臨床精神薬理
Volume 19, Issue 5, 2016
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【展望】
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安全性と有効性に配慮した抗精神病薬の初期用量・最大用量・維持用量
19巻5号(2016);View Description Hide Description統合失調症の薬物療法では,最大限の効果と最小限の副作用を目指し,用量を設定することが重要である。しかし,臨床場面では有効性や安全性を考慮した至適用量の設定は難しいことが多い。また非定型抗精神病薬では副作用も薬剤ごとに特性が異なるためさらに至適用量の設定が困難になる。一方,抗精神病薬ではある程度の高用量で効果が頭打ちになることが知られており,用量と有効性の関係を考える上では,用量反応関係についての情報が役立つかもしれない。本稿では,用量反応性を踏まえ,主に非定型抗精神病薬に関しての用量と有効性に関して,初発エピソード,急性期におけるこれまでの知見や,難治性や治療抵抗性を対象とした高用量での検討について紹介し,安全性については副作用ごとに用量の調整について概説する。 Key words : schizophrenia, antipsychotics, efficacy, safety, dose-response
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特集【向精神薬の初期用量・最大用量・維持用量】
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Cytochrome P450の遺伝多型と向精神薬の用量
19巻5号(2016);View Description Hide Description薬の効果に関する個人差は,かなりの割合で遺伝的な要素に左右されているといわれている。向精神薬の場合は,その多くがクリアランスを肝代謝酵素cytochrome P450(CYP)に依存しているため,その遺伝多型によって血中濃度の個人差が生じやすい。日本人の場合は特にCYP2C19およびCYP2D6の遺伝多型が問題になる向精神薬が多い。例えば,日本人のCYP2C19のpoor metabolizer(PM)は,escitalopramのクリアランスがextensive metabolizer(EM)のおよそ50%以下に低下する。Atomoxetineの場合,CYP2D6のPMはEMに比べクリアランスが10倍以上低下する。したがって,CYPの遺伝多型が向精神薬の用量を決める時の参考になるかもしれない。しかしながらCYPの遺伝多型と向精神薬の臨床効果あるいは忍容性との因果関係は,現在のところまだよくわかっていない。 Key words : cytochrome P450, polymorphism, dose, psychotropic drugs -
メタボリック症候群併発患者への向精神薬療法の留意点
19巻5号(2016);View Description Hide Description精神疾患患者はメタボリック症候群を合併する割合が高い。その結果,心血管イベント発症リスクが上昇し,超過死亡を起こす。しかし初発の統合失調症患者ではメタボリック症候群の合併頻度は高くない。抗精神病薬による代謝への悪影響,とりわけインスリン分泌障害に注意する必要がある。メタボリック症候群は,腸内細菌叢とも密接に関連する。抗精神病薬や緩下剤の長期投与が巨大結腸症を誘発し,腹部コンパートメント症候群を惹起する。肥満は横隔膜を挙上し,呼吸機能に影響する。メタボリック症候群併発患者での向精神薬療法の留意点として,①インスリン分泌に影響が少ない薬を選ぶ,②抗コリン作用に注意する,③呼吸抑制に配慮することが重要である。三環系構造を有する抗精神病薬は代謝カスケードのさまざまな部位に作用し,基礎実験では用量依存的に代謝障害惹起作用を認める。効果が同等であれば,代謝障害惹起作用が少ない薬を選択し,治療窓の中での最小用量(至適最小用量)で治療を行うことが大切である。 Key words : metabolic syndrome, second generation antipsychotics, insulin, abdominal compartment syndrome, respiratory insufficiency -
腎機能障害を有する患者への向精神薬療法の留意点
19巻5号(2016);View Description Hide Description腎機能障害を有する患者に向精神薬を安全に投与するには,臨床的な薬物動態に基づくデータが必要である。ところが,腎機能障害を有する患者における向精神薬の投与に関して文献を検索すると,臨床的なデータが乏しいことが判明した。限られたデータをもとにまとめると,抗うつ薬には腎機能障害が存在すると投与量を調整すべきものがあり,これにはclomipramine,desipramine, lofepramine, dosulepin, imipramine,mianserin,maprotiline, escitalopram, paroxetine, sertraline, milnacipran, duloxetine, venlafaxine,mirtazapine,trazodoneと多くの抗うつ薬が該当する。抗精神病薬では,quetiapine,risperidone,paliperidone,aripiprazoleが該当する可能性がある。気分安定薬では,lithiumやlamotrigineが該当するが,lithiumはそもそも腎機能障害のある患者には投与禁忌とされている。腎機能障害との関連から薬物動態を検討されていない向精神薬も多く,このような領域の研究がさらに進んでデータが蓄積されることが向精神薬の安全な使用のために不可欠である。 Key words : renal dysfunction, psychotropics, antidepressants, antipsychotics, mood-stabilizers -
心疾患を有する患者への向精神薬療法の留意点
19巻5号(2016);View Description Hide Description精神疾患と心疾患は併存することが多いが,うつ病併発は心疾患の予後に影響し,さらに病態にも関連性がある。精神科医が心疾患患者のうつ病等による精神症状に向精神薬を投与することも多く,加えて精神疾患患者でも心疾患の併存や発症リスクに配慮した薬剤治療を行う必要性が高まっている。向精神薬を使用する際は,身体機能の脆弱性を考慮した上で患者の身体へ直接的に作用する部分と他薬剤との相互作用によって間接的に作用する部分の両者を認識する。抗うつ薬では抗コリン作用,α1受容体阻害作用,QT延長作用,出血リスク,薬剤相互作用に配慮する。抗精神病薬は,抗うつ薬同様の留意点に加えて,静脈血栓塞栓,代謝異常,死亡リスクが懸念される。心疾患患者に向精神薬を用いる際はこれら副作用や薬剤相互作用に注意し,患者の状態をモニタリングしつつ少量から投与を始め,増量も細やかに行う。必要以上に増量はせず,減量中止のタイミングは患者の状態を鑑みて身体疾患の主治医とも連携を取りながら総合的に判断する。 Key words : cardiovascular disease, antidepressants, antipsychotics, cardiotoxicity, drug interactions -
高齢者への向精神薬療法の留意点
19巻5号(2016);View Description Hide Description高齢者では,若年者と異なった薬物体内動態を示すだけでなく,神経伝達機能に加齢性変化を生じ,脳内の薬物反応性に影響が生じうる。一般身体疾患の併存も増加し,使用されている治療薬も多様となる。このような加齢に伴う変化は,個人差が大きく,個々の背景病態,身体機能,併存身体疾患,併用内服薬などを考慮し,個別性を持った薬物量の設定が必要となる。高齢者では向精神薬による有害事象が若年者と比較し発生しやすいが,なかでも,転倒・骨折,誤嚥・肺炎,認知機能障害,心血管系への影響は,加齢によりリスクが増し,高齢者の生命や身体の安全に影響を与えうるため,注意が必要である。リスクとベネフィットを考慮すると,三環系抗うつ薬は有害事象の多さから推奨されず,ベンゾジアゼピン系薬剤も必要最小限にとどめることが推奨される。新規抗うつ薬や非定型抗精神病薬も一定のリスクを有しており,慎重な処方が求められる。 Key words : elderly, antipsychotics, antidepressants, pharmacotherapy, adverse events -
第2世代抗精神病薬持効性注射剤の用量設定および病状変化への急性対応:ドパミン感受性を考慮した検討の重要性
19巻5号(2016);View Description Hide Description第2世代抗精神病薬の持効性注射剤に関するエビデンスが集積され,医療者・患者双方の意識も高まっている。本邦でもaripiprazole once-monthly(AOM)が上市され,薬剤の選択肢も広がっている。アドヒアランスの維持,再発・再燃の予防,QOLの向上に大きな効果が期待される一方,細かい用量調節が難しく,その用量設定には未だ議論の余地が大きい。統合失調症の治療反応性や忍容性は患者個々で大きく異なる。継続的な抗精神病薬治療によりドパミン過感受性が形成されている患者や,高齢の患者では,標準状態とドパミンD2受容体の数や感受性が異なり,必要な用量も異なると考えられる。臨床的には病状の不安定さ,副作用の発現しやすさ等が考えられ,慎重な用量設定,病状変化や副作用の予測とそれらへの対応を要する。本稿では患者の個別性を考慮する重要性,用量設定の注意点,病状変化時の対応について考察する。 Key words : adherence, long-acting injection (LAI), dopamine supersensitivity, relapse, antipsychotic -
統合失調症の再発予防に留意した抗精神病薬の維持用量
19巻5号(2016);View Description Hide Description統合失調症は再燃・再発をきたしやすい慢性疾患であり,症状が安定した維持期においても,抗精神病薬の継続的投与が必要であることは,国内外のガイドラインやアルゴリズムで一致している。抗精神病薬は,錐体外路症状や過鎮静などの用量依存的な副作用を有し,アドヒアランスに大きく影響する。したがって,有効性を維持して再発を予防しながら,副作用を最少にする最小限の用量(最小有効用量)で投与するのが原則である。しかし,再発予防に必要な抗精神病薬の治療用量に関するエビデンスは不十分であり,最新のガイドラインやアルゴリズムでも一致した見解は得られていない。本稿では,維持期の抗精神病薬の至適用量という古くて新しい治療上の重要課題についての論点を整理し,最近のトピックを紹介したい。 Key words : schizophrenia, antipsychotic drug, relapse prevention, optimal dose, maintenance -
うつ病の再発予防のための抗うつ薬維持療法の用量
19巻5号(2016);View Description Hide Descriptionうつ病の治療では完全寛解が長期に続くこと,すなわち回復をめざすことが重要であり,長期的予後,再発率,社会適応,自殺に大きく影響する。不完全寛解あるいは残遺症状を伴った寛解は,うつ病の診断基準を満たさない程度も含めて再燃・再発を惹起しやすい。反復性うつ病では抗うつ薬による再発予防治療が必要であり,有効である。再発予防治療では急性期に用いた抗うつ薬の用量を継続するべきであるという意見が有力であり,減量の是非についてはわかっていない。再発のリスクが高い反復性うつ病患者では再発予防治療の期間は2〜3年以上必要であり,過去のうつ病エピソードが多いほどより長期に,時には生涯にわたって再発予防治療を要する。 Key words : antidepressant, SNRI, SSRI, remission, recovery, relapse, recurrence
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者を対象としたblonanserin使用成績調査症例の1年間の追跡調査──日常診療下でのblonanserin長期投与の安全性・有効性の検討
19巻5号(2016);View Description Hide Description統合失調症患者を対象に日常診療下でのblonanserin(BNS)長期投与時の安全性・有効性を検討するため,使用成績調査に登録された症例を対象に,投与開始から1年間の追跡調査を実施した。安全性評価対象1,311例でのBNS 1年投与継続率は50.02%であった。副作用発現症例率は32.11%で,主な副作用はアカシジア,高プロラクチン血症,錐体外路障害等であった。長期投与による著しい副作用発現率の増加は認められず,長期投与で特有の副作用はなかった。体重,糖・脂質代謝,プロラクチンに関連する臨床検査値の推移及び心電図異常所見の集計解析の結果では有意な悪化は認められなかった。有効性評価対象1,256例での投与後のBPRS合計スコアは投与開始時に比べて有意に減少した。平均変化量は12週時─9.8,1年時─11.7であり有効性が維持されていた。以上より,日常診療下でBNSを統合失調症患者に長期投与した場合でも安全性及び有効性について臨床上の問題は認められず,BNSは統合失調症治療において有用な薬剤であることが示された。 Key words : blonanserin, post-marketing surveillance, long-term therapy, safety, efficacy -
日本人大うつ病性障害患者を対象としたfluoxetine固定用量1日1回短期投与時の有効性及び安全性を評価するための第Ⅲ相無作為化二重盲検プラセボ対照試験
19巻5号(2016);View Description Hide Description日本人大うつ病性障害(MDD)患者を対象に,fluoxetine(FLX)の第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検試験を実施し,有効性及び安全性を検討した。513例が無作為化され,510例[プラセボ(PLB)群259例,FLX 20mg群168例,FLX 40mg群83例]に治験薬が投与された。有効性の主要評価項目である6週時のHAMD21総スコアのベースラインからの平均変化量は,PLB群で─6.91,FLX 20mg群で─6.18,FLX 40mg群で─6.25であり,投与群間で統計学的な有意差を認めなかった。有害事象の発現率は,PLB群で29.7%,FLX 20mg群で29.2%,FLX 40mg群で36.1%であり,統計学的に有意な群間差は認めなかった。総合的な安全性の結果は既知の安全性及び忍容性プロファイルと一致しており,新たな所見は認められなかった。 Key words : fluoxetine, SSRI, major depressive disorder, placebo controlled study, Japan -
日本人大うつ病性障害患者を対象とした試験の事後サブグループ解析:Fluoxetineとプラセボの比較
19巻5号(2016);View Description Hide Description日本人大うつ病性障害(MDD)患者を対象に,fluoxetine(FLX)の第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検試験を実施し,有効性及び安全性を検討した。この試験では,有効性の主要評価項目及び副次評価項目のいずれにおいても,FLXのプラセボ(PLB)に対する統計学的に有意な差を立証できなかった。この結果は想定したものではなかったことから,この結果に寄与したと考えられる主要因子を明らかにするために事後解析を実施したところ,いくつかの患者サブグループで注目に値する傾向が認められた。年齢20〜29歳のサブグループ及び現在のMDDエピソード期間が90日以上のサブグループで,FLX 20mg1日1回(QD)投与群及び40mg QD投与群のHAMD21総スコアは,PLB群と比較して数値的に大きく改善する傾向が認められた。また,広告で募集せず,現在のMDDエピソード期間が90日以上で,HAMD項目1(抑うつ気分)のベースラインスコアが3以上の患者では,FLX 40mg群のHAMD総スコアに,PLB群と比較して統計学的に有意な差が認められた。これらの結果より,MDDの臨床試験への適切な患者の組入れには慎重な配慮を要することが示唆された。 Key words : fluoxetine, SSRI, major depressive disorder, placebo controlled study, Japan -
日本人大うつ病性障害患者を対象としたfluoxetine 1日1回52週間投与時の安全性を評価するための第Ⅲ相非盲検長期試験
19巻5号(2016);View Description Hide Description日本人大うつ病性障害(MDD)患者を対象に,fluoxetine(FLX)のプラセボ対照6週間短期投与試験の継続試験としてFLXを52週間投与し,長期投与時の安全性および有効性を評価した。先行する短期試験を終了した199例に,FLX 20または40mgを非盲検下で1日1回投与し,うち152例(76.4%)が52週間の投与を完了した。150/199例(75.4%)に1件以上の治験薬投与下で発現または悪化した有害事象(TEAE)が報告された。主なTEAE(5%以上)は,鼻咽頭炎,頭痛,傾眠,悪心であった。15/199例(7.5%)が有害事象のため試験を中止した。先行試験の短期投与後,MDD症状重症度は継続的に改善した。HAMD21における反応率と寛解率ならびに全般的機能の寛解は,長期投与中に継続的に改善を示した。本試験における安全性の結果は,日本人以外のMDD患者を対象としたFLXの過去の長期試験および既知の安全性および忍容性プロファイルと概して一致しており,新たな安全性の知見は認められなかった。 Key words : fluoxetine, SSRI, major depressive disorder, long-term study, Japan
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第58回 遅れて来た世界初のSNRI,venlafaxineの開発物語──その2:最初の第Ⅲ相試験から承認に至るまで
19巻5号(2016);View Description Hide Description
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