臨床精神薬理
Volume 23, Issue 2, 2020
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【展望】
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向精神薬の処方は本来どうあるべきか
23巻2号(2020);View Description Hide Description薬の処方は,薬の有効性を最大化し,薬の有害性を最小化することにより,可能な 限り大きな有用性が得られるように行われるべきである。有効性を最大化するためには, 有効な症例を対象として,必要十分な用量を,必要十分な期間処方する。有害性を最小化 するためには,有効であるか不明確な症例や,有効な症例と類似しているが有効性が明ら かではない症例には処方を控える。また,用量依存性に生じる副作用の回避のためには有 効性が得られる最小用量・最短期間の使用とする。そして,同一の作用機序の薬剤の併用 は避ける。これらの有効性と有害性について,多くの研究がなされており,そのエビデン スを知ることは重要である。エビデンスを知り,患者の状況や希望を考えながら,意思決 定を行うことが望まれ,意思決定支援のために診療ガイドラインがある。 臨床精神薬理 23:115-121, 2020 Key words :: psychotropic drugs, pharmacotherapy, clinical guideline, monotherapy, polypharmacy
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【特集】スマートな向精神薬の処方How-to
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統合失調症における抗精神病薬のスマートな整理の仕方
23巻2号(2020);View Description Hide Description抗精神病薬による統合失調症の薬物療法は効果的である。薬物療法への反応性から 統合失調症は,通常の抗精神病薬が有効な統合失調症とそれに反応しない治療抵抗性統合 失調症に分けられる。さらに治療反応性統合失調症は予防投薬の必要な群と予防投薬の不 必要な群に分けられる。抗精神病薬の副作用を考えれば予防投薬の不必要な群の抗精神病 薬投与は中止すべきであるが,現在のところ予防投薬の必要性に関して有効な判別法は存 在しない。近年は,clozapineの使用と統合失調症薬物療法ガイドラインの普及で,抗精 神病薬の多剤併用は減少してきている。とはいえ,いまだ従来の処方を適正化できない患 者もいる。SCAP法(抗精神病薬の多剤大量投与の安全な是正法,Safety Correction of Antipsychotics Polypharmacy with high dose)はこのような患者の処方を適正化するため に作られた方法であり,その応用の報告もある。しかし,多剤大量となっている症例に対 してはclozapineに切り換えるという選択肢がある。今後は統合失調症薬物療法ガイドラ インに従って,clozapineを用いて抗精神病薬のスマートな整理をすることが増えてくる ものと考えられる。 臨床精神薬理 23:123-127, 2020 Key words :: antipsychotics, arrangement, schizophrenia, pharmacotherapy, smart -
抗うつ薬のシンプルな処方のために考慮すべきこと
23巻2号(2020);View Description Hide Description新規抗うつ薬がうつ病薬物療法の主役となり,重篤な副作用の回避とともに過剰投 薬や多剤併用などが問題となる現在,基本に沿った合理的な処方を心がけることの大切さ が改めて問われている。うつ病治療では半数近くのうつ病患者は最初に用いられた抗うつ 薬に反応しないとされ,抗うつ薬の切り替え(switching),増強療法(augmentation), 併用療法(combination)が必要となることも少なくない。しかし,増強療法や併用療法 についてのエビデンスは限られている。そこで本稿では,うつ病の薬物療法に求められる 抗うつ薬の切り替え,増強療法,併用療法の代表的なエビデンスを中心に概説し,投与の 実際について述べる。 臨床精神薬理 23:129-136, 2020 Key words :: major depressive disorder, antidepressants, switching, augmentation, combination -
双極性障害治療におけるポリファーマシーの問題とその対策
23巻2号(2020);View Description Hide Description精神科領域に限らず,以前からポリファーマシーの問題は指摘されてきたが,近 年は高齢者の増加とともに関心が一層高まりつつある。不適切なポリファーマシーは複 雑な薬物相互作用によって有害事象を増やすだけでなく,誤使用や服薬アドヒアランス の低下につながる。双極性障害では,その疾患特性や治療水準の問題などから臨床的ニー ズは満たされておらず,複雑なポリファーマシーに陥りやすい。3剤以上の複雑なポリ ファーマシーは年々増加の一途をたどり,単剤あるいは2剤併用を推奨する治療ガイド ラインと実臨床の乖離は埋まる気配をみせない。本稿では,双極性障害におけるポリ ファーマシーの問題を概説し,不要なポリファーマシーを防ぐための工夫と注意点につ いて,それぞれの治療薬ごとに紹介した。 臨床精神薬理 23:137-145, 2020 Key words :: polypharmacy, bipolar disorder, guideline, drug interaction, adherence -
睡眠薬・抗不安薬の減薬:3剤以上使用例からの整理
23巻2号(2020);View Description Hide Descriptionベンゾジアゼピン(Bz)系受容体作動薬は安価で即効性もあり,重篤な急性の副 作用は稀であることから処方頻度は高く,精神科や心療内科のみならず,様々な診療科で 処方されている。しかし,一見安全にみえるBz系薬剤にも依存や耐性,認知機能障害, 転倒など様々な有害事象があるため,漫然と投与してはならない。本邦ではBz系薬剤の 長期処方や多剤併用が問題となっており,我々精神科医もこの問題に真摯に向き合わなけ ればならない。Bz系薬剤の減薬・中止に関して,時間をかけた漸減,心理社会療法の併 用,代替薬物などの有効性が報告されている。Bz系薬剤にまつわる問題で最も重要なこ とは,不眠症や不安症の治療開始時点から出口を見据えた治療戦略を医師・患者間で共有 することである。 臨床精神薬理 23:147-156, 2020 Key words :: anti-anxiety agents, benzodiazepines, cognitive behavioral therapy, hypnotics, insominia -
てんかん治療における多剤併用の整理の仕方
23巻2号(2020);View Description Hide Description抗てんかん薬による発作消失率は60%強にすぎない。2~3種類の抗てんかん薬に よっても発作を抑制できない場合,てんかんセンターに紹介し,外科治療などの非薬物療 法の可能性を探るのが最近の考えかたである。とはいえ,実際には非薬物療法の効果を十 分期待できない例も少なくない。この場合,合理的な併用療法を目指すことになるが,そ の際に求められるのは薬力学的相互作用の最適化と薬物動態学的相互作用の最小化にあ る。4種類以上の抗てんかん薬を服用している場合に3種類を目指して整理するのが現実 的である。そして,①標的となる発作型に無効あるいは有害な抗てんかん薬,②類似の作 用機序を有する抗てんかん薬,③酵素誘導作用のある抗てんかん薬あるいはその基質とな る抗てんかん薬の整理を進めていく。なお,薬力学的相乗作用が期待される組み合わせの 整理には慎重を期したい。 臨床精神薬理 23:157-164, 2020 Key words :: antiepileptics, combination, reduction, refractory epilepsy -
服薬を拒否する統合失調症患者に対する効果的な解決策は何か
23巻2号(2020);View Description Hide Description統合失調症では,抗精神病薬による治療を続けることが,病状を改善し,再発を予 防するための必要条件であるので,服薬アドヒアランスの維持は重要な問題である。服薬 を拒否する統合失調症患者に対する効果的な解決策を論じる時に,服薬アドヒアランス低 下の予見因子を患者ごとに認識して,それへの手当を講じておくことは服薬拒否への予防 的対策となる。特に,障害受容や病識欠如,偏見の問題は根深く,知識や技能以外に,知 恵の獲得を目指した心理社会的な対応が必要となる。また,服薬アドヒアランスの低下が 生じている現場では,その低下がもたらす病状再燃リスクを評価して,基本的にはそれを 患者やその支援者と共有し,安全対策を講じながらその後の治療を患者と作り上げていく ことが必要である。しかし,外来治療で,病状が不安定で継続的な服薬が必要な患者が服 薬拒否の意思表示をした場合,日頃の治療関係が良好でない限りその対策は極めて難し い。 臨床精神薬理 23:165-172, 2020 Key words :: antipsychotic medication, non︲adherence, refusal, schizophrenia -
持続性注射製剤の「スマート」なすすめ方
23巻2号(2020);View Description Hide Description現在,日本では3種類の新規抗精神病薬の持続性注射製剤が使用可能である。多く の精神科医は統合失調症の再発予防効果の有用性を認めながらも,その一方で多く使用さ れているとは必ずしもいえない。このギャップはなぜであろうか。筆者の私見であるが, 1)説明や紹介の難しさ・煩雑さ,2)患者側の拒否,3)侵襲的医療ではないかという危 惧,などがまず挙げられると思われる。本稿ではこの1),2)について主に述べる。診察 場面での紹介,グループを利用した紹介,掲示方式の紹介について説明した。さらに持続 性注射製剤による治療を開始しても,数回で止めていくケースも多い。そこでこの治療の 継続に有効と思われる回数ごとの声かけなども紹介した。いずれにせよ実臨床の中での工 夫の紹介である。明日からの臨床のヒントになれば幸いである。 臨床精神薬理 23:173-182, 2020 Key words :: schizophrenia, LAI (Long Acting Injection), SDM (Shared Decision Making), psychoeducation -
Clozapineを「上手に」勧める
23巻2号(2020);View Description Hide Description本邦ではclozapineが海外の状況に比べ普及していると言い難く,その使用拡大に 努めていかなければならない。Clozapineは他の抗精神病薬で効果不十分であった患者に 対して有効である可能性があるが,一方で致死的な副作用により使用が難しく,我々精神 科医の頭を悩ませている。当院では比較的clozapineの使用経験が多く,その経験を踏ま えて当院での勧め方を報告することによりclozapine普及の一助になればと考える。Clozapineの特徴を振り返りながら,同剤をどのように患者やその家族,支援者に対して当院 で勧めているかをclozapineの有用性,勧めるタイミング,安全性の配慮の観点で説明し ていきたいと思う。 臨床精神薬理 23:183-188, 2020 Key words :: clozapine, schizophrenia -
漢方薬をいかにスマートに処方するか
23巻2号(2020);View Description Hide Description日本うつ病学会が公表しているうつ病治療ガイドライン第2版において,軽症うつ 病の治療法の中でその他の療法の1つに漢方薬があげられている。しかし,漢方薬は様々 な理由によりエビデンスの構築が難しく,そのため向精神薬と比較して臨床場面での漢方 薬の使用方法は曖昧であり,治療者個人に委ねられている印象がある。本稿では,漢方薬 をいかにスマートに処方するかというテーマのもと,現代医学のエビデンスとは対極にあ る日本漢方医学において伝統的に用いられてきた「証」を敢えて取り上げる。具体的に は,精神疾患の漢方選択において重要と考えられる気血水の概念と腹診という診察法を概 観し,それに基づいた処方選択について詳説した。これによりある意味での個別化医療が 実現され,向精神薬による薬物療法にて行き詰った患者の一助となる可能性がある。 臨床精神薬理 23:189-196, 2020 Key words :: Kampo, Japanese herbal medicine, qi-blood-fluid, abdominal diagnosis
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症の外来維持治療の4年間におけるpaliperidone持効性注射剤の有用性─寛解とよりよい回復を目指すために
23巻2号(2020);View Description Hide DescriptionPaliperidone持効性注射剤(以下PP)の長期effectivenessを評価するため,治療 継続率,寛解率,入院率,有効性・安全性・機能・主観的QOLについて評価する4年間 の前向き調査を施行し,経口継続群との比較も行った。治療継続率はPP群80.8%,経口 群62.5%,入院率はPP群4.5%,経口群21.3%,寛解率はPP群92.3%,経口群62.5%と PP群が経口群に比して入院率が低く,継続率,寛解率が高かったが有意差は認められな かった。PP継続期間中,投与量は変化せず,抗不安薬,睡眠導入剤,抗パーキンソン薬 の減量が可能となった。調査期間中にPP群に1例,経口群に3例死亡例が確認された が,薬剤との直接的な因果関係は否定された。身体面でのモニタリング,組織的なチーム の関与,倫理的な側面からの慎重な議論の必要性を指摘した。PPは統合失調症治療にお いてeffectiveness向上のために有用な治療選択肢であることが確認された。 臨床精神薬理 23:201-214, 2020 Key words :: effectiveness, remission, paliperidone palmitate, schizophrenia
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