臨床精神薬理
Volume 21, Issue 9, 2018
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【展望】
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時代と共に変わる統合失調症急性期での抗精神病薬処方
21巻9号(2018);View Description Hide DescriptionChlorpromazineが 1952 年に発見されて以来,抗精神病薬は統合失調症治療におけ る中心的役割をはたしてきた。その使用法に関しては歴史的変遷があり,その時代の精神 病急性期治療の潮流をうかがい知ることができる。大量使用容認の時代から,1980 年代 の至適用量の探索の時期をへて,現在は薬剤選択も含めた当事者個々への至適処方を模索 する方向へ進んでいる。これは薬物療法においても科学的合理性が求められた結果である が,同時に統合失調症自体の病態理解やその評価法,抗精神病薬の差別化に関する情報な どにおける進歩もそれを後押ししている。治療抵抗性統合失調症に対してclozapineが処 方できるようになったことは,薬物療法における合理的治療の領域を広げたと言う意味で 画期的だった。また近年,治療の目標として回復(リカバリー)が掲げられ,科学的事実 だけでなく,当事者の主体性や価値観に配慮した治療が求められ,それは薬物療法の分野 でも要求されている。 臨床精神薬理 21:1155-1164, 2018 Key words :: schizophrenia, antipsychotics, pharmachotherapy, acute phase, clozapine
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【特集】急性期の精神病症状に対する治療最前線
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緊張病とその薬物療法
21巻9号(2018);View Description Hide Description緊張病はかつて,統合失調症の1つの病型であるとの認識が強く,そのため治療方 法も,統合失調症の治療の延長上にあった。本来は,気分障害をはじめその他の精神障害 にも,さらに様々な身体因を背景に持つ器質・症状性精神障害としても多くみられること から,この病態とその対応方法について議論されるようになった。緊張病は症候群である こと,診断分類体系での診断基準の変遷と位置付けの問題点,特にDSM-5の課題,神経 遮断薬性悪性症候群を含む鑑別診断,未解決な病態生理などを振り返る。対応として,全 身の医学的管理が重要であること,その薬物療法はベンゾジアゼピン系薬物がほぼ特異的 に反応を示すことなどについて考察する。 臨床精神薬理 21:1165-1174, 2018 Key words :: catatonia, pharmacotherapy -
自己免疫性脳炎・脳症を鑑別することの重要性,検査,治療法
21巻9号(2018);View Description Hide Description急性~亜急性に生じる自己免疫性脳炎・脳症では,精神症状の合併が多く,代表的 な抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)型グルタミン酸受容体抗体脳炎では,3分の2の 症例で精神症状を呈する。注意すべき点として,古典的脳炎症状を呈さず,亜急性~慢性 の経過をたどり,統合失調症,双極性障害,認知症に類似した症状経過を呈することもあ る。自己免疫脳炎・脳症の診断が遅れると,致死的な経過や,不可逆的な精神神経症状が 遷延してしまう可能性があり,正確な鑑別診断は重要である。また,悪性腫瘍を合併する ことが多く,外科的治療や免疫療法の適応を検討するにあたり,適切な診療科との協働が 重要となる。免疫療法は,特異的抗体が陽性であることを確認してから施行することが望 ましく,検査環境の整備が期待される。とくに精神科領域における自己免疫性脳炎・脳症 の診断・治療は確立されておらず,更なる知見の蓄積が必要である。 臨床精神薬理 21:1175-1182, 2018 Key words :: autoimmune encephalitis, NMDA-type glutamate receptor, acute limbic encephalitis, Neuropsychiatric systemic lupus erythematosus, cognition -
急性精神病症状の治療に際してどのように当事者や家族に説明するか
21巻9号(2018);View Description Hide Description急性精神病症状の治療に際してどのように当事者や家族に説明するかは,当事者の 精神症状やベースの疾患,家族の理解度など様々な要因があり,一律に同じような説明で は対応できず臨機応変な対応が求められる。急性期での精神病症状の治療について,ベー スの疾患の違いにより具体的な説明内容は異なってくるため,成増厚生病院での急性期治 療において精神病症状を呈する場合にどのような説明をしているかを具体的に紹介する。 臨床精神薬理 21:1183-1187, 2018 Key words :: acute psychosis, schizophrenia, bipolar disorder, PDD, psychoactive substance -
統合失調症治療におけるアドヒアランス改善のための方策――急性期治療におけるShared Decision Making(SDM)実践の可能性
21巻9号(2018);View Description Hide Description退院後1週間で約2割もがアドヒアランス不良になる統合失調症の対応において, 急性期からアドヒアランスを意識した対応が望ましいと考える。ただ,急性期では当事者 は困惑し,時に興奮していることもある。何より,治療者との関係性ができていない。し かしながら,当事者の思いに我々治療者がいかに耳を傾け,当事者の苦悩に寄り添う姿勢 を持つことが解決の糸口になると言っても過言ではないだろう。ドイツや米国では急性期 で入院した当事者にShared Decision Making(SDM)を実践している。その結果,ドイ ツでは信頼感,治療効果によい影響をもたらし,米国では心理社会的アプローチと併用す ることで,症状,QOL,そして就労にまで差が出た。わが国でも少しずつこうした試み が生まれている。興奮を伴う急性期の当事者に対しては,de-escalationテクニックを用 い,暴力の可能性を軽減させることを試み,薬物選択については,当事者との言語的コン タクトを確立させ,当事者の発言や欲求に耳を傾けつつ,簡明な説明を行い,治療の選択 肢を提案していくことが望ましいと考える。「あなたは自分の治療を選ぶことができる」 と伝えることで,落ち着いた時に自分の治療者は自分の意見に耳を傾けてくれるとの思い がその後の信頼関係につながり,アドヒアランスによい影響を及ぼすのではないかと期待 している。 臨床精神薬理 21:1189-1197, 2018 Key words :: schizophrenia, antipsychotics, adherence, shared decision making, de-escalation -
山梨県立北病院における強制治療審査システム
21巻9号(2018);View Description Hide Description精神科医療においては明かな精神症状があって入院したとしても,病識が無かった り治療拒否に遭遇することが少なくない。欧米では,その患者の同意判断能力について評 価した上で,行われる予定の治療の適切性の評価を行い,強制的治療の是非を判断するこ とが一般的であるが,この点についてわが国では十分な取り組みがなされているとは言い 難い。山梨県立北病院では,一般の精神科入院治療で実行可能な強制治療審査システムを 作り,実践している。2012 年9月から 2017 年3月 31 日までに 38 件の強制治療審査が行わ れ,35件が承認され,3件が却下された。強制治療が承認された 35 件の中で,実際に強 制治療がなされたのは 18 件で,残りは強制治療についての告知をするなどの過程で治療 への受け入れが得られ,強制治療を行わずに済んだ。我々の強制治療審査システムは,精 神保健福祉法を現場レベルで補完する試みであり,強制治療に至る過程や治療内容の明確 化,同意判断能力が存在する患者への強制治療の排除,強制治療におけるチーム治療の向 上など多くのメリットがあり,特に強制治療内容や実際を患者本人に明示することの意義 も高いと考えられた。今後,この領域の議論が深まり,制度が整備されることを期待した い。 臨床精神薬理 21:1199-1206, 2018 Key words :: competency, Involuntary psychiatric treatment, forcible medication, SICIATRI -
非経口投与はいつまで続けるべきか,何を目安に中止して経口投与に切り替えるべきなのか
21巻9号(2018);View Description Hide Description精神科救急・急性期治療における非経口投与は,薬理学的にも医療安全上も医師患 者関係の構築の上でも,その期間を最小限にすることが望ましい。したがって,非経口投 与の中核的な開始理由である拒薬が消退した時点で,非経口投与から経口投与に切り替え るべきである。その具体的な指標としての拒薬の消退は,陰性症状が目立たない感情的疎 通性の良い患者では最初に内服に応じた時点で判断できることが多いが,陰性症状が目立 つ感情的疎通の取りにくい患者ではその後も拒絶の症状が変動して拒薬を繰り返すことが 珍しくないため,量的な指標と質的な指標を意識しつつ総合的に症例ごとに判断するのが 現実である。とはいえ,最初に内服に応じた時点で非経口投与から経口投与に切り替える 試行錯誤を開始することが必要である。 臨床精神薬理 21:1207-1210, 2018 Key words :: parenteral medication, uncooperativeness, medication refusal, negative symptom, acute phase -
急性期治療において注意すべき身体的副作用
21巻9号(2018);View Description Hide Description精神病症状に対する抗精神病薬の役割は大きいが,その治療効果の評価とともに, 有害事象の出現にも注意をすべきである。特に,QT延長症候群に代表される心電図異 常,糖代謝異常や糖尿病性ケトアシドーシス,悪性症候群,錐体外路症状,肝障害,腎機 能障害といった身体的副作用は,見逃せば生命予後に関わる重篤な転機を辿ることにもな りかねない。急性期治療において,特にこれらの身体的副作用を呈する頻度が高くなるた め,初期の段階での副作用モニタリングが重要になってくる。しかし,有効であると実証 された副作用モニタリング法は確立されておらず,実臨床では主治医任せの状態である。 本稿では,抗精神病薬による急性期治療において注意すべき身体的副作用についてまと め,その対応策やモニタリングについての知識を整理していきたい。 臨床精神薬理 21:1211-1219, 2018 Key words :: antipsychotics, QT prolongation, diabetic ketoacidosis, neuroleptic malignant syndrome, extrapyramidal symptom
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【シリーズ】
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【原著論文】
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日本人におけるlacosamide注射液静脈内投与時の安全性,忍容性及び薬物動態――健康成人及び成人部分てんかん患者での検討
21巻9号(2018);View Description Hide Description日本人におけるlacosamide(以下LCM)注射液静脈内投与時の安全性,忍容性及 び薬物動態を2つの試験の結果に基づき検討した。健康成人 24 名を対象とした単回投与 クロスオーバー試験(EP0036試験)では,LCM 200mgの経口投与に対する静脈内投与 (30及び 60 分間)の最高血漿中濃度及び最終定量時点までの血漿中濃度-時間曲線下面積 の幾何平均の比の90%信頼区間は生物学的同等性の基準(0.80 ~ 1.25)の範囲内であっ た。成人部分てんかん患者9名を対象にLCM経口投与と同一用量(200 ~ 400mg⊘ 日,朝 夕2回に分けて投与)を1日2回,5日間の静脈内投与(30 分間)へ切り替えた非盲検 試験(EP0024試験)では,因果関係が否定できない有害事象が2名に認められたが,投 与中止に至った有害事象や重篤な有害事象及び高度の有害事象は認められなかった。治療 期間1,2,5日目に測定したLCM静脈内投与時の血漿中トラフ濃度及び最高血漿中濃 度はいずれの投与時点でも同程度であり,概ね発作抑制も維持された。これらの試験結果 より,LCM注射液は,経口投与が一時的に困難な日本人成人部分てんかん患者にとって 安全で有用な代替製剤であることが示唆された。 臨床精神薬理 21:1223-1234, 2018 Key words :: intravenous, lacosamide, partial seizure, pharmacokinetics, safety
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【症例報告】
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Duloxetineによって遷延性離脱症候群を呈した1例――脱カプセルを利用した減量中止の検討
21巻9号(2018);View Description Hide Descriptionセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors: SNRI)の1つであるduloxetine服用中に2日間の自己中断により離 脱症候群を発症し,減量中止まで約2年間を要した遷延性離脱症候群の1例を報告した。 海外の報告によると,離脱症状の大半は7日以内に消失し,症状の重症度は軽度または中 等度にとどまっていた。つまり,本症例のように遷延化し重篤な離脱症状を呈することは 極めて稀であると考えられた。Duloxetineの減量中止の方法として,緩徐に慎重に漸減し ていくこと,離脱症状の発現しやすい時間にあわせ適宜,服用回数および服用時間を調整 すること,より細やかな用量調整のために脱カプセルも1つの選択肢として検討すること が肝要であると思われた。 臨床精神薬理 21:1235-1241, 2018 Key words :: duloxetine, protracted withdrawal syndrome, method of drug stopping, decapsulation
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【シリーズ】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第86回(最終回) 究極の抗精神病薬clozapineの開発物語――その5:わが国におけるclozapineの再開発:第Ⅲ相試験と夢にまで見た承認
21巻9号(2018);View Description Hide Description
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