合わせて薬剤の使い分けが論議され始めている。そこで本特集では不眠症の薬物療法を向上させるために解決すべき課題について整理することになった。本稿では不眠症の病態,現在行われている不眠治療のアンメットニーズ,今後解決すべき代表的な課題について取り上げる。 Key words : insomnia, sleep medicine, hyper arousal, sleep homeostasis, cognition
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特集【不眠症の薬物療法を再考する】
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睡眠薬開発の歴史と今後の展望
19巻2号(2016);View Description Hide Description睡眠は20世紀初頭の睡眠物質の発見と,20世紀半ばのレム睡眠の発見という2つのエポックメーキングな進歩により科学研究の対象として注目されてきた。そして20世紀末には分子生物学の進歩とともにナルコレプシーの原因のオレキシンが発見され,睡眠制御機構の理解が進み,新規治療薬の開発につながった。一方,不眠症は有史以来存在し,化学物質としての睡眠薬も100年以上と長い歴史がある。特に,バルビツレート,ベンゾジアゼピン,非ベンゾジアゼピンと発展して安全性が高まって使いやすくなったGABAA受容体作動薬が長期間主役を占めている。それに加えて最近メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など新規の作用機序の睡眠薬や,特殊な病態による不眠症である,むずむず脚症候群の治療薬も登場している。今後,局所睡眠などの新たな制御機構が解明されれば,さらに新規の睡眠障害治療薬の開発も期待される。 Key words : hypnotic, benzodiazepines, non-benzodiazepines, restless legs syndrome, orexin -
睡眠薬の臨床評価に関する基本的考え方と今後の課題
19巻2号(2016);View Description Hide Description不眠症の治療では,これまでベンゾジアゼピン系睡眠薬等が多く使用されてきたが,これらの薬剤には持越し効果や筋弛緩作用等のリスクもあり,実臨床では使用が制限されることもある。このため,日常生活に影響を及ぼすリスクの低減が,不眠症治療の臨床的課題(unmet medical needs)の1つであり,新たな睡眠薬の開発は必要と考えられてきた。精神神経疾患領域の医薬品開発は活発であり,国際的にも数多くの臨床試験が実施されており,睡眠薬は代表的な開発対象の1つである。睡眠薬の臨床開発における臨床試験での評価方法には国際的にも標準的な方法があり,臨床評価ガイドラインとして取りまとめられている。本稿では,睡眠薬の臨床開発の動向を概観した上で,臨床評価の基本的考え方を概説し,今後の課題について検討する。 Key words : insomnia disorder, hypnotic agent, drug development, clinical evaluation, clinical trials, study design -
睡眠薬開発における実施上の問題点
19巻2号(2016);View Description Hide Description睡眠薬の開発の歴史はバルビツレート系から始まり,ベンゾジアゼピン系からZ薬へと移行していった。GABA系に作用して催眠作用をもたらすBZ系やZ薬とは異なるメラトニン受容体作動薬,オレキシン受容体拮抗薬など認知機能への影響,耐性や前向性健忘などの有害事象のない新たな睡眠薬が開発された。しかしながら,睡眠薬の開発・治験を行う際に様々な問題点に遭遇することがある。現在米国では新しい睡眠薬の治験が行われているが,本邦では現在のところ睡眠薬の治験は行われていない。睡眠薬の治験が現在行われていないことに関しては様々な問題が関与していると思われる。 Key words : orexin receptor antagonist, melatonin receptor agonist, 5-HT2A antagonist -
睡眠薬開発における産学協同のありかた
19巻2号(2016);View Description Hide Description新薬開発の難易度はますます高まってきており,睡眠薬開発も例外ではない。このような環境下で新薬創出を継続し医療を発展させるには,一層の産学協同が必要である。産学が互いに異なった価値観を理解しつつ,外部の力を活用したオープンイノベーションを実現し,将来の事業化を見据えて協同することが望まれる。近年の臨床開発はグローバル化しており,日本もグローバル開発の一員であり続けられるよう,産学が連携して臨床開発環境を整え,ジャパンクオリティーを生かしつつ治験の効率化をはかる努力が必要である。また,進歩の著しいITテクノロジーを活用し,国内に眠る莫大な医療データを活用したエビデンス創出もこれから産学協同で取り組むべき課題である。医薬品開発において産学協同は不可欠であるが,社会に承認される健全な産学協同を推し進めるためには,利益相反を透明化し適切に管理し,産学ともに公的利益を優先した協同が必須である。 Key words : drug development, collaboration between industry and academia, hypnotic -
不眠症治療における薬物療法の位置づけ
19巻2号(2016);View Description Hide Description昨今,慢性不眠症に対する睡眠薬の長期投与や多剤併用の問題が指摘されている。米国睡眠学会のガイドラインによると,不眠症治療における薬物療法は第一選択の1つだが,非薬物療法(不眠に対する認知行動療法)もしくは両者の併用も第一選択肢にあげられている。不眠に対する認知行動療法は費用と時間がかかる欠点があるものの,長期的な効果が期待でき,睡眠薬の減量時における有効性も示されている。一方不眠に対する薬物療法は,急性不眠に対しては有効性が示されているものの,慢性不眠に対しては,睡眠薬の長期服用による費用や依存形成などの問題が散見され,至適な治療法とはいえない。睡眠薬は不眠治療において不可欠であるが,精神疾患に伴う不眠など長期服用を余儀なくされる症例がある一方,減量可能な慢性不眠に対しては,非薬物療法を活用し減量もしくは終結することが求められる。 Key words : acute insomnia, chronic insomnia, pharmacotherapy, cognitive behavioral therapy for insomnia, polypharmacy -
不眠症状改善薬の適正使用と開発のために今後必要な臨床研究
19巻2号(2016);View Description Hide Description今後,不眠症治療を効率化(特に不眠症改善薬使用の適正化)し,さらに新規治療薬の開拓を促進するためには,まず不眠症患者の各臨床病期における症状を総合的に把握すること,自覚的な不眠感の症状全体の中での位置づけを明らかにすること,プラセボ効果を含めて治療薬がどこまで症状を抑制しうるのかという点についての目安を立てることが望まれる。本稿では,一般人口を対象とした調査の結果から,夜間の入眠障害ないし睡眠維持障害の評価だけでなく,抑うつ感をはじめとする抑うつ症状評価ならびにquality of life 評価の必要性を示した。また,薬剤の効果にはプラセボ効果の占める割合がかなり高いこと,臨床で汎用されるベンゾジアゼピン系薬剤によって短期間に不眠症状を抑制─正常化しうる症例は中等症水準までの症例に限られており,重症例に対応可能な薬物治療の開発ないし不眠のための認知行動療法併用の必要性を強調した。不眠治療においては,各種指標の意義を慎重に検討するとともに,各種治療薬の適応と限界を知ることが重要であると考えられた。 Key words : treatment drug for insomnia, quality of life, placebo effect, objective insomnia, paradoxical insomnia, predictor of effectiveness -
睡眠薬開始と終了の臨床判断
19巻2号(2016);View Description Hide Description不眠症に対する薬物療法を巡っては,適正な使用を目指した各種の方策が示されるようになっている。一方で不眠の発症からその後の経過,転帰については明らかにされていないことが多い。不眠の自然経過に関するこれまでの報告を踏まえると,急性不眠として発症する症例の中には,自然寛解する可能性が高い症例と慢性不眠症に発展することが早期から運命付けられた症例の2つの類型が存在し,これらはそれぞれ病態も異なる可能性が示唆された。不眠症治療における睡眠薬の開始や終了の判断は,各症例について上記のような経過特性を意識して検討する必要があると考えられた。 Key words : sleep, insomnia, hypnotics, natural history, cognitive-behavioral therapy -
不眠症の治療成績──薬物療法vs. 非薬物療法
19巻2号(2016);View Description Hide Description不眠症治療では薬物療法が中心であるが,依存性や副作用などの問題があることから,不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が非薬物療法として期待されている。CBT-Iは認知療法,行動療法,リラクゼーション療法,睡眠衛生指導を組み合わせた治療法で,不眠を慢性化させている問題を明らかにし,それらの変容を促すことにより症状の改善を図る。CBT-Iの有効性は薬物療法との比較から検証され,5つの無作為化比較試験から,治療介入直後の時点で薬物療法と同等の効果があること,また長期的な治療予後はCBT-Iが勝ることが示された。現在CBT-Iは原発性不眠症の標準治療に位置づけられており,CBT-Iによる睡眠薬の減薬効果,併存不眠症に対する効果も示されてきている。一方,わが国でCBT-Iは保険適応を得ていないのが現状であり,認知を高めるための啓発活動を続けて行く必要があるだろう。 Key words : insomnia, non-pharmacological treatment, cognitive behavioral therapy, CBT-I, hypnotic
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【シリーズ】
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【症例報告】
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100歳を超えて初発しparoxetineが奏効したうつ病の1症例
19巻2号(2016);View Description Hide Description近年の急速な高齢化に伴い,本邦の高齢うつ病患者は大幅に増加することが予想される。しかし高齢者では,基礎疾患や合併症のため,積極的な薬物治療を躊躇する場合がある。今回我々は初発うつ病エピソードにparoxetineが奏効した102歳発症の女性症例を経験した。症例は,自殺企図にて初診となり,身体因を除外された四肢のしびれを主訴とする抑うつ状態を呈し,家族歴はなく,病前性格は循環気質であった。75歳以上の高齢うつ病に対する抗うつ薬の治療反応性は乏しいとする報告があるが,本症例ではparoxetineが不安,抑うつ気分,身体愁訴に有効であった。高齢者のうつ病においても,全身状態が良好であれば,積極的な薬物治療の適応があるとともに,有効であることが示唆された。 Key words : centenarian, depression, antidepressant, paroxetine
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第55回 世界初のdopamine serotonin antagonistか─blonanserinの躍進─ ──その1:創薬の独創性とblonanserinの開発物語
19巻2号(2016);View Description Hide Description
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