Volume 19,
Issue 10,
2016
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【展望】
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臨床精神薬理 19巻10号, 1403-1410 (2016);
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統合失調症は未治療期間が長い場合や,残遺状態に至った場合,現状の治療薬では十分に病前の状態に戻ることが困難になることが多い。その進行性の病態の分子機序を十分に解明することが,現在の加療では改善が不十分な症状に対する新たな治療の開発のために必要である。本稿では進行して蓄積しうる分子病態の例として,白質病態・DNAダメージ病態・NMDA受容体病態・酸化ストレス病態を取り上げた。統合失調症の中核的な病態であるNMDA受容体機能低下が酸化ストレスを介して進行性に悪化しながら,さらに遺伝的背景のもとに酸化ストレスが誘因となって,白質病態やDNAダメージ病態が進行して蓄積する可能性がある。また,進行性の病態として神経変性疾患との比較をしながら,特定の異常タンパクや遺伝子異常に帰着される神経変性疾患とは統合失調症は明らかに病態が異なることを指摘し,統合失調症のより中核的な病態の把握には,神経変性疾患とは異なる病態を想定した研究の必要性を考察した。 Key words : schizophrenia, NMDA receptor, white matter, DNA damage
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特集【多角的な視点で精神科薬物治療を見直す】
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臨床精神薬理 19巻10号, 1411-1417 (2016);
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本稿では疾患ステージという視点から統合失調症薬物療法のエビデンスについて整理した。冒頭に臨床試験を読み解くうえでの「PICO」について簡単に触れ,精神病前駆症状に対する予防的介入,初発エピソードの治療,再発時の急性期治療,症状が安定化した後の維持期治療に関して,それぞれのエビデンスを概説した。精神病前駆症状に対する予防的介入や,初発エピソード患者に関するエビデンスは非常に少なく,今後の知見の蓄積が待たれる。急性期治療や再発予防に関するエビデンスは最も多く,効果や副作用の特性についての情報量は多い。これらのエビデンスを理解したうえで,個々の患者の要因を総合的に加味した治療薬の選択が望まれる。また,臨床試験は類似のものであっても,対象患者,アウトカムなどのデザインの詳細が異なることも少なくない。PICOを整理しながら試験結果を理解し,臨床に役立てる必要がある。 Key words : schizophrenia, acute phase, maintenance phase, prodrome, first episode
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臨床精神薬理 19巻10号, 1419-1426 (2016);
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運転関連の新法が相次いで施行されて2年が経過した。以来,精神障害者の運転適性判断が注目され,向精神薬の添付文書記載の問題についても繰り返し指摘されている。こうした精神障害者の運転を取り巻く問題点は,多くの精神科医に共有されているが,向精神薬の処方を受けている患者が実際に運転する場面を想定し,そこに向精神薬がどのように影響するかを考える臨床医は少なく,運転に関する説明指導は,薬剤師や薬剤情報提供書で済ませてしまう方が実際には多い。添付文書の画一的記載が個別的指導の機会を奪っているが,向精神薬が運転に与える影響を医師が患者に情報提供し,個別的指導を行うことが本来望ましい。本稿では,運転という視点を持つことの重要性と,個別的指導を行うための向精神薬と自動車運転に関する知見を概説し,運転に与える影響という視点で向精神薬の適正化の方針を示す。 Key words : automobile driving, driving performance, traffic accident, psychotropic, proper use
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臨床精神薬理 19巻10号, 1427-1439 (2016);
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向精神薬の使用には身体的副作用のリスクが常に伴う。中でも体重増加,糖代謝異常,脂質代謝異常といったメタボリック症候群,QT延長症候群に代表される心電図異常,心臓突然死,顆粒球減少症,肝障害といった副作用は,患者の生命予後に関わる重大な問題である。身体的副作用を早期発見し,早期介入することで生命予後に関わるようなリスクを減らすことは可能であるが,それには定期的な身体モニタリングが欠かせない。いまだこれらの身体的副作用について一致した見解が得られていない部分は多くあるが,本稿では最近の知見を整理しながら,改めてモニタリングの重要性や具体的方法について考察する。 Key words : metabolic syndrome, QT prolongation, sudden death, antipsychotics, antidepressants
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臨床精神薬理 19巻10号, 1441-1453 (2016);
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うつ病では不安の併存が多く,これら不安うつ病では,症状が重症化し,経過も遷延し,当然著しい機能低下が生じる。つまり,治療反応性が悪く,低い寛解率,高い再発率となる。さらに経過中の自殺の危険も高まるため,うつ病においては,不安症の併存だけでなく,不安そのものの有無,そしてそのレベルについてdimensionalに評価することが臨床上とても有用である。これが,DSM-5では新たに,うつ病診断時に“不安性の苦痛を伴うもの”の特定が求められるようになった理由である。一方,残念ながら,現状では不安うつ病の薬物療法のエビデンスはきわめて乏しい。その中でも,不安うつ病のファーストラインはSSRI/SNRIの単独療法とされており,加えて,副作用に一層留意して不安の乏しいうつ病よりもより少量で開始し,ゆっくり増量する,といった工夫が必要となる。また,不安うつ病ではセカンドラインの治療を要するケースも多く,この場合慎重なBZDの投与も治療の選択肢となろう。 Key words : anxious distress, antidepressants, SSRI, SNRI, DSM-5
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臨床精神薬理 19巻10号, 1455-1461 (2016);
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ベンゾジアゼピン(BZ)系薬依存の特徴は,不安や不眠といった苦痛の軽減への渇望にあり,覚醒剤依存などの快楽追求姿勢とは異なる。BZ系薬の臨床用量依存は,使用そのものによる障害は目立たないが,減量および中止の際に生じる離脱症状のために中止できないという依存形式である。BZ系薬は,医学的管理下において使用される場合には,耐性や渇望を生じることはないとされている。BZ系薬依存形成の最大の危険因子は長期使用であり,多剤併用,高用量,頓服使用がその要因となる。原疾患の改善後は,BZ系薬の減量中止を検討することが望ましいが,そのペース,方法などにおいていくつかの工夫が有効である。 Key words : benzodiazepine, dependence, craving, tolerance, withdrawal symptoms
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臨床精神薬理 19巻10号, 1463-1469 (2016);
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根拠に基づいた医療(EBM)の観点からは,抗精神病薬は単剤適量で使われるべきである。しかし,我が国では前世紀の末,抗精神病薬の多剤併用大量投与が広く行われていた。抗精神病薬の多剤併用大量投与は生命予後を悪化させるほか,さまざまな副作用があって好ましくない。しかし,これを適正化するにはただ減量すればよいわけではなく,時間をかけて徐々に減量していく必要がある。我々が提唱した減量法(Safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy :SCAP)に関して,2つの無作為割付試験がなされ,臨床現場でも応用されつつある。しかし,全ての患者が抗精神病薬単剤適量で改善するわけではない。今後の課題として,EBMに裏付けられた併用療法の研究や過感受性精神病前駆状態の改善方法の研究がある。 Key words : antipsychotics, polypharmacy, high dose therapy, monotherapy, safety correction
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臨床精神薬理 19巻10号, 1471-1478 (2016);
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精神科医療における問題として,過小診断・過小治療の問題や,多剤併用処方・過量服用が挙げられる。向精神薬の多くは,精神症状と区別しにくい眠気,鎮静,およびインペアードパフォーマンスなどを惹起し,精神症状と薬理作用の増減には複雑な相互の関係がある。向精神薬の適正使用と多剤併用処方・過量服用の防止は,服薬アドヒアランス低下,治療効果不足,副作用発現,あるいは医療事故など様々な深刻な事態を解消する。向精神薬の適正使用と多剤併用処方・過量服用防止に関する注意喚起を行い,多職種の理解と協力が必要となる。臨床効果を十分に発揮させるにはエビデンスやガイドラインにとらわれず,治療薬の薬力学的・薬物動態学的特性からも薬物治療を考える必要がある。薬物治療に関わる場合に最も重要なことは,「薬を飲ませる」ではなく,「薬が飲める」ようになるための関わり,すなわち,患者自らの意思で継続可能な治療を提供することである。本稿では,薬剤師の視点から服薬アドヒアランスの向上と向精神薬の適正化に関わる問題について概説した。 Key words : psychotropic drug, medication adherence, polypharmacy, pharmaceutical management, pharmaceutical care
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【シリーズ】
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臨床精神薬理 19巻10号, 1479-1480 (2016);
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【原著論文】
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臨床精神薬理 19巻10号, 1481-1492 (2016);
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Aripiprazole(APZ)は,米国において小児(6〜17歳)の自閉性障害によるirritability(易刺激性)に対する適応を取得している。本邦でも同適応を取得するためのプラセボ対照二重盲検短期(8週)試験が実施された。本試験は,短期試験を完了した被験者に,APZ(1〜15mg/日)を非盲検で長期継続(適応追加承認時まで)投与し,安全性および有効性を評価することを目的として実施されている。本稿はカットオフ日までのデータを用いた中間報告である。85例にAPZが投与され53例が投与継続中(4〜145週)であった。投与期間が24週および48週を超えた被験者は60例および45例であった。APZは1mg/日から投与開始し,全投与期間の平均投与量は6.4mg/日であり,最終の平均投与量は8.0mg/日であった。発現率の高かった有害事象は鼻咽頭炎,傾眠,体重増加,インフルエンザ,嘔吐,胃腸炎であった。発現した有害事象の重症度は多くが軽度または中等度であり,忍容性は良好であった。有効性も長期間維持された。 Key words : aripiprazole, autistic disorder, irritability, children and adolescents, open-label extension study
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臨床精神薬理 19巻10号, 1493-1504 (2016);
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双極性障害の躁状態の患者に対するaripiprazoleの日常診療下における有効性と安全性を検討するために観察期間12ヵ月の特定使用成績調査を行った。合計633例の調査票を回収した。その結果,平均年齢は48.9±15.8歳で,女性の割合が52.6%であった。双極Ⅰ型,Ⅱ型の割合は73.0%,21.4%であった。投与継続率は6ヵ月目で約50%,12ヵ月目で約20%であった。ベースラインから6ヵ月目のYMRS-Jスコアは双極Ⅰ型で29.3から7.9へ,双極Ⅱ型で19.5から6.3へ改善が認められた。またYMRS-Jが50%以上改善した割合は6ヵ月目で双極Ⅰ型,Ⅱ型それぞれ79.1%,74.0%であった。全般改善度では著明改善が33.4%,改善が36.7%であった。また,観察期間全体のうつ状態発現率は16.9%であった。うつ状態の発現は罹病期間が長い患者で発現率が高い傾向が認められた。有害事象の発現率は31.6%であり,最も多く報告された有害事象はアカシジアで発現率は7.7%であった。開始用量24mg未満群と24mg以上群でのアカシジアの発現率は7.7%,7.6%で差は認められなかった。以上より,双極性障害の躁状態の患者に対してaripiprazoleが6ヵ月目までにすぐれた臨床効果を示すことをリアルワールドで確認することができた。 Key words : aripiprazole, bipolar, mania, post-marketing surveillance