バスキュラー・ラボ
Volume 4, Issue 4, 2007
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特集
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- 不安定プラークの画像診断
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- Basic
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不安定プラークの病理
4巻4号(2007);View Description Hide Description動脈硬化は3 つの病変に大別できる.脂質沈着を伴う粥状硬化症,筋型動脈の中膜に輪状の石灰化をきたす中膜石灰化症,細小動脈壁の肥厚・内腔の狭窄をきたす細小動脈硬化症である.冠動脈や頸動脈,四肢の動脈で認める硬化性病変の主体は粥状硬化症であり,形態学的に多くの共通点を見出すことが可能である.近年,心筋梗塞,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症(atherosclerosis obliterans:ASO)などの心血管病の多くは,粥状動脈硬化巣の破綻(破裂とびらん)により血栓が形成されて発症することが明らかとなり,これらの疾患がアテローム血栓症(atherothrombosis) と総称されている.粥状硬化症の発生,進展およびアテローム血栓症の鍵を握っているのは血管内皮機能障害や血管壁における慢性炎症反応である.その原因は完全には解明されてないが,糖尿病,高血圧,高脂血症などの因子の集積が重要であると考えられている.本稿では,粥状動脈硬化症の進展とプラークの不安定化,そして合併症であるアテローム血栓症の発症メカニズムについて,病理学的立場から概説する. -
不安定プラークの分子機構
4巻4号(2007);View Description Hide Description急性心筋梗塞は狭窄度の軽度な血管がしばしば責任血管となり発症することから,プラークの破綻に基づく血栓形成がその基本的な原因であることが明らかにされ,不安定狭心症,突然死を含む急性冠動脈症候群の概念が確立してきた.それとともに,最近までに動脈硬化の分子機構の理解の進歩とともにプラークの形成から破綻に至る分子機構が次第に明らかにされてきた.冠動脈硬化の主要な危険因子である高脂血症,糖尿病,高血圧は,血小板の活性化,血管内皮細胞の機能異常,および単球・マクロファージの活性化を引き起こし,初期病変が形成され,次第にプラークのサイズは増大する.内皮下のマクロファージは腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α: TNF-α)やIL1βなどの炎症性サイトカインやMMPs(matrix metalloproteinase,マトリックスメタロプロテアーゼ)を産生・分泌する.これらの因子は血管平滑細胞の活性化を惹じゃっ起するとともに,線維性被膜内のコラーゲンの分解を促進する.それによって,プラークが脆弱化し,破裂に至ると考えられている.本稿ではこうした過程に関与する分子や遺伝子を中心に解説する. - Diagnosis
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頸動脈不安定プラークの可視化
4巻4号(2007);View Description Hide Description近年,心筋梗塞や脳梗塞の発症機序に血管の狭窄度だけでなく,“不安定”プラークの破綻とそれに伴う血栓形成が大きく関与することが明らかとなり,画像診断においても血管の狭窄度だけでなく,いかに不安定プラークを可視化するかが注目されている1).頸動脈は体表近くを走行し,また拍動の影響も少ないため画像診断に適する血管であり,脳梗塞の原因精査だけでなく,全身の血管病変のスクリーニングにも利用されている.不安定プラークの画像診断では,血管の狭窄度を測るだけでなく壁の状況(プラーク性状)を正確に描出することが望まれ,多くのモダリティで研究が行われている.本稿では,不安定プラーク診断としての評価が確立されつつあるMRI(magnetic resonanceimaging)を中心に,そのほかの画像診断としてX 線CT(computed tomography),エコー,PET(positron emission tomography)について解説する. -
冠動脈不安定プラークの可視化
4巻4号(2007);View Description Hide Description急性冠症候群は,不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓突然死を総括的に総称する疾患概念である.突然発症し生命予後を脅かす重篤な病態である.冠動脈の粥じゅく状硬化プラークの破綻・びらんとそれに続発する血栓形成による急性の冠動脈閉塞が共通する病態である.現時点でその発症を予知予測することは不可能である.しかし,破綻をきたす可能性の高い不安定プラークの病理学的特性が解明されたことから,画像による早期診断や予知できる可能性が出てきた.本稿では急性冠動脈の発症機序と画像診断の可能性に関して述べる. - Illness
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不安定プラークと炎症マーカー
4巻4号(2007);View Description Hide Description心筋梗塞や脳梗塞といったアテローム血栓症の発症にアテロームプラークの不安定化,破綻が密接に関与していることが明らかになっている.アテロームプラークの進展,破綻には脂質沈着だけではなく,単核球,マクロファージをはじめとした各種炎症細胞が寄与していることが示されている.不安定化プラークの評価法としては,血管内視鏡,超音波,MRI,CT,FDG-PET など各種の手法が用いられている.一方,生体内での低レベル炎症機転の評価法として,高感度CRP 濃度(hs-CRP)測定をはじめとした各種炎症マーカーの心血管イベント予測因子としての有用性が複数の臨床疫学研究から明らかとなっているが,流血中の炎症関連因子の由来については明らかでない場合が多い.本稿では不安定プラークとしておもに頸動脈アテロームプラークに焦点を絞り,炎症マーカー濃度測定の意義をプラーク不安定化の観点から解説してみたい. -
不安定プラークと血小板活性化マーカー
4巻4号(2007);View Description Hide Description動脈硬化の存在を基盤とし,動脈硬化巣の破綻とそれに引き続く血小板の集積により血管が閉塞されて発症する疾患は,臓器にかかわらずアテローム血栓症(atherothrombosis)と総称される1).アテローム血栓症には心筋梗塞,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症が含まれ,動脈硬化の進展とそれに伴う内皮細胞傷害と血栓形成という発症メカニズムが共通している.血小板は,動脈硬化巣の形成に関与するとともに血栓形成の主体を成し,アテローム血栓症の発症に総合的な役割を果たす.血小板活性化のメカニズムが分子レベルで解明されるのに伴い,血小板活性化状態を鋭敏に反映する新しいマーカーの測定が可能となり,アテローム血栓症における変動が検討されている. - Treatment
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頸動脈プラークの安定化へのアプローチ
4巻4号(2007);View Description Hide Description頸動脈の不安定プラークに対する治療・安定化,これは脳卒中の臨床医が病棟や外来で最善の治療を尽くそうとして日々奮闘している課題である.頸動脈局所で生じた不安定プラーク破裂は脳梗塞という究極の破綻的事象に直結する.脳梗塞により発生した片麻痺,失語・失認,認知症などの症状は,そのまま固定すればきわめて難治性であり,本人のみならず周りの家族をも落胆させ,悲観に暮れさせるものである.医師としてできることは,不安定プラークを安定化させる,不安定プラークの根源である早期動脈硬化を予防することになろう.本稿では,われわれが日常臨床で行っている,不安定プラークが引き起こした脳梗塞における抗血栓療法を軸とした,急性期治療,亜急性期のプラークへの血管治療,および不安定プラークに至らぬための動脈硬化初期からの進展抑制の治療,以上の3 コースを案内したい. -
冠動脈プラークの安定化
4巻4号(2007);View Description Hide Description急性冠症候群(acute coronary syndrome :ACS)は,急性心筋梗塞,不安定狭心症,心臓突然死を含む病態であり,その原因として不安定プラーク(vulnerable plaque)が関与していることが多い. 不安定プラークのプラークの破綻(plaque rupture),または,プラーク表層のびらんにより,血管内腔に血栓が形成され著しい内腔狭窄,完全閉塞を突然起こす.現在,不安定プラークの安定化を期待できる薬剤としては,表1 に挙げたものがある1).
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連載
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- 決め手の一枚
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総頸動脈血流の左右差を診る左内頸動脈閉塞症例
4巻4号(2007);View Description Hide Description症例: 68 歳 男性高血圧,高脂血症,前立腺がん前立腺がんの術前検査として高血圧,高脂血症があることより頸動脈超音波を実施することになった症例です.総頸動脈血流を左右で同じ装置条件にて記録しているのですが,血流波形と拡張期血流に左右差があるようです.検査を進めていくうちに,左内頸動脈閉塞症例であることがわかりましたが,過去に脳梗塞を発症した既往のない“無症候性内頸動脈閉塞症”でありました(図1-1). - 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座 −血管エコー職人を目指して−
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プリセットについて
4巻4号(2007);View Description Hide Description超音波装置の性能を十分に出し切って使用しているユーザーは,あまり多くはないであろうと思われる.超音波のプリセット次第で診断能力が変わることは皆が認識している.しかし,今使っているプリセットが最良であるのかについては検証していないかもしれない.今回は手持ちの装置や新規導入の装置をもう一度見直してもらうきっかけになればと思い,簡単にできるプリセットの検証方法について記述する. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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動きに注目してみよう
4巻4号(2007);View Description Hide Descriptionエコー検査は画像診断である.しかし,静止画で比較するとCT やMRI などの画像診断法のほうがはるかに説得力のある画像を提供できる場合が多い.胸腔内の血管などはとくに超音波には分が悪い.超音波が向いていない部位では必要以上に時間をかけずに,ほかの方法では検出が困難な病変について評価することを主目的に検査を行う.では,超音波だからこそ得られる情報とは何かというと,血行動態の把握と動きを評価することである.今回は動きを見るための準備と,もたらされる情報について解説をしてみることにする. - 微小栓子シグナルの臨床応用
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人工弁置換術後患者におけるHITS/MESの意義
4巻4号(2007);View Description Hide Description今回の検討は,人工弁機能不全症と診断された患者のHITS(high intensity transient signal)/MES(microembolic signal)の周波数解析を行うことにより,人工弁機能不全の原因を推測し,的確な治療方針を決定できる可能性を報告する. - 血管疾患診療ガイドライン−血管疾患診療の際に知っておくべき基礎知識−
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肺高血圧症
4巻4号(2007);View Description Hide Description肺高血圧とは肺動脈圧が異常に亢進した状態を言う.生理学的に肺毛細管よりも肺動脈側に起因する肺動脈性と肺静脈側に起因して肺高血圧に至る肺静脈性に分類される.2003 年6 月にイタリアのヴェニスで第3 回世界肺高血圧シンポジウムが開催され,肺高血圧症の分類が提唱された(表).今回はそのなかの第一群にあたる肺動脈肺高血圧症について述べる.原発性肺高血圧症は原因不明の肺動脈肺高血圧症と定義される疾患である.膠原病において幾つかの病型の肺高血圧の合併が見られるが,なかでも膠原病性肺高血圧症は原発性肺高血圧症とほぼ同様の組織所見を呈し,自然経過も類似している. - 血管疾患の薬剤解説
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プラスグレル
4巻4号(2007);View Description Hide Description高齢化が進行している先進工業諸国では,心筋梗塞・脳梗塞に代表される主要臓器灌流血管の動脈硬化を基盤とした血栓性疾患であるアテローム血栓症の有病率が増加している.血流の豊富な動脈系では血栓形成の初期段階において血小板が必須の役割を演じるため1),抗血小板薬の適応となる症例が増加している.古くから使われていたアスピリンがいまだに最も広く使用されている抗血小板薬であるが,アスピリンによるアテローム血栓症の発症予防効果は高々25 %にすぎない2,3).そこで,アスピリンに勝る有効性を有する薬物が模索された. - 血管診断の医用機器
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中心血圧を推定する血圧計HEM-9000AI
4巻4号(2007);View Description Hide Description大規模臨床試験A S C O T - C A F E (TheAnglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Conduit Artery Function Evaluation)の報告1)により,中心血圧は上腕血圧とは異なる独立した予後予測因子として注目されている.本稿では,中心血圧推定機能を搭載したオムロン自動デジタル血圧計H E M -9000AI の脈波測定機能と中心血圧推定方法について紹介する. - Topics
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Augmentation index値とは
4巻4号(2007);View Description Hide Description左室の収縮によって大動脈に血液が拍出されると,大動脈壁に対して血圧が形成される.血流とともに血圧も血管に沿って伝播する.血流波,血圧波は血管の分岐部や,インピーダンスの異なるところで反射し,逆方向に伝播され,戻ってくる.図1 は,大動脈における血圧波形と血流波形を示しているが,2 つの波形の違いは,反射波により説明される.圧は,反射波により増強されるが,血流は反射波により減弱する.したがって,両者の波形を比較することで,反射波の到達時点と,前向き波を知ることができる. - 実践! 血管エコー検査シリーズ −どう撮り,どう読むか?
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経頭蓋超音波カラードプラ:臨床応用
4巻4号(2007);View Description Hide Description経頭蓋超音波カラードプラ法(TranscranialColor-coded Doppler Sonography : TCDS)は,さきに開発された経頭蓋ドプラ(transcranialDoppler : TCD)検査と同様に,acoustic bonewindow(図1)を介し,おもに頭蓋内の動脈の観察を行う方法である1,2).TCD との違いは,acoustic bonewindow からB モードで頭蓋内の構造を描出し,これにカラードプラフローイメージとして頭蓋内血管を2次元的に観察することができることである.さらに,TCD と同様に血流速度を測定することができるうえに,血流に対するドプラ入射角度で血流速度を補正することにより,信頼性のある血流速度の絶対値を得ることができる(図2, 1).また,TCDS は特殊な装置の必要がなく,腹部超音波や心臓超音波で通常用いられる超音波装置を使用して検査することができるため,頭蓋内病変,とくに頭蓋内血管病変を,簡便に詳しく評価することができる(図3).本稿ではTCDS の臨床応用について解説する. - CVT認定試験情報−Clinical Vascular Technologistへの道−
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CVT試験を振り返って/CVT誕生の経緯
4巻4号(2007);View Description Hide Description第1 回CVT 認定試験の受験者は,臨床検査技師が54 名,放射線技師3 名,看護師3 名の60 名であった.私は3 名の看護師のうちの1 名であったが,15 年ほど前に看護の仕事から離れ,血管無侵襲検査に携わってきたので最近の看護を知らない.したがって今回の受験は,看護師でありながら血管検査を行っている技師のような立場で臨んだ.職種によって血管疾患を有する患者さんとのかかわり方が異なるなかで,また第1 回だということもあり,受験に向け何をどう勉強したらいいのか手探りであった.一応はCVT 認定講習会の内容や資料,参考図書を勉強していった.試験前日の宿では,臨床検査技師の同僚2 名とお互いに問題を出し合ったが,記憶がいかにあいまいかを思い知らされ,焦ったものであった.