Volume 21,
Issue 10,
2018
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【展望】
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臨床精神薬理 21巻10号, 1299-1305 (2018);
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"""産業精神医学の分野で精神科薬物療法を考える場合には,標準的精神科薬物療法に 就労という次元を加えて再考されるべきである。つまり,産業精神医学のフィールドで は,精神科薬物療法のエキスパートは標準的精神科薬物療法を熟知した上で,個々の労働 状況が異なる患者に応用できなければならない。すなわち,個人・職場・薬物療法の3次 元で考えることが必要となる。筆者らは個々の情報(ゲノム,クリプトーム,プロテオー ム,メタボローム,認知機能) ,脳画像,職場への個人の適応状態などを客観的に数値化 させ,そのデータを人工知能に解析させ個々の薬物療法に役立てる産業精神薬理学の構築 が急務であると考えている。 臨床精神薬理 21:1299-1305, 2018 Key words :: occupational medicine, occupational psychopharmacology"""
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【特集】産業精神保健に役立つ精神薬理学
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臨床精神薬理 21巻10号, 1307-1315 (2018);
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"""社会構造や個人環境の変化などから労働者におけるうつ病は増加している。うつ病 を正しく診断し,アルゴリズムを参考にその作用機序や副作用も念頭に適切な治療と対応 を行う必要がある。うつ病そのものの投薬治療は労働者であるなしにかかわらず同じであ るが,特に治療困難な労働者では,社会および個人要因がうつ病の発症,維持,悪化,再 発などに深く関与していることがあり,それらを踏まえた対応が求められる。職場は労働 災害を避けるために安全配慮義務に留意し事例性中心に対応を行うため,主治医はそれを 知り適切に連携することが必要となる。最近「健康経営」と呼ばれる概念が推奨されてお り,そのテーマの1つにうつ病を含むメンタルヘルス不調対策が挙げられている。労働者 と職場において,健康確保と企業業績向上が双方の利益として一致することを主治医も認 識し,うつ病を含めたメンタルヘルス対策に積極的に寄与することが求められる。 臨床精神薬理 21:1307-1315, 2018 Key words :: depression, algorithm, obligations of considering safety, worker’s compensation, health and productivity management"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1317-1323 (2018);
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"""双極性障害の薬物療法に関して,処方する際の基本的な考え方を説明し,気分安定 薬の使い分けや濃度管理,ラピッドサイクラー対策,認知機能に対するlithiumの影響に ついて言及した。双極性障害の薬物療法においては,lithiumを基本に処方を組み立て, 抗精神病薬や抗うつ薬の併用はできるだけ短期間にとどめ,lithiumの濃度管理をしっか りすることが重要である。ラピッドサイクラーは例外的にlithium以外の処方を工夫する 必要がある。双極性障害自体が認知機能低下さらには認知症へ移行する危険性を有してい るため,薬物の認知機能への影響を検討することは容易ではないが,最近の研究ではlithiumが非定型抗精神病薬よりも認知機能に対する影響は良好で,lithiumに特異的な効果 として将来の認知症発症も予防しうることが示唆される。 臨床精神薬理 21:1317-1323, 2018 Key words :: bipolar disorder, lithium, cognition, dementia"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1325-1331 (2018);
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"""近年,産業保健におけるメンタルヘルスの重要性が再認識されている。そのため産 業医のみならず精神科の臨床の場面でも産業保健に関わるケースが増えていると思われ る。同様に産業医としてもメンタルヘルスに関わることは多いはずであり,薬物療法に関 する知識は最低限必要になると思われる。本稿では産業保健における神経性障害を概説し 精神科医,並びに産業医が知っておくべき薬物療法と現場での工夫などを概説した。 臨床精神薬理 21:1325-1331, 2018 Key words :: occupational health, medication, neurotic disorders, stress-related disorders"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1333-1342 (2018);
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"""近年,自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症をはじめとした神経発達症を持つ人 の職場でのメンタルヘルスの問題が話題となっている。本稿では,神経発達症者にみられ る職場での困難さと,それぞれについての対応を,薬物療法を中心に論じている。昨年, 新規抗精神病薬2剤(risperidone, aripiprazole)が「小児期の自閉スペクトラム症にみら れる易刺激性」についての適応を追加されたが,易刺激性の背景に何があるのかを十分検 討し心理社会的対応を行った後に,薬物療法が行われることが望まれる。また複数承認さ れているADHD治療薬については,それぞれの薬剤の性質を十分理解した上で,使い分 けが行われるべきである。以上のようなことを踏まえて,職場での困難さを抱えた神経発 達症者に対して個別の支援プランを立て,長期の支援を続けていくことが必要と思われ る。 臨床精神薬理 21:1333-1342, 2018 Key words :: autism spectrum disorder (ASD), attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD), neurodevelopmental disorders, psychopharmacology, occupational mental health"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1343-1351 (2018);
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"""疫学研究において,成人では,16 〜 21%が入眠困難,睡眠維持困難,早朝覚醒な ど夜間の睡眠困難を持ち,5 〜 12%が夜間睡眠困難による生活の質的低下を伴い不眠症と 診断される。日本おける疫学調査においても,夜間に睡眠困難をしばしば経験する人は成 人の20%程度で,不眠症と診断される人は成人人口の10%程度である。これに加えて, 成人の4 〜 5%が過去1ヵ月に睡眠薬を服用していることが報告されている。睡眠障害の 症候は,不眠,過眠,睡眠スケジュールのずれ,睡眠中に起こる異常な精神身体的現象な ど多彩である。本稿では,不眠症治療に用いられる睡眠薬,過眠症治療薬,レストレス レッグス症候群治療薬についてまとめた。勤労者の薬物療法を考える場合,服用している 勤労者にどのような影響を与えるかを考えることは重要であるが,それらと並行して勤務 スタイルや勤務体系に準じた生活指導や服薬指導を行っていくことが重要と考えられる。 臨床精神薬理 21:1343-1351, 2018 Key words :: insomnia, sleep disorders, QOL, sleep hygiene, hypnotics"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1353-1362 (2018);
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"""てんかんのある人は病気自体の悩みだけでなく,メンタルヘルス不調を日常的に有 しているとも言える。就労支援を考える場合,発作だけでなく,発作間欠期の支援も考え ていく必要がある。職場では発作の特性に応じて業務におけるリスク評価と対応が必要で ある。自動車運転は2年間の発作消失で再運転が可能になり,抗てんかん薬内服中の患者 へ一律に運転の制限をすべきではない。また,発作の治療だけでなく,数多の併存症にも 留意し,必要に応じて治療や支援につなげる必要がある。新規てんかん患者では初期の薬 物治療により6割以上の患者で発作は抑制される。抗てんかん薬の作用機序,副作用を考 慮しつつ,年齢や診断に合わせた薬剤を選択することが重要である。薬物抵抗性の場合 は,診断の見直しとともに外科治療等の可能性を考慮すべきである。てんかんを持ちなが ら働く人のメンタルヘルス向上には,包括的な視点でてんかん診療に当たることが求めら れる。 臨床精神薬理 21:1353-1362, 2018 Key words :: epilepsy, comorbidities, treatment, employment, mental health"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1363-1370 (2018);
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"""統合失調症の就労率は, 多くの報告で20%前後であり, この 20 年近く変化していな い。就労に成功する統合失調症者の個人要因は,精神病理的改善のみでも,認知機能改善 のみでもなく,双方の改善が関係している。就労率を向上させるために適した薬物療法は 明らかになっていない。第1世代と第2世代抗精神病薬での比較では,同等という研究報 告が多く,薬理学的プロフィールのみで,就労への効果を推し量るのは困難と言える。持 効性筋注製剤の効果は期待できるように思えるが,その報告はsponsorship biasが存在す る可能性を考える必要がある。統合失調症に対しても有効な,援助付き雇用や個別就労支 援プログラムなど実証性を持った心理社会的支援方法が確立されてきている。今後は,薬 物療法がこれらの治療・支援の妨げにならないように,処方設計を行うという視点が必要 になると考える。 臨床精神薬理 21:1363-1370, 2018 Key words :: vocational / work functioning, employment status, employment outcomes, second-generation antipsychotics"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1371-1377 (2018);
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"""近年,職場のメンタルヘルス対策が注目され,何らかの精神科治療を受けている勤 労者も増加している。精神科に通院する患者の多くは症状改善や再発予防を目的に向精神 薬の服用継続を要するが,服用中の運転中止を求める添付文書記載や,自動車運転死傷行 為処罰法の存在は就労上の障壁となっている。疫学研究では,ベンゾジアゼピン受容体作 動薬や抗うつ薬が一定のリスクを有することが報告されるが,実験的研究では,向精神薬 が運転技能に与える影響は,耐性や治療的効果の存在によって一様一律ではなく,対象や 薬剤の種類によって影響が異なることを示唆している。現状では向精神薬が運転に及ぼす 影響は予測困難であり,個別的事象も考慮し,総合的判断が求められるが,就労を含む社 会生活を考慮した薬物療法の適正化が不可欠である。本稿では,科学的見地において,精 神科主治医および産業医・精神科嘱託医が把握しておくべき知見を整理する。 臨床精神薬理 21:1371-1377, 2018 Key words :: psychotropic, automobile driving, driving performance, traffic accident, occupational mental health"""
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【原著論文】
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臨床精神薬理 21巻10号, 1379-1390 (2018);
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"""【目的】平成 28 年度診療報酬改定では,外来患者の抗不安薬,睡眠薬,抗うつ薬, 抗精神病薬の投与に関して, 2剤投与までという規定が設けられた。賀茂精神医療センター においては,医局と薬剤科が連携しこの改定を機に抗精神病薬剤の多剤投与の削減に向け た取り組みを開始した。 【対象】2016 年1月中に当院へ外来通院した統合失調圏の患者で, 抗精神病薬3剤以上投与されていた患者 66 名のうち,2016 年 10 月 31 日時点で当院に入院ま たは外来通院を継続している患者 64 名を対象とした。 【方法】抗精神病薬剤数3剤以上の 多剤併用投与患者における抗精神病薬の減量を行った。さらに,抗精神病薬多剤併用投与 の削減に影響する要因を検討するために,2016 年1月と 2016 年 10 月の診療録を調査,主治 医によるCGI-Sの評定,医師に対して患者毎に減量への動機についてアンケートを実施し た。 【結果】64 名中 37 名において抗精神病薬剤数2剤以下に削減することができた。また, 減量できた群の減量前の平均chlorpromazine(CP)換算投与量は 1,102mg_ 日(標準偏差 686mg_ 日) ,減量できなかった群は1,692mg_ 日(標準偏差687mg_ 日)であった。 【考察】 多剤大量投与量といわれるCP換算投与量1,000mg_ 日前後を境に2群に分かれた。このこ とは,剤数削減をする前にCP換算投与量1,000mg_ 日まで減量することが大切であること を示している。今後は長期的に減量を試み効果を確認する必要がある。 臨床精神薬理 21:1379-1390, 2018 Key words :: antipsychotics, massive-dose combination therapy, dose reduction, Revision of Medical Fees Abstract"""
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臨床精神薬理 21巻10号, 1391-1402 (2018);
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"""治療抵抗性統合失調症(TRS)患者の5割以上にドパミン過感受性精神病(DSP) の関与が推定されている。長半減期型非定型抗精神病薬はその安定した体内動態から不安 定な陽性症状・易再発性を特徴とするDSPに対して有用である可能性がある。本研究で はTRS患者に対する薬物療法を後方視的に調査し,長半減期型薬剤(DSP治療)とclozapine(CLZ)の有効性を比較した。その結果,28 名中 25 名のDSPタイプの患者に対し て 11 名がDSP治療,13 名がCLZ治療を受け,BPRSの改善度はDSP治療者で 41.4 点か ら 24. 5 点,CLZ治療者で 50.1 点から 21.9 点と改善を認め,両群で差を認めなかった。しか しCLZ治療者は導入前の抗精神病薬用量が平均1,426mg(DSP治療者では平均991mg) と高用量で,また既にDSP治療を受けていた者が多かった。このことよりDSP治療の改 善予測として,服薬用量との関係が示唆され,長半減期型薬剤で制御が期待できる患者は 服薬用量1,000mg以下であり,それ以上ではCLZ治療がより期待できると推測された。 臨床精神薬理 21:1391-1402, 2018 Key words :: clozapine, dopamine supersensitivity, long-acting antipsychotic, treatment-resistant"""