臨床精神薬理
Volume 26, Issue 1, 2023
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
遅発性ジスキネジアの治療に関する最近の話題と新たな展開
26巻1号(2023);View Description Hide Description抗精神病薬による治療中にみられる遅発性ジスキネジア(TD)の治療薬として小胞モノアミントランスポーター 2 型(VMAT2)阻害薬であるバルベナジンが 2022 年にわが国で承認された。TD に対する上乗せ治療薬としてわが国唯一の承認薬となり,保険診療内での難治性の TD に対する有力な治療選択肢が加わった。本総説では,2021 年に公表された米国精神医学会統合失調症の薬物療法ガイドライン第 3 版,英国モーズレイ処方ガイドライン第 14 版等の TD 治療指針をベースに,VMAT2 阻害薬の位置づけについて概説した。TD に対する治療介入手順としては,①原因となった抗精神病薬の減量・中止の試み,②抗精神病薬療法の適正化(第二世代抗精神病薬やクロザピンへの切り替え,抗コリン薬の中止)の試み,①,②で改善しない場合には,③ TD への有効性が示されている薬剤・化合物の上乗せ投与が試みられる。バルベナジンはこの「③抗精神病薬への上乗せ投与」の有力な候補薬の 1 つに位置づけられる。 臨床精神薬理 26:3-10, 2023 Key words : tardive dyskinesia, vesicular monoamine transporter, treatment, drug-induced ex trapyramidal symptoms
-
-
【特集】 遅発性ジスキネジアの治療に関する最近の話題と新たな展開―新規治療薬 valbenazine
-
-
遅発性ジスキネジアの診断のための心得とコツ
26巻1号(2023);View Description Hide Description遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia:以下 TD)の診断の重要性と,そのために必要な心得と発見のためのコツについて力説した。特に早期の発見と対応の重要性とを強調した。それらのために TD の運動特徴について,身体各部位別に解説した。TD は誤嚥や窒息,あるいは転倒による骨折や頭部外傷といった致死的な結果を招来する副作用である。TD は患者自身が訴える場合は極めて稀であるため,家族や病院スタッフへの啓蒙や薬剤師による服薬指導と担当医との連携システムの構築が望ましいことを提言した。臨床精神薬理 26:11-17, 2023 Key words : tardive dyskinesia, antipsychotic, fatal side effect, early detection -
不随意運動の病態メカニズム
26巻1号(2023);View Description Hide Descriptionドパミン欠乏あるいは過多に伴う不随意運動の病態メカニズムについて,大脳基底核の発火頻度モデルに基づいて,概説を試みた。淡蒼球内節の活動性は,線条体からの抑制性の GABA 投射と視床下核からの興奮性のグルタミン(Glu)投射のバランスによって規定され,活動性が増すと無動となり,減少すると不随意運動が生じる。ドパミン欠乏によりパーキンソン病では Glu > GABA となり無動が生じ,L-dopa 誘発ジスキネジアではGlu < GABA となる。バリズムは Glu 入力が絶たれるため生じ,コレアとジストニアは,相対的に Glu < GABA となるためと考えられている。遅発性ジスキネジアは,ドパミンD2 受容体の遮断により,D2 受容体が過敏性を獲得するため Glu < GABA となると推定されている。しかし,不随意運動は表現型も異なり,発現部位も異なることから,運動回路からだけでは説明は難しい。 臨床精神薬理 26:19-25, 2023 Key words : basal ganglia, Parkinson’s disease, ballism, chorea, dystonia, dyskinesia -
遅発性ジスキネジアの病態仮説
26巻1号(2023);View Description Hide Description遅発性ジスキネジア(TD)はドパミン受容体遮断作用を有する薬剤による治療で生じ得る。現在まで病態の全体像は解明されていないが,1970 年代よりドパミン D2 受容体(D2R)の過感受性形成によるドパミン過感受性仮説が現在も尚有力な仮説である。大脳皮質-基底核ループにおける間接路の中型有棘細胞(MSN)上の D2R の過感受性は間接路シグナルを抑制し,結果的に視床からの運動出力の亢進が不随意運動と関連すると推定される。近年の研究によると L-dopa 誘発性ジスキネジア(LID)や遺伝性ジストニアでは,ドパミン信号の他,GABA 介在神経細胞やコリン介在神経細胞等が MSN の複雑な制御に影響することが明らかとなっている。また大脳皮質グルタミン酸作動性神経の MSN への投射によるシナプスの可塑性が一方向に偏移・固定する現象の関与も示唆されている。これらの線条体の microcircuit 内の異常が結果的に MSN 活性を変化させ,不随意運動に繋がると推定されている。抗精神病薬治療による線条体 microcircuit への影響の検証はまだ少数である。TD の病態の解明は LID やジストニアの病態の理解も有用と考えられ,今後さらなる検証が必要である。 臨床精神薬理 26:27-35, 2023 Key words : dopamine D2 receptor, dopamine supersensitivity, fast-spiking interneuron, le vodopa-induced dyskinesia, medium spiny neuron -
遅発性ジスキネジアと QOL――統合失調症薬物治療ガイドライン委員の経験から
26巻1号(2023);View Description Hide Description筆者は統合失調症薬物治療ガイドライン 2022 の副作用班の副班長を担当し,ガイドラインが醸成されていく過程で当事者である患者とその家族からの切なる声を聞いた。副作用においては,治療のみではなく予防視点からシステマティックレビューを実施することのニーズが高く,Quality of Life(QOL)と予防のあり方について検討が必要であった。本稿では遅発性ジスキネジアが患者とその家族の QOL にどのように影響を与えるか,ガイドライン作成における経験と文献を元に患者/家族参画の視点からも考察した。臨床精神薬理 26:37-40, 2023 Key words : tardive dyskinesia, quality of life, schizophrenia, guideline, patient engagement -
遅発性ジスキネジアに関するガイドライン
26巻1号(2023);View Description Hide Description遅発性ジスキネジアは薬剤性錐体外路系副作用の 1 つであり,統合失調症に対し定型抗精神病薬が主に用いられていた時代に注目されたが,非定型抗精神病薬が全盛になった現代でも医療者・当事者をともに悩ませる病態であり,昨今ではうつ病や双極性障害でも非定型抗精神病薬が頻繁に用いられるため注意が必要である。遅発性ジスキネジアは一度発症すると不可逆的な場合があり,当事者の生命予後や精神症状,認知機能などに影響を及ぼすだけでなく,スティグマや自覚的な苦痛感を与え社会生活・日常生活に支障をきたす場合もしばしばみられる。そこで,本稿では遅発性ジスキネジアに関するガイドラインについて,本年 5 月に発表された統合失調症薬物治療ガイドライン 2022 だけではなく,米国神経学会や米国精神医学会のガイドライン,そして本邦と諸外国の気分障害(うつ病・双極性障害)のガイドラインなどを概観し,バルベナジンの遅発性ジスキネジアに対する可能性を検討する。 臨床精神薬理 26:41-48, 2023 Key words : tardive dyskinesia, atypical antipsychotics, guidelines, valbenazine -
Valbenazine の薬理・薬物動態プロファイル
26巻1号(2023);View Description Hide Descriptionモノアミン神経のシナプス間情報伝達に際して,前シナプスの exocytosis に先立ち細胞内小胞にモノアミンを取り込む役割を担うのが小胞モノアミントランスポーター(vesicular monoamine transporter : VMAT)2 である。新規遅発性ジスキネジア治療薬valbenazine は,VMAT2 に対して選択的に阻害作用を示した。また,マウス脳内透析において,valbenazine による dopamine(DA)などのモノアミン遊離の抑制作用が認められた。この VMAT2 阻害による小胞内モノアミン取り込み阻害作用の結果もたらされる DA遊離抑制作用が,遅発性ジスキネジアの症状改善に寄与していると考えられる。臨床精神薬理 26:49-56, 2023 Key words : valbenazine, VMAT2, dopamine, tardive dyskinesia, monoamine -
Valbenazine の海外臨床試験成績レビュー
26巻1号(2023);View Description Hide DescriptionValbenazine は, 小 胞 モ ノ ア ミ ン・ ト ラ ン ス ポ ー タ ー 2 vesicular monoamine transporter 2(VMAT2)阻害薬の一種であり,VMAT2 を阻害し,シナプス間隙のドパミン量を減少させる薬剤である。遅発性ジスキネジア tardive dyskinesia(TD)の治療薬として 2017 年 4 月に米国で承認され,本邦では 2022 年 3 月に承認された。本稿では海外のvalbenazine の臨床試験を概観した。短期のプラセボ対照無作為化比較試験では,valbena zine は TD を有意かつ用量依存性に改善し,有害事象は全般的に少ないが,傾眠には注意が必要であることが示されている。長期試験においては,TD を用量依存性に改善するが,中止後は悪化し,有害事象としては傾眠があり,高齢者では有害事象が出現しやすいことが示されている。また,精神症状への影響は認められなかった。Valbenazine は多くのガイドラインで推奨されており,かつ本邦で TD に対して唯一承認を受けた薬剤であり,適正な使用によって多くの患者に福音がもたらされることが期待される。臨床精神薬理 26:57-67, 2023 Key words : valbenazine, VMAT2 inhibitor, tardive dyskinesia, schizophrenia, mood disorder -
Valbenazine の国内第Ⅱ/Ⅲ相試験の紹介
26巻1号(2023);View Description Hide Description遅発性ジスキネジア(TD)の治療薬,小胞モノアミントランスポーター 2(VMAT2)阻害作用を持つ valbenazine(VBZ)が 2022 年 6 月わが国で米国に続いて世界で 2 番目に上市された。国内第Ⅱ/Ⅲ試験において,有効性の主要評価項目である,VBZ 投与 6 週後の AIMS 合計スコア(中央評価)は 40mg,80mg 共にプラセボ群に対して統計学的に有意な低下(改善)を認め,その変化は用量依存的であった。その後の 42 週間の「VBZ 継続投与期」における AIMS 合計スコア(中央評価)において,投与 48 週後までスコアの改善が持続したことから,長期投与でも効果が持続することが確認された。ただ,投与完了 4週後には治療効果が減弱した。VBZ 投与で比較的多く認められた有害事象は傾眠,流涎過多及び振戦で,これらは用量依存的に発現割合が高かったが,大半は軽度又は中等度であった。PRL 値の増加,そして QT 間隔が延長した被験者が認められたが,臨床的に問題となる被験者は少なかった。その他の臨床検査及びバイタルサインでは特記すべき変動は認められなかった。薬理作用からうつ病,自殺念慮及び自殺企図のリスクが増大する可能性が考えられたが,そこまで認められなかった。今後 TD に対しては,原因薬剤をまずは減量・中止,あるいは変薬することが望ましい。その上で改めて TD かどうかや身体面の評価に加え,うつ・自殺念慮の評価をした上で本剤を投与すべきであろう。TD で苦しむ患者さんにとって福音となりうる本剤を,治療者がこの臨床試験の結果を十分に理解して処方することで,患者さんの QOL 回復につながってもらいたいと考える。臨床精神薬理 26:69-85, 2023 Key words : tardive dyskinesia, valbenazine, AIMS, clinical trial, QOL
-
-
シリーズ
-
-
-
原著論文
-
-
Vortioxetine の有用性と,就労者への影響
26巻1号(2023);View Description Hide Description現在のうつ病治療は,本人の希望や満足感などを重視する personal recovery を目指す治療の重要性が指摘されている。Vortioxetine(以下 VOR)は抗うつ効果に加えて,認知機能の改善効果も有するとされ,期待されている。本研究は昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンターの外来医 1 名が主治医として VOR を導入した 19 症例を対象とした。臨床情報の抽出後,新規に VOR を導入した症例を新規群とし,他の抗うつ薬から VOR へ変薬した症例を変薬群とした。投薬前と 12 週間後の HAM-D と PDQ-5,就労者の転帰を調査した。新規群では HAM-D が有意に改善し,変薬群では PDQ-5 が有意に改善した。就労者の転帰では,新規群で休職中 4 例のうち 3 例が復職でき,変薬群では休職中 3 例のうち 2 例が復職できたため,VOR の投与により就労者の復職にも繋がる可能性が考えられた。そのため,うつ病治療の選択肢として有用である可能性が示唆された。臨床精神薬理 26:89-98, 2023 Key words : vortioxetine, major depressive disorder, cognitive function, worker -
後方視的調査による suvorexant から lemborexant へスイッチングによる長期間投与の有用性
26巻1号(2023);View Description Hide Descriptionオレキシン受容体拮抗薬である suvorexant(SUV)は,不眠症治療に対する有効性が報告されているが使用制限も多く,lemborexant(LEM)に期待される。本研究は SUVの長期内服例を後方視的に調査し,変薬群と非変薬群に分類し,48 週間後まで比較検討した。SUV を内服 54 例のうち,対象は 34 例(変薬群 20 例,非変薬群 14 例)だった。不眠症の各サブタイプにおいて,変薬前から不眠を認める症例に対する不眠改善の有無を両群間で比較したところ,各サブタイプとも有意な違いを認めなかった。SUV より LEM の方がオレキシン 2 受容体により高い阻害活性を示すとされるが,本研究では SUV から LEMへの変薬による不眠の改善は認めなかった。LEM の長期使用による薬剤耐性の可能性や慢性不眠症であることが睡眠効果に影響したと考えられた。重篤な副作用の発現はなく,LEM の長期使用における安全性が示唆された。 臨床精神薬理 26:99-107, 2023 Key words : suvorexant, lemborexant, insomnia, sleep disorders, elderly facility
-