バスキュラー・ラボ
Volume 4, Issue 2, 2007
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特集
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がんと血栓症 病態や現状についてのオーバービュー
4巻2号(2007);View Description Hide Description現在,肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが作成され,そのダイジェスト版が各医療機関へ出回るようになった.2004 年の4 月からは静脈血栓塞栓症の予防管理料として保険点数がつけられるようになり,合併症の危険を伴う血栓症の予防法の施行においては,患者に対して十分インフォームド・コンセントを得なければならない.また,適切な予防法を行っても完全にその発症を予防することは困難であるが,血栓症とくに肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism :PTE)が発症した場合の適切な対応が不可欠である.日本でも肺塞栓症による死亡が最近10 年間で約2.8 倍と急増しており(厚生労働省平成14年人口動態統計),決してまれな疾患ではないことを認識することが大切である.肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症(deep veinthrombosis : DVT)が認知されるにつれ,その発生頻度は増えている.たとえば,日本産婦人科新生児血液学会が1991 〜 2000 年まで行った調査では,この間のPTE の発症数は6.5 倍,DVT は3.5 倍,危険因子と言われる帝王切開よりも悪性腫瘍例でのPTE 発生頻度は7 倍も高い(良性疾患の16 倍)との結果が得られている.さらにがん患者では術後2 週間を経過してからPTE を合併することも報告されるようになった.日本は超高齢化社会を迎え,がん患者数は増加の一途をたどっているため,がん患者における血栓症の実態および病態について解説する. -
がんと血栓症 消化器がんと血栓症
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionがんと血栓症との関連があることは,1865 年にTrousseau ががん患者にしばしば特発性の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)が合併することを報告することにはじまる1).それ以来がん患者にVTE が合併しやすいことは知られてきたが,その原因,メカニズムに関して研究が進みはじめたのはつい最近である.がん患者の15 %にその経過中に症候性VTE を発症し,剖検で50 %の患者にVTE の合併を見ると言われる.また,がん患者は非がん患者に対して約10 倍のVTE 発生危険率があるとも言われている2).これらはすべて欧米のデータであり,わが国でのデータはないが,高齢化に加え,食習慣の欧米化による肥満者の増加やVTE に関する昨今の関心度の高まりから,「がんと血栓症」に関して検討する時期にきている.とくに抗癌剤使用によるがん患者の生命予後が延長し,QOL(quality of life)の改善が叫ばれるなか, 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)による不慮の死や深部静脈血栓症( deep veinthrombosis : DVT)による日常生活の支障をきたすようなことがあってはならない.本稿ではとくに消化器がんとVTE に関してその発生メカニズム,周術期のVTE 発生頻度,予防方法,治療に関する問題点について述べてみたい. -
がんと血栓症 婦人科がんと血栓症
4巻2号(2007);View Description Hide Description静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism :V T E)はこれまでわが国では比較的まれであるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1,2).血栓症で臨床的に問題となるのは, 深部静脈血栓症( deep veinthrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : P T E)である.米国では1 年間にDVT は200 万人以上,PTE は約60 万人発症していると見られているが,死亡はそのうち約6 万人である3).P T E はDV Tの一部(5 〜 10 %)に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.本稿ではわが国の婦人科領域のV TE 発症頻度を紹介し,とくに婦人科がんとVTE につき解説する. - Illness/Diagnosis
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がんと上大静脈症候群
4巻2号(2007);View Description Hide Description上大静脈症候群は1757 年にHunter1)によって初めて報告されたが,上大静脈の高度狭窄もしくは閉塞により特有な症状を呈する疾患群である.上大静脈は,両側の腕頭静脈の合流部より右心房までの約7cm の血管で,中枢側は約2cm 心餒内を走行している.上大静脈の周囲には,気管,右気管支,上行大動脈,肺動脈,肺門および気管支リンパ節が存在し,この部分の病変が,上大静脈の閉塞の原因となりうる.本症では,上大静脈の閉塞により,上半身の静脈圧が上昇し,側副血行路が形成されるが,これには奇静脈,内胸静脈および外側胸静脈などが関与している.このなかでも,奇静脈の役割は重要で,上大静脈の閉塞部位が奇静脈の合流部より右心房側にあれば定型的な上大静脈症候群を呈する.また,閉塞がゆっくり進めば,症状も軽微で済むが,悪性腫瘍の上大静脈への急速な進展や上大静脈血栓症などでは,側副血行路の発達が十分でなく重篤な症状を呈する. -
がんとリンパ浮腫
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionリンパ系は動脈・静脈とともに第3 の脈管として理解されてはいるが解剖,生理,灌流動態などの基礎的認識,その破綻による疾病の病態・治療に関し,いまだ不明の点が多い.昨今,がん治療に手術,放射線療法,化学療法が有効なことが認められ広く施行され長期生存者が出るにともない,これらの治療により本来の機能を失ったリンパ系障害に基づくと思われるリンパ浮腫が急増し,これへの対応が問題となっている.本稿ではリンパ浮腫患者を診療していて感じている点を検討した. - Treatment
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がんと上大静脈症候群 ステントの役割を中心に
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionがんが上大静脈(SVC)閉塞による上大静脈症候群(superior vena cava syndrome : SVCS)の原因となる場合の多くは,手術不能の肺がんを主とした進行がんであり,放射線治療や化学療法が即効しない症例も多い.顔面・上腕浮腫などの速やかな症状改善に威力を発揮するSVC 閉塞部へのステント(stent)留置は,QOL(quality of life)の改善に寄与するだけでなく,放射線治療や化学療法の併用により延命にも役立つ場合があり,集学的治療における有用性が高く評価されつつある.しかし,静脈用に認可されたステントがないのが現状であり,本稿ではこれらの問題点を踏まえ,がんによるSVCS の治療におけるステントの役割について,われわれの経験をもとに文献的考察を加えて概説する. -
がんとリンパ浮腫
4巻2号(2007);View Description Hide Description近年画像診断技術の進歩によりがんの早期診断率が向上して早期発見される症例が多くなり,がん治療後の生存期間は長くなっている.また化学療法や放射線治療の改良により担がん状態のままで長期間経過する症例も増加している.すなわち全人口のうちがん治療を経験した患者の割合が増えていると言うことになる.そのがんの治療経過で問題となる合併症の1 つがリンパ浮腫である.とくに乳がん・婦人科がんといった女性特有のがん治療後に多いという特徴があり,女性の外見を損なうため非常に悩みが大きい合併症とも言える.また進行がんにリンパ浮腫が合併したいわゆる「悪性リンパ浮腫」は,余生を有意義に過ごそうとする患者にとって非常に生活を制限する.リンパ浮腫は,発症早期に診断して適切な治療を開始することで浮腫の進行を食い止めることができる.また終末期の浮腫に対しても症状軽減に効果的である.しかし検査を担当する技師や診療する医師がリンパ浮腫について理解していなければ,その患者は治療開始が遅くなり慢性化・重症化してしまうことが多い.本稿では医療従事者に知っておいていただきたいリンパ浮腫の病態・診断・治療について簡単にまとめて解説するが,基礎になるリンパ管の解剖・生理や複合的理学療法まで紹介するスペースがないため,その詳細については成書を参考にしていただきたい1 〜 3).
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新連載
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- CVT認定試験情報−Clinical Vascular Technologistへの道−
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必要から生まれたCVT〜CVTを育むのはわれわれ自身〜/CVT認定の必要性と資格取得への対策
4巻2号(2007);View Description Hide Description血管診療技師(clinical vascular technologist)の第1 回認定試験が2006 年6 月に行われ,53 名が合格した.今後日本での血管診療普及のための新しい資格の誕生である.この連載では,CVT 認定者と認定機構委員のそれぞれの視点からCVT を目指す読者の方のために役立つ情報をお届けする.
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連載
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- 決め手の一枚
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右房内構造物Chiari's network
4巻2号(2007);View Description Hide Description症例: 65 歳 女性主訴:腎不全,心不全慢性糸球体腎炎による腎不全と陳旧性心筋梗塞にて他院通院中,全身性浮腫をきたし当院を受診され,スクリーニングのために超音波検査を施行することになりました.心臓を心尖部から四腔断面で観察すると,右房内に心房中隔に付着した可動性のある索状の構造物があります.この構造物は,Chiari’s network なのですが,腫瘍や血栓との鑑別がつねに必要となってきます( - 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座 −血管エコー職人を目指して−
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検査体位を考える
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionエコー検査の腕前は決してプローブ操作だけではない.腹部エコーでは臓器を描出し診断するのに体位変換は欠かせない.少し面倒なようでも状況に応じた適切な体位で診ることが診断精度向上につながる.血管エコーにおいても検査体位を少し工夫することで描出が改善され,診断精度の向上につながることがある.今回は血管エコー検査における検査体位について考えてみたい. - 実践! 血管エコー検査シリーズ −どう撮り,どう読むか?
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大鞁動脈エコー:方法と動脈硬化診断
4巻2号(2007);View Description Hide Description本シリーズの「末梢動脈エコー」(第6,7 回)でおおむね述べられていると思うが,大鞁動脈エコーには以下の2 つの目的があると考えている.①狭窄病変の検出.②動脈硬化の表現系としての病変の評価.図1 に示すように全身の動脈系の硬化は腹部大動脈より始まり冠動脈から頸動脈へと病変は進行する傾向がある.興味深いことに大鞁動脈は頸動脈より硬化が早く,この病変の評価が閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)はもとより急性冠症候群とも関連する可能性を有することである.本稿では,一般的である狭窄病変について述べるとともに,早期動脈硬化病変としての大鞁動脈エコーにも焦点を当たてたい. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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症例疑似体験
4巻2号(2007);View Description Hide Description若年健常者を相手に血管超音波検査を行うことは容易であるが,実際の患者では高齢者が多く,肥満者や過度の痩身者も多い.そのような悪条件のなかで検査を遂行するためには,何らかの工夫が必要となる場合がある.今回は,実際の症例で困難に直面したときにどのような工夫をすることによって,所見を得ることができたのかを紹介する. - 微小栓子シグナルの臨床応用
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脳梗塞とMES
4巻2号(2007);View Description Hide Description経頭蓋ドプラ(transcranial Doppler : TCD)検査は脳血管狭窄・閉塞など血管病変を非侵襲的かつ簡便に評価する検査として広く日常臨床に応用されている.さらに,TCD は脳血管内を飛来する微小栓子(microembolic signals : MES)をリアルタイムに観察できる唯一の検査法である.本稿ではTCD の臨床応用,なかでも脳梗塞例におけるMES 検索について概説する. - 血管疾患診療ガイドライン−血管疾患診療の際に知っておくべき基礎知識−
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マルファン症候群
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionマルファン症候群は常染色体優性遺伝で10,000〜 20,000 人に1 人発生する代表的な結合織疾患であり,臨床的重症度は症例によって大きく異なる1).眼病変,心血管病変,筋骨格系異常が代表的病状として知られているが,肺,皮膚,中枢神経系にも異常が見られる.重症例では,出生時より症状の出現や進行が見られる. - 血管疾患の薬剤解説
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CETP阻害薬トルセトラピブ
4巻2号(2007);View Description Hide Descriptionスタチンは虚血性心疾患を減少させる有益な薬剤であるが,動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002 年版(日本動脈硬化学会編)のLDL(低比重リポタンパク)-C 100mg/dL 未満にコントロールしてもイベント発生は完全に抑制できない.疫学調査が示すようにHDL(高比重リポタンパク)-C 1mg/dL 増加するとイベント発症が2 〜3 %低下することから,HDL に介入する薬剤が期待されてきた. - 血管診断の医用機器
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経皮酸素分圧測定装置TCM400
4巻2号(2007);View Description Hide Description経皮の酸素分圧モニターは,1970 年代からハイリスクの新生児で採血による血液ガス分析の代用として発明された技術である.これを成人の微小循環の評価として活用されはじめたのも大体1970 年代の終わりごろで,閉塞性動脈硬化症の患者での臨床に応用された.このように経皮酸素分圧は決して新しくない技術であるが,弊社のTCM400 は,従来のようにNICU(neonatal intensive careunit)からの借り物の1 台1 本の電極システムでなく,完全に成人重症虚血肢の微小循環評価のために,1 台のユニットで最高6 本まで酸素電極を増やしたものである.これにより多部位での同時測定ができるので,患肢のマッピングによる精密な測定ができ,そのうえ手間の軽減にも貢献する(図1,2). - 早わかり! 血管領域におけるルーチン検査のコツ
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サーモグラフィー
4巻2号(2007);View Description Hide Description医療用に使用されるサーモグラフィー検査の原理には,コンタクトサーモとテレサーモの2 通りがある.ここではテレサーモを使用し,血管疾患を対象とした検査方法について記述する.テレサーモは赤外線カメラを利用して,皮膚表面から放出される赤外線を検出する方法である.物体の表面温度に応じて相応の赤外線が放出されているので,この赤外線を測定すれば表面温度を知ることができる.装置には較正用として絶対零度に近い環境を作り出すためのインタークーラーなどが装備されており,これと比較することにより温度値に変換している.