バスキュラー・ラボ
Volume 5, Issue 4, 2008
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特集
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- 血管炎とバスキュラー・ラボ
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病理から見た血管炎
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管炎は,その言葉どおり血管壁,すなわち内膜から外膜のいずれかもしくはそのすべてに発生する炎症を言う.したがって,侵される血管の種類とその広がり,また炎症の性状により,きわめて多彩な病理所見を呈することになる.また,原因が不明で血管炎が独立して起こる特発性,一方,ほかの疾患に合併する続発性血管炎として分類でき,後者では自己免疫疾患などに,またウイルス感染や薬物のように原因が明らかな他疾患に合併する血管炎が含まれる.多くの血管炎はいまだ病因が不明であることから,包括的には血管炎症候群として理解すべきである.したがって,血管炎の分類ならびに診断は病理形態学的分類を基盤として行われることになり,正確な病理診断は治療選択と相まって臨床的にきわめて重要である.本稿では,原発性血管炎を中心に代表的な血管の病理学的特徴について,Chapel Hill Consensus(1994)1)で承認,提唱された分類に基づいて概説する.一方,動脈硬化,とくに粥じゅく状動脈硬化の発生,進展過程を慢性炎症の視点から理解する考えが一般的になっている.その根拠としては,マクロファージとT リンパ球浸潤に関連する内膜での炎症性サイトカイン・ネットワークに基づく炎症(免疫)・修復過程が,病変の成り立ちに関与していることが明らかとなり2,3),粥状動脈硬化を粥状動脈炎(atheroarteritis)と呼称する考えもある4). また,血管炎症候群,とくに大型血管炎ではしばしば粥状動脈硬化の進展病変を合併する. しかしながら粥状動脈硬化では,脂質代謝を基盤として発生する粥腫の形成を特徴とすることなどから,本稿で取り扱う血管炎は,動脈硬化とは区別することにする. - Illness
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血管炎と動脈硬化
5巻4号(2008);View Description Hide Descriptionすでに他稿において説明されてきているように,いわゆる「血管炎」の範疇ちゅうには,きわめて多種多様な疾患や病態が含まれ,その原因および炎症に侵される傷害部位はさまざまである1).血管炎という言葉を,文字どおりに解釈すると,血管壁を構成する内膜,中膜,外膜のいずれかに炎症性プロセスが生じれば,これにあてはまることになる.一方,近年の血管生物学の進歩により,「動脈硬化症」の成り立ちには,内膜における炎症反応が本質的にかかわっていることが明らかとなってきた.しかしながら動脈硬化症を血管炎であると理解することはありえない.では血管炎と動脈硬化症は,どのように異なるのか?あるいは何が似ているのか?これらを知ることは重要であると思われる.また,血管炎と動脈硬化症との関係をめぐるもう一つの問題点は,血管炎発症や消退後の動脈硬化性病変の併発頻度の高さである.本稿では,「血管炎」と「動脈硬化症」についての上記の問題点を踏まえつつ,その病理メカニズムの異同と,両者の関連性について,われわれの最近の研究成果を交えながら概説する. - Diagnosis
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血管炎の検査
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管は,心臓から出て分岐を繰り返して全身の臓器に分布した後,静脈系となり心臓に戻る血管系を形成している.血管炎の成因として,遺伝因子に感染症などさまざまな環境因子が加わり,免疫異常などをきたすことが考えられている.そして諸臓器に分布する血管に炎症をきたす結果,臓器障害が生じる.このため,血管炎の検査所見は以下の3つに大別される.㈰遺伝因子・環境因子・免疫異常などの血管炎の成因や誘因に関連するもの.㈪炎症に関するもの.㈫血管の炎症による諸臓器障害に関するもの.代表的な一次性血管炎には,㈰大動脈を傷害する高安動脈炎,巨細胞性動脈炎.㈪中・小型動脈を傷害する結節性多発動脈炎.㈫おもに毛細血管や細小動脈を傷害する顕微鏡的多発血管炎(microscopicpolyangiitis:MPA),ウェゲナー肉芽腫症,チャウグ- シュトラウス症候群(Churg-Strausss syndrome:CSS),ヘノッホ-シェーンライン紫斑病が(Henoch-Sch?nleinpurpura)ある.二次性血管炎には,ループス血管炎,リウマトイド血管炎(悪性関節リウマチ),血管ベーチェット病,クリオグロブリン血症性血管炎などがある. -
画像診断から見た血管炎
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管炎は,さまざまな大きさの動脈/ 静脈壁に生じた炎症が主たる病態となり,多彩な症状を呈する疾患群としてとらえることができる.画像診断が血管炎の診断において果たす役割は,罹患血管の部位や範囲を同定し診断を下す以外に,合併病変の有無の評価と病変の経時的変化の評価を行い,治療法を選択するための情報をそろえることにある.血管炎では中枢神経系,呼吸器系などを侵し画像診断の対象となる疾患も多く存在するが,本稿ではおもに画像で血管自体に変化が生じる疾患に的を絞って,実際の症例を供覧しながら血管炎における画像診断の実際を概説する. - Treatment
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血管炎の内科治療
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管炎とは血管壁に炎症をきたす病態の総称で,各疾患は罹患血管のサイズに基づき分類される.1994年のChapelHill分類では,10疾患の血管炎を大型血管炎,中型血管炎および小型血管炎に分類している(表)1).大型血管炎は,大動脈および四肢,頭頸部に向かう分枝の血管炎で,高安動脈炎と側頭動脈炎が含まれる.中型血管炎は,各内蔵臓器に向かう主要動脈とその分枝の血管炎で,結節性多発動脈炎と川崎病が含まれる.小型血管炎は,細動脈,毛細血管,細動脈の血管炎で,時に小静脈も傷害の対象となり,とくに顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎の3疾患は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antiody:ANCA) という共通の疾患標識抗体を有し,ANCA 関連血管炎と総称される. -
血管炎の外科治療
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管炎で外科的治療を必要とするのはバージャー病,高安動脈炎,血管ベーチェット病,炎症性腹部大動脈瘤などのいわゆる大型血管炎疾患である.外科治療の目的は,血管閉塞によって生じた臓器循環障害と動脈の拡張病変に伴う破裂や臓器障害を防止することである.
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新連載
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- ラボ探訪
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Vascular Labおじゃまします!
5巻4号(2008);View Description Hide Description2008年3月31日,京都大学医学部附属病院検査部内に超音波検査センターがオープンした.ニーズが高まる各診療科からの超音波検査を一元化させ,より効率のよい検査システムの構築を目指す.今後は,院内だけでなく院外からの研修も受け入れるなど人材教育にも力を入れていく.ハードだけでなくソフト面の充実も図り,将来は日本の中核に発展する可能性を秘めたラボを取材した.
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連載
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- 決め手の一枚
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- 初心者のためのバスキュラー・ラボ検査法講座
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血管エコー職人を目指して
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管疾患の診断には幾つかの検査法が用いられている.なかでも超音波検査法に対する関心の高まりには目を見張るものがある.超音波検査法では超音診断についての知識はもちろんのこと,血管疾患に関する知識や,ほかの検査法の特徴をも知っておく必要がある.今年で第3回目を迎えるCVT(Clinical VascularTechnologist,血管診療技師)試験には,それらの総合的な知識が要求される.また,実際に診断を行うためには,断片的な知識のみでは不十分であり,個々の情報を整理したうえで総合診断を行う力が要求される.CVTは血管,リンパ管などの脈管疾患を診断,治療するためのチームの主要な一員として活躍するために設立された専門認定資格である.今回は,CVT に望まれているような,総合診断能力について概説する. - 血管エコー達人養成講座
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スーパーテクニックからピットフォールまで
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管エコーには臨機応変な対応が要求されることが多い.同じように見える症例であっても,さまざまな条件によりエコー診断の難易度が異なる.通常は一般的な方法で診断を進めていくが,条件が悪ければ状況に合わせたアプローチ方法を選択することになる.今回は,悪条件下で診断精度を保つための手段について記述する. - モダリティーをきわめる
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血管画像診断の適応と限界
5巻4号(2008);View Description Hide Description前回は「頸動脈・鎖骨下動脈(正常編)」というテーマで,各モダリティーの特徴を交えながらそのポイントについて述べた.続く今回は,具体的な疾患を取り上げて各モダリティーをとらえていくことにする.鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome: SSS)は,鎖骨下動脈の閉塞,高度狭窄により,対側の椎骨動脈から患側の椎骨動脈を逆流し,上肢を灌流する際に椎骨脳底動脈の血流が不十分となることにより起こる症候群とされる.本例では両側内頸動脈にも閉塞および狭窄の合併があるが,今回は鎖骨下動脈閉塞と椎骨動脈に的を絞って画像の解説を行うことにしよう. - 実践!血管エコー検査シリーズ
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どう撮り,どう読むか?
5巻4号(2008);View Description Hide Description2004年10月23日午後5時56分に新潟県中越地震が発生した.この地震は非常に大きな余震が続き,またライフラインもすべてが不能になったため,自宅近くで崩壊の危険のない車中を避難生活の場にする人が非常に多かった.その結果,その当時では思いもよらない肺血栓塞栓症(pulmonarythromboembolism:PTE), いわゆるエコノミークラス症候群が多発し,地震後1週間以内に3名がPTE で死亡した.その当時,被災者はもちろん医療関係者にも狭い車内で座ったままの窮屈な姿勢で寝泊りすると,下肢の深部静脈 - 微小栓子シグナルの臨床応用
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人工心臓装着患者におけるHITS/MESの意義とその可能性
5巻4号(2008);View Description Hide Description現在,回復不可能な末期重症心不全患者における治療としての心移植は,ドナー不足および慢性拒絶反応の問題が解決されない状況が続いている.しかし,近年,人工心臓とくに補助人工心臓による治療が有力な手段としてより期待されている.日本においては左心補助人工心臓(left ventricularassist device:LVAD)は心移植へのブリッジ(つなぎ)としての適応にとどまるが,埋め込み型の次世代型人工心臓の臨床使用に伴うdestination therapy(半永久的な使用)1)の提唱や再生医療との組み合わせによる治療も施行されつつあり,その重要性は高まっている. - 血管診断の医用機器
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超音波診断装置Terasont3000TM
5巻4号(2008);View Description Hide DescriptionTerasont3000TM超音波診断装置は,市販のノートパソコンに接続できる超音波診断装置である.その構造は,超音波診断装置のハードのすべてがチップに集約されているという独自のものであり,その結果,コンパクトな大きさ(約17cm×14cm×3cm)を実現し,費用対効果の高い診断をも可能になった. - 松尾塾入門
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CVT・脈管専門医の育成に向けて
5巻4号(2008);View Description Hide Description入門に際して脈管疾患には,動脈・静脈・リンパ管の疾患が含まれる.それら多岐にわたる脈管疾患を効率よく,かつ的確に診断し,治療できることが期待されている.その役割として要請されることのなかには,CVT(clinical vascular technologist,血管診療技師)や脈管専門医の育成がある.また医師と技師とのより良いコラボレーションを高め,臨床に活かされることも重要である.本連載は,内科医として血管無侵襲診断法の普及に取り組みながら,脈管疾患を約4半世紀にわたって診つづけてきた自らの経験と知識を,次世代に向けてのメッセージとして受け止めていただければ幸いである. - CVT認定試験情報−ClinicalVascularTechnologistへの道−
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CVT認定試験予想問題・CVT受験に備えて-まださきだからできること編
5巻4号(2008);View Description Hide Description血管診療技師(clinical vascular technologist:CVT)とは日本脈管学会,日本血管外科学会,日本静脈学会の3学会により組織された血管診療技師認定機構の認定資格であり,CVTの業務のなかで許される業務範囲は国家資格の範囲を超えるものではない.しかし,脈管疾患領域の診療にコメディカルとしてかかわる専門家として認定される.増えつづける血管疾患を効率的に正しく評価するためのCVTの必要性が高まってきている.