臨床精神薬理
Volume 21, Issue 6, 2018
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【展望】
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抗てんかん薬新時代におけるてんかん治療の展望──日本てんかん学会のガイドラインを踏まえて
21巻6号(2018);View Description Hide Description日本てんかん学会は 2005 年以後,多くの治療ガイドラインを作成して来た。日本 では2006年以後多くの新規抗てんかん薬が一気に上市されて来ており,旧抗てんかん薬 と新規抗てんかん薬の混ざり合った状態にある。本稿では,ガイドラインを踏まえてその 治療方向を考え,また新しいてんかんの実用的な定義,発作型分類,てんかん分類にも少 し触れて将来への展望とした。国際抗てんかん連盟は実用的な定義とともにてんかんの寛 解状態を過去 10 年間にわたり無発作状態が持続し,過去5年間抗てんかん薬を服薬して いない人についててんかんは消失したとみなす。臨床家の治療目標となる重要な事項であ る。旧抗てんかん薬と新規抗てんかん薬のどちらが有効か,利点があるか,医療経済学的 にも今後検討されることになる。先行している英国は長期間の検討からてんかん治療ガイ ドラインを出している。それを本邦の将来像と見て紹介した。 臨床精神薬理 21:723-732, 2018 Key words :: practical definition of epilepsy, old and new antiepileptic drugs, guideline, seizure and epilepsy classification, direction of treatment
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特集【精神科日常診療で診るてんかん──状況に応じた治療戦略】
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高齢発症てんかんに対する診断と治療
21巻6号(2018);View Description Hide Descriptionわが国の高齢化率は27.3%に上り,65 歳以上の高齢者人口は 3,459 万人に増加して いる。高齢期にはてんかんが発症しやすいため,わが国では高齢発症てんかんの患者数が 増加していると推定される。本症では,側頭葉てんかんが多く,発作症状としては非けい れん性(健忘,無反応,動作停止,常同行動など)で,健忘が前景に立つ(一過性てんか ん性健忘) 。しかし,発作間欠期には精神・行動障害は正常化する。脳波検査で脳波上て んかん性発射を捉えることが確定診断につながる。高齢発症てんかんのほとんどは,単剤 (少量)抗てんかん薬で発作が抑制されるのが特徴である。しかし,非けいれん性てんか ん重積は,予後不良で早期診断・早期治療が重要である。症状出現時の脳波検査が診断上 不可欠である。世界に冠たる超高齢社会のわが国において,高齢発症てんかんの診断技術 の向上が重要課題である。 臨床精神薬理 21:733-739, 2018 Key words :: epilepsy, elderly, anti-epileptic drugs, amnesia, electroencephalography -
脳炎後てんかんの病態・治療
21巻6号(2018);View Description Hide Description脳炎後てんかんは,局在関連性てんかんになることが多く,発作頻度は月単位と高 い。知的障害を併存する症例が多く,脳炎急性期から数年経過した時期においても,発作 頻度・知的障害が進行悪化する。てんかん原性,発作原性にはIL-1 β,TNF αなどの免 疫因子が関与している症例がある。N-methyl-D-aspartate型グルタミン酸受容体抗体や サイトカインなどの免疫因子,matrix metalloproteinase-9やtissue inhibitor of metalloproteinase-1などが関与する血液脳関門破綻が病態に関与し,難治なてんかん発作,併存症 に関与している可能性がある。発作予後はcarbamazepine,バルプロ酸,phenytoinが優 れていたが中止率が60%と高い。Methylprednisoloneパルス治療では,てんかん発作頻 度は 9⊘18 例で改善し,てんかん発作属性は 12⊘18 例で改善した。 臨床精神薬理 21:741-749, 2018 Key words :: postencephalitic epilepsy, NMDA-type GluR, apoptosis, blood-brain barrier, matrix metalloproteinase-9 -
てんかんを専門にしない精神科医による,心因性非てんかん性発作(PNES)への実践的アプローチ
21巻6号(2018);View Description Hide Description心因性非てんかん性発作 (psychogenic nonepileptic seizures:PNES) は①てんかん とよく似た症状を示すが,脳の異常な電気的興奮とは無関係の発作症状であり,②失神な どの既存の身体疾患を基盤とした発作とも異なり,背景に心理的な要因が推測される発作 を示す。精神科医がてんかん専門医からPNESの患者を治療目的で紹介された場合,ま ずは本人の診断受容と病状理解がどの程度なのかを評価する。発作症状が生活や人生に与 える影響に関して積極的に問診し,日常生活のアドバイスや発作カレンダーの指導などで 治療同盟の確立を目指す。その後,外来診療を続けながら患者固有の病因に応じた治療方 針を立てる。その際には,生物心理社会的モデルをさらに3つの要因(predisposing factor, precipitating factor, perpetuating factor)で分析するアプローチが有効である。この病 態モデルを用いることで多職種連携が容易となり,患者の抱える複雑な要因への様々な治 療的介入が容易となるだけでなく,治療アドヒアランス維持にも役立つ。 臨床精神薬理 21:751-758, 2018 Key words :: PNES, Long-term Video-EEG monitoring, Communication of the diagnosis, therapeutic alliance, Bio-psycho-social model -
非けいれん性てんかん発作重積状態に対する治療
21巻6号(2018);View Description Hide Description非けいれん性てんかん発作重積(non-convulsive status epilepticus:NCSE)は運動 症状が目立たないてんかん発作重積状態のことを言うが,精神科臨床においてしばしば遭 遇する病態である。その臨床像は軽度の錯乱から昏睡まで,さまざまな程度の意識障害を 示す。NCSEはてんかん患者にみられる場合や重症の身体疾患に伴って起こる場合,薬剤 により誘発される場合などがある。脳波において持続的なてんかん性放電が認められるか どうかが診断の決め手となる。NCSEと診断した場合,どのようなタイプのNCSEか, 病因は何かを同定することが重要となる。てんかん患者における複雑部分発作の重積はけ いれん重積に準じた抗てんかん薬による治療が必要となることがあるが,状況関連性の NCSEは原因となる身体疾患の治療や原因薬剤の中止により,積極的な抗てんかん薬の投 与を行わなくても症状の回復を期待できることが多い。 臨床精神薬理 21:759-766, 2018 Key words :: NCSE, de novo absence status epilepticus, spike-wave stupor -
てんかんに合併した精神症状に対する治療戦略
21巻6号(2018);View Description Hide Descriptionてんかんに合併する精神症状はきわめて多彩で,その頻度も高い。精神症状は発作 との関連において比較的整然と分類される。それは,精神症状の成り立ちに基づく分類で もあり,治療上も有用である。実際の臨床では,てんかん発作の治療を優先するか,向精 神薬による治療を強化するか,抗てんかん薬の減量や変更を優先するかという治療戦略 を,個々の症例に応じて考えていくことになる。てんかんと精神疾患との間にはしばしば 双方向的関係があり,発作,精神症状のそれぞれに対する適切な治療が互いに良い結果を もたらすことも多い。精神症状合併例では,てんかん治療医と精神科医の間の適切な連携 が何よりも重要である。 臨床精神薬理 21:767-774, 2018 Key words :: epilepsy, psychosis, depression, anxiety, aggression, antiepileptic drugs -
妊娠を合併したてんかん患者に対する治療
21巻6号(2018);View Description Hide Description抗てんかん薬(antiepileptic drugs: AED)を服用中の女性てんかん患者が妊娠した 際,AEDによる児の奇形発現のリスクや知的発達への影響,妊娠中の発作についてなど, 念頭に置くべきリスクは多い。そのため,妊娠可能年齢の女性てんかん患者に対しては, のちの妊娠を想定し,妊娠前に十分な説明の機会を設け,妊娠後にも継続可能な投薬内容 にしておくのが望ましい。近年上市された,lamotrigineとlevetiracetamの2剤は,妊娠 中の服用による児の奇形発生率が,従来のAEDに比べて低く,挙児を希望する女性てん かん患者にとって,そのハードルを下げるメリットを生んだ。一方で,これらの薬剤は, 妊娠中に薬物血中濃度が減少しやすい上,授乳に関連したエビデンスも十分とはいえない ため,より慎重な母児のモニタリングが求められる。本稿では,これらの事項も含め,一 般精神科医が,妊娠を合併したてんかん患者を診療する際に留意すべき点についてまとめ た。 臨床精神薬理 21:775-783, 2018 Key words :: epilepsy, pregnancy, antiepileptic drugs, serum concentration, malformation -
代謝異常を合併したてんかん患者に対する治療
21巻6号(2018);View Description Hide Descriptionてんかんは長期にわたって治療が必要な慢性疾患である。従来の抗てんかん薬の多 くは,肝代謝酵素を誘導または阻害する。抗てんかん薬で誘導される代表的な肝代謝酵素 は,チトクロームP-450酵素群(CYP)である。CYPは薬物代謝だけでなく,ビタミン, コレステロール,ステロイドホルモンなど様々な生理機能に広くかかわる。CYPが誘導 されることで結果的に,骨粗鬆症,脂質異常症,性機能障害等を生じる。また,併用薬が あるてんかん患者では,肝代謝酵素の誘導または阻害により薬物相互作用が問題となる。 これらに留意しててんかんの治療を行うことは,患者の最適なケアに不可欠である。 臨床精神薬理 21:785-793, 2018 Key words :: antiepileptic drugs, CYP, bone health, dyslipidemia, sexual dysfunction -
肝障害・腎障害を合併したてんかん患者に対する治療
21巻6号(2018);View Description Hide Description肝・腎障害を伴うてんかん患者の治療においては,薬物動態の変化に注意を要す る。代謝・排泄の変化により,中毒症状の出現や発作コントロールが不良になることがあ るため,投与量の調整が必要となる。肝障害においては,軽症では薬物代謝能に影響しな いことも多いが,重度肝障害を合併する場合には腎排泄の薬剤の選択が望ましい。腎障害 においては,添付文書上でクレアチニンクリアランス値によって投与量が規定されている ものも多く,慎重な投与計画をたてる必要がある。従来の抗てんかん薬と比較すると,新 規抗てんかん薬は相互作用や副作用が少なく,肝・腎障害を伴うてんかん患者でも比較的 使用しやすい。米国エキスパートコンセンサスガイドラインでも新規抗てんかん薬が推奨 されている。新規抗てんかん薬の薬理学的特徴についてまとめた。 臨床精神薬理 21:795-802, 2018 Key words :: antiepileptic drugs, renal impairment, hepatic impairment, pharmacodynamics, epilepsy
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【シリーズ】
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統合失調症治療ガイドラインの使い方 第2回 日常診療における統合失調症治療ガイドラインの使い方(再発・再燃時)
21巻6号(2018);View Description Hide Description -
精神科薬物療法pros and cons 薬の前に本人の心情と生活への注目を──認知症治療薬に抗精神病薬を使うかどうか
21巻6号(2018);View Description Hide Description -
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【原著論文】
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統合失調症患者に対するaripiprazole持続性注射剤の安全性と有効性:製造販売後調査の中間解析結果(ALISE study)
21巻6号(2018);View Description Hide Description統合失調症患者に対するaripiprazole持続性注射剤(aripiprazole long-acting injection:ALAI)の日常診療下における安全性と有効性を検討するため製造販売後調査を実施 し,その中間解析を行った。平均年齢は 45.5 ± 13.9 歳であった。有害事象発現率はアカシ ジアが2.69%,精神症状が1.66%であった。死亡例は5例報告され,1000 人年あたりの 死亡数は9.5でpaliperidone palmitateで報告された値と同程度でありaripiprazole経口剤 の15.4を上回るものではなかった。CGI-Iによる改善度評価では,中等度改善以上を示 した患者の割合は,4週目で17.1%,24 週目では33.8%,52 週目では41.5%と増加する 傾向が認められた。また,前治療薬と比較した患者満足度調査では,24 週目,52 週目の いずれにおいても70%以上の患者がALAIによる治療に満足を示した。以上のことから, ALAIは統合失調症患者に対する薬物治療として有用であることが示された。 臨床精神薬理 21:807-820, 2018 Key words :: aripiprazole, long-acting injection, schizophrenia, post-marketing surveillance
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【症例報告】
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ベンゾジアゼピン受容体作動薬の過量服用後に不穏を呈した1症例
21巻6号(2018);View Description Hide Description我々は,ベンゾジアゼピン受容体作動薬を過量服用した患者が経過中に不穏を呈 し,治療のためにflumazenil,haloperidolの投与が奏効した症例を経験した。症例は 50 代 男性で,etizolam,brotizolamを過量服用し,当院に搬送され入院した。服用 19 時間後に 覚醒したが,何度も起き上がろうとするなどの行為とともに,見当識障害,記銘力障害, 注意障害,情動失禁を認めた。Flumazenilを静脈注射したところ,意識清明となり精神症 状は消褪した。投与後 30 分ほどで元の状態に戻ったため,haloperidolを追加投与し,入 眠・鎮静を図った。服用 26 時間後には覚醒したが不穏を呈することはなく,早朝のでき ごとについては健忘を残していた。本症例に出現した精神症状は,体内に残存していたベ ンゾジアゼピン受容体作動薬が影響していた可能性があり,拮抗薬であるflumazenilが著 効したものと考えた。 臨床精神薬理 21:821-823, 2018 Key words :: benzodiazepine, poisoning, unrest, flumazenil
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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