臨床精神薬理
Volume 23, Issue 3, 2020
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【展望】
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経皮吸収型製剤が加わることによる薬物療法の進歩
23巻3号(2020);View Description Hide Description経皮吸収型製剤(以後経皮剤)は経口薬と異なり,消化管での吸収がなく肝臓での 初回通過効果を受けないため,消化管や肝臓での副作用を回避できること,薬剤の血中濃 度を長期にわたり一定に保つことができるなどの理由により,近年高齢者を中心にその利 用価値が高まっている。しかし,安全に使うためには,貼付する部位やその状態により吸 収や刺激反応が異なるため,貼付部位の皮膚の状態を慎重に見極める必要がある。本稿で は,経皮剤を安全に使うために必要な皮膚の構造,皮膚への吸収に関する知識を述べた 後,皮膚症状を起こさないための一般的注意について触れる。 臨床精神薬理 23:227-237, 2020 Key words :: percutaneous absorption-type preparations, skin irritation, sensitization to drugs, moisturizer
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【特集】 新規抗精神病薬blonanserinテープ製剤とは
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世界初の抗精神病薬blonanserin tapeがもたらす未来
23巻3号(2020);View Description Hide Description我が国創製の独創性の高いblonanserinの薬物動態の安定性を高めるために,新た にblonanserin tapeが開発され,2019 年9月 10 日に上市された。抗精神病薬のtape剤と しては世界初の快挙である。極めて安定した薬物動態を示して,blonanserinの持つ本来 の力を発揮し,blonanserinとしては初めてのプラセボ対照試験に成功し,効果が検証さ れ,安全性に優れることが示された。いわゆる剤型追加ではなく,新しい抗精神病薬の誕 生である。Shared decision making(SDM)の幅を広げ,アドヒアランスの向上をもたら すであろう。さらに,本剤の適切な使用により,多剤併用から単剤療法への道が開かれ, 統合失調症本来の正しい薬物療法が展開されることが期待される。抗精神病薬のtape剤 としての違和感を克服することによってblonanserin tapeのもたらす未来を明るいものに することが,統合失調症の薬物療法のさらなる発展につながると確信している。 臨床精神薬理 23:239-248, 2020 Key words :: antipsychotic, blonanserin tape, pharmacokinetics, SDM, adherence -
Blonanserinテープ製剤の薬物動態について
23巻3号(2020);View Description Hide Description一般的に貼付剤は錠剤と比べ消化管吸収や肝臓での代謝による初回通過効果を受け ないため,バイオアベイラビリティを高く保つことができる。また,貼付剤は製剤から薬 物が徐々に放出されるように作られているため,薬物の血中濃度を一定に保つことによ り,長時間効果を一定に保つことができる。今回,blonanserinテープの薬物動態につい て概説する。Blonanserinは緩徐に吸収され,剥がせば速やかに体内から消退する。定常 状態では血中濃度の日内変動が少ないのが特徴である。貼付剤は抗精神病薬の中では錠 剤,注射製剤に続く,3番目の投与手段となる。薬物の経口摂取に抵抗があり,かつ,注 射に対する拒否感が強い患者にも第3の選択肢を提供できることは,我々医療者にとって も選択の幅が広がったと言える。 臨床精神薬理 23:249-254, 2020 Key words :: pharmacokinetics, blonanserin, patch, bioavilability -
ロナセンテープの統合失調症治療における臨床的位置づけ
23巻3号(2020);View Description Hide Descriptionロナセンテープ(blonanserinテープ)の有効性と安全性を検証した2つの臨床試 験,国際共同第3相試験および国内第3相長期投与試験の結果をまとめた。ロナセンテー プの急性期症状に対する高い有効性,長期貼付した際の有効性の維持および高い安全性, さらにはアドヒアランス向上の可能性が確認された。本剤は長期的に抗精神病薬を継続使 用する必要のある統合失調症患者にとって有用な薬剤であると考えた。 臨床精神薬理 23:255-260, 2020 Key words :: blonanserin, antipsychotics, transdermal patch, adherence, shared decision making -
統合失調症治療におけるblonanserinテープ製剤の可能性 ─薬物治療最適化の観点から
23巻3号(2020);View Description Hide Description世界で初めて統合失調症を適応症とした非定型抗精神病薬の経皮吸収型製剤である 貼付剤「ロナセン ® テープ」 (有効成分blonanserin)が発売された。脂溶性が高く肝臓で 代謝されるblonanserinだが,貼付剤とすることにより食事の影響や初回通過効果がなく なり,より血漿中濃度の安定化が得られる。このことにより適正用量であればドパミン D2受容体の過剰遮断による副作用を回避でき,長期使用でもドパミン過感受性精神病の 形成も少ないと考えられる。また,いわゆる代謝系の副作用も少ない。そのため抗精神病 薬の長期使用が要求される統合失調症治療においてこの製剤は有用と考えられる。さらに blonanserinはドパミン過感受性精神病の治療でも有用であることが明らかとなってきて おり,一部の治療抵抗性統合失調症にも使用をチャレンジする価値がある製剤と考えられ る。 臨床精神薬理 23:261-266, 2020 Key words :: blonanserin, patch, schizophrenia, dopamine supersensitivity psychosis, pharmacokinetics -
Blonanserinテープ剤導入における医療従事者の役割
23巻3号(2020);View Description Hide DescriptionBlonanserinは 2008 年に本邦で上市され,ドパミンD2受容体拮抗作用がセロトニ ン5-HT2Aよりも強いことを特徴とするDSAと呼ばれる抗精神病薬である。他の第二世 代抗精神病薬と比較して強いドパミン受容体拮抗作用を有することが本薬剤の特徴である が,食事の影響を受けやすく,空腹時投与により作用が減弱するおそれが指摘されてい る。また,他の第二世代抗精神病薬は服薬アドヒアランスの点から様々な剤形選択が可能 となっているが,blonanserinは錠剤,散剤のみであった。このような状況の中で今秋遂 にblonanserinテープ剤が上市された。これにより食事による影響は言うまでもなく,薬 剤選択による服薬アドヒアランスの向上に期待が寄せられる。しかしながら,世界初の抗 精神病薬のテープ剤に対して患者が不安を抱くことが考えられる。このような不安に対す る医療従事者の役割は大きい。我々桶狭間病院藤田こころケアセンターではblonanserin テープ剤の臨床治験を実施してきた。本稿ではその多くの経験をもとにテープ剤導入によ るメディカルスタッフの役割について考察していきたい。 臨床精神薬理 23:267-273, 2020 Key words :: schizophrenia, blonanserin, adhesive -
統合失調症治療において新たな剤形である貼付剤が加わることの意義
23巻3号(2020);View Description Hide Description統合失調症治療において服薬アドヒアランスを向上させるための策の1つとして, 半減期の長い薬剤,LAI,そして貼付剤などを試すことが推奨されている。精神科領域に おいて貼付剤は,当事者にとって侵襲的と感じにくい,1日複数回服用(摂取)する必要 が無い,消化器症状を初めとした副作用を軽減する,など,副作用を気にする当事者に とっては受け入れやすく,貼付部位の皮膚反応や免疫反応を除けば安全性が比較的高い印 象を与えるものと思われる。他にも,アドヒアランスを目視可能,過量服用や依存の心配 も少ない,肝臓での相互作用をさほど気にしなくて済み,食事の影響も小さいなど,当事 者におけるメリットは多岐にわたる。デメリットとしては,かぶれや湿気,熱,皮脂の影 響などが挙げられ,また,この剤形がスティグマを刺激することも考えられる。Shared Decision Makingを行う際には,当事者の多様な考えや好みに合わせた薬剤の選択を行う ことが必須であり,選択肢が多いに越したことはない。今回新たな剤形である「貼付剤」 という選択肢が加わることで,より当事者のニーズに応えられるようになるだろう。貼付 剤は,剝がすことですぐに投与を中止できるため,「嫌なら自分で剝がせる」という当事 者の自律度も増すことにもつながる。対応に苦慮するアドヒアランス不良例に対してもア ピールできる,強力な選択肢の登場と言える。このように,貼付剤は既存の向精神薬にお ける数々の問題を克服し,さらに当事者と治療者との間でより厚みのあるコミュニケー ションを実現する可能性を秘めている。 臨床精神薬理 23:275-281, 2020 Key words :: patch, schizophrenia, antipsychotics, blonanserin, shared decision making
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【原著論文】
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統合失調症患者を対象とした経皮吸収型blonanserinテープ製剤の有効性と安全性の検討 :多施設共同,無作為化,二重盲検プラセボ対照試験に続く非盲検継続試験
23巻3号(2020);View Description Hide Description急性増悪統合失調症患者を対象に,経皮吸収型blonanserinテープ製剤(BNSテー プ)1日1回貼付の有効性,安全性を検討した。本試験は観察期,二重盲検期(6週間), 非盲検継続期(日本:52 週間,日本以外:28 週間)で構成したが,本論文は非盲検継続 期の結果をまとめたものである。有効性はPANSS合計スコアのベースラインからの変化 量とし,安全性は有害事象と各種検査で確認した。非盲検継続期に移行した被験者には BNSテープが貼付された。二重盲検期に実薬あるいはプラセボを貼付された被験者の非 盲検継続期ベースラインからのPANSS合計スコア変化量(OC)は,BNSテープ40mg, 80mg,プラセボがそれぞれ,- 18.5 ± 16.09,- 17.0 ± 14.10,- 23.1 ± 20.73 であった。安 全性及び忍容性に大きな問題はなく,適用部位有害事象も一般的な皮膚の紅斑 ⊘ かゆみの 治療で対処可能であった。 臨床精神薬理 23:283-294, 2020 Key words :: blonanserin, transdermal patch, antipsychotics, adherence
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【原著論文】[ 二 次 出 版 ]
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統合失調症患者を対象とした経皮吸収型blonanserinテープ製剤の有効性と安全性 の検討:無作為化割付け6週間二重盲検プラセボ対照多施設共同試験
23巻3号(2020);View Description Hide Description【背景】Blonanserin(BNS)は,統合失調症の治療に使用される第二世代の抗精神 病薬であり,この研究は,経皮吸収型BNSテープ製剤(BNSテープ)の急性増悪統合失 調症患者における有効性,安全性および薬物動態を無作為化割付け二重盲検多施設共同プ ラセボ対照比較第3相試験で実施した。また,本試験に引続き非盲検継続長期試験を実施 したが,本論文の内容は二重盲検期の内容に限定し,非盲検継続長期試験の内容は別途,報告した 11)。なお,本論文は[Schizophrenia Research ePublished 2019]で出版された論 文を日本語翻訳した二次出版論文である。【方法】本試験では,プラセボテープ(40mg 製剤と同等の外観)2枚で治療する1週間の観察期間の後に被験者をBNSテープ 40mg 群,80mg群またはプラセボテープ群の3群に無作為化割付け(1:1:1)し,6週間の二 重盲検期の間,1日1回貼付した。主要評価項目は,PANSS (Positive and Negative Syndrome Scale)合計スコアのベースラインからの変化量とした。安全性評価には,二重盲 検期に発生した有害事象(TEAE)を含めた。【結果】本試験は,2014 年 12 月から 2018年 10 月までに実施された。被験者はBNSテープ 40mg群(n = 196),80mg群(n = 194)ま たはプラセボ群(n = 190)に無作為に割り付けられた。これらのうち77.2%の被験者が 本試験を完了した。プラセボ群と比較して,BNSテープ群では6週間でPANSS合計スコ アが有意に減少した(最小二乗平均[LSM]差対プラセボ:BNS 40mgで-5.6;95%信頼 区間[CI]-9.6,-1.6;多重性調整済み p = 0.007,BNS 80mg で-10.4;95% CI -14.4, - 6.4;多重性調整済みp < 0.001)。BNSテープの忍容性は良好であり,報告された最も一 般的なTEAEは,適用部位の紅斑およびそう痒,アカシジア,振戦および不眠症であっ た。 【結論】BNSテープは,急性統合失調症の精神症状を改善し,忍容性も良好であっ た。 臨床精神薬理 23:295-312, 2020 Key words :: dopamine D3-receptor, antipsychotics, adherence -
日本人統合失調症患者を対象とした経皮吸収型blonanserinテープ製剤の 長期間貼付による安全性と有効性:52 週間非盲検多施設共同試験
23巻3号(2020);View Description Hide Description【背景】本邦においてblonanserinテープ製剤(BNSテープ)が統合失調症の薬物 治療に使用できるようになった。本論文ではBNSテープの長期間貼付による安全性や有 効性について,BNS経口剤との比較にも触れて報告する。なお,本論文は[CNS Drugs ePublished 2019]で出版された論文を日本語翻訳した二次出版論文である。【目的】日本 人統合失調症患者でBNSテープの長期間貼付による安全性と有効性を評価する。【方法】 本試験は,日本人の統合失調症患者を対象に37 施設で実施した非盲検試験で,患者をコ ホート1又は2のいずれかに組入れた。コホート1は,BNS錠剤8 ~ 16mg⊘日を6週間 投与(BNS錠剤治療期)した後,BNSテープ40 ~ 80mg⊘ 日を52週間貼付した。なお, BNSテープの初回投与量はBNS錠剤治療期の最終投与量に従って決定した。コホート2 では,全ての被験者がBNSテープ40mg⊘ 日貼付から試験を開始し,40 ~ 80mg⊘ 日を52 週間貼付した。いずれのコホートもBNSテープ治療期開始時をベースラインとし,BNSテープ治療期終了後1~2週間の追跡調査期を設定した。安全性は有害事象(AE),錐体 外路系AE〔薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)スコアの変化を含む〕,皮膚(適用 部位)関連AEなどの発現割合及び皮膚刺激評価,抗パーキンソン病薬の併用割合で評価 した。その他,血中プロラクチン値,バイタルサイン,体重,心電図(ECG),心電図パ ラメータ〔補正QT(QTc)間隔など〕の変化を測定し,コロンビア自殺重症度評価尺度 (C-SSRS)スコアを用いた自殺念慮の可能性も評価した。有効性については,陽性・陰性 症状評価尺度(PANSS)スコアの合計及びサブスケール変化量,臨床全般印象重症度評 価尺度(CGI-S)スコアに加え,BNSテープの貼付期間で評価した。この他,Patientreported outcomesとして,薬に対する構え(DAI-10)合計スコアやEuroQol-5 Dimension(EQ-5D)効用値の変化及び剤型に関する質問でも評価した。【結果】同意を取得し た223名の被験者を,コホート1に 117 名,コホート2に 106 名組入れた。コホート1 の 117 名のうち,108 名がBNS錠剤治療期に入り,その後 97 名がBNSテープ治療期へと 移行した。コホート2は,106 名のうち 103 名がBNSテープ治療期に移行し,コホート1 と2いずれもBNSテープ治療期に移行した被験者(全体で 200 名)全てが安全性解析対 象となった。安全性解析集団 200 名のうち,男性は 91 名(45.5%),平均年齢は43.8歳で あった。投与中止例は,コホート1が 40 名(41.2%),コホート2が 44 名(42.7%)であ り,中止理由がAEであった割合はコホート1が18.6%,コホート2が11.7%,同意の撤 回がコホート1で13.4%,コホート2では20.4%であった。適用部位関連AEの中止例は 全体で7名であった。AEは全体で 174 名(87.0%)に発現し,コホート1(84.5%)とコ ホート2(89.3%)の間でAE発現割合に差は見られなかった。発現割合が高かったAE は鼻咽頭炎(62 名,31.0%),適用部位紅斑(45 名, 22.5%),適用部位そう痒感(23 名, 11.5%)及びアカシジア(20 名,10.0%)であった。重篤なAEは 12名,13 件に認められ た(コホート1及び2で,それぞれ6名ずつ)。内訳は,統合失調症が6名6件,その他 が6名7件(衝動制御障害,骨折,鼻出血,喘息,誤嚥性肺炎,ヘモフィルス性肺炎・肺 炎の発現がそれぞれ1名ずつ)であった。全体の錐体外路系AEと適用部位関連AEはそ れぞれ 51 名(25.5%)及び 83 名(41.5%)に発現したが,重篤なものはなかった。最終評 価時(LOCF)のDIEPSS合計スコアのベースラインからの変化量(SD)は- 0.1(1.55) であり,大きな変化はなかった。また,コホート1と2で抗パーキンソン病薬が併用され た割合は,33.0%(32⊘97 名) 及び22.3%(23⊘103 名)であった。適用部位関連AEの多く は試験期間の早期に発現し,外用薬で適切に対処可能であった。ベースラインでのC -SSRS評価項目について,全ての自殺念慮項目に「いいえ」と回答したのは 129 名,全て の自殺行動項目に「いいえ」と回答したのは172名であった。その後,BNSテープ治療 期に何らかの自殺念慮があった被験者は10.1%(13⊘129 名),何らかの自殺行動があった 被験者は0.6%(1⊘172 名)と評価された。血中プロラクチン値,バイタルサイン,体重, ECG所見 ⊘ パラメータなどの臨床検査では,臨床的に問題となる程度のベースラインから の変化は認められなかった。最終評価時(LOCF)の体重の変化量(SD)は,コホート1 及び2でそれぞれ,- 0.04(4.561)kg及び- 0.67(6.841)kgであった。最終評価時 (LOCF)のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量(SD)は,コホート1で -0.1(11.6),コホート2で- 3.4(15.3)であった。コホート1でBNS錠剤治療期から BNSテープ治療期へ移行した後もPANSS スコアは悪化せずに維持していた。全体の最終 評価時(LOCF)のCGI-Sスコアのベースラインからの変化量(SD)は- 0.2(1.03)で あった。BNSテープ治療期 52 週後では,129 名中 82 名(63.6%)でDAI-10合計スコアが ベースラインと比べて増加もしくは変化なしで維持していた。また,最終評価時(LOCF) のEQ-5Dスコアの変化量(SD)は-0.0365(0.176)であった。被験者のBNSテープに 対する評価は総じてポジティブであった。 【考察】BNSテープの長期間貼付は,統合失調 症患者の薬物治療として安全かつ有効であった。 ClinicalTrials.gov registration:NCT02335658 臨床精神薬理 23:313-336, 2020 Key words :: blonanserin, transdermal patch, antipsychotics, adherence, dopamine-D3 receptor
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