バスキュラー・ラボ
Volume 5, Issue 3, 2008
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特集
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- 下肢静脈瘤とバスキュラー・ラボ
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- Basic
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疫学・病因
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈瘤は,静脈弁不全による血液の逆流で,静脈内圧が上昇し,静脈が拡張,屈曲,蛇行を起こしたものである.表1 のごとく1),人種および遺伝的因子のほか,性別,妊娠,職業,年齢,食生活,便通,体重,身長,衣服,肺疾患など多数の危険因子が関与して発症したものを一次性静脈瘤と言い,ほとんどがこのタイプである.その発生機序については十分に解明されているとは言えない. 一方,二次性静脈瘤は,深部静脈血栓症(deepvein thrombosis:DVT)などで深部静脈の還流が阻害されると,交通枝が弁不全を起こし,それを介して表在静脈が側副血行路となり,血流が増大,圧が上昇して静脈瘤になる(血栓後症候群).そのため下腿交通枝から出現し,上方に波及する.動静脈瘻,深部静脈形成不全,欠損による静脈瘤もこのタイプになる. -
静脈血栓の関連から見る
5巻3号(2008);View Description Hide Description血栓の成因として内膜損傷,血流停滞,血液凝固亢進(ウィルヒョウの3 因)が有名であるが,その詳細なメカニズムが次第に明らかにされてきている.それによって,静脈血栓を生ずる病態として血栓性静脈炎(thrombophlebitis)と静脈血栓症(phlebothrombosis)があるが,両者は同一の病態で時期が異なるだけと考えられるようになってきている.すなわち,前者と後者は相互に作用し合いながら,静脈血栓を発症,進展させていると指摘されている. そこで本稿では,㈰静脈血栓と内膜損傷(炎症)の関連,㈪静脈血栓と血流停滞の関連,㈫下肢静脈瘤と静脈血栓に分けて述べていく. - Illness
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下肢静脈の生理
5巻3号(2008);View Description Hide Description静脈系とは脈管系のうちで毛細血管より下流に位置し,血液を心臓へと還流する血管の総称である.静脈は対応する動脈と比べ内径が大きく,壁厚はきわめて薄いので,循環血液量の多くの部分(約70%)が静脈系に存在する1).それゆえ,静脈は内圧やコンプライアンスのわずかな違いによってもその容量を著明に変化させ,循環動態に大きな影響を及ぼす.このことから,静脈は機能的な側面より容量血管と別称される2). また,大静脈,門脈本幹,脳や内臓の静脈以外の部位では内腔に弁が存在し血液の逆流を妨げている.さらにこの弁の部位は“ たが” としても働き,血管の過伸展や外力による閉塞を防ぐ役割も持つ3).体循環のなかで静脈系は低圧系をなし,静脈還流は動脈血圧に由来する圧勾配のみならず,重力(体位,加速度),心収縮に伴う吸引力,呼吸ポンプ,筋ポンプによっても強く影響される4). 静脈系の画像診断を行ったり,静脈疾患の治療方針を検討する際には,これら静脈系の特性と全身の循環における役割とを理解することが不可欠と考えられる.そこで,本稿では主として生理的な状態における静脈系の機能について言及したい. -
下肢静脈瘤の病理
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈瘤は,長時間の立ち労働および固定座位(運転手など),また妊娠や加齢変化などを原因として,下肢の表在静脈が異常に拡張し,屈曲,蛇行,硬化した状態である.静脈の拡張により,さらに表在静脈の弁機能不全を伴い静脈圧が上昇する.瘤形成の部位に壁在血栓を形成することから静脈血栓症をきたしやすく,この血栓が肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)の素因となるため,臨床的に重要である.臨床所見などは他稿に譲るとして,ここでは組織所見を中心に解説していく. -
静脈血栓後遺症との関連
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈瘤には, 一次性と二次性があり, 後者が静脈血栓症と関連がある.静脈血栓症は年に1,000 人中1 人に発生する1)と言われ,近年増加傾向にあり,それに続発する静脈血栓後の後遺症も増加している.今回は,静脈血栓後遺症と下肢静脈瘤の関連について述べる. - Diagnosis
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下肢静脈瘤の身体所見と機能検査
5巻3号(2008);View Description Hide Description主訴が静脈瘤に起因するか否かを念頭に置きながら,治療適応および治療法を決定する観点から診察することが重要である.また遠隔期成績から各治療法の妥当性を評価できるように,身体所見に関する必要十分な情報を記載しておく. -
血管エコーによる画像診断
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈は,表在静脈と深部静脈,および両者を交通する交通枝(穿通枝)に大別される.これらの静脈に弁不全が生じ,下肢に静脈血が逆流やうっ滞した結果,表在静脈に不規則な拡張および蛇行を生じた状態が下肢静脈瘤と定義される. 下肢静脈瘤の成因としては以下に大別される.㈰弁不全による逆流がその本態である一次性静脈不全(primary valvular insufficiency:PVI)によるもの.㈪血栓性閉塞およびその再疎通に伴う,弁破壊による逆流が主体の深部静脈血栓後遺症(postthromboticsyndrome:PTS)によるもの. したがって,下肢静脈瘤を診断する場合,その原因となっている静脈弁不全の診断を行うことが重要である. 下肢静脈瘤の評価はこれまで静脈造影がゴールドスタンダードであったが,1980 年代の半ばごろより無侵襲な下肢静脈エコーが静脈不全症の評価に導入されて以来1 〜 3),ほぼ静脈不全評価の第一選択となっている(図). -
血管エコーを除く画像診断
5巻3号(2008);View Description Hide Description診断の果たす役割は限られている.他稿で述べられるように,静脈瘤の診断は視診と触診で容易に行え,治療方針の決定に必要な静脈瘤の広がりや不全交通枝(穿通枝)の有無,部位などは血管エコーが有用である.血管エコー以外の画像診断に求められるのは,静脈瘤が一次性か二次性かの判断である. 下肢静脈の画像診断には, 静脈造影,MRvenography(MRV),CTvenography(CTV)がある.ここでは,これらの検査法の長所・短所を述べ,静脈瘤とその他の静脈疾患の画像を提示していく. - Treatment
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治療選択の指針と硬化療法の応用
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈瘤の治療を進めるにあたり,本疾患は良性疾患であることをつねに念頭に置いて治療方法を考え,簡単で患者への負担が少なく,かつ再発の少ない治療法を選択する必要がある.治療の対象になるのは基本的に一次性静脈瘤である. 治療を考えたり,その方法を選択する前に,まず静脈瘤の病歴・現在の症状をしっかり把握・理解し,他の疾患からくる症状や病状を鑑別,除外しておくことが大切である. -
外科治療:結紮療法とストリッピング手術
5巻3号(2008);View Description Hide Description下肢静脈瘤の治療の歴史は非常に古く,紀元前までさかのぼることができる.その約3,000 年間の歴史のなかで,包帯による圧迫や静脈瘤の焼きごてによる焼灼しゃく,瀉血などのさまざまな治療法が試みられてきた.1860年代に科学技術の進歩により,硬化療法が始まった.しかし硬化療法が次第に過激となり,度を越した治療が行われることもあった.1890年代にはドイツのTrenderenburg が鼠径部で大伏在静脈の根部を結紮さつしたことにより,静脈結紮療法が始まり静脈瘤の原因に基づいた治療法が始まった.当時も今日と同様に静脈瘤の再発が問題となっていた.次いで1920 年代には,ストリッピングが行われるようになった.当時から結紮療法かストリッピング術かの論争が始まっていた.論争は現在でも続いており,おそらく決着が付かないと思われる. 今日では,手術治療以外に硬化療法や弾性ストッキングによる圧迫などが行われ,近年,レーザーや高周波による血管内治療(VNUS)も始まった.しかし,静脈瘤を根治させる治療法は開発されず,いまだ対処法的な治療法にとどまっている.静脈瘤は良性疾患であり,対処法的な治療法ゆえに根治を目指すのではなく,いかにうまくコントロールするかが重要である.
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新連載
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- モダリティーをきわめる—血管画像診断の適応と限界
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頸動脈・鎖骨下動脈(正常編)
5巻3号(2008);View Description Hide Description現在,血管疾患の臨床では,無侵襲診断法である超音波やCT,MRI を適宜組み合わせて診断が進められている.それは,当然のことであるが各モダリティーによって,また部位によっても得られる情報には差違があり,その特徴を理解したうえで検査を施行することは重要である. 本連載のねらいは,同じ血管や病変が各モダリティーでどのように描出されるのかを対比しながら,各モダリティーの特徴を理解していくことにあり,日常の臨床の場で少しでもお役に立てれば幸いである.また質問や疑問,ご意見などございましたらお寄せください.
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連載
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- 決め手の一枚
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血栓性静脈炎(大伏在静脈)
5巻3号(2008);View Description Hide Description症例:61 歳 女性 主訴:右大腿部の発赤,腫張,疼痛 30 年前から右下肢に静脈瘤があり未治療のまま経過していましたが,1 週間前より右大腿部の静脈瘤と一致して,発赤と腫張,疼痛が出現しD- ダイマー(D-dimer)6. 5μ/mL と高値を示していました.精査目的にて超音波検査を実施したところ,右大伏在静脈は大伏在−大腿静脈接合部〜大腿下部まで血栓閉塞していることがわかりました(図1). - 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座−血管エコー職人を目指して−
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超音波画像の成り立ち
5巻3号(2008);View Description Hide Description現状の超音波診断は,診断する対象領域や状況に応じて,最適に超音波装置を調整することで,その結果として高い診断能力を手に入れることができている.今回は,超音波診断装置の画像がいかに作り出されているのか,またその基本的な原理を簡単に紹介し,この原理を理解したうえで,超音波診断装置の有する性能を効果的に引き出す考え方を解説したい. - 血管エコー達人養成講座−スーパーテクニックからピットフォールまで−
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血流情報を利用する
5巻3号(2008);View Description Hide Description検査で得られる血流情報には,カラードプラで得られる二次元的な血流情報とパルスドプラで得られる流速情報がある.実際の検査ではこれらをうまく利用し,得られた情報を総合的に診断する必要がある. そこで今回は,うまく血流情報を得るための装置の条件設定や工夫,得られた血流情報を診断に利用する方法について実例を提示しながら考えてみたい. - 血管疾患診療ガイドライン−血管疾患診療の際に知っておくべき基礎知識
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膝窩動脈捕捉症候群
5巻3号(2008);View Description Hide Description膝窩動脈捕捉症候群(popliteal artery entrapmentsyndrome)は膝窩領域において,筋や腱,あるいは線維性組織の走行異常によって膝窩動脈が慢性的に圧迫を受け,血管の閉塞や狭窄をきたし下肢の血行障害を呈する疾患である.若年者における間欠性跛行の鑑別診断として重要で,1965年にLove とWhelan により膝窩動脈捕捉症候群として初めて報告された1). - 血管診断の医用機器
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エアープレチスモグラフィ APG?-1000システム
5巻3号(2008);View Description Hide Description静脈機能検査装置エアープレチスモグラフィ(air plethysmography,空気容積脈波法)APG . -1000 システム(図1)は,無侵襲にて下肢における慢性静脈疾患の生理機能的な部分を定量化(mL 表示)できる診断装置で,慢性閉塞,静脈弁逆流,下腿筋ポンプ機能および静脈圧亢進などの評価に用いる. 初期の開発目的は,慢性静脈疾患の患者に対する弾性ストッキングの効果を判定することであったが,1980 年代後半にChristopoulosとNicolaides らにより検査プロトコールが考案され,その後動静脈血流の有用な機能診断法として確立されたものである1). - 血管疾患の薬剤解説
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PPARαアゴニスト
5巻3号(2008);View Description Hide Descriptionペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxisomeproliferator-activated receptors:PPARs)は,核内受容体スーパーファミリーの一員である.脂質や糖代謝にかかわる遺伝子群の発現制御を行っており,PPARα,PPARδ(β),PPARγのサブタイプが同定されている. PPARαアゴニストであるフィブラート系薬剤は脂質異常症(最近は,高脂血症より脂質異常症という呼称が提唱されている)治療薬として,PPARγアゴニストであるチアゾリジン誘導体は糖尿病治療薬として臨床応用されている. わが国では,フィブラート系薬剤としてベザフィブラートとフェノフィブラートが臨床使用可能である.チアゾリジン誘導体については,わが国で唯一臨床使用可能な塩酸ピオグリタゾンが前回(Vascular Lab.Vol.5[1],2008)取り上げられているので,本稿では割愛することにする. - CVT認定試験情報−Clinical Vascular Technologistへの道−
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CVT 認定試験予想問題・CVT 受験を振り返って
5巻3号(2008);View Description Hide Description血管診療技師(clinical vascular technologist:CVT)とは 日本脈管学会,日本血管外科学会,日本静脈学会の3 学会により組織された血管診療技師認定機構の認定資格であり,CVT の業務のなかで許される業務範囲は国家資格の範囲を超えるものではない.しかし,脈管疾患領域の診療にコメディカルとしてかかわる専門家として認定される.増えつづける血管疾患を効率的に正しく評価するためのCVT の必要性が高まってきている.