臨床精神薬理
Volume 20, Issue 1, 2017
Volumes & issues:
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【巻頭言】
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【展望】
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病識が乏しい患者における治療継続性向上
20巻1号(2017);View Description Hide Description統合失調症患者の3割では病識がほとんどなく,その背景には前頭葉機能障害が想定されている。病識のない患者に対しては説得や従来の治療教育によって病識を持たせることは容易ではなく,治療中断に陥りやすい。このような症例などに対して,動機づけ面接法や認知行動療法をベースとしたcompliance therapyやadherence therapyがこれまで行われてきており,エビデンスが蓄積されている。その流れを汲む取り組みとして,Amadorが開発したLEAPがある。LEAPは病識に乏しい精神病患者と信頼関係を築くためのコミュニケーション技法であり,精神科医や臨床スタッフだけでなく患者家族や当事者にも有用と考えられる。本稿では統合失調症患者の病識欠如の問題をまず整理し,治療アドヒアランスへの新たな介入方法やLEAPの意義について解説した。 Key words : schizophrenia, psychosis, insight, adherence, compliance
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特集【治療継続性向上への新たな試み】
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統合失調症を持つ人の治療継続性と心理教育──心理教育の有用性と実践の工夫
20巻1号(2017);View Description Hide Description統合失調症を持つ患者の服薬アドヒアランスは低下しやすいことがよく知られており,服薬アドヒアランスの維持のためには薬物療法と心理教育を含む心理社会的アプローチが両輪とされている。しかし,心理教育を含む心理社会的なアプローチが十分なされているとは言えず,実臨床の現場において薬物療法の工夫にのみ重きが置かれがちな現実がある。本稿では,統合失調症を持つ患者への心理教育の有用性と限界について明らかにした上で,現在の日本の精神医療の臨床現場の中で心理教育的なアプローチをいかに生かし展開していく必要があるかについて述べた。 Key words : psychoeducation, psycho-social approaches, schizophrenia -
当事者の主観的体験を治療に反映させること
20巻1号(2017);View Description Hide Descriptionリカバリーの概念が注目されているが,当事者自らが判断・選択するという観点から薬物療法を考えると,主観的体験の要素は大きく影響する。欧米よりも我が国の医師は当事者の服用におけるこの要素を重視しているものと思われる。Drug Attitude Inventory(DAI)や主観的ウェルビーイング尺度などに加え,我が国でも主観的体験に焦点を当てた尺度が考案されている。筆者は飲み心地を訊ねるようにしている。それにより,主観的体験を始めとしたアドヒアランスに影響する要素における当事者の思いや状況を大体把握できると認識している。ディスフォリアは飲み心地を訊ねていく過程で明らかとなる主観的体験である。Shared Decision Makingは当事者の体験や思いを治療に反映させる方法であるが,こうした双方向性のコミュニケーションをとることで,薬物療法にこれまで以上に当事者の主観的体験が活かされていくことが望ましいと考える。 Key words : subjective experience, schizophrenia, recovery, dysphoria, adherence -
初回エピソード精神病における治療継続性:持効性抗精神病薬注射製剤の役割
20巻1号(2017);View Description Hide Description統合失調症の発病早期に有効な治療を行えるかどうかが長期予後に大きな影響を与える。しかし,多くの初回エピソード精神病の患者は,治療継続性に問題があり,その結果再発を繰り返し,それが慢性化リスクの増大をもたらし,リカバリーを阻害すると言われている。持効性注射製剤(Long-Acting Injection: LAI)は治療継続性を高めるための有用な治療技法の1つであり,近年,第二世代抗精神病薬のLAIの登場により,発病早期を含む統合失調症の全ての段階がLAIの適応になり得ると考えられるようになった。さらに,初回エピソード精神病に対してLAI治療が有用性を示す報告がされるようになってきているが,精神科医の多くはその使用に否定的な態度を持っている。現段階では,科学的根拠が十分ではないため,今後,厳密な臨床試験からの知見が積み重ねられ,LAIによって利益がもたらされる初回エピソード精神病患者を把握して,より適切に使用できるようになることが期待される。 Key words : first-episode psychosis, long-acting injectable antipsychotics, adherence, relapse -
治療継続性を見据えたLAI導入──GAIN技法を用いて
20巻1号(2017);View Description Hide Description統合失調症治療には長期の継続した薬物療法が必要不可欠であるため,持効性注射剤(LAI:long acting injection)は,重要な役割を担うことが期待される。しかし,LAIは侵襲性の高い剤形であるため,負の印象が強い場合も少なくない。LAI導入時に患者のLAIに対する負の印象を和らげ,剤形の特徴を理解してもらうことはその後の治療継続に重要であり,その導入方法に工夫が求められる。GAINは,LAI導入を目的としたコミュニケーション技法であり,近年本邦で注目されている。我々は本技法を用いて3例のLAI導入に至った症例を経験した。患者は,当初LAI治療に抵抗を示したがGAINにより治療の意義を理解し患者自らがLAI治療を選択するに至った。 GAINを用いて信頼関係を構築し,LAI治療を提案することは患者にLAIの負の印象を与えることなく正しい情報提供を行うことが可能となり,これによりLAIが円滑に導入され,ひいては患者のその後の治療継続に良い影響を与えるものと考える。 Key words : schizophrenia, long-acting injection, patient acceptance, recovery model -
Aripiprazoleの治療継続性向上をめざして──持続性注射製剤の導入における留意点
20巻1号(2017);View Description Hide DescriptionAripiprazoleによる経口薬治療においてこれまで検討された様々な結果などから,aripiprazole持続性注射剤(AOM)の導入における留意点を考察することを本稿の目的とした。Aripiprazole経口薬治療からのAOM 400mg導入は,aripiprazoleの比較的多い用量(18〜24mg,あるいはそれ以上)を継続していて,有効性と安全性が検討されている症例においてまず試みるべきであり,比較的少量投与例(6〜10mg程度)におけるAOM 400mg導入と継続の安全性についてはさらなる検討が必要ではないだろうか。薬物治療中断後の病状悪化に伴う急性期治療においてaripiprazoleの比較的多い用量での有効性や忍容性が確認されている場合は,AOMへの切り替えがもっとも行いやすい。Aripiprazoleの治療歴がないか,不十分な場合における他の抗精神病薬投与例からのAOMへの切り替えでは,途中に挟む比較的多い用量のaripiprazole経口薬による忍容性検証(アカシジアや切り替えに伴う精神病症状の悪化の有無の判定)は4〜8週,有効性検証(再発・悪化防止効果の判定)は3〜6ヵ月程度が必要と推定され,慎重に進める必要がある。他の持効性注射製剤からAOMへの切り替え方法についてもその留意点を簡単にまとめた。 Key words : schizophrenia, aripiprazole, aripiprazole once monthly, long-acting injectable antipsychotics -
Clozapineの治療継続性と有効性
20巻1号(2017);View Description Hide Description2010年から2016年9月までに琉球病院でclozapine(CLZ)治療を行った179例について,Kaplan-Meier法による2年間の治療継続率とBPRSを指標とした有効性を検討した。治療開始時に隔離・身体拘束が必要であった52例は3ヵ月以内に行動制限を解除でき,88例は退院した。CLZの継続率は治療開始後3ヵ月90.5%,6ヵ月84.4%,12ヵ月81.7%,18ヵ月80.2%,24ヵ月78.6%となり,高い継続率を示した。BPRS総点の平均値は,投与開始時61.1,3ヵ月後44.0,6ヵ月後37.8,12ヵ月後34.5,24ヵ月後30.9と有意に低下し,治療期間が長いほど高い効果を示した。治療継続率が高いのはCLZの効果が高く,患者自身がその効果を実感することができるからであろう。無顆粒球症などの有害事象はCLZ中止後には回復しており,CPMS規定を遵守すればCLZを安全に使用できる。 Key words : clozapine, treatment-resistant schizophrenia, CPMS, continuation, effectiveness
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【シリーズ】
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【原著論文】
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Olanzapine治療に関連した糖尿病症例の特徴と経過──21例のcase series
20巻1号(2017);View Description Hide Description非定型抗精神病薬の1つであるolanzapine(OLZ)は体重増加,糖尿病,脂質異常症などの副作用があり,糖尿病性ケトアシドーシスや死亡症例が報告されたため,本邦では糖尿病とその既往のある患者には禁忌となっている。本研究では当院のデータベースを用いて,2008年から2013年にOLZ内服薬が処方され,かつ,HbA1c 6.5%以上または糖尿病治療薬が処方されている患者を抽出し,病歴,処方歴,糖尿病の経過などについて検討した。OLZが一度でも処方された患者は1,589例であり,そのうち上記の条件を満たし,OLZが糖尿病発症に関連していると考えられる患者は21例であった。11例が糖尿病の薬物療法を開始されたが,うち2例は血糖コントロールが良好で薬物療法を終了することができ,9例は経口血糖降下薬でコントロールされている。OLZの中止と早期治療介入により血糖が改善しており,定期的に血糖値や体重をモニターしながら耐糖能障害や糖尿病の早期発見,治療を行うべきである。 Key words : schizophrenia, olanzapine, diabetes, atypical antipsychotic, lifestyle related disease
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【症例報告】
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バルプロ酸ナトリウム中毒により血小板減少を起こした1症例
20巻1号(2017);View Description Hide Descriptionバルプロ酸Na(sodium valproate:VPA)の中毒症状として,ときに血小板減少が起こることがある。我々はVPA内服中に肺炎と低栄養を合併し,血小板減少を起こした症例を経験した。症例は50代女性で既往にてんかんがあり,VPAを定期服用していた。経過中に血中VPA濃度が最大107.1μg/mLまで上昇し,血小板は1.9×104/μLまで低下した。VPAを中止したところ,血小板は速やかに増加した。低栄養では活性のある遊離VPAが増加するだけでなく,女性は男性よりも血小板減少を起こしやすいこと,さらにVPAを服用中には感染症が契機となり血小板減少を起こしやすくなることが報告されている。以上を踏まえて,血小板減少に注意しながらVPAを使用する必要があると考えた。 Key words : sodium valproate, poisoning, thrombocytopenia, platelet, hypoalbuminemia
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【資料】
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精神疾患に併存する不眠に対するsuvorexantの使用状況に関するアンケート調査
20巻1号(2017);View Description Hide Description精神疾患に併存する不眠症に対して,suvorexantを新規に導入した患者112例を対象に,その主治医に対してアンケート調査を行い,導入理由とその効果を調査した。またsuvorexant導入前にベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を内服していた症例ではその転帰についても調べた。その結果,約8割の症例で催眠効果有りとの回答があった。さらにsuvorexantに先行して処方されていたベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を中止あるいは減量できた症例は6割であった。また先行薬の効果が不十分であった症例でも6割の患者がその先行薬を減量または中止できていた。処方した医師の手応えとしてsuvorexantは,精神疾患に併存する不眠に対しても十分な効果が期待できるとの結果だった。 Key words : suvorexant, benzodiazepine, sleep disorders associated with mental disorders
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第66回 新規作用機序を持った睡眠薬の開発物語──その2-1:世界初のorexin受容体拮抗薬suvorexant:orexinの発見からsuvorexantの薬理まで
20巻1号(2017);View Description Hide Description
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