臨床精神薬理
Volume 24, Issue 7, 2021
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【展望】
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精神疾患の長期経過:機能的転帰の観点から
24巻7号(2021);View Description Hide Description統合失調症および気分障害の長期経過について,患者のリカバリーや社会包摂を下支えする機能的転帰を中心に,薬物療法との関係などの話題を紹介した。早期精神病を対象とした抗精神病薬による維持療法の是非については,認知・社会機能に配慮した検討が求められる。双極性障害や大うつ病の病相の再発・再燃の予防に向けた介入においても,認知機能の理解ならびに評価が重視されつつある。心理社会的治療の充実および精神疾患の病態の理解に基づく維持療法の適切な運用が,予後向上につながると期待される。 臨床精神薬理 24:667-671, 2021 Key words ::schizophrenia, mood disorders, functionality, cognition, social function, therapeutics
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【特集】 薬物療法の維持治療:実践的な続け方とやめ方
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統合失調症維持期の抗精神病薬治療──各国のガイドラインと最新のエビデンス
24巻7号(2021);View Description Hide Description統合失調症維持期の抗精神病薬治療については,継続,中止,間欠投与,減量/低用量といった 4 つの戦略が提唱されている。本稿では,各戦略について,世界各国の臨床ガイドライン・アルゴリズムにおける推奨や最新のエビデンスをまとめた。中止については,近年ガイドラインは初回エピソード患者を中心にこの戦略を受け入れる方向に傾いてきている。ただし,複数エピソードを経験している患者に対してはほとんど推奨されていない。間欠投与については,いずれのガイドラインも推奨していない。減量/低用量戦略についても,中止戦略と同様,ガイドラインは親和的になってきており,この戦略を完全に否定しているものはない。しかし,各戦略の具体的な使い分けや実施方法については明確な推奨もエビデンスもいまだ存在しない。このため,臨床家が個々の症例においてリスクとベネフィットについて検討を重ね,選択していく必要がある。 臨床精神薬理 24:673-682, 2021 Key words ::algorithms, antipsychotics, guidelines, maintenance, schizophrenia -
双極性障害の維持治療について
24巻7号(2021);View Description Hide Description双極性障害は躁病相とうつ病相の相反する病相を繰り返す疾患であり,再燃・再発防止のためには維持治療が必要である。日本うつ病学会が作成した双極性障害治療ガイドラインにおいて,抗躁効果,抗うつ効果,再発予防効果の全てを兼ね備え,急性期治療においてうつ転あるいは躁転を助長することなく維持治療に移行できる薬剤である lithiumが未だ維持期の薬物療法における第一選択となっている。しかし,lithium の忍容性が問題となる場合や,単剤療法での効果が不十分な場合には,他の気分安定薬あるいは抗精神病薬の使用を検討する必要がある。急性期後の維持治療では治療アドヒアランスが重要となるため,治療者と患者の双方向性と相互理解のもとに心理教育を行い,十分な病識に基づく SDM(shared decision making:協働意思決定)の実現が望まれる。 臨床精神薬理 24:683-688, 2021 Key words ::lithium, aripiprazole LAI, psychoeducation, SDM, self-monitoring・self-control -
大うつ病性障害の薬物療法の維持治療:実践的な続け方とやめ方
24巻7号(2021);View Description Hide Description大うつ病性障害(うつ病)は治療の終結が可能な疾患であるが再発が多い疾患でもある。うつ病治療は抑うつエピソードから寛解に至る急性期治療,寛解から半年ほど治療を継続して回復に至る持続療法,回復してからも再発予防のために治療を継続する維持療法,治療を終了する終了期の段階を経る。それぞれの段階で患者の回復と QOL 改善を図るための工夫があり,世界各国のガイドラインもその重要性を指摘している。つまりうつ病においては維持治療の続け方とやめ方の両面が重要である。維持療法の有無や期間について絶対の正解はないが,再発リスクと維持療法のメリット・デメリットについて患者や家族と十分に相談して納得して治療を受けてもらうこと(Shared Decision Making)が重要と考えられる。 臨床精神薬理 24:689-695, 2021 Key words ::major depressive disorder, relapse, recurrence, maintenance therapy, shared deci sion making -
薬物療法の維持治療:パニック症,社交不安症,全般不安症
24巻7号(2021);View Description Hide Descriptionパニック症,社交不安症,全般不安症に代表される不安症群は,寛解率が低く,再発しやすい,慢性疾患である。そのため急性期の薬物療法が奏効した後でも,継続的な維持治療(維持療法)が必要となる。本稿では前述の 3 疾患に限定し,「薬物療法の維持治療とはどんなものか(維持治療の内容)」「薬物療法の維持治療をどこまで行うのか(維持治療の期間)」「どのような状態まで回復したら維持治療を終了可能か(治療終了の基準)」「具体的には,どのように終了したらいいのか(治療終了の仕方)」について,筆者らの経験も併せて実践的に検討を加えた。なお,薬物療法に関しては,国際的に良く用いられる不安症群の治療ガイドラインを参考にしたため,第一選択薬は SSRI や SNRI 等の抗うつ薬であり,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用は限定されているという条件下での解説であること,本邦では適応のない薬物の記載もなされていることを,お断りしておく。 臨床精神薬理 24:697-706, 2021 Key words ::anxiety disorders, completion, SSRI, SNRI, benzodiazepines -
強迫症(OCD)治療における維持療法──長期予後の観点をふまえて
24巻7号(2021);View Description Hide Description強迫症(OCD)の第一選択的治療は SSRI であるが,多くの場合は部分的改善に留まり非定型抗精神病薬などによる増強療法を要する。また SSRI により強迫症状や切迫した不安状態が軽減しても,習慣化した強迫行為や回避の改善は難しく,CBT を併用することが望ましい。さらに再発予防や QOL 向上の観点からも CBT は有効であり,OCD の維持療法では,徐々に減薬や社会復帰を進めながらこの効果を確認して行く必要がある。しかしながら OCD は異種性に富む疾患であり,その治療ストラテジー,あるいは維持療法に至るプロセスも一様ではない。またグルタミン酸作動薬など新規増強療法,あるいはニューロモジュレーションの可能性なども検討が進められており,今後標準的治療のあり方に変容も予想される。この中で薬物治療,あるいは CBT の位置づけや目的も変化していく可能性があり,その動向も注視しながら,OCD の異種性を勘案した維持療法の検討,さらに終結に至る治療プロセスの標準化が望まれる。 臨床精神薬理 24:707-715, 2021 Key words ::obsessive-compulsive disorder, maintenance treatment, selective serotonin reup take inhibitor, cognitive behavioral therapy, outcome -
認知症(BPSD も含めて)の薬物療法
24巻7号(2021);View Description Hide Description認知症の薬物療法をする上で,まず考慮すべきは,高齢者に対する薬物療法という観点である。そのため,多剤併用を避け,使用する薬剤は,必要に応じて,減薬,中止を考慮することが重要である。特にベンゾジアゼピン系の薬剤については,使用すべきではない。認知症の症状は大きく分けて,認知障害と行動・心理症状(Behavioral and Psy chological Symptoms of Dementia:BPSD),神経症状に分かれる。認知障害に対する治療は,基本的にコリンエステラーゼ阻害薬などの薬剤による維持治療となる。一方で,BPSD に対する治療については,非薬物療法が第一選択であり,その効果が不十分であれば,薬物療法が選択される。BPSD は病期により変化するため,薬物療法については症状に応じて,減薬,中止を絶えず考慮する必要がある。 臨床精神薬理 24:717-723, 2021 Key words ::polypharmacy, cognitive impairment, BPSD, cholinesterase inhibitor, benzodiaze pine -
睡眠障害における薬物療法:実践的な続け方とやめ方
24巻7号(2021);View Description Hide Description不眠症は日常で見かける機会が最も多い睡眠障害である。近年,不眠に対する認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:CBT-I)の有用性が示されており,欧米のガイドラインでは不眠症治療において CBT-I が推奨されるようになってきている。一方で,日本においては CBT-I は保険収載されていない上,実施できる施設も少ないため,不眠症に対する治療は,薬物療法が中心となっている。しかしながら,睡眠薬の多剤・高用量処方や長期使用がしばしば問題視され,睡眠薬の多剤・高用量使用に対する診療報酬の減算などの対策がなされるなど不眠症治療の薬物療法を取り巻く環境は厳しくなっている。そのため,本稿では不眠症治療における薬物の使用のポイントや中止方法について概説する。 臨床精神薬理 24:725-730, 2021 Key words ::insomnia, sleep disorder, benzodiazepines, melatonin, orexin -
神経発達症の維持治療:実践的な続け方とやめ方
24巻7号(2021);View Description Hide Description神経発達症に対する薬物療法は,自閉スペクトラム症の易刺激性(関連症状),注意欠如・多動症の不注意,多動性-衝動性(中核症状),トゥレット症のチック,強迫症状(中核,関連症状)などに対して実施されるが,いずれも根治的ではなく,症状緩和を目指し,適応状況や生活の質を改善することを目的としている。薬剤の継続,中止を考える上でも,薬物療法のメリット/デメリットを考慮し,生活の質の改善を志向した治療の意思決定が求められる。治療薬の継続と中止を比較した臨床試験は比較的短期の変化しか確認できておらず,またアウトカムもかぎられる。患者の置かれた状況や価値観は多様であり,患者,家族の意思を尊重しながら,十分な観察のもとに治療薬の減量,中止を進め,維持療法の必要性や中止の可否を確認していくことが大切である。 臨床精神薬理 24:731-736, 2021 Key words ::neurodevelopmental disorders, maintenance therapy, discontinuation, decision making -
アルコール依存症の薬物療法
24巻7号(2021);View Description Hide Descriptionアルコール依存症は推計生涯有病者数54万人,受療者数は 5 万人前後の治療に結び付きにくい疾患であり治療成績も不良である。治療は認知行動療法や自助グループ,薬物療法を組み合わせて行われる。離脱期の薬物療法は主にベンゾジアゼピン系薬剤が用いられ,振戦せん妄には抗精神病薬も適応となる。ウェルニッケ脳症にはチアミン大量非経口投与が有効である。再発予防期の薬剤は disulfiram,cyanamide の抗酒剤が伝統的に用いられているがエビデンスは不十分で副作用の問題もあり最近は第二選択薬となっており,飲酒欲求を抑制する acamprosate が第一選択薬となっている。2019年には飲酒量低減を目的とする nalmefene が日本でも発売され薬物療法の選択肢が広がっている。世界的には,承認薬剤の違いから各国のガイドラインで推奨される薬剤は一部異なるが,離脱期のベンゾジアゼピン系薬剤,再発予防期の acamprosate は共通して推奨されている。 臨床精神薬理 24:737-746, 2021 Key words ::alcohol dependence, pharmacotherapy, withdrawal, antabuse, anticraving, harm reduction
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者を対象とした asenapine 舌下錠の使用実態下における安全性及び有効性の検討──使用成績調査最終報告
24巻7号(2021);View Description Hide DescriptionAsenapine の使用実態下における安全性と有効性を検討する目的で,統合失調症患者を対象とした使用成績調査を実施した。副作用の発現率は 33.4%であり,承認時や本調査の中間解析時と比べて特筆すべき副作用は認められず,発現種類や発現頻度の傾向も同様であった。また,舌下粘膜吸収に由来する副作用についても特筆すべき副作用は認められなかった。全般改善度による改善率は,asenapine 投与 6 週後及び投与52週後の順に,有効性解析対象で 77.9%及び 83.1%であった。また,QOL 及び PANSS について,いずれの時点でも asenapine 投与開始前よりスコアが減少していた。使用実態下で収集した3,364例の調査票の情報を検討した結果,asenapine の安全性及び有効性に特筆すべき問題点は認められなかったことから,asenapine は使用実態下で広く利用可能な薬剤であると考えられた。 臨床精神薬理 24:751-764, 2021 Key words ::asenapine, safety and efficacy, antipsychotics, schizophrenia, post-marketing sur veillance study
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