バスキュラー・ラボ
Volume 5, Issue 2, 2008
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特集
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- 腎臓とバスキュラー・ラボ
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腎臓病を知る
5巻2号(2008);View Description Hide Description腎臓病学はわかりにくいと言われることが多い.その理由のひとつは,治療を進めるにあたって臨床診断と病理診断の両方が必要な場合があり,名称が入り組んでいることである.また,慢性腎疾患の患者を末期腎不全(透析)に至らせないための治療や,透析導入後の心血管イベントを防ぎ生活の質(quality of life:QOL)を改善させるための治療が必ずしも一致していないことが挙げられる.診断にあたっても,検尿や血液検査・病理像などから総合的に決定され,循環器内科学のようにさまざまなパラメーターで割り切れないなど定量的でない点が認められる.このように複雑な面を有した腎臓病であるが,昨今の透析患者の増加や腎機能低下が心血管病患者の予後に関連する点などから,その原因にかかわらず腎の異常を示す慢性腎臓病(chronickidney disease:CKD)という名称で評価され,注目されるようになってきている.本稿では,おもに慢性腎臓病について概説する. -
人工透析と移植について
5巻2号(2008);View Description Hide Description腎移植は慢性腎不全に対する唯一の根治治療であり,人工透析療法に比べ高いQOL(quality oflife)をもたらすが,実際には年齢,合併症の有無,献腎の需要と供給のバランスにより治療法が決定されているのが現実であり,わが国では透析療法,とくに血液透析が腎代替療法の第1選択になることが多い.しかしながら慢性維持透析患者はその合併症として心血管系病変の頻度が高く,その予後に及ぼす影響が大きいことは周知の事実である.ここでは現在の人工透析の現況と移植における展望,合併症としての心血管系病変の関連について概略を紹介したい. - Illness
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血管疾患と腎機能障害
5巻2号(2008);View Description Hide Description2006 年のわが国の新規透析導入患者数は,約35,000 人で,2006 年末の患者数は26 万人を突破し,国民の500 人に1 人が透析療法施行中であり,その総数は年々増加の一途をたどっている1).最近では,2002 年に米国腎臓財団(National KidneyFoundation:NKF) より慢性腎臓病(chronickidney disease:CKD)の概念が提唱され,腎臓疾患が注目されている. 本稿では,腎硬化症(nephrosclerosis),腎梗塞(renal infarction), 腎動脈瘤(renal arteryaneurysm)という腎血管系障害のなかで特殊な病態として挙げられるコレステロール塞栓症,また近年増加傾向にある造影剤腎症について述べる.その他の血管疾患としては,腎動脈狭窄症(腎血管高血圧症),全身性血管炎(大動脈炎症候群,結節性多発性動脈炎,ウェゲナー肉芽腫症,顕微鏡的多発動脈炎など),血栓性微少血管症(溶血性尿毒症症候群,血栓性血小板減少性紫斑病など)など,さまざまな病態が腎臓に障害をもたらす.これらについては他稿および成書を参考にしていただきたい. -
他疾患との関連
5巻2号(2008);View Description Hide Description血液透析患者の増加の背景にはその原疾患が原発性糸球体腎炎よりも,全身性疾患に由来する患者数の増加が寄与するところが大きい.そのなかでも年々増加の一途をたどっている,糖尿病性腎症の増加が大きな問題となっている.本稿ではこの糖尿病性腎症について概説する. - Diagnosis
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腎血管性高血圧症の診断
5巻2号(2008);View Description Hide Description超高齢化社会を迎えつつあるわが国では,動脈硬化性の疾患の増加が顕著である.腎疾患においても糖尿病性腎症の増加は言うまでもないが,高血圧や動脈硬化進行に伴う腎硬化症は年々増加している.腎動脈の粥じゅく状動脈硬化による腎動脈狭窄症(renal artery stenosis:RAS),そしてこれが原因で血圧上昇をきたす腎血管性高血圧症(renovascular hypertension:RVHT)や腎機能の悪化を示した状態である,虚血性腎症(ischemicnephropathy)はさらに増加してきていると考えられる. 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の診断を呈する患者のなかにも,多くこれらの腎動脈関連の病態が含まれると考えられる.腎臓疾患を扱う医療従事者のみならず,広く血管疾患に関与する者はその存在を意識するべきである.本稿ではRAS,RVHT の診断についてわれわれの施設での考え方を交え概説する. -
腎動脈狭窄症のエコー検査技術:描出のテクニック
5巻2号(2008);View Description Hide Description腎動脈狭窄症の超音波診断は,カラードプラ法で腎動脈を描出し,血流速度測定で狭窄の有無や程度を診断する.腎動脈の描出率は超音波装置の設定や消化管ガス,体形により左右されるが,検査を工夫することで腎動脈描出率や診断精度の向上につながる.本稿では,腎動脈検査テクニックとそのポイントについて述べる -
腎機能評価とシャント評価
5巻2号(2008);View Description Hide Description近年,慢性透析患者は26 万人を超え,毎年約10,000 人前後のペースで増加傾向にある.またその予備軍である慢性腎臓病(chronic kidneydisease:CKD) も増加傾向にあり, 成人人口の18.7%が糸球体濾過量(glomerular filtrationrate:GFR)60mL/min/1.73m2 未満という報告もある1).CKD は初期にはとくに症状がないものの,ハイリスク群の患者では心血管疾患(cardiovascular disease:CVD) の発症率が加速的に高くなり,たとえばCKD ステージ2 の患者では, 末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)に至るよりも,CVD による死亡がはるかに多いという報告もある2). 透析導入における一番の原因疾患である糖尿病では,CVD のリスクが上昇することも含め,CKD とCVD は切っても切れない関係にある.そこで本稿ではCVD に関連した腎機能の評価,および逆に透析導入後に重要となる血管疾患,とくにシャントの評価について解説したいと思う. -
市中病院でのストラテジー
5巻2号(2008);View Description Hide Description2006 年の日本透析医学会の統計では,わが国の透析患者は全国で26 万4,473 人を数え,その数は糖尿病性腎症の急増を背景に毎年10,000 人前後増加している.以前はわが国の腎臓病教育や診療は慢性糸球体腎炎,慢性腎不全を中心に行われており,とくに糸球体腎炎では各組織型や病期によりそれぞれのエビデンスがあり,腎臓専門医でなければ診療が困難な側面があった. しかしながら,近年の腎臓病の背景として糖尿病や高血圧などの生活習慣病による動脈硬化性疾患を基礎疾患とする腎臓障害や虚血性腎症などの増加や,また2002 年の米国腎臓財団(NationalKidney Foundation:NKF)が提唱した慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の概念を受けて,わが国でも2007 年にCKD 診療ガイドライン1)が示されてから,実際にCKD に接する機会の多い一般の実地臨床家にとっても腎臓診療は無視できないものになってきている.最近はCKDの概念が広く啓発され腎臓専門医でなくとも意識改革が進んでいるが,現実は市中病院・開業医レベルではいまだに血清クレアチニン値のみが腎機能の判断指標であり,CKD ステージ3 程度までは何の対策も施されずに放置されているケースが多い. 本稿では,とくに虚血性腎症や腎血管性高血圧などの動脈硬化性疾患を中心に腎臓診療を専門としない市中病院やかかりつけ医など実地臨床家のCKD に対する診断と治療,そして専門医への紹介のタイミングについて述べる. - Treatment
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薬物療法
5巻2号(2008);View Description Hide Description腎の血管性障害は,大・中・小の腎血管の部分的狭窄あるいは完全閉塞による血流の減少による腎機能不全を引き起こす.腎の血管性障害は,その成因によらず高血圧との関連が深い.本稿では,腎の血管性障害の代表的疾患である,腎血管性高血圧の薬物療法について自験例を交えて解説し,その他腎梗塞や腎硬化症の薬物療法についても触れる. -
腎動脈狭窄症に対する経皮的カテーテル治療
5巻2号(2008);View Description Hide Description現在,急速な高齢化と生活習慣の欧米化に伴い動脈硬化性疾患の診断・治療の重要性は高まっている. 動脈硬化性腎動脈硬化症は全人口の0.1 〜0.3%と推定され,これによる腎血管性高血圧の割合は全高血圧の1 〜 6%と報告されており,以前より2 次性高血圧の原因のひとつとしての認識があった1 〜 5).しかし近年,腎機能が心疾患患者の大きな予後決定因子であること,たとえ程度の軽い腎機能障害でも心血管イベントのリスクになることも報告されており6),適切な腎動脈狭窄症の診断,治療適応判断が必要になってきている. 腎動脈狭窄症の診断の詳細については他稿に譲り,本稿では腎動脈狭窄症に対しての経皮経管的腎血管形成術(percutaneous transluminal renalangioplasty:PTRA)の適応,および治療の現状について解説する.
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新連載
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- 松尾塾入門−CVT・脈管専門医の育成に向けて
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「初診,忘るべからず」まず,心構えについて
5巻2号(2008);View Description Hide Description脈管疾患には,動脈・静脈・リンパ管の疾患が含まれる.それら多岐にわたる脈管疾患を効率よく,かつ的確に診断し,治療できることが期待されている.その役割として要請されることのなかには,CVT(clinical vascular technologist,血管診療技師)や脈管専門医の育成がある.また医師と技師とのより良いコラボレーションを高め,臨床に活かされることも重要である. 本連載は,内科医として血管無侵襲診断法の普及に取り組みながら,脈管疾患を約4 半世紀にわたって診つづけてきた自らの経験と知識を,次世代に向けてのメッセージとして受け止めていただければ幸いである.
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連載
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- 決め手の一枚
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ナットクラッカーサイン
5巻2号(2008);View Description Hide Description繰り返す血尿の原因精査のため超音波腹部検査を行いました.まず,左腎をB モード法で観察しました.一見すると軽度の水腎症(図1)に見えます.しかしカラードプラ法で観察すると,拡張して腎盂様に見えていたものは,拡張した腎内静脈であることがわかります( 1).この左腎静脈拡張が,いわゆる“ ナットクラッカー(nutcracker,クルミ割り)サイン” によるものです( 2,3). - 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座−血管エコー職人を目指して−
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超音波診断技術を習得するための工夫
5巻2号(2008);View Description Hide Description近年臨床の場において,血管超音波検査の必要性が強く要求されており,それに呼応して血管超音波検査に関する成書も多数出版されている.しかし,超音波検査の手順に関する知識のみでは十分な診断に至らない症例にも遭遇することがある. 今回は血管超音波検査を行うにあたり,超音波検査に関する知識以外にも知っておくべき基本事柄を中心に述べていく. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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立体的にイメージする
5巻2号(2008);View Description Hide Description昨今,超音波診断装置の世界にも3 次元画像の進出は目覚ましいものがあり,近未来には鮮明な3 次元画像で観察できる領域が増えることが予想される.しかし,現在のところ2 次元画像を検査者のイメージのなかで3 次元に組み立てながら診断を進めている現実がある.検査・診断技術のなかでこの3 次元構築が不得意であると,大きなハンディキャップを背負うことになる.2 次元画像から読み取れる画像情報を解析するだけではどうしても,診断に苦慮する症例が血管エコーの領域にも存在する.今回は,血管疾患を立体的にとらえるためのポイントについて記述する. - 微小栓子シグナルの臨床応用
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冠動脈バイパス術におけるHITS/MES の意義
5巻2号(2008);View Description Hide Description1990 年代に人工心肺装置(cardiopulmonarybypass:CPB)を用いた冠動脈バイパス術(coronaryartery bypass grafting:CABG)後に,高次脳機能障害が高頻度で起きていることが相次いで報告された1 〜 4).その原因としては,大動脈遮断や送血管の挿入など粥じゅく腫のある可能性が高い大動脈の操作(manipulation)を必要とするCPBの使用が考えられた.そのためCPB を用いない心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump coronaryartery bypass grafting:OPCAB)が急速に広まった. しかしOPCAB 症例が増加するにつれ,OPCABでも高次脳機能障害を含めた脳障害が起きることが判明し,CPB を用いた通常のCABG の場合と脳障害の頻度は変わりないという報告さえある5).その原因としてOPCAB では心臓を脱転して行うため,そのときに上行大動脈に伸展や屈曲が起きて大動脈の粥腫が飛散する可能性,および脱転時に血圧低下が起きやすいことから脳灌流低下の影響などが考えられているがいまだ不明な点も少なくない. 一方,経頭蓋ドプラ法(transcranial Doppler:TCD)により,脳動脈に飛来する微小な血栓などの栓子を微小栓子シグナル(HITS[highintensitytransient signal]/MES[microembolic signal])として検出が可能である6 〜 8).開心術中のHITS/MES モニタリングにおいて,HITS/MESの性質は大きく気泡と固体の微小栓子に分けられ,周波数や持続時間からそのシグナルが気泡,または微小な固体を示すのかある程度判別が可能である9).固体微小栓子が塞栓子として脳に障害を与えるのとは異なり,微小気泡が脳に与える障害は別機序による可能性がある. そこでCPBを用いる手術では微小気泡が回路に混入する可能性があるため,CABG群とOPCAB群の周術期の脳障害を比べるには,HITS/MESの成因を区別して検出することが必要であると考えられた.そこでCABG 群とOPCAB 群に分けて,HITS の総数とそれに占める固体の微小栓子の割合を検討している. - CVT認定試験情報−Clinical Vascular Technologistへの道−
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CVT認定試験予想問題・「血管診療の発展のために」
5巻2号(2008);View Description Hide Description血管診療技師(clinical vascular technologist:CVT)とは 日本脈管学会,日本血管外科学会,日本静脈学会の3 学会により組織された血管診療技師認定機構の認定資格であり,CVT の業務のなかで許される業務範囲は国家資格の範囲を超えるものではない.しかし,脈管疾患領域の診療にコメディカルとしてかかわる専門家として認定される.増えつづける血管疾患を効率的に正しく評価するためのCVT の必要性が高まってきている. - 実践!血管エコー検査シリーズ−どう撮り,どう読むか?
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腎動脈狭窄症のエコー診断:インターベンションへの活用
5巻2号(2008);View Description Hide Description腎動脈狭窄症(renal artery stenosis:RAS)の原因には粥じゅく状硬化性,線維筋性異形性,大動脈解離,高安動脈炎などがあるが,動脈硬化による粥状硬化性腎動脈狭窄症(atherosclerotic renalartery stenosis:ARAS)が全体の90%を占め最も多く(図1),次に線維筋性異形性症(fibromusculardysplasia:FMD)が続く(図2)1). ARAS は腎動脈本幹の高度狭窄による低灌流,腎内動脈硬化,腎実質障害,粥腫塞栓によって複雑な病態を示し2),腎血管性高血圧だけでなく,虚血性腎症から腎機能障害をもたらす.さらには心不全や不安定狭心症の原因になることが明らかにされている3).そして最終的には,心血管イベントや生命予後にも関与する4,5).その反面,高度なRAS を呈していても高血圧や腎機能障害を認めない,いわゆる無症候性またはincidentalARAS が存在することも明らかになってきた. RAS に対しては,経皮経管的腎血管形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)がバルーン拡張術による腎血管性高血圧の治療法として最初に報告された6).若年女性に多いとされるFMD では,バルーン拡張が有効である7).これに対し,粥状硬化に起因するARASは,病変が腎動脈入口部病変であり粥状硬化という病変性状のために,急性閉塞,動脈解離,急性リコイル,粥腫塞栓などの合併症の発生が予想される.このことから,腎動脈ステント術の有用性が確立されつつある8). - 血管診断の医用機器
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胸痛マーカー測定用簡易迅速測定装置 コバスh 232
5巻2号(2008);View Description Hide Description近年,臨床の現場では,胸の痛みを訴える患者の診断の一翼を担うものとして,心筋トロポニンT に代表される生化学マーカーが広く用いられるようになってきた.当社では,この生化学マーカー群を胸痛マーカーと位置付け,迅速に検査結果を必要とする臨床現場での要望に応えるべく製品を開発.そこで今回紹介する簡易迅速測定装置コバスh 232は,簡易で迅速にこの胸痛マーカーが測定できる優れものだ(図1).