臨床精神薬理
Volume 19, Issue 9, 2016
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【展望】
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DSM-5時代における認知症の診断と治療
19巻9号(2016);View Description Hide Description2013年,APAにより約20年ぶりにDSM-5が発表された。認知症領域における診断カテゴリーの見直しがなされ,神経認知障害(Neurocognitive Disorder)という総称となり,さらにせん妄,認知症(Major Neurocognitive Disorder),軽度認知障害(Mild Neurocognitive Disorder)の3つに大別された。認知症診断に記憶障害は必須ではなくなり,「複合的注意,実行機能,学習と記憶,言語,知覚−運動,社会認知」の6つの主要認知領域における機能障害の重症度による評価となった。DSM-5では遺伝子検査や脳画像所見も認知症診断の確からしさの項目として取り入れられた。バイオマーカーを用いて,臨床症状を呈する前の段階での認知症診断を検討する流れであり,薬物療法においてはDIAN,API,A4 studyなどpreclinical ADを対象とした大規模な早期薬剤介入試験が米国を中心に行われ,世界の注目を集めている。発症前段階での薬物介入の結果が有望なものであれば,将来のAD治療にとって大きな躍進となるのではないかと期待される。 Key words : DSM-5, dementia, Alzheimer’s disease, diagnosis, pharmacotherapy
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特集【認知症の薬物療法─最新Update─】
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認知機能低下に対する薬物療法──アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症を中心に
19巻9号(2016);View Description Hide Description認知症は,医学の向上に基づき平均寿命が上昇している現在,国際的に増加しており,少子高齢化が進むわが国においても,ますます重要な疾患の1つとなっている。認知症に対して適切な治療を行い,その予後を改善することは,患者や家族だけでなく,社会的にも必要とされている。本稿では,神経変性による認知症として最も多い認知症であるアルツハイマー型認知症と,次いで多いレビー小体型認知症の中核症状に対する治療について,薬物療法を中心に解説する。現在開発されている薬物についても言及し,一部紹介したい。 Key words : drug treatment, Alzheimer’s disease, dementia with Lewy bodies, acetylcholine esterase inhibitor, NMDA receptor antagonist ●認知機能低下に対する薬物療法──血管性認知障害を中心に── 長田 乾 山﨑貴史 高野大樹 血管性認知症は,脳血管障害に起因する認知症の総称で,認知症の原因疾患のなかでアルツハイマー病に次いで多数を占め,所謂「治療可能な認知症」として認識されている。血管性認知障害の薬物療法は,①危険因子・併存症の管理・治療,②抗血栓療法による脳梗塞の再発予防,そして③抗認知症薬による対症療法に大別される。中年期からの高血圧は血管性認知障害の最大のリスクであり,血圧の厳格な管理は,血管性認知障害のみならずアルツハイマー病の発症リスク低減にもつながる。また,心房細動は,心原性脳塞栓に起因する神経脱落症状による影響を除外しても認知機能低下と関連性が指摘されており,最近では直接経口抗凝固薬の効果に期待が寄せられている。PETを用いた研究から,大脳皮質領域のムスカリン性アセチルコリン受容体は血管性認知障害においても保たれていることから,コリンエステラーゼ阻害薬などの抗認知症薬の効果が期待される。 Key words : vascular dementia, vascular cognitive impairment, risk factor, stroke, anti-dementia drugs -
認知機能低下に対する薬物療法──血管性認知障害を中心に
19巻9号(2016);View Description Hide Description血管性認知症は,脳血管障害に起因する認知症の総称で,認知症の原因疾患のなかでアルツハイマー病に次いで多数を占め,所謂「治療可能な認知症」として認識されている。血管性認知障害の薬物療法は,①危険因子・併存症の管理・治療,②抗血栓療法による脳梗塞の再発予防,そして③抗認知症薬による対症療法に大別される。中年期からの高血圧は血管性認知障害の最大のリスクであり,血圧の厳格な管理は,血管性認知障害のみならずアルツハイマー病の発症リスク低減にもつながる。また,心房細動は,心原性脳塞栓に起因する神経脱落症状による影響を除外しても認知機能低下と関連性が指摘されており,最近では直接経口抗凝固薬の効果に期待が寄せられている。PETを用いた研究から,大脳皮質領域のムスカリン性アセチルコリン受容体は血管性認知障害においても保たれていることから,コリンエステラーゼ阻害薬などの抗認知症薬の効果が期待される。 Key words : vascular dementia, vascular cognitive impairment, risk factor, stroke, anti-dementia drugs -
認知機能低下に対する薬物療法──根治的治療薬開発の現状
19巻9号(2016);View Description Hide Description高齢化に伴う認知機能低下,特に認知症に対する関心が高まっている。その中でも重要なアルツハイマー病に対しては,対症療法に属する薬物療法が行われているが効果には限りがあり,根治的薬物療法の開発が各国で進められている。本稿では,アルツハイマー病の分子生物学的病態を概説し,それに基づいて開発中の抗認知症薬剤および認知機能全般を改善する薬剤について説明したい。 Key words : amyloid, secretase, tau, aggregation, immunotherapy -
認知症の幻覚妄想状態に対する薬物療法の進め方
19巻9号(2016);View Description Hide Description認知症にみられる幻覚,妄想は,統合失調症などの機能性精神障害とは異なった特徴を有する。また,それら幻覚,妄想症状は,認知症の原因疾患により頻度や内容も異なってくる点に注意が必要である。認知症に出現する幻覚,妄想の病態生理はわかっておらず,他の認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)と同様に,神経伝達物質や神経病理学的変化に加え,認知機能低下を背景とした心理学的要因や社会的要因といった様々な要因が想定される。認知症における幻覚,妄想に対して薬物療法を用いる前には,これらの要因を可能な限り排除,調整することが重要である。いくつかの抗精神病薬が,BPSDとしての幻覚,妄想に対して有効性が示唆されているが,認知症患者は一般に高齢であり,抗精神病薬を用いる際には少量から開始,期間を定める,服用と副作用の観察のための環境調整といった点などに配慮が必要である。 Key words : BPSD, dementia, hallucination, delusion, pharmacological treatment -
認知症患者の焦燥感・不安状態に対する薬物療法
19巻9号(2016);View Description Hide Description認知症患者は増加の一途を辿っているが,記憶の障害・見当識障害・判断力の障害・実行機能の障害などの中核症状に加え,興奮・叫声・不穏・焦燥・不安・徘徊など,行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる種々の精神症状や行動障害がみられ,本人・家族・介護者にとって大きな負担となる。BPSDの薬物療法として,主に抗精神病薬が用いられているが,基本的に本邦では適応外使用となる。その他,抗認知症薬・抗うつ薬・抗不安薬・漢方薬・抗てんかん薬などがBPSDに対して用いられる。治療にあたっては,漫然と薬物療法を行わず,十分なインフォームドコンセントを得てから,適切な用量を適切な期間のみ投与する。本稿では,アルツハイマー型認知症を中心に,認知症の焦燥感・不安状態に対する薬物療法について述べる。 Key words : Alzheimer’s disease, behavioral and psychological symptoms of dementia, antipsychotic medication, agitation, anxiety -
認知症の抑うつ状態,心気状態に対する薬物療法
19巻9号(2016);View Description Hide Description認知症患者の抑うつ状態や心気状態は認知症の行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)として生じているのか,他のうつ病など精神疾患を合併しているのかを鑑別することが困難である場合が多い。このため本稿では両者を包含した状態像の薬物療法について俯瞰した。アルツハイマー型認知症(AD)の抑うつ状態については,抗認知症薬,抗うつ薬ともに積極的な効果は示されていない。また,それらの併用については長期的には否定的な報告が見られる。心気状態に関しても報告は少ないが,抗うつ薬の有効性を示す報告が見られた。認知症の抑うつ状態,心気状態に対して明らかな有効性が示されている薬物療法は存在せず,コリンエステラーゼ阻害薬,抗うつ薬等を,症状や重症度に応じて組み合わせて使用せざるを得ないのが現状であり,今後さらなる知見の集積が求められる。 Key words : dementia, depressive state, hypochondriac state, antidepressants, cholinesterase inhibitors -
認知症の周辺症状(主に行動症状)に対する薬物療法について
19巻9号(2016);View Description Hide DescriptionBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(以下BPSD)の中でも暴言・暴力,徘徊,脱抑制等に代表される行動症状は,特に介護者が対応に困ることが多い症状であり,介護者のQOL低下にもつながる。治療にあたっては,非薬物治療をまず最初に考慮するべきで,薬物治療を行ううえでは,加齢に伴う薬物動態の変化に十分留意して薬剤を選択する必要があり,極力少量から開始とし,中止するときも段階的に慎重に行うべきであろう。効果が乏しい場合に漫然と継続せず,減量・変更を検討していくべきである。行動症状に対して,抗認知症薬や抗精神病薬,抗うつ薬,気分安定薬,漢方薬などが用いられるが,BPSDの行動症状に関する薬物治療は精神症状に比較すると効果が乏しいことも多く,リスクとベネフィットを考慮し個々の症例に応じて適合する処方を考えていく必要がある。 Key words : dementia, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, caregivers
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【シリーズ】
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【原著論文】
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双極Ⅱ型障害における躁症状に対するolanzapineの安全性と有効性についての検討──双極性障害における躁症状を対象とした特定使用成績調査の部分集団解析結果
19巻9号(2016);View Description Hide Description双極Ⅱ型障害に対する薬物療法のエビデンスは限定的である。そのため,日常診療下において双極性障害の躁症状に対するolanzapineの使用状況を最長1年間調査した特定使用成績調査成績の事後解析を行い,双極Ⅱ型障害患者のみ(154例)を対象にolanzapineの使用状況,及び安全性と有効性について検討した。副作用は30例(19.5%)で報告され,最も多く報告された副作用は体重増加(10例;6.49%)であった。臨床検査値等の推移を見ると,既知のolanzapine安全性プロファイルと同様に体重及びBMIや血清中脂質値の有意な増加が認められた。有効性については,YMRS合計点及びCGI-BPの躁病と総合スコアの有意な改善が認められた。安全性については新たに懸念すべき問題はなく,日常診療下における双極Ⅱ型障害の躁症状に対するolanzapineの安全性及び有効性が示された。 Key words : olanzapine, bipolar disorder, bipolarⅡdisorder, hypomania, post-marketing surveillance
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【症例報告】
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注意欠陥多動性障害を伴う血管性認知症のatomoxetineによる改善の報告──認知症の行動心理症状の鑑別診断の視点から
19巻9号(2016);View Description Hide Description粘着的な無遠慮さ,感情失禁,発動亢進と不機嫌な易怒性がatomoxetineにより改善した血管性認知症の3症例を報告した。本報告例にはせん妄や精神病性障害,気分障害はなく,食欲や睡眠は良好であった。現症では注意障害はみられなかったが,病歴からは認知症発症前から衝動性や不注意がみられている。3症例の症状は漢方薬,抗精神病薬やdonepezilで改善はみられず,atomoxetine 25〜40mg投与で劇的に改善した。症状の中核は脳血管障害による性格変化ではなく注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)の症状が脳血管障害により先鋭化されたと考えた。高齢者の易怒性や無遠慮は認知症の行動心理症状とみなされることが多いが,気分障害,精神病性障害,せん妄症状がない場合はADHDを疑うことも必要であると考えられる。 Key words : atomoxetine, attention deficit hyperactivity disorder, vascular dementia, behavioral and psychological symptoms of dementia, case report -
治療初期からのSSRIとNaSSAの併用が有用であった重症身体表現性障害(身体症状症)の2例
19巻9号(2016);View Description Hide DescriptionSSRIとmirtazapine(MTZ)の治療初期からの併用が有用であった身体表現性障害(身体症状症)の2例を報告した。2例とも強迫的こだわりと焦燥を有し,他院での入院加療の無効例や自殺企図後という重症例であった。早期からのSSRIとMTZの併用により,2週後には2例とも改善傾向となり,3週後には1例は部分寛解,1例は完全寛解に至るなど,効果発現が極めて早かった。そして,2例とも症状が残存した状態でMTZを中止しても悪化が生じなかった。これは,強迫性障害での報告と同様に,MTZがSSRIの効果発現を早めるが,長期的な効果増強はもたらさないことを示していると考えられた。また,2例とも症状として食欲低下があり,SSRIの副作用への配慮が必要であったが,MTZの併用により,消化器系の副作用を生じることなく速やかにSSRIが増量可能であり,出現した副作用は1例における眠気のみであった。 Key words : somatoform disorders (somatic symptom and related disorders), selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI), noradrenergic and specific serotonergic antidepressant (NaSSA)
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【総説】
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「ゼプリオン問題」を抗精神病薬の安全性情報提供の観点から再検証する
19巻9号(2016);View Description Hide Descriptionいわゆる「ゼプリオン問題」について2015年11月の市販直後調査の追加症例報告を踏まえ再検証した。ゼプリオンR投与中の死亡が報告されている56例について詳細を検討した結果,突然死および突然死疑いが死因の過半数を占めたが,安全性速報発表以前に本剤を導入された症例に悪性症候群類似死,合併症死と,またrisperidone,paliperidone製剤に対する忍容性確認が不十分なまま投与開始された症例が多数認められた。このような使用の背景として抗精神病薬の市販前試験における安全性情報と大きく関連する組み入れ,除外基準についての情報提供不足を指摘した。また,近年の本邦における抗精神病薬の市販後調査の結果にゼプリオンRの市販直後調査における推定死亡率より高い死亡率を示すものが多数あることを指摘し,抗精神病薬の安全使用を考える上での市販前,市販後の安全性情報公開のあり方について考察した。 Key words : novel antipsychotics, post-marketing promotion, safety information disclosure, long-acting injection
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第62回 第二世代抗精神病薬の持続性筋注製剤の開発物語──その1:Risperidone(Risperdal Consta®)
19巻9号(2016);View Description Hide Description
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