Volume 23,
Issue 11,
2020
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【展望】
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臨床精神薬理 23巻11号, 1071-1090 (2020);
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Vortioxetine は選択的な serotonin(5-HT)の再取り込み阻害作用を中心に 5- HT1A 受容体作動作用と 5-HT3 受容体拮抗作用を併せ持った新規の抗うつ薬を目指し, 幾多の構造活性相関のすえ合成された。他の 5-HT 受容体への親和性をも有して,multimodal antidepressant とも呼ばれる。臨床開発の段階では,当初,欧州では 5~10mg/日 で成功したが,米国では成功せず,用量を 15~20mg/日に上げ,反復性うつ病に限定し て成功し,欧米では2013年に 10~20mg/日の用量で承認された。わが国では2008年から 臨床開発に入ったが,同じ経緯を辿り,最終的に米国と同じプロトコルでの試験に入った のは 2015年と遅れた。しかし,この試験に見事に成功したのみならず,最も綺麗な成績 の元に,2019年に欧米と同じ用法・用量で承認された。Vortioxetine の特徴は,優れた抗 うつ作用とともに,認知機能を測定するいくつもの検査で placebo に有意な成績を示した ことである。また,5-HT 再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬に付きものの有害事象を 消化器症状を除いて呈さないことは特筆される。Multimodal な広いスペクトラムを有す る安全性の高い抗うつ薬として,今後の活躍が期待されよう。 臨床精神薬理 23:1071-1090, 2020 Key words ::depression, antidepressant, vortioxetine, multimodal, developmental story
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【特集】 新規抗うつ薬 Vortioxetine
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臨床精神薬理 23巻11号, 1091-1096 (2020);
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2019年に発売された新規抗うつ薬 vortioxetine は従来の抗うつ薬に比べてユニーク な薬理作用,作用機序を有する。Vortioxetine はセロトニン再取り込み阻害作用に加えて セロトニン 3 受容体アンタゴニスト作用,セロトニン 1A 受容体アゴニスト作用,セロト ニン 7 受容体アンタゴニスト作用,セロトニン 1B 受容体部分アゴニスト作用,セロトニ ン 1D 受容体アンタゴニスト作用を有する。これらの薬理作用から vortioxetine は再取り 込み阻害・受容体作動薬の抗うつ薬として分類される。Vortioxetine はこれらの作用から 脳内セロトニン,ノルアドレナリン,ドパミン,ヒスタミン,アセチルコリンの細胞外濃 度を増加させることが,抗うつ作用の作用機序として考えられており,ユニークな抗うつ 効果をもたらすことが期待される。Vortioxetine は以上の薬理作用以外の作用を有さない ことから副作用は少ない。さらに vortioxetine は薬物相互作用もほとんどないため,安全 性も高い抗うつ薬である。 臨床精神薬理 23:1091-1096, 2020 Key words ::depression, antidepressant, vortioxetine, selective serotonin reuptake inhibitior, serotonin3 antagonism
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臨床精神薬理 23巻11号, 1097-1106 (2020);
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Vortioxetine の薬理作用は SERT 阻害作用に加え,5-HT3,5-HT7 及び 5-HT1D 受 容体のアンタゴニスト作用,5-HT1B 受容体の部分アゴニスト作用,5-HT1A 受容体のア ゴニスト作用を持ち,5-HT,ドーパミン,NA,アセチルコリン,ヒスタミンの脳内遊離 を調整する抗うつ薬として開発された。国内での臨床試験結果から投与 8 週時点の MADRS 合計スコアはべースラインから用量依存的に変化しプラセボと有意差を示した。 また長期間の副作用発現頻度が少なく忍容性は良好と考えられる。従来と異なる薬理学的 効果に加え臨床試験で示された有効性と安全性の観点から,本剤はこれまでの治療の第一 選択である SSRI,SNRI と比べて忍容性が高く,うつ病治療の第一選択薬として適してい ると考える。本剤は認知機能の改善効果から完全回復を見据えた治療に適している。現時 点でモノアミン仮説の中で効果と副作用のバランスが良い最適な薬剤であると考えられ る。治験計画並びに結果を報告し筆者の使用経験例を示して,この薬剤への期待を考察す る。 臨床精神薬理 23:1097-1106, 2020 Key words ::antidepressive agents, cognition, Japanese, major depressive disorder, vortioxetine
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臨床精神薬理 23巻11号, 1107-1113 (2020);
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背景:ボルチオキセチン(商品名:トリンテリックス® )は,2019年 9 月に国内承 認を得た新規抗うつ薬である。目的:海外で行われた臨床試験も包括した系統的レビュー とメタ解析のエビデンスを基に,成人大うつ病性障害に対するボルチオキセチンの「急性 期治療における有効性と忍容性」「身体症状に対する有効性」および「最適な投与量」を 検討する。結果:ボルチオキセチンは,急性期うつ症状やそれに合併した身体症状に対す る有効性を認めた。しかしながら,そのエビデンスレベルは低かった。急性期治療におけ るボルチオキセチンの忍容性はプラセボに勝ったが,一部の新規抗うつ薬には劣ってい た。また,忍容性不良は用量依存的であった。結論:ボルチオキセチンは大うつ病性障害 に対する第 1 選択薬の 1 つと考えられるかもしれない。20mg/日へ増量した際は,副作用 に注意が必要である。 臨床精神薬理 23:1107-1113, 2020 Key words ::vortioxetine, systematic review, network meta-analysis, efficacy and safety, major depressive disorder
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臨床精神薬理 23巻11号, 1115-1123 (2020);
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うつ病における認知機能は,健常者に比べて効果サイズ0.5ほど低下している。再 燃・再発・治療反応性との関連が指摘され,自殺関連症状のバイオマーカーとも想定され る。さらに,就労を始めとした社会機能に密接に関連し,患者の回復のみならず,社会的 損失にとっても重要な問題である。うつ病の認知機能を改善させる薬物療法として vortioxetine が注目を集めている。同薬剤は抗うつ作用を有するとともに,認知機能や社会機 能の向上を得られる可能性が示唆されている。一方,非薬物療法としては,認知機能リハ ビリテーションの知見が集まりつつある。より効率的なかたちで,認知機能の改善を通し て,社会機能の改善にまでその効果を般化させるには,薬物療法と非薬物療法を組み合わ せるなどして,包括的なリハビリテーションを提供することが望ましい。今後の臨床実践 に向けて克服すべき課題としては,標準的な評価尺度の開発が挙げられる。 臨床精神薬理 23:1115-1123, 2020 Key words ::cognitive impairment in major depression, vortioxetine
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臨床精神薬理 23巻11号, 1125-1132 (2020);
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うつ病治療におけるアンメットメディカルニーズの中には「アドヒアランス不良」 「副作用の問題」がある。これらのニーズを解決するには,丁寧な服薬指導と副作用の問 題を改善させうる薬剤が求められていると考える。2019年に我が国で上市された vortioxetine(VTX)は,作用機序で言うと,セロトニン再取り込み/セロトニン受容体モジュ レーター(S-RIM)となる。VTX 10mg 投与におけるセロトニン・トランスポーター (SERT)の占有率は決して高くなく,これが,副作用という側面においてはメリットとな る。血小板における SERT 阻害によって引き起こされる易出血性,またセロトニン 5-HT2A 受容体への刺激も少なくなるため,性機能障害や不眠も少なくなることが期待される。カ ナダの CANMAT ガイドラインでは,SSRI,SNRI で多い「嘔気」は,VTX でも一定割合 認められているが,三環系抗うつ薬(TCA)で認められる「便秘」や「口渇」,SSRI, SNRI で認められる「頭痛」「めまい」「神経過敏」「焦燥」「不眠」,TCA や NaSSA で認め られる「眠気」「食欲増進」や「体重増加」などの副作用が軒並み少なく,「男性の性機能 障害」においては 1%未満としている。わが国で行われた 3 試験をまとめると,VTX は 「あらゆる理由による中断」「有害事象による中断」「重大な有害事象」「死亡」においてプ ラセボとの差が無く,嘔気はプラセボよりも有意に多かったものの,それ以外の希死念慮 や不眠,頭痛,めまい,嘔吐,下痢,便秘,口渇,食欲減退,アレルギー反応などでは差 がみられなかったことが報告されている。これらのことから,VTX は,副作用に関しては 消化器症状を除き既存の薬物中では最も少ないものの 1 つと考えられる。副作用を嫌がる 例,副作用に敏感な例などに適し,第 1 選択として処方できる無難な薬剤と言えよう。 臨床精神薬理 23:1125-1132, 2020 Key words ::vortioxetine, antidepressant, major depressive disorder, side effect, adherence
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臨床精神薬理 23巻11号, 1133-1139 (2020);
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三環系抗うつ薬に始まるうつ病の薬物療法は半世紀を超えてモノアミン仮説を中心 に展開されてきたが,これまでの抗うつ薬治療で寛解が得られるうつ病が 6 ~ 7 割程度に とどまることから,モノアミン仮説に基づく抗うつ薬開発の限界も知られるようになっ た。最近ではモノアミン仮説と異なる新たな薬理機序に基づく新規抗うつ薬の開発が期待 されている。中でも ketamine の即効的な抗うつ効果には多大な関心が集まり,その薬理 作用にも興味が持たれている。Ketamine は NMDA 受容体の阻害作用を有することから NMDA 受容体に親和性の高い薬剤の開発が行われている。Ketamine には s 体と r 体の 2 つの光学異性体があるが,NMDA 受容体に親和性の高い s 体よりも r 体の方が抗うつ効 果が強いといわれており,NMDA 受容体以外の作用機序にも関心が持たれている。これ らを踏まえて,これからのうつ病医療,特に薬物治療を展望してみた。 臨床精神薬理 23:1133-1139, 2020 Key words ::monoamine theory, ketamine, prevention, CBT, rTMS
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【シリーズ】
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臨床精神薬理 23巻11号, 1140-1142 (2020);
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【原著論文】
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臨床精神薬理 23巻11号, 1143-1155 (2020);
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精神科入院病床の削減と精神障害者の地域移行が進められ,リカバリーの重要性が 高まる中,チーム医療におけるコメディカルの専門性への期待も大きい。統合失調症患者 の再入院に関連する心理社会的要因やコメディカルの関与がもたらす影響を明らかにする ため,後方視的な観察研究を実施した。2015年10月から2017年 3 月に長浜赤十字病院の 精神科病棟を退院した統合失調症圏患者の全例155名のうち,退院後 2 年間の観察が可能 であった110名を対象とした。外来継続群と再入院群を比較し,再入院に関連すると考え られた要因について Cox 比例ハザードモデルによる多変量解析を行った。結果,62名 (56.4%)が研究期間の 2 年間に再入院を経験した。多変量解析では単身生活(ハザード 比:HR =2.18),強制入院(HR =0.48),薬剤師の関与(HR =0.48)で有意であった。強 制入院が有意となったことは,強制入院群と非強制入院群との比較から患者背景の相違が あることが関連すると考えられた。薬剤師の関与が再入院の減少に繋がる可能性が示唆さ れたが,介入内容を含め,前方視的観察による検討を加える必要があると思われた。 臨床精神薬理 23:1143-1155, 2020 Key words ::schizophrenia, readmission, occupational therapy, pharmacist, compulsory hospitalization
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臨床精神薬理 23巻11号, 1157-1163 (2020);
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山梨県立北病院で治療された患者の中で,①統合失調症圏(ICD-10 : F2),② 2009 年から 2015 年までに経口抗精神病薬から LAI(long-acting injectable)を導入,③ LAI 導 入前 3 年間にわたって経口抗精神病薬による治療を行い,LAI 導入後 3 年間の経過を追跡 できた 137 例(開始群)について,経口抗精神病薬治療期間との比較を mirror image 法 を用いて後ろ向きに検討した。LAI を 3 年間継続できた群は 96 例(継続群),途中で LAI を中止した群は 41 例(中止群)であり,継続群は LAI 導入後 3 年間で,入院回数,入院 日数の有意な減少が認められた。LAI 単剤治療(抗精神病薬として LAI のみが投与されて いる)群は LAI 併用治療(LAI と経口抗精神病薬が投与されている)群よりも,また,訪 問看護が行われたことがある群は訪問看護が行われたことがない群よりも,統計学的有意 差をもって入院回数が少ないことと関連していた。今回の長期的な研究結果から,LAI は 経口抗精神病薬と比較して再発予防効果に優れていることが示唆された。 臨床精神薬理 23:1157-1163, 2020 Key words ::long-acting injectable, mirror image, schizophrenia, LAI monotherapy