バスキュラー・ラボ
Volume 4, Issue 1, 2007
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隔月刊化記念 特別対談
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特集
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- 高血圧とバスキュラー・ラボ
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- Basic
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血圧とは何か?
4巻1号(2007);View Description Hide Description中国医学書の『黄帝内経』(紀元前2,600 年頃)には,当時よりすでに“脈”の拍動が認知されており,脈と健康状態に関しての考察がなされていたことが記載されている.1628 年頃,ハーベイ(W. Harvey)は,体内の血液が1 つの閉鎖系を循環していることを証明し,1711 年頃にヘーレス(S. Hales)が馬の頸動脈に管を指し,そこから流出する血液がガラス管をつたって上る,つまり循環血液には相当の圧力があることを証明し,“血圧”の概念を確立した.1800 年代後半には間接的に血圧が測定される方法が考案され,リバロッチ(S.Riva-Rocci),そしてコロトコフ(N.S. Korotkov)が現代の標準的測定法である水銀血圧計による聴診法を確立したことは周知のごとくである.そのような背景を受け,20世紀の時代は血圧を下げることで心血管イベントを抑制することを科学的に証明しえた駆け出しの時代であった.21 世紀を迎えた今,最も取り組むべき課題は,いかにして心血管イベントを最大限にゼロに近づけるか,あるいは高血圧の発症そのものをいかにして抑えるか,ということであろう. -
高血圧と動脈硬化
4巻1号(2007);View Description Hide Description多くの疫学的研究で高血圧が冠動脈疾患,脳血管疾患などの動脈硬化性疾患の重要なリスクの1つであることが示されている.フラミンガム心臓研究(The Framingham Heart Study)1,2)では,正常血圧者にくらべ高血圧者で脳梗塞の発生が7倍に増加2)し,冠動脈疾患の頻度も増加する1).高血圧の成因はPage のモザイク説に代表されるごとく多岐にわたる因子が存在する.高血圧に伴う動脈硬化進展の機序にもさまざまな因子が存在し,血圧上昇自体によるメカニカルストレス亢進,血圧上昇にも関与する神経体液性因子のアンバランス,炎症,酸化ストレス,さらに高血圧との共通の成因の存在も推測されるメタボリックシンドロームや睡眠時無呼吸症候群など高頻度に合併するほかの動脈硬化性危険因子などが示唆されている.こうした因子は相互に影響し動脈硬化進展を加速させる悪循環(viscious cycle)を形成していると考えられる.本稿では高血圧における動脈硬化進展の発生・進展機序につき,最新の知見も交えながら概説する. - Illness
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なぜ、高血圧の治療が必要なのか 疫学から見る
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧は動脈硬化や心肥大をもたらし,脳出血や脳梗塞などの脳卒中,心筋梗塞や心不全,不整脈などの心疾患,腎不全,大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症といった血管疾患など,種々の循環器疾患の主要な危険因子であることはよく知られている.したがって,高血圧の治療はそれらの心血管疾患を予防して予後を改善することが目的となり,実際に降圧治療により予後が改善することが多くの臨床試験により示されている.本稿では,疫学から見た高血圧の悪影響と介入研究による高血圧治療の効果について概説し,高血圧治療の必要性を示したい. -
なぜ、高血圧の治療が必要なのか 目標血圧を設定する意義から見る
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧の治療の目的は,血圧上昇が持続することによって派生する心血管疾患(脳血管障害,虚血性心疾患,心肥大,心不全,閉塞性動脈疾患,大動脈瘤など),腎疾患などの高血圧性合併症の発症を予防すること(1 次予防)にある.また,すでにそれらの合併症を有する場合には,これら高血圧性合併症の再発防止(2 次予防) が目的となる.2 次予防では,腎や心血管疾患合併症の再発率は1 次予防の場合より高頻度であるためリスクとしての高血圧はより重要となり,血圧管理はより厳格となる.心血管系,腎疾患の高血圧以外の危険因子である糖尿病,高脂血症,メタボリックシンドロームを合併する場合にもより厳しい血圧管理は必要となる.このように,1 次予防と2次予防で,血圧管理の目標値は異なる.また,一般に血圧測定では,診療における随時血圧で判定するが,血圧には日内変動があり,とくに夜間の血圧の低下があるかどうかは臓器障害にも大きく影響する.日中の随時血圧は正常であるが,診療時に高くなる場合の白衣高血圧と,診療所では正常でもそれ以外で高い仮面高血圧があり,真の高血圧を見極めることも高血圧診療上重要となる.本稿では,血圧変動の成因と意義,そして降圧目標の設定について,血圧変動や合併症の面からの考察も含めて概説する. -
高血圧と血管機能
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧診療あるいは高血圧臨床研究でよく用いられる生理学的な血管機能評価法に脈波伝播速度(pulse wave velocity : PWV)と血流依存性血管拡張反応(flow-mediated vasodilation : FMD)がある.本稿では,高血圧に伴う血管機能と,PWV とFMD という代表的な生理学的血管機能評価法について述べる. - Diagnosis
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高血圧はどう診断するか
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧症は長期に持続することにより心血管疾患を発症するが,心筋そのものに起こる障害以外のほとんどの合併症は血管障害に起因するものである.すなわち,大動脈とその主要分枝の大血管に起こる動脈瘤や動脈解離,粥状硬化症による閉塞性動脈硬化症など血管そのものの臓器障害が発症する.また,冠動脈疾患や虚血性脳血管障害の主因となる中小血管の粥状硬化症が重要臓器の虚血性障害を引き起こす.さらに腎硬化症や網膜症,脳出血,ラクナ梗塞など細小動脈レベルの障害も高血圧性臓器障害の原因とされている.このように高血圧症を診断する際には,血圧値の分類とともにリスク管理にとってより重要な合併症・臓器障害を血管の視点から見ることが求められる.こうした観点から診断について述べる. -
日内変動を考慮した診断
4巻1号(2007);View Description Hide Descriptionこれまでの高血圧診療は,外来随時血圧に基づく「血圧レベルの上昇」(高血圧)の診断とその対応(降圧)としてなされてきた.ことにわが国においては,こうした高血圧診療が劇的に脳出血に代表される高血圧性合併症の発症・死亡を減少させてきたことは疑いのない事実である.一方,高血圧診断の進歩にもかかわらず,わが国においては高齢者における非致死的脳梗塞の発症は増加傾向にある.また米国においては,腎硬化症による末期腎不全や高血圧性心不全の増加などが問題となっている.こうした高血圧にかかわる問題の背景には発見の時期の遅れ,罹病の認識率の鈍化,不十分な降圧レベルなどがあると考えられている.事実これらの要因が,現在の高血圧診療における問題点の多くを説明すると思われる.しかしさらに高血圧診療を考える場合に注目すべきポイントとして,血圧日内変動がある. -
2次性高血圧の鑑別
4巻1号(2007);View Description Hide Description本態性高血圧は特異的原因が不明であり遺伝素因を踏まえ,生活環境に影響されて発症する.これと対照的に,特定の原因による高血圧を2 次性高血圧と言い,一般外来高血圧患者の約5 %未満から10 %を占めるとされている(図)1).そのなかでも腎実質性障害による2 次性高血圧が多く,次いで腎血管性高血圧が多い.副腎腫瘍によるものは,画像検査の進歩によって原因が明らかとなる例も増え,やや多めな頻度に報告されている場合がある.2 次性高血圧の診断は,まずこれを疑うことが重要であり,そのためにも2 次性高血圧をきたす疾患の理解が必要になる.本稿では,この2 次性高血圧の概要について日本高血圧ガイドライン2004 年版(JSH2004)に基づいて概説したい. -
高血圧と動脈弾性
4巻1号(2007);View Description Hide Description血圧は,心拍出量と全末梢血管抵抗の積で規定される.すなわち,心拍出量と全末梢血管抵抗の強さの結果が血圧に反映され,これが物理的にもさまざまな血管障害因子として働くことが知られている.後者の全末梢血管抵抗は,40 歳以降ではとくに重要で一般には細動脈中膜の肥厚による血管内腔の狭窄,あるいは血管収縮因子の過剰,拡張因子の不足により増加すると考えられている.加えて,動脈の弾性からも影響を受けている.すなわち動脈は単なる管でなく,心臓の収縮期には拡張し,拡張期には収縮する弾力性を備え,よって,血流は心臓から出されたときは,断続流であるが,末梢に行くほどそれが緩やかな継続流となる.この血管の弾力性は,いわゆるウィンドケッセル機能にもたとえられ,また,神経支配をも受けており,血管抵抗にも関与している.すなわち,動脈弾性能は,末梢に血液を円滑に送るための第2 の心臓の役割を担っている.それが“動脈硬化”に陥ると,機能的にも破綻し,有効な末梢血流が保てなくなる.したがって,これを評価することは,動脈硬化の診断に加えて,末梢組織への血流の有効搬送をうかがううえでも重要である.本稿では,この動脈弾性の意味,その評価方法,とくに近年開発されたCAVI( cardio anklevascular index)について,そしてその高血圧診療における意義について概説する. -
高血圧と臓器障害
4巻1号(2007);View Description Hide Description先進国において高血圧は成人における最も頻度の高い疾患であり,最も重要な死亡の危険因子である.日本の主要死因別死亡率の年次推移を見ても,高血圧関連の心疾患,脳血管疾患を合わせると,悪性新生物と並んで死因のトップとなっている. - Treatment
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高血圧の非薬物療法 生活習慣の関連と受診者の学習・行動支援
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧の非薬物療法には大別して生活習慣の適正化と健康食品やリラクゼーション法などの代替医療がある.本稿では前者について述べ,受診者への支援方法にも言及する. -
高血圧の薬物療法
4巻1号(2007);View Description Hide Description高血圧の発症および進展には遺伝素因と環境要因が関与している.とくに環境要因は主として社会の文明化に伴う生活習慣の変化によるもので,生活習慣の修正(非薬物療法)はそれ自体で降圧効果が認められるだけでなく,降圧薬の作用を増強させる効果があり降圧薬減量の一助となり得る.多くの高血圧患者においては,目標血圧レベルに到達するには生活習慣の修正のみならず薬物療法が必要である.本稿では,高血圧症に対する薬物療法についてまとめた. -
高血圧症に対するインターベンション
4巻1号(2007);View Description Hide Descriptionインターベンション治療により改善する高血圧症に,腎動脈狭窄症による2 次性高血圧症がある.血行動態的に有意な腎動脈狭窄症は高血圧症1),慢性腎不全2),反復性の心不全3)を発症することが知られている.腎動脈狭窄症の原因としては線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia : FMD)と動脈硬化性腎動脈狭窄(arterioslerotic renalartery stenosis : ARAS)が主要なものであり,両者とも薬物治療抵抗性の高血圧症として発症するが,後者は慢性腎機能低下を併発することが多い.また,前者は若年,女性でFMD 診断のきっかけとなることが多く,後者は高齢,男性で危険因子を有する動脈硬化性疾患の患者に発見されることが多い.
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新連載
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- 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座 −血管エコー職人を目指して−
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どんなときも基礎知識に助けられる
4巻1号(2007);View Description Hide Description連載「血管エコー達人養成講座」をご愛読いただきましてありがとうございます.読者の方には,本講座により血管エコーの診断能力の高さを再認識していただけたかと思います.しかし,難しいというご意見もありましたので,そこで今回から入門編の新シリーズも始めることにいたしました.できるだけ理解しやすい表現で,画像も多く使いながら解説を進めていきたいと思います.軽い読み物として読み続けているうちに血管エコーの基礎が身に付くような構成を考えております.したがいまして,すべての事柄について記述できませんので,詳細については成書を参考にしていただきたいと思います.初回は血管疾患に関係する身体所見の見方について解説します.
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連載
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- 決め手の一枚
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腹部大動脈瘤内の螺旋血流
4巻1号(2007);View Description Hide Description今回は,腹部大動脈瘤内の螺旋状の血流にまつわるエピソードです.腹部大動脈瘤は,一般的に血管前後径が3.0 cm に達する場合に腹部大動脈瘤とされています.超音波検査では,最大径,形態(紡錘状か餒状か),位置(腎動脈分岐部より上か下か),腸骨動脈への瘤波及,壁在血栓,不安定プラークなどの評価が必要となってきます.本症例を見ると腎動脈直下レベルから大動脈分岐直上レベルまで紡錘状に拡大していることがわかります.最大径は5.3cm です.明らかな壁在血栓は無いようです.Volume CT(volume computed tomography)を超音波像(図1)で見るとよくわかりますが,たんに拡大するだけでなく左前方に蛇行していることがわかります.腹部大動脈瘤横断像( 1)のカラードプラを見ると,大動脈瘤の右側と左側とで血流の状態が異なることがわかります.これは前述の通り瘤内の“螺旋血流”を見ているのです. - 実践! 血管エコー検査シリーズ −どう撮り,どう読むか?
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頭蓋内動脈:病変を読む
4巻1号(2007);View Description Hide Description超音波を用いた頭蓋内血管評価法は,1982 年にAaslid らが経頭蓋ドプラ検査(transcranialDoppler : TCD)として報告し,以降広く臨床応用されている1)(図1). 1990 年代には,B モード上にカラードプラによる血管シグナルを描出できる経頭蓋カラードプラ検査(transcranial colorcodedduplex sonography : TCCS)が開発され,頭蓋内血管をより詳しく評価できるようになった(図2 1,図3 2).本稿では,TCD およびTCCS を用いた頭蓋内動脈病変(㈰狭窄および閉塞,㈪血管攣縮,㈫脳動脈瘤および脳動静脈奇形,㈬内頸動脈内膜剥離術後の過潅流症候群)の診断方法について概説する. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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血管超音波診断装置の応用範囲は広い
4巻1号(2007);View Description Hide Description近年,超音波診断装置の進歩は目覚ましく多種多様な場面で活用されている.超音波検査は,断層法やカラードプラ法,パルスドプラ法などを用いることにより,血管壁の性状,血管の狭窄や閉塞などの形態的評価と,血流評価をリアルタイムにかつ無侵襲に観察することができ,その簡便性やコストなどの観点から閉塞性動脈硬化症や静脈疾患など,全身の血管疾患の診断に広く用いられている.また,血管疾患診断のみならずインターベンション時の評価,透析シャントや中心静脈穿刺時などへの応用,さらに各種小型機種も登場しており検査室以外で使用される場面も多く,活躍の場が広がってきている. - 微小栓子シグナルの臨床応用
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頸動脈ステント留置術時のHITS/MESの意義
4巻1号(2007);View Description Hide Description覚醒下での頸動脈ステント留置術(carotidartery stenting : CAS)時に神経症状が出現することがある.わが国ではCAS 中の塞栓症防御デバイス( protection device) としてdistalprotection balloon(PercuSurge 製GuardWirePlus)を用いることが多い.CAS 中の神経症状(巣症状や意識障害,けいれんなど)出現の原因は,この血流遮断時に頭蓋内の側副血行路が乏しい例での虚血不耐性(ischemic intolerance)であることが多い.ただし頻度は少ないが塞栓症を合併し症状が出現する場合もある. - 血管領域における循環力学的考え方
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動脈硬化の血行力学的測定(その2)
4巻1号(2007);View Description Hide Description動脈系全体の硬化度の進行は前述のとおりであり,表在性の体外から測定しやすい箇所は限られている.その検査部位近傍の動脈硬化度をここでは局所動脈硬化度と称し,次の3 つのパラメータ(指標)を紹介する.すなわち,血管容積弾性率Ep,スティフネスパラメータβ,局所脈波伝搬速度Ce である. - 血管診断の医用機器
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最新の高画質化技術,およびIMT自動計測技術
4巻1号(2007);View Description Hide Description弊社は,超音波診断装置の高画質化への対応として,ハーモニック技術を進化させたHdTHI(High Definition Tissue HarmonicImaging)機能や高精細適応型画像フィルタ技術(New HI REZ 機能)を最新の超音波診断装置HI VISION 900( 図1) とEUB-8500/7500 に搭載した.また,近年注目を浴びているIMT(intima-media thickness, 内中膜複合体厚)の検査効率向上のため,超音波診断装置にI MT を自動的にトレースする機能を搭載.これらの機能について紹介する. - 血管疾患診療ガイドライン−血管疾患診療の際に知っておくべき基礎知識−
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脳動脈瘤
4巻1号(2007);View Description Hide Description破裂脳動脈瘤に伴うクモ膜下出血(subarachnoidhemorrhage : SAH)は,約30 〜 50 %が死亡または後遺症を残存する,いまだ解決すべき問題を残している疾患である.破裂を防ぐために未破裂脳動脈瘤の治療が積極的に行われている一方,未破裂脳動脈瘤の治療合併症は無視できず,その治療適応は十分に吟味されなければならない.本稿では,未破裂脳動脈瘤・SAH について,近年発表されたガイドラインに基づき解説する.