臨床精神薬理
Volume 25, Issue 8, 2022
Volumes & issues:
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【特集にあたって】
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【特集】 一般身体疾患による精神症状とその薬物療法
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外傷性脳損傷・脳卒中後に伴う精神障害に対する薬物療法と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide Description外傷性脳損傷(traumatic brain injury : TBI)および脳卒中は有病率が高く,慢性の 障害を残し,医学的にも社会経済学的にも深刻な影響をもたらす。両者とも中枢神経系 (Central Nervous System : CNS)に直接的なダメージを与え,多彩で複雑な精神症状が出 現し,機能回復や予後に大きな影響をもたらすため,早期の診断および介入が重要であ る。本稿では TBI 後の興奮・衝動性,認知・行動機能障害,抑うつ,脳卒中後の抑うつ, アパシー,情動調節障害と頻度の高い精神症状を取り上げ薬物療法の文献的考察を行っ た。これらの精神症状に対する薬物治療の有効性は,日常的に用いられる薬剤であって も,エビデンスが低いか,全く乏しいことが少なくなく,大きな乖離がある。この問題を 解決するためには,今後大規模で多施設による二重盲検試験が必要である。このような状 況から,現時点では精神症状の治療にあたっては薬物治療の是非も含め検討し,リスクと ベネフィットを理解し慎重に薬物療法を開始する必要がある。 臨床精神薬理 25:857-862, 2022 Key words : traumatic brain injury, stroke, neuropsychiatric complications, behavioral and emotional dysregulation, pharmacotherapy -
神経変性疾患に伴う精神症状に対する薬物療法
25巻8号(2022);View Description Hide Description中枢神経系が障害される神経変性疾患の多くは器質性精神障害として精神症状を呈し,特に前頭葉や大脳基底核に変性が及ぶ疾患が精神症状を来しやすい。神経変性疾患の多くは未だ根治療法がなく,精神症状に対する薬物療法も対症療法が基本となるが,十分なエビデンスの蓄積に乏しいものが多く,症状に合わせて適宜調整する必要がある。また,神経変性疾患の精神症状は,身体的要因,心理的要因,環境的要因など様々な影響で出現することも考慮する必要がある。本稿では,まずは神経変性疾患に伴う精神症状への共通した薬物療法について頻度の高い症状別に説明し,各論として比較的精神症状を呈することの多い神経変性疾患について概説する。稀な疾患も多いが,病初期から精神症状を呈することも多く,精神科臨床においてこれら疾患の特徴を把握しておく必要がある。臨床精神薬理 25:863-870, 2022 Key words : Parkinson’s disease, 4 repeat tauopathy, triplet repeat diseases, polyglutamine dis eases, spinocerebellar ataxia -
精神作用物質使用に伴う精神障害に対する薬物療法の適応と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide Description精神作用物質の使用に起因する精神障害に対する薬物療法のエビデンスは不足している。いわゆる F1 圏の病態を抱える患者の絶対数が多くないことに加え,使用物質の多様性から均質なサンプルを確保することが難しく,エビデンスが創られにくいことが原因だと考えられる。本稿では国内の精神科医療施設を対象とした調査の結果に鑑み,覚醒剤と大麻に関連する精神病性障害の特徴と薬物療法について,限られたエビデンスを集めて概説した。 臨床精神薬理 25:871-878, 2022 Key words : substance use disorders, methamphetamine, cannabinoid, psychosis, pharmaco logical treatm -
甲状腺および代謝系疾患にともなう精神障害に対する薬物療法における注意点
25巻8号(2022);View Description Hide Description内分泌疾患では時として幻覚妄想状態,躁状態,うつ状態等の精神症状を呈することがあり,内分泌機能の異常と精神症状は密接に関連していることが示唆されている。内分泌疾患に起因する精神症状は内因性の精神疾患によるものと酷似しているため,症状のみでの鑑別は困難であり,理学所見,血液検査も合わせた診断が重要である。また,精神症状改善のためには内分泌疾患の治療が第一であり,向精神薬の使用に関しては議論が分かれている。本稿では,紙面の都合上,精神症状を呈する代表的な内分泌疾患を紹介した上で,その精神医学的症候および有効性が示唆されている向精神薬について概説する。臨床精神薬理 25:879-884, 2022 Key words : endocrine, thyroid, parathyroid, depression, psychotropics -
感染性疾患に伴う精神障害に対する薬物療法の適応と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide Description感染症による精神疾患においては,感染症が直接引き起こす器質性精神障害と,既知の精神障害が感染症によって影響される場合とがある。前者の代表例として神経梅毒が挙げられる。一方,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では,双方が引き起こされる可能性がある。また,抗菌薬など身体治療による精神症状の発現や向精神薬との薬物相互作用にも気をつけなければならない。この稿では,これら感染症による精神障害の捉え方,そこで注意することに触れた後に,最後に,薬物以外で心に留めなければいけないことについても概説する。 臨床精神薬理 25:885-894, 2022 Key words : infection, neurosyphilis, COVID-19, antibiotic-associated encephalopathy, drug drug interaction -
てんかんに伴う精神障害に対する薬物療法の適応と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide Descriptionてんかんに伴う精神障害には,①精神障害があっててんかんを生じた場合と,②てんかんがあって精神障害を生じた場合がある。1)向精神薬はけいれん発作を引き起こすことがあるので,①の場合,けいれんが起こったら服用中あるいは増量・追加した向精神薬のけいれん惹起性をチェックし,けいれん惹起性が高い薬剤は減量・変更する。②の場合はそのような向精神薬は避ける。2)抗てんかん薬には正の(益となる)精神作用と負の(害となる)精神作用を持つものがあり,①の場合は元の精神障害を悪化させる抗てんかん薬は避け,改善する可能性がある薬を選択する。②の場合は服用中あるいは増量・追加した抗てんかん薬の精神症状惹起性をチェックし,精神症状惹起性がある薬は減量・変更する。3)抗てんかん薬と向精神薬は相互作用があるものがあり,抗てんかん薬の血中濃度を下げる向精神薬を避け,血中濃度を上げる薬を選択し,向精神薬の効果を下げる抗てんかん薬は避け,効果を上げる薬を選択する。 臨床精神薬理 25:895-902, 2022 Key words : epilepsy, psychiatric comorbidity, antiepileptic drugs, psychotropic effects, drug in teraction -
認知症に伴う精神障害に対する薬物療法の適応と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide DescriptionBehavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)は,認知症患者にみられる知覚,思考内容,気分または行動の障害による症状と定義され,認知症患者の大半に何らかの BPSD が認められる。BPSD は介護負担を増加させるだけでなく,施設入所を早め,生命予後の悪化につながる。2005 年に米国食品医薬局(FDA)は,認知症患者の精神病症状・攻撃性に対して非定型抗精神病薬を使用した場合,死亡リスクを増加させるとの警告を発した。その後 BPSD への薬物療法が見直され,非薬物療法を優先して行い,十分な効果が得られない場合に,薬物療法を併用することが原則となった。緊急性が認められた場合に例外的に薬物療法を優先的に行うが,治療者はその一定の効果と安全性を十分に認識し,限定的な使用に留めるよう注意する必要がある。臨床精神薬理 25:903-909, 2022 Key words : behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), Alzheimer’s disease (AD), antipsychotics, antidepressants, rights-based approach (RBA) -
悪性腫瘍に伴う精神疾患に対する薬物療法の適応と注意すべき点
25巻8号(2022);View Description Hide Description悪性腫瘍は我が国において非常に身近であると同時に,様々な精神障害を合併する疾患である。悪性腫瘍患者は適応障害,うつ病,せん妄を合併することが多い。適応障害や軽度うつ病は非薬物療法が中心になるが,患者の状態に応じて抗不安薬も使用する。うつ病には新規抗うつ薬が推奨される。せん妄の薬物療法は主に抗精神病薬である。抗精神病薬を使用する際は耐糖能異常や腎機能障害などの身体疾患に注意しながら,最高血中濃度到達時間や半減期を鑑みて選択する。病気の状態に合わせて薬物の剤形も工夫すると良い。また入院環境では特に不眠が生じやすく,療養期間の QOL の維持には睡眠コントロールも重要である。睡眠薬としては昨今メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬も開発されており,効果が期待されている。 臨床精神薬理 25:911-915, 2022 Key words : cancer, adjustment disorder, depression, delirium, pharmacotherapy
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シリーズ
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【原著論文】
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統合失調症維持期治療における olanzapine から asenapine への切り替え症例に関する調査
25巻8号(2022);View Description Hide Description統合失調症は急性期治療において抗精神病効果や鎮静効果などの治療効果が優先され,維持期治療において副作用が少なく飲み心地が良いことなどの継続性が求められる。Asenapine(以下,ASE)は olanzapine(以下,OLZ)と同じく鎮静系抗精神病薬である。Histamine 2 受容体や muscarine 受容体に対する受容体プロファイルより,体重増加や便秘などの副作用が少なく,継続性が高いことが期待される。山梨県立北病院(以下,当院)では,急性期治療に OLZ を投与し,維持期治療に OLZ による副作用のために ASE へ切り替える症例が近年増加している。当院にて,2016 年 4 月から 2020 年 12 月までに切り替えた 42 例についてカルテ調査を施行した。3ヵ月間継続率は 73.8%であり,非継続 10 例の中止理由は口腔内麻痺 4 例,服薬負担 3 例などであった。ASE へ切り替えた 1 年間前後における入院回数と入院日数は,統計学的有意差を認めなかった。ASE は OLZ と治療効果や継続性は同等であることが推測され,OLZ に対する忍容性不良症例に対する切り替え薬として期待される。 臨床精神薬理 25:919-926, 2022 Key words : asenapine, olanzapine, switching, continuity
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【症例報告】
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LAI の導入に向け,blonanserin 経皮吸収型製剤による治療開始が有用であった急性期統合失調症の 3 症例
25巻8号(2022);View Description Hide Description精神科救急の現場において,経口投与が困難である場合には非経口投与が選択されることがある。そのうち経静脈投与は行動制限を要することが多く,使用可能な薬剤も第1 世代抗精神病薬(first-generation antipsychotics:FGAs)である haloperidol 以外に選択肢がないのが現状である。今回我々は精神症状が活発で経口投与が困難であった急性期の統合失調症患者に対し,抗精神病薬として世界初の経皮吸収型製剤である blonanserin 経皮吸収型製剤による治療を開始し,内服への切り替えと持効性注射剤(long acting injec tion : LAI)の導入あるいは導入準備を行うことができた 3 症例を報告する。Blonan serin 経皮吸収型製剤は急性期の統合失調症の治療において有効性が高く,内服への切り替えや LAI の導入に際しても有用な手段となる可能性が示唆された。 臨床精神薬理 25:927-933, 2022 Key words : LAI, blonanserin tape, psychiatric emergency ward, acute schizophrenia, pharmacotherapy -
Blonanserin 経皮剤によるレビー小体病による認知症の行動心理症状の改善─症例報告─
25巻8号(2022);View Description Hide Description幻視,幻聴,妄想性誤認に対し経口抗精神病薬投与で錐体外路症状の悪化,嚥下障害などがみられた 6 症例のレビー小体病の認知症の行動心理症状に blonanserin 経皮剤で治療を行った。危惧されていた錐体外路症状の悪化や新たな副作用症状はなく,30mg/日から 40mg/日の投与で行動心理症状は改善した。幻視と幻聴は全例で改善し,3 症例で注意障害や覚醒度が改善した。Blonanserin 経口薬で頸部ジストニア,筋強剛や振戦の悪化を起こした症例においても経皮剤で同症状の再発は見られなかった。一方でレム睡眠行動異常,転びやすさ,自律神経症状の症状には変化はなかった。Blonanserin 経皮剤の使用で抗精神病薬への過敏性をもつ本疾患でも比較的安全に治療が行えたが,これは経口剤と比べ経皮剤は血中濃度変動が少ないことが大きな要素と考えられる。ただし,本報告は症例数が少なく,経皮剤治療を一般化はできない。 臨床精神薬理 25:934-941, 2022 Key words : Lewy body disease, Parkinson’s disease, dementia, behavioral and psychological symptoms of dementia, blonanserin transdermal patch
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【短報】
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加齢にともなう腎機能変化が血清中 lithium 濃度に及ぼす影響
25巻8号(2022);View Description Hide DescriptionLithium(Li)服用中の精神疾患患者(37 名)を対象に,加齢にともなう腎機能の変化が血中 Li 濃度に及ぼす影響について,血中濃度 / 投与量(C/D)比,Cockcroft-Gault 式より算出したクレアチニンクリアランス(CCr)を用いて検討した。その結果,CCr は年齢とともに低下し,60 歳代以降で有意に減少した。そこで,60 歳を境に CCr および C/D比を比較したところ,高齢群(60 歳以上)は成人群(60 歳未満)に比較して,有意な CCr の減少とともに C/D 比の上昇を認めた。加齢にともなう腎機能の低下が,腎臓を介して排泄される Li の消失を困難にしている結果として,Li C/D 比の上昇をきたしたと考察する。したがって,特に高齢患者の Li 投与には,TDM(therapeutic drug monitoring)を実施して腎機能に合わせた用量調節が必要であり,Li TDM の重要性が再確認された。 臨床精神薬理 25:943-947, 2022 Key words : lithium carbonate, concentration, renal function, age, therapeutic drug mon itoring(TDM)
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