バスキュラー・ラボ
Volume 4, Issue 3, 2007
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特集
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- 糖尿病とバスキュラー・ラボ
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糖尿病を知る
4巻3号(2007);View Description Hide Description“糖尿病を知る”うえで,糖尿病とはどういう病気を総称し,その診療にて注意すべき点を理解することは重要である.とくに,糖尿病が全身の血管障害を主徴とする病態であること,大きな血管の動脈硬化病変から細小血管障害まであらゆる血管の硬化,血管閉塞,臓器血流障害,血管透過性異常,血管内皮細胞障害をきたす病態であることが示された.ここでは,以下の意義について概説し,糖尿病診療の視点を紹介する.㈰概念,定義,頻度.㈪病態.㈫診断・鑑別診断.すなわち糖尿病,耐糖能異常の診断をどのように行うか.病型決定の意義,とくに糖尿病家族歴の有無と肥満歴.㈬糖尿病患者の細小血管合併症,大血管症の管理におけるトータルケアの意義. -
病態を考える 糖尿病における動脈硬化促進の分子機構
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病は冠動脈疾患の相対リスクを約3 倍増加させるほか,動脈硬化巣の不安定化や経皮的冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronaryangioplasty : P TCA)後の再狭窄のリスクを増加させる.糖尿病患者の動脈硬化は,広範囲かつ高度でありまた血管壁の石灰化を伴うことが多い.糖尿病が動脈硬化を促進する機序として多くのことが提唱されてきた(表1).糖尿病に合併する多くの病態が動脈硬化を促進する.低HDL,高トリグセリド,高コレステロール血症などの脂質代謝異常,凝固線溶系の異常や高血圧などの合併症は古くから動脈硬化を促進する因子として知られている.肥満を伴う2 型糖尿病では,脂肪細胞から分泌されるアディポカインの関与が考えられる.炎症性サイトカインが脂肪細胞から産生されるばかりでなく,肥満の進行に伴い抗動脈硬化作用を示す - Illness
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動脈硬化との関連
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病を含めた耐糖能障害を示す患者は年々増加している.さらにメタボリックシンドロームの診断基準とその罹患者数の発表により,耐糖能障害と動脈硬化性疾患が従来の医療現場に加えて,健診や市民健康促進の場においても注目されつつある.従来より糖尿病診療においては,心筋梗塞,狭心症,脳卒中,下肢閉塞性動脈硬化症が糖尿病患者の主要な死因であると重要視されてきた.近年は,これらの動脈硬化性疾患の立場から糖尿病をとらえる報告も増えている.本稿では,糖尿病と動脈硬化について,臨床的な視点から相互の関連性について述べたうえで,私たちの糖尿病センターでの動脈硬化検査外来から得られた知見を紹介し,糖尿病診療におけるバスキュラー・ラボについて述べる. -
糖尿病による臓器障害の特徴
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病は,インスリンの作用不足によるブドウ糖の代謝障害を原因とし,さまざまな臓器障害を起こす疾患である.糖尿病により引き起こされる合併症の大部分は血管の障害であり,障害を受ける血管の部位により,細小血管障害と大血管障害に分けることができる.細小血管症では高血糖の持続が最も重要な促進因子であるが,大血管症では高血糖の持続に加え,ほかの危険因子の関与も大きいことが明らかになってきた.糖尿病は,脂質代謝異常や血栓凝固機能異常,易感染性などさまざまな全身の代謝異常と関連しており,これが治療に影響することもしばしばである. - Diagnosis
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診断基準を日常診療にどう応用するか
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病は必要なインスリンが不足することによる細胞での糖利用ができない,いわゆる細胞の栄養失調状態である.細胞の栄養失調時にはストレスホルモンを分泌することにより,循環調節,脂肪分解などを行って,栄養不足の代償を行う.すなわち,高血圧を併発しやすく,遊離脂肪酸(free fatty acid : FFA)が高値になり,このストレスホルモンがさらなるインスリン抵抗性を引き起こす. -
粥状変化:診断の概論
4巻3号(2007);View Description Hide Description動脈硬化(arteriosclerosis)は,病理学的には粥状動脈硬化(atherosclerosis),メンケベルグ型中膜石灰化,細動脈硬化(arteriolosclerosis)の3 型に分類され,臨床的にはおもに大〜中型動脈を対象に,肥厚,硬化,石灰化などが評価されている.糖尿病大血管症(マクロアンギオパシー)は,糖尿病細小血管症(ミクロアンギオパシー)[腎症,網膜症など]と対比して用いられ,脳梗塞などの脳血管障害,心筋梗塞などの心血管障害,下肢閉塞性動脈硬化症などが含まれる.足病変は次項に譲り,脳血管障害は頸動脈エコーおよびCTやMRI/MRA などによる診断について,心血管障害は冠動脈硬化病変のおもに血管内視鏡による診断について概説することにする. -
糖尿病性足病変・重症虚血肢の診断
4巻3号(2007);View Description Hide Description下肢の虚血は,糖尿病患者において入院が必要となる最も可能性の高い原因であり,また,糖尿病の存在は現在末梢血管外科領域の評価・治療法において世界的な指針として2007 年1 月にTASC蠡(Trans Atlantic Inter-Society Consensus 蠡)が発表された.そのなかでも症候性末梢動脈疾患(peripheral arterial disease : PAD)を起こすリスクファクターとして,喫煙とならび高いオッズ比を示し,重症虚血肢(critical limb ischemia :CLI)を引き起こすリスクファクターとして最も大きな影響力を持っている(図1)1).糖尿病患者では,ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)が1 %上昇するごとに末梢動脈疾患のリスクが26 %増大するとされており,大切断に至る率も非糖尿病患者の5 〜 10 倍も高く,糖尿病患者のPAD,CLI の診断が非常に重要となってきている.世界における非外傷性肢切断の最大の原因は,糖尿病性足病変である.糖尿病患者の15 %が一生のうちの足部潰瘍を生じ,足部潰瘍患者の約14 〜 24 %に切断術が必要になると推定される.切断術のうち85 %までは,早期発見と適切な治療により,回避できる可能性がある.本稿では,糖尿病患者におけるPAD,CLI 診断上の注意点を述べ,早期治療の助けとなることを期待する. - Treatment
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薬物療法
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病患者は,20 世紀後半から世界中で急増しており,2002 年の厚生労働省による糖尿病実態調査ではわが国でヘモグロビンエーワンシー( H b A 1c)値6 . 1 %以上を示す人が7 4 0 万人,HbA1c 値5.6 〜 6.0 %の糖尿病予備軍が860 万人とのことである.40 歳以上では,ほぼ5 人に1 人は糖尿病もしくはその予備群ということになる.糖尿病患者では,心筋梗塞の危険率が健常者と比較して約2 〜 3 倍で,陳旧性心筋梗塞患者とほぼ同程度であることが報告されており,末梢動脈疾患(peripheral arterial disease : PAD)に関しても重要な危険因子である1,2). -
頸動脈検査所見をどう活かすか
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病患者において,糖尿病性網膜症の発症・進展は眼底所見により,腎症の発症・進展は尿中アルブミン排泄率により,神経障害の発症・進展はアキレス腱,膝蓋腱反射の有無により把握できる.では動脈硬化症の進展度は,いかなる検査により定量的に判断できるであろうか.筆者らは20年ほど前より種々の画像診断を試み,結果的にBモードエコーによる頸動脈内膜中膜複合体厚(intima media thickness : IMT)やプラークの有無,その性状を推定することが有用であることを示してきた.1990 年ごろより,Diabetes Care 1),Diabetes 2),Diabetologia 3)などに投稿してきたが,IMT の測定精度に関して,referees やeditors よりつねに厳しいコメントを受けてきた.それは同一対象に対する頻回の測定値のばらつきの程度や,検者間での測定精度などに関してであった.熟練した医師・技師が時間をかけて描出し,ノギスでIMTを測定している.0.01mm オーダーでの変化を観察するので,測定方法や部位の規定化は必須であろう. -
糖尿病足病変・フットケア
4巻3号(2007);View Description Hide Description糖尿病 患者の増加と高齢化,罹病期間の長期化,合併症の進行,動脈硬化性疾患の併発などを背景に,糖尿病足病変(diabetic foot)に罹患する患者が増加している.糖尿病足病変は一般に難治性であり,足切断率も高いことが特徴である.また,治癒しても再発率が高いのみならずその後の経過中に脳梗塞や虚血性心疾患などを生じて,患者のQOL(quality of life)やADL(activities ofdaily living)が大きく損なわれることも多い.足病変から足を守るためには,足のリスク評価を行い,患者の病態に応じたフットケア指導による発症予防が最も重要である.発症後は成因(神経障害,血流障害),誘因(外傷,靴擦れなど),重症度を的確に診断し迅速なチーム治療を行う.
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連載
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- 決め手の一枚
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“総頸動脈分岐部潰瘍性病変”のように見える“上甲状腺動脈の起始部”
4巻3号(2007);View Description Hide Description症例: 72 歳 男性糖尿病,高脂血症,脳梗塞,狭心症,糖尿病性網膜症総頸動脈分岐部のプラーク頂点が陥没していて潰瘍のように見えます.しかしこれは,総頸動脈分岐部から分岐する血管を見ているのです.実際には,上甲状腺動脈の起始部を見ていたのです.確かに珍しいことに,血管の起始部を取り囲むようにプラークがあるために,あたかも潰瘍のように見えてしまいます( 1). - 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座 −血管エコー職人を目指して−
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超音波で評価できる血管領域
4巻3号(2007);View Description Hide Description超音波検査診断の特徴は,以下のことが挙げられる.①簡便な精密検査であること.②リアルタイムな情報が得られること.③血流情報(方向,性状,流速)が得られること.血管領域における超音波検査は,末梢の細い血管も造影剤なしで無侵襲に検査できる.今回のテーマは,「超音波で評価できる血管領域」だが,「超音波での評価が有用な血管疾患」と筆者は理解し,症例を呈示しながら超音波検査の有用性を紹介する. - 実践! 血管エコー検査シリーズ −どう撮り,どう読むか?
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経頭蓋超音波カラードプラ:撮り方・測り方
4巻3号(2007);View Description Hide Description低侵襲的な脳血管の評価法のひとつに経頭蓋カラードプラ法(transcranial color flow imaging :TC-CFI あるいは, transcranial color-codedDoppler sonography : TCDS)が挙げられる.この検査法では,カラードプラ法により,脳血管の走行が描出可能でパルスドプラ法により血流速度を求めることができ,おもに頭蓋内主幹動脈の狭窄病変の検索に用いられている. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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柔らか頭で診断する
4巻3号(2007);View Description Hide Descriptionエコー検査は画像診断である.しかし,血行動態や血管の動きを観察できる大きな利点を有する検査法でもある.ほかの診断法や検査法で得られない情報を得るためには,臨機応変な対応が必要な場面があり,利点を最大に活かすためのテクニックが要求される.時には臨床所見とエコー所見が食い違う症例に遭遇する場合もある.そのときには,納得のいく所見解釈ができないと検査を終了できない場合があり,そのための追加検査が必要な場合もある.今回は考えながら検査を進めることに重点を置いた検査術について記述する. - 微小栓子シグナルの臨床応用
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大動脈ステントグラフト内挿術におけるHITS/MESの意義
4巻3号(2007);View Description Hide Description胸部大動脈瘤手術における脳合併症は生命予後や術後のQOL(quality of life)を左右する重大な合併症である.近年,従来の手術と比較して低侵襲術式とされるステントグラフト内挿術が,その手技やデバイスの進歩により遠位弓部大動脈瘤に対しても可能となった.しかしながらより中枢側へのステントグラフト内挿術では脳梗塞発症の危険性は増加する.胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術中に経頭蓋ドプラ(transcranial Doppler : TCD)モニタリングによるHITS(high intensity transientsignal)/MES(microembolic signal)を測定したので当院での測定方法やその意味合いを述べる. - 血管疾患診療ガイドライン−血管疾患診療の際に知っておくべき基礎知識−
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大動脈解離
4巻3号(2007);View Description Hide Description大動脈解離の診療において最も重要なことは,“解離ではないか”との疑いを持つことにある1).もし疑いを持ったならば遅滞なく確定的画像診断を施行し,解離との診断が確定されたならば,その後の治療方針の決定および治療は原則として専門医である心臓血管外科医や循環器内科医に委ねられるべきである.はじめに,急性大動脈解離(図1)と慢性大動脈解離(図2)の治療方針をチャートで示す. - CVT認定試験情報−Clinical Vascular Technologistへの道−
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- 血管疾患の薬剤解説
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抗アルドステロン薬
4巻3号(2007);View Description Hide Descriptionアルドステロンはおもに副腎で産生されるRAA 系(レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系)の最終生成物であり,腎尿細管におけるNa の再吸収促進を介して体液および電解質の恒常性を維持するホルモンとして理解されてきた.しかし,近年,これに加えてアルドステロンは心血管系に直接作用して心筋線維化や心肥大などを惹じゃっ起させ,心血管障害を誘導する作用が明らかとなり,「心血管疾患のリスクホルモン」として認識されるようになった1). - 血管診断の医用機器
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マルチファンクションレーザードプラ血流計PeriFlux System5000
4巻3号(2007);View Description Hide Descriptionマルチファンクションレーザードプラ血流計PeriFlux System5000(図1)は微小循環を総合的に把握するのに適したレーザードプラ血流計(LDPM)と経皮酸素/二酸化炭素分圧(tcPO2/tcPCO2)を同時測定が可能な装置である.